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3 初モンスター


 今の俺の手持ちは事前にアイテムボックスに入れておいたナイフと干し肉が少々……。


 これでなんとかするしかない。


 俺は街を出てすぐ視界に入った森へと足を踏み入れた。


 迷う可能性はあるが拓けた場所だとモンスターに追いかけられた場合逃げ切れる自信がない。


 とにかく金が欲しい俺がここで狙うべきは……。


 難易度的には薬草を採取してからギルドで依頼を受けて、即依頼達成するのが一番なんだと思う。


 だが、どれが薬草かわからない上に、ギルドのおばちゃんが丁寧に教えてくれるとは到底思えない。


 採ってきたものに対して難癖つけやすそうなのもマイナスポイントだ。


 そうなってくると残るは常時討伐依頼のみ。



 俺のランクでの対象は確かゴブリンとホーンラビット。


 ホーンラビットは名前からして走られたら追いつけなさそうなイメージだし、追いかけられたら追いつかれそうだ。


 となると残ったのはゴブリンだ。


 名前から想像するに、きっと二足歩行だろうしホーンラビットよりはスピードも遅いはず。単体で行動しているのを探せばなんとかなる……と思いたい。


 ため息を一つついた俺はアイテムボックスから頼りないナイフを取り出すと周囲の気配を警戒しながら森の奥へと進んで行く。


 …………


 しばらく森を徘徊し、念願のゴブリンと思わしきものを発見する。


 案外早く見つかったことを考えると結構大量に生息しているのかもしれない。


 気づかれないよう木の陰から様子を窺う。


 子供くらいの身長に緑の肌、耳は大きく尖り、腰みのをつけていて、片手には棍棒のようなものを持っている。


 鳴き声も「ギィギィ」とモンスターっぽいものだった。眼前の個体は都合良く一体のみで行動していたので、そのまま木の陰に隠れて身構え、通り過ぎるのをじっと待つ。


 ゴブリンを目で追いながら身構えていると、突然体が震えだす。


 ここに来てモンスターとはいえ、生き物を殺すということを今頃自覚し、全身に緊張が走ったのだろう。


 ナイフを持つ手は異常に力み、耳の後ろやうなじにじっとりと汗が滲む。


 呼吸が速くなることで気付かれないかと不安がよぎる。


 頭の中はどんどん混乱していく。


 生き物を殺す殺さない以前に、俺に倒すことができるのだろうか。


 反撃されてもなんとかなるのだろうか。


 仲間を呼ばれたらどうなるんだ。


 そんな不安や迷いが体を縮みあがらせる。



 そんな俺に気付いた様子もなく、ゴブリンはうまい具合に通り過ぎていってくれる。


 普段なら躊躇したかもしれないが、この二日の出来事と、後がない今の状況が俺の背中を押してくれた。


(行くしかない!)


 覚悟を決めた俺はナイフを逆手に持ち、木の陰から一気にゴブリンへ駆ける。


 ゴブリンは俺の足音に気付いて振り向こうとしていたが、こちらがナイフを振り下ろすスピードの方が速かった。


 ナイフは鈍い音と共にゴブリンの頭頂に吸い込まれる。


 頭蓋を貫くようなしっかりとした抵抗を感じた瞬間、突き立てたナイフからぽきりと軽い音がする。ナイフが折れたのだ。


 ナイフは刃の付け根の部分でぽっきり折れてしまったが、ゴブリンはそのまま倒れ、動かなくなった。


 倒したのだろうか?


 確認しようと近づこうとするも、体が硬い。


 筋肉の強張りが解けない。



 震える体で無理やり近づく。


 足で蹴ってゴブリンが完全に動かなくなったことを確認する。


 ……なんとか倒すことには成功したようだ。


 しばらく深呼吸した後、辺りの様子を見渡してみるも、他のモンスターがいる気配はない。


「……参ったな」


 握りしめていた手をゆっくりと開き、使い物にならなくなった折れたナイフの柄を見つめる。


 いきなり折れてしまうとは思いもよらなかった。


 ここまで見事に折れると修理はさすがにできないだろう。



「しょうがないか……、まあ、刃の方はまだ使い道があるかもしれないな」


 柄の部分は使えないが刃の方は何かに使えるかもしれない。


 そう思った俺はゴブリンの頭頂部に生えたナイフを見つめ、抜く覚悟を決める。


 気持ち悪いが頭から刃の部分を引っこ抜くしかない。


 今しがた絶命したばかりのゴブリンはまだ温かく、ナイフをつまむと生温かい体液が手にべっとりとついた。ゴブリンの頭を踏みつけ、露出している刃の部分をつまみ、芋でも引き抜くようにしてなんとか引っこ抜く。


