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1 暗殺者がしっくりくる男、ケンタ

本作品は残酷なシーンが含まれます。そういった描写に不快感を感じられる方は読むのをお控えくださいますようお願いします。


あらすじにも書いてありますが本作品は残酷なシーン、登場人物の死亡、主人公が殺人を犯す描写が出てきます。なろう内の投稿作品を見ていると該当話の前書きに注意書きをするのをよく見受けますが、本作は該当シーンがネタバレになる部分もあるため前書きでの注意喚起は行わない予定です。また、そのシーンを読み飛ばして読んでも意味が分からなくなってしまうというのもあります。そのため冒頭に当たる第一話での注意喚起とさせていただきます。ご了承ください。









 


 そこは何もない部屋だった。


 施設全体の管理が行き届いているせいか、俺が今いる部屋の中も清潔で塵一つない。


 が、何もない。


 取りあげられた俺の装備が部屋の隅に置かれているくらいだ。



 そのせいか中央に一脚だけある椅子がどうにも不自然な印象を与えてくる。


 木製の椅子は綺麗で整った部屋には似つかわしくない程古ぼけてボロボロのものだった。


 そんな椅子に俺は腰掛けていた。



 いや、この表現は的確ではない。


 正確に言うなら拘束されていた、だ。


 後ろ手にされた両手に手錠、両足も椅子の足に手錠で繋がれ、身動きが一切取れない状態だ。



 何もない部屋の真ん中で椅子に固定された状態。



 動きようのない俺は黙ったまま少し上を見上げていた。


 その視線の先には腕組みした少し太めの男が仁王立ちになってこちらを見下ろしている。



 確か名前はヴァダルといったか。



 少し太め、いや、体格ががっしりとしたヴァダルは、口角を吊り上げながら服の袖をまくりあげる。すると毛むくじゃらな腕部があらわとなった。


 手の甲から盛大に伸びている体毛は腕の方にもびっしりと生えており、いやらしい笑顔と合間って妙な圧迫感を演出する。



 ヴァダルは袖をまくり終えると、おもむろに腕を振りかぶった。


 そして椅子に固定された俺目がけて握り固めた拳をためらいなく振り下ろす。


「グッ」


 ヴァダルの拳は俺の右頬に命中し、強制的に左を向かされる。


 重さの乗った拳を受けたため、口内の肉が歯に接触して切れ、出血してしまう。


 鉄臭い匂いが鼻に上がってくる頃、ヴァダルが拳を引いて身をよじる。



 ヴァダルは無言かつ無表情のまま、再度拳を振り上げ俺の左頬を殴る。


「ブッ」


 ついさっき殴られて口の中に溜まっていた血と唾液が意図せず飛び出してしまう。


 ヴァダルは血を吐く俺を見て気を良くしたのか、薄ら笑いを浮かべながら間髪入れずに腹を殴る。


「ブアッ!」


 腹部に強い衝撃を受けて横隔膜が押し上げられ、肺の中の空気が一気に吐き出されて大きな声が漏れる。


 ヴァダルは俺の苦悶の声を聞き、満足そうに頬を緩めた。


 なぜ俺がよく分からない部屋の真ん中で大人しくサンドバックになっているかといえば、それは少し時間をさかのぼることになる。



 ――数刻前――



 辺り一帯高木が生い茂り、日の光も届きにくい雑木林のど真ん中で手頃な岩を見つけた俺はそれに腰掛けた。


 少し肌寒さを覚えた俺は抱え込んだ腕を摩りながらパスタができるのを待っていた。



 どんなパスタかといえばミック特製のカルボナーラだ。


 俺がぼんやりと視線を向ける先で笑顔のミックが一人調理に奮闘している。


 手伝おうかと尋ねたが、料理は任せろの一点張りで何もさせてもらえない。



 パスタの完成まではもうしばらくかかりそうだが、その間ずっとクリーミーなソースの香りを嗅ぎ続けなければならないのかと思うと、どうにもソワソワが止まらない。


 何もせずにじっとしていると空腹に意識が集中してしまうので、ステータスを開いて気をそらしてみる。



 ケンタ LV20 剣闘士


 力 113

 魔力 0

 体力 62

 すばやさ102


 剣闘士スキル (LV5MAX)


