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3 頼れる男、ミック

 

 俺とミックが歩きながらトークに花咲かせてうなずきあっていると、眼前にドーム状の施設が見えてきた。



 あれがサイルミ発射場なのだろう。


 盆地の中央に建てられた施設は発射場という割には意外に小さい。

 トラック三台くらいが並列で駐車したら一杯になりそうなほど小振りだ。


 そして施設の小ささに相応しく、警備の方も三人と簡素なものだった。


 まあ、施設の大きさはどうであれ、そろそろどう潜入していくか決めないとまずい。


 というか、現地に到着したのに、また何の話し合いもしていない。


 今回はガチの任務なんだろうし、ちゃんとプランを説明して欲しいものだ。



 …………



「で、どうするんだ? 目的地も近づいたし詳細を教えてくれ」


 俺は一旦立ち止まって、ミックにこれからの計画を尋ねる。


 ここでミックが“ドーンとやってバーンな?”などとでも言おうものなら、俺がミックを“ドーンとやってバーン”してしまいそうだ。


「まずは設計図を手に入れる」


 真剣な表情となったミックは俺の方へ向き直ると、懐から施設の見取り図を取り出して広げて見せ、指を一本立てる。



 ミックが広げたデカい紙には施設の縦割り断面図と階層毎の見取り図が記載されていた。


 見取り図によると施設は地下一階が一番広く、下り階段のように一層ずつが少しずつズレている構造で十五階層あった。最下層である十五階からは地上へ直線に伸びる煙突のようなものが記されているのが分かる。


 どうやら広げられた見取り図を見る限り、眼前の施設は地表にある建物こそ小さいが、地下に広大な空間があるようだった。



 見取り図を端まで見渡し、SHBのミサイルサイロ兼発射場を最下層で発見する。


 そして多分、見取り図に示された煙突のようなものが発射ダクトで、SHBはそれを伝って上へと飛び立つのだろう。


 見取り図を見て発射場の場所は分かったが、ミックの話によるといきなりSHBがある場所へは向かわず、先に設計図を手に入れるとのこと。


「ほうほう」


 状況を大体把握した俺は相づちを打ちながら、見取り図とのにらめっこを続ける。


「殴って止めるにはブツがデカすぎるんだ。だから正確に急所を見定めるために設計図が必要ってわけだ」


「了解だ。で、その設計図はどこにあるんだ?」

「SHBの組み立ては発射場で行われたが、部品の製作を行った場所は別で、研究棟になる。多分そこだろうな。つまり研究棟で設計図を手に入れて、急所が分かったらSHBへ直行だ」


 広げた見取り図の上をミックの指が走り、入口から研究棟までの道のりを示す。研究棟に到着したミックの指は次に発射場目指して一直線に進んだ。


「つまり、はじめの目的地は研究棟。そこで急所を調べたら、最下層まで進んでSHBを止めに行くってわけだな」

「その通りだ。ご覧のとおり内部の地図は入手済みなので、後は見つからないように移動すればいいだけってことだ。な、簡単だろ?」


 ミックは立てた指をクルクル回しながら得意気な顔で俺に尋ねてくる。


 が、簡単なわけがない。


 今の説明は言うなれば野菜をみじん切りにしたあと、“で、こちらが完成品になります”とでき上がった料理を出してくるようなもの。説明が簡素なだけで、やることが簡単なわけではない。



 といっても、向こうの警備体制も外部に漏れたことを想定して日々変化しているだろうし、これ以上の詳細情報はミックも知らないだろう。


 結局、そうなると簡素な説明になってしまうのも止むを得ない。


 まあ、施設内部の詳細が分かる見取り図が手に入っていただけでも、十分素晴らしいことである。



「簡単に聞こえるほど簡素な説明ってだけだろうが。じゃあ早速侵入といきますか」

「今回は俺のプランで行かせてもらうぜ?」


 と、地図をしまいながらミックが言う。


「正面からドーンじゃないならそれでいいよ」


 前回のルルカテの街の時のように正面突破しないならそれでいい。


 内部の構造を把握しているのはミックだし、あんまり無茶しないなら問題ないだろう。


「こんな警備が厳重なところで正面突破するわけないだろ。とりあえず簡単に説明するぞ」

「頼む」


「入口は二段階になってる。あのドーム状の建物、小さく見えるが地下に広い。今見えている入口は通用門みたいなもんで中に本当の入口がある」

「なるほど、地図にあった地下一階だな」


 俺は頭の中でさっき見せてもらった見取り図のイメージと照らし合わせながら頷く。


 見取り図を見た限り、地下一階が異常に広かった。つまり目の前に見えるドーム状の建物は地下への入口であり、この施設の本来の正面玄関は地下一階になるのだろう。


「そのせいで内部には警備がわんさかいるがあそこの見張りは三人だ。今からその内の二人の服を奪って兵士に成りすまして中に入る。まずはここまでをやるぞ。続きは後だ」

「了解だ。俺は何をすればいい?」


 説明に異論がなかった俺は頷くと、ミックに自分の役割を尋ねる。


「しばらく黙って見てな」

「頼もしいねぇ」



 どうやら最初の行動で俺は何もしなくていいことがわかる。


 こいつは頼もしい。その調子で最後までやってくれないものだろうか。



 などと考えているうちに、ミックはドームの方へと走っていく。


 俺もミックの邪魔にならないように間合いを開けつつも、あまり離されないようにしながら後をつける。


 ミックはドームの側面が見える位置で木陰に隠れると、見張りの隙を窺いはじめた。



 すると周囲の警戒のためか入り口にいた兵士が二人、待機場所から離れた。二人の兵士は施設の外周を周って異常がないか調べながら木陰に隠れたミックの側を通りかかる。隠れていたミックはその機を待っていたかのように二人の正面へと飛び出した。