 抜いた瞬間によく分からない液体が噴出し、手や腕に飛び散った飛沫がこびりつく。


「うへ」


 生理的不快感を感じ、思わず声が漏れる。


 一応抜くことはできたが、もう武器としては使えないだろう。


 今思いつく使い道としては討伐部位を切り取るくらいだろうか。


 とりあえずこの場に長く留まらないため、討伐部位の採取は後回しにしてアイテムボックスに死体が回収できるか試してみる。


 ゴブリンに触れ収納と強く念じる。するとゴブリンの姿はすっと消えた。


 まずは一匹討伐完了だ。


「よし。日が高いうちにもっと倒さないとな」


 とは言ったものの、ナイフはもう使えない。


 無事倒すことはできたが一匹分の討伐報酬では新しいナイフを買うことはもちろん、食事もままならない。


 何とかしなくては。


「聖剣とか落ちてねえかな」


 ゴブリンの血や体液でベトベトになった手や刃を見つめ、何度目かわからないため息をつく。


 がっくりとうなだれるように視線をそのまま地面に落とすと、ゴブリンの持っていた棍棒が目に入った。


 俺はナイフの刃をアイテムボックスにしまい、棍棒を拾ってみる。棍棒は身長の低いゴブリンが持っていただけあって小ぶりで威力が低そうだ。


 自分の能力値が低いこともあるし、これでは背後から襲っても一撃で倒すのは難しい気がする。


 棍棒を振りながらどう戦うか考えていたら、ふと地面に転がる石に目が入る。


 その石はラグビーボール位の大きさで、切り出したように角がある石だった。


 それが気になった俺は手に取って持ち上げてみる。


 棍棒より重いし、角がある。両手で持ち上げ、サスペンスドラマに出てくる犯人の様に上から振り下ろしてみると、ぶんっと風を切る音が聞こえた。


(これでいくか……)


 これ以上いい武器がその辺りに転がっているわけもなく、諦めた俺は石をアイテムボックスにしまう。俺は新しい獲物を求め、ゴブリン探しを再会した……。


 その後は時間の許す限り、単体で行動するゴブリンを探しては背後から石で頭を殴打することを繰り返した。


 石の威力は申し分なく、尖った角を利用するとうまくいけば一撃で仕留められた。


 もし、一発で殺せなくても頭部にダメージを負わせればフラついてくれる。


 そこに追撃を加えれば楽に倒すことができた。


 サスペンスドラマのフォームでゴブリンを撲殺すること数回。


 これがドラマだったら殺害シーンで百二十分埋まってしまうだろう。


 ゴブリンを倒す際は獣道を避け、ひたすら足場の悪いところをじっくり歩き回った。


 そして、集団はもちろん、単体でも攻撃しにくい位置にいる個体はやりすごし、ひたすら倒しやすい個体だけを狙った。そのせいか、こちらが先に発見されることはなく、傷も負うことはなかった。


 が、疲れた。


 足がパンパンになった。


 そのため、討伐を切り上げ、歩き回った際に見つけた川のほとりで休むことにする。


(うまくいったな)


 苦労したかいあって、換金すればそこそこの金になりそうな数は倒せた。


 掲示板で確認した際、ゴブリンは報酬額が低かったので、そこそこの金額にしようと思うと相当な数を倒さなければならなかった。


 しかし、報酬額が低いだけあってゴブリンは弱く、俺でも楽に倒すことができたのは幸運だった。


 倒した数から報酬金額を計算すると、食事は確保できそうだが宿は取れないくらいだ。


 歩いた道のりも石で木に傷をつけながら回ったので時間をかければ街まで迷わず帰れるはず。


 と、そこまで考えてあることを思い出す。


 ステータスの事だ。


 結構ゴブリンを倒したがレベルは上がったのだろうか。


 もしかしたらと思い、ステータスを確認してみる。



 ケンタ LV2 無職


 力 3

 魔力 0

 体力 2

 すばやさ 2



 ……合計上昇値3。魔力は以前0。


「よっしゃー!」


 ガッツポーズを取る。


「体力とすばやさが二倍になったぜ!」


 思い切り体をそらして叫ぶ。


 二倍になったのは事実だ。嘘は言っていない。が、虚しかった……。


 やるせなさを少しでも解消しようと思い切り喜んでみるも、モンスターを呼び寄せる可能性が高まっただけだった。


 見間違いじゃないかともう一度ステータスを凝視してみたが数値に変化はなかった。



 と、その時、ステータスの職業の項目にある無職の文字が点滅しているのが目に入った。



 無職のフィーバー状態だろうか?


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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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