 LV1 【斧術】 

 LV2 【槌術】 

 LV3 【膂力】 

 LV4 【耐える】 

 LV5 【無痛】 一定時間痛みを感じなくなる


 狩人スキル (LV5MAX)


 LV1 【短刀術】 

 LV2 【弓術】 

 LV3 【聞き耳】 

 LV4 【暗視】 

 LV5 【気配察知】 


 暗殺者スキル (LV5MAX)


 LV1 【暗殺術】 

 LV2 【忍び足】 

 LV3 【気配遮断】 

 LV4 【跳躍】 

 LV5 【張り付く】 


 戦士スキル (LV5MAX)


 LV1 【剣術】 

 LV2 【槍術】 

 LV3 【剛力】 

 LV4 【剣戟】 

 LV5 【決死斬り】 


 サムライスキル (LV5MAX)


 LV1 【居合い術】 

 LV2 【疾駆】 

 LV3 【縮地】 

 LV4 【白刃取り】 

 LV5 【かまいたち】 


 ニンジャスキル (LV5MAX)


 LV1 【手裏剣術】 

 LV2 【火遁の術】 

 LV3 【水遁の術】 

 LV4 【鍵開け】 

 LV5 【変装】 




(お、上がったな)


 ステータスをチェックすると、レベルとスキルレベルが上昇していることに気付く。



 よく考えると、こうやってのんびりステータスをチェックしたのも久しぶりだ。


 ここ最近はレベルが中々上がらなくなっていたので、チェックの頻度も下がっていた。



 こう、なんていうか微妙な距離感の友人とのメールとかのやりとりがジワジワと減っていき、最終的には年賀状のみになっちゃったりする感じが例えとしては間違っているが、妙に納得してもらえるかもしれない。



 そんな中でのレベル上昇。


 しかも知らないうちに4レベルも上がっていた。


 数値的には力とすばやさが三桁に突入し、体力の低さを抑えることに成功した良い成長具合ではないだろうか。自画自賛だが、なかなかいい感じに思える。


 ここ最近全くレベルが上がる気配がなかったのに、ここに来て一気に上昇する原因として考えられるのは間違いなくドラゴンだろう。後、馬面のなんかすんごい奴も倒したのも加算されてそうではある。その前には巨大なカニを倒すのに貢献したが、アレも加算されているのだろうか……。


 ドラゴンの方はとどめを刺したわけではないが討伐には貢献していたし、かなりの経験を得られたのではないだろうか。後、なんていうか……あまり言いたくないが、かなり人を殺しているのも原因のひとつだろう。



 この国はモンスターがほとんど出ない。


 そんな中、経験を積んだ人間というのはドライに言えば美味しい存在。


 しかも、俺はどういうわけか強い奴と妙に縁がある。どう考えても、普通の人なら経験しないレベルで死闘を繰り広げている。この不運具合は神の加護はなくとも、悪魔に魅入られているのは間違いない。



 そう考えると対人戦闘がレベル上昇に一役買っている気がするのは気のせいではないと思う。


 そしてレベルアップだけでなく、とうとう剣闘士の最後のスキルも収得できていた。


 その名も【無痛】。


 響きからしてヤバイ。


 説明文には一定時間痛みを感じなくなると書かれている。


 正確な時間は記載されていないが、今までのスキルの持続時間傾向から予想すると長くてせいぜい数十分、短ければ数秒といったところだろう。


(一生使いたくないスキルだな……)


 このスキルを使わなければならない状況を考えただけでゾッとする。


 剣闘士という本来の職業のイメージからすると、盾役としてのサポートスキルという位置づけなのだろう。だが、実際使う場面を想像すると、使用する状況は限られてくる気がする。


 なんというか、痛みを感じなくしなければやってられないときに止む無く発動という状況しか思い浮かばないのは俺の想像力が貧困なせいだろうか。


 単独行動の多い俺が盾役を仰せつかる事と、歩くのもままならないほどの重症を負う場合のどちらの状態に直面する可能性が高いかといえば間違いなく後者。


 前に骨がポロッとはみ出たことがあったが、ああいう状況ってことだ。



(絶対いやだ)