「うぃーっす。おつかれ〜」


 片手を振り振り、にこやかに兵士たちへと近づくミック。


「誰だ!」


 兵士たちは立ち止まり、腰の剣に手をかけて構えを取る。


 しかし、あまりにミックがフランクに話しかけたせいか、戸惑いを感じているようだった。


「誰って、俺じゃないすか!」


 ミックは笑顔のまま二人の側まで一気に詰めると両拳を突き出した。



「アグッ」

「ウガッ」


 ミックの突き出した拳は二人の腹へとめり込み、気絶させる事に成功する。



「ちょっと、適当すぎやしませんかね」


 二人の兵士がドサッと崩れ落ちる音を合図に、背後から飛び出した俺はミックに軽く突っ込む。


 確かに何もしなくて良かったが、なんとも危なっかしい方法である。


「ぶつぶつ言ってないで、そっちの服剥いで縛れよ?」


 俺の割と的確な指摘を受けてもミックは黙々と眼前の兵士から服を剥ぎ取り、拘束していく。


「頼もしいけど人使いは荒いな」


 ミックに催促された俺は気絶している兵士から服を剥ぎ取り、声を出せないように口を布で塞いで固定するとロープで全身を拘束していく。


 そしてお互い問題なく拝借した軍服への衣装替えを終える頃、ミックが次の説明に入る。


「よし、着替えたな。じゃあ、今から残りの警備を俺が無力化するから合図を見て中に入れ。合流場所はここで」


 ミックは自分が最後の一人も処理するから、その間に内部へ侵入しろと言う。


 そして再度開いた見取り図を見せながら合流場所を説明してくれる。


 なんともスムーズで頼もしい。是非この調子をキープしていきたい。


「分かった。じゃあお手並み拝見と行くぜ」

「おう、そっちも見つかるなよ」


 ミックはこちらを振り返らずに手をヒラヒラと振ってみせると入り口の方へと近づいていく。服を奪って変装しているから気づかれにくいとはいえ、相変わらず大胆な接近だ。



 入口の詰所には残りの一人が警戒態勢で周囲の監視に務めていた。


 同じ服だったので今まで気付かなかったが、どうやら最後の一人は女のようだった。



 目を凝らして事の成り行きを見守っていた俺が警備の性別に気付いたころ、ミックがその女の眼前に到着し、笑顔で二言三言話しかけているのが見えた。


 ミックは女兵士と会話しながら距離を縮めていく。


 ――そして壁ドン。


 そこからいきなりのキス。


 え、何やってるの? と思う間もないほどの早業であった。ほんと何やってるの?



 驚いた女は平手打ちをしようとするも、ミックは振り下ろされた手を見ずに受け止めてしまう。そして何事かを女の耳元で囁く。


 女は顔を真っ赤にして何やら大声で反論する。



 そんな女の反応など意に介さず、笑いながら二言三言呟くミック。



 するとまた平手打ち。


 しかしミックはそれも難なく受け止める、そしてキス。


 今度は濃密かつ、長時間。



 女ははじめこそ驚き、抵抗しようとしていたが次第に力が抜けていく。


 しばらくすると目がとろんとし、軽く脱力し膝が折れる。



 女の状態を見たミックはすかさず押さえていた手をほどき、腰に手を回すと物陰へと移動していく。


 二人が物陰へと移動を済ませる頃、ひょっこりとミックの手だけがはみ出し、入り口の方へ行けとハンドサインを送ってきた。


(なんだそりゃ……)


 余りの展開に呆気に取られてじっと見入ってしまっていた。


 そして【聞き耳】で聞けばよかった、と今頃になって思い出す。


(まあ、聞いたところで何の参考にもなりそうにもないしいいか)


 と、気を取り直して侵入する。


 なんだろう、すごくスムーズに侵入できそうなのに釈然としない。


 それに俺は合流場所でどれだけ待てばいいのだろうか。


 なんかすごい待たされそうな気がするんですけど気のせいでしょうか。



(いや、侵入に集中だ)


 ミックのことは一旦置いておき、眼前のことに集中する。


 見取り図を見ながら事前に打ち合わせた合流場所は清掃用具置き場だった。そこへは第二の入口である地下一階を抜けてしばらく進まなくてはならないのでここからが正念場である。



 気を引き締めなおした俺は通用口から内部へと侵入する。


 中は凄まじく巨大なトンネルになっており、ゆったりと曲がりくねった下り坂が何処までも続いているせいで先が見えなかった。


 道はこれ一本で前に進むしかない状況だが、なんとも不安が募る。



 俺は【忍び足】と【気配遮断】を発動し、姿勢を低くしながら通路を抜けようとひた走る。


 進んだ距離は長く、地上に見えたドームからはかなり離れてしまっている感覚がある。



 そして次第に行く先からの明かりが強くなってきていることに気付く。


 しばらく進むと、通路の出口が見えてきた。


 周囲を警戒しつつ壁に背を預けて先がどうなっているかを覗き込む。



 すると――。


(んん? これはまた……)


 ミックが言う所の第二の入口へ到着するなり諦めの感情が俺の心を支配する。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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