 使いたくない。


 そのためにも堅実に立ち回ろうと心に誓う。


 なんにせよ、これで今なれる職業でのスキルもフルコンプである。


 後残されているもので魔力が無い俺でもなれそうな職業はミックが使っている素手での格闘職。確か職業名は格闘家……、だったろうか。実際聞いてみないと分からないが、雰囲気からしてあれは取れそうな気はする。


 ただ、今の気持ちからすると、どちらでもいいかなといった気分が強い。


 格闘家が戦士のように簡単に取れるなら取ってもいいかなとは思うが、条件が難しいならスルーでも構わないなと思っている。


 それはあの格闘家という職のクセがかなり強そうで、俺との相性が悪いと予想されるからだ。ミックがスキルを使っているところを見た感じや今まで戦った奴らとの経験をあわせて考えると、あの職のスキルは素手の状態じゃないと使用できない可能性が高い。つまり、俺が今持っているスキルとの併用ができないのだ。


 つまり、戦闘で多角的な使用ができない。


 しかも、他のスキルが併用できない状態でスキルレベルを上げないといけないわけだから、とっても大変。普通の人なら武器を取り上げられた時などには重宝する職業なのだろうが、俺にはアイテムボックスがあるのでその心配もない。


 そう考えると、無理して取る必要も無いかなと思えてしまう。


 まあ、どちらにせよそういった事はたっぷりと時間がある時にしかできないので当分は無理だ。その内時間ができた時にでも、その辺りのことをミックにじっくり聞いてみるのも悪くない。まあ、しばらくはこのままの状態でやっていくことになるだろう。


 といっても今の状態に大きな不満がある訳でもないし、特に何の問題もない。



(ひとまずは職を暗殺者に戻すか)


 一通りの確認を終えた俺はステータスを閉じる前に職業を剣闘士から暗殺者へとセットしなおしておく。


 スキルをフルコンプした今、どの職業をセットしておくか迷うところではある。


 普通に考えれば、レベルアップのステータス上昇値が平均的なニンジャの方が無難な気もする。


 もしくは、体力をさらに補うために、剣闘士を続行するというのも手だ。だが、体力という数値ほど謎のものもない。スタミナなのか頑強さなのか……。この世界にきて結構経つが、俺は走り回っても疲れない奴や、生身で剣を受けて平気な奴なんて見たことがない。そう考えると傷の治り具合のような気がしないでもないが、それも微妙なところだ。


 まあ、ステータスの数値をどの程度当てにしていいものか全く分からないし、以前考えていた通り暗殺者でいいだろう。



 暗殺者にははじめの頃からお世話になっていたし、思い入れもある。


 ここまで数値が上昇すれば雰囲気重視でもいいだろう。



 そんな暗殺者がしっくりくると思っちゃう厨二全開の俺の眼前ではミックがかまどにセットした寸胴鍋でパスタを茹でていた。



 かまどにセットされたのは寸胴鍋だけでなくソースを作るための小鍋もある。


 ソースは完成していて火が直接当たらない場所に提げてあるが、なんとも濃厚でクリーミーな香りが漂ってきていた。


 俺はそんなパスタソースの香りを楽しみながら目を閉じ、数日前のことを思い出す。



 数日前、俺は自身の身に起きたちょっとしたトラブルを解決するためにミックたちの仕事を手伝った。


 仕事は無事終了し、そこでお開きかと思った瞬間、フォグが現れ新たな仕事を依頼してきた。



 ミックとフォグが頼んでくる仕事は二回しか請けたことがないが、どちらももう二度とやりたくないと思えるほどにはハードだった。


 だからその時も条件反射で断ったわけだが、今俺がいる現在地から数キロ先にはフォグが破壊を依頼してきた物が格納されている施設があったりする。



 まあ、結局仕事を請けることになってしまったのだ。



 そして受けた依頼の内容。肝心な中身。


 それは聞けば聞くほどに色々な意味で恐ろしいものだった。



 ミックとフォグがカッペイナ国に来たメインの目的は元々今から行く施設内にあるとされる、とある物の破壊だったらしい。


 中々場所が特定できず、暇を持て余したミックはその間の時間つぶしに先日の工場破壊なんかをやっていたとの事。なんとも仕事熱心な話である。


 そんな仕事熱心な奴と一緒に俺が今から訪れる施設の名はサイルミ発射場。


 そこは発射場の名が示す通り、前の世界で言う所の弾道ミサイルの試射場とのこと。


 なんでも世界破壊爆弾と銘打たれた物騒なミサイルの試射場らしい。



 フォグ曰く、最近すんごい爆弾が作られた。


 その名も世界破壊爆弾、略してSHB。


 俺ならそのネーミングを支持したやつを首にするが、どんなものか一発で分かる名前ではある。


 件のSHBは実際その名が差す通りの高威力の爆弾で、小さな国なら一発被弾しただけで壊滅的状況になる。しかし、その爆弾は世に知られておらず、今までもそんな規模の爆弾は存在しなかった。つまり発表しただけでは嘘と思われてしまうほどの代物。


 そんな未知のものを情報のみ公表したところで今までそれに類似したものがなかったこの世界では、いくらそれが事実だったとしても受け入れられず、とんだホラを吹いたものだと鼻で笑われるのがオチ。そんな夢物語じみた威力の兵器があるはずがないと失笑を買ってしまうだけなのである。



 というわけでSHBのすごい破壊力を過剰な接触を図ってくる隣国のシュッラーノ国に知ってもらうためにカッペイナ国が選んだ選択は発射の一択だった。


 どう、すごい威力でしょ? これ以上変なことしてきたらYOUの国に撃っちゃうからね、ということらしい。



 ただ、海に撃って威力を示しても難癖つけられる可能性があるし、できれば陸に撃ちたい。だが、過剰な行動を繰り返しているとはいえデカい国土を誇る上に好戦的なシュッラーノ国にダイレクトに撃つと、仕留めきれないままに殴り合いに発展してしまう。


 だから撃つ対象はもし失敗して反撃されても痛くもかゆくもない国がいいよね、というわけで試射の対象に選ばれたのがミーニ国という小国。


 本来なら何の理由もなくそんな物騒なものをぶっ放しちゃえば大問題になってしまうだろうが、多分撃つ前にはそういうお膳立てが終了しており、ミーニ国は密かにすっごい悪い事しようとしてるから、未然に阻止するために撃ちました的な展開になるのだろうとは思う。



 なんとも可哀相な国もあったものである。


 田舎と言われるカッペイナ国より田舎。文明が一歩も二歩も遅れている国。


 隣接する国がシュッラーノ国しかない立地。



 シュッラーノ国からすれば隣接してはいるが、近くに人里もなくほぼ接点がない。さしたる資源もなく、国土も狭く、地理的にも何の旨味もないため、手に入れても利益を生み出すどころか減る危険すらあるので一切に相手にしていなかった国。そんな国がミーニ国である。


 いくら丁度いいとはいえ、そんな物騒なものを発射すればシュッラーノ側に攻めてもらう口実を謙譲するようなものだが、そこを正義を執行しただけだの一点張りとSHBの威力で黙らせるという考えらしい。


 ちなみにSHB一発の威力はミーニ国を三個消滅させてあまるほどのものだそうだ。


 一度撃ちさえすれば、その後SHBを見て各国がどよめいても撃っちゃうよ? のひと言で黙らせられるという判断の元、計画は最終段階まで到達してしまったとのこと。


 実際、カッペイナ国がどんな酷い目に会おうが、その最中にSHBが発射されてしまえば攻めてきた国もただでは済まない。どれだけ優勢に事を進め、カッペイナ国を消滅させることに成功しても、自国にSHBが着弾すれば壊滅的被害を受けてしまう。


 で、なんで俺がそんな物騒な代物の破壊に付き合うことになったかといえば、試作SHBの的として狙われているミーニ国というのが俺が転生してはじめて降り立った国だったからだ。


 あの国には沢山の知り合いが居る。



 ショウイチ君にローズ、娘ちゃんにオヤっさん、オリンばあさんに赤の勇者、そしてルーフ。


 ほっときゃ全員死ぬ。



 なら止めるしかない。


 転移の腕輪を使えばショウイチ君とローズだけには危機を知らせることができたかもしれないが生憎いまは魔力の充填中で使用不可能。


 というわけで、依頼を引き受けた俺はSHB試射の阻止に加わる事となった。


 そして到着した先がこのサイルミ発射場というわけなのである。



「しっかし、無茶なことするよなぁ」


 ぼんやりと虚空を見つめた俺は依頼の詳細を思い返しながらぼやく。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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