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8 色々あった


――そんなこう着状態を一転させたのは意外な人物だった。



「なんてことをするんです!」



 男性冒険者にかばわれていた女性冒険者が声を荒らげつつこちらに向かって来たのだ。



(ぇぇ〜……)


 予想外の方から非難の声が上がった事に心の中でぼやく俺。


「お、おい! うかつに動くな!」


 かばっていた男性冒険者が慌てて肩を掴んで止めようとするが、それを振り払い俺のほうに向かってくる。


 彼女の外見は魔法使い……というより僧侶やシスターといった方がしっくりくるかもしれない格好をしていた。


「暴力に訴えるなど、恥ずかしくないのですか! 相手は人なのです! 話し合いで解決できるとは思わなかったのですか!」


 シスター風の女性冒険者は俺を睨みながらこちらへ近づいてくる。



「ゲヘヘッ、そうだよなぁ? 姉ちゃん。話し合いは大切だぜぇ」


 そう言いながら四人組(今は二人組だが)の一人が通り過ぎようとした女性冒険者の肩に手を回しながら腹に剣を突き立てた。



 思い切り突き刺したのか柄が腹に近づいていく。


 柄が腹にぴったりくっついたのを確認して今度は力任せに剣を引き抜く。


 男は同じ動作を後二回繰り返した。


「あ……」


 剣で腹部を貫通され、女性冒険者は俺のところに辿り着くことなく、その場に崩れ落ちた。


「おい、よくもやってくれたなぁ?」


 倒れる女性冒険者には目もくれず、二人が一斉にこちらを見てくる。



(……逃げるのは無理だよな)


 俺は二人から目を離さず、両手で持っていた石を床に捨てて両手を背に回す。


 焦らないように集中し、アイテムボックスから片手サイズの石を二つ取り出した。



 男性冒険者の方を見ると、倒れた女性冒険者の方をチラチラと見てはいるが構えた剣を下ろしたりはしていない。


 側へ駆けつけないだけの冷静さはあるようだ。


「お前も荷物を床に置け。いや、いいわ。死んどけや」


 男は抑揚のない声でそう言うと血で濡れた剣をこちらに向け歩いてくる。



 それと同時に残りの一人もこちらへ向かってきた。


 それぞれ左から太った男、血で濡れた剣を持った痩せた男の二人だ。


 男達はこちらに対して優位を感じているのかニヤニヤした顔でゆっくり歩いてくる。



 俺は全員を視界に入れながら、残された男性冒険者の方を見る。


 どうやら、まだ固まって動けないようだ。



(残った冒険者が何するかわかんねぇ……)


 俺からすれば全く想定していない展開だった。


 単純に共闘して新人狩りを倒すか逃げるか、もしくは囮にされるとしか考えていなかった。


 向かってくる新人狩りの二人は全力で掛かってこず、嬲り殺すと言う言葉がしっくりくるようなムラのある散漫な動きでこちらにゆっくり歩いてくる。



 ……俺が石を持った村人に見えるうえに、攻撃したのは不意打ちだった。


 多分二対一なら余裕で対応できると考えているのだろう。



 俺は身を屈め、迎え撃つ準備をする。


 最悪の状況を想定するなら男性冒険者が俺を見捨てて逃げる可能性を考えて行動しなければまずい。



 この状況で当てにできる程俺は相手のことを知らない。


 新人狩りの方へ意識を戻す。


 二人のうち、初めに狙うなら動きの鈍そうな太った男だろう。


 あまり視線をそちらに向けると気づかれるので正面にいる痩せた男を見るようにする。


「死ねやぁ!」


 俺に充分近づいた痩せた男が血で濡れた剣をこちらに向け振り下ろしてくる。


 片手で振り下ろされた剣は腰が入っておらず、大した速度も出ていない。


 俺はそれをかわし、そのまま奥へ駆けて太った男を目指す。


「くっ、クソ!」


 太った男は俺の急接近が予想を上回ったせいか言葉を詰まらせながら剣を虫でも払うかのような動作で軽く振り回す。


 俺は余裕を持って剣を持っていない方へ移動。振り回された剣をやりすごし、そのまま背後に回る。


 そして、両手に持った石でリズミカルに後頭部を左右から二連撃した。



 俺の軽い動きとは裏腹に殴った音は鈍く、どこまでもくぐもっていた。


 太った男はばたんと盛大な音を立てて前のめりに倒れて動かなくなる。



 これで三人目だ。


 俺が太った男の死を確信した瞬間、ギィイン! と甲高い音が聞こえる。


 音のした方を見れば男性冒険者と最後の新人狩りが鍔迫り合いをしているところだった。ギチギチと金属を力任せに擦り合わせる音が耳に届く。


 俺はそこへ乱入するべくまた駆ける。



 一気に距離を詰めて痩せた男の背後に回る。


 痩せた男は目で俺を追うが剣を押さえ込まれ動くことができない。


 ここで無理に動けば男性冒険者に斬られてしまうだろう。


「うおおおおおおっ!」


 なんとか剣を押し返し、動けるようになろうとあがき叫ぶ痩せた男。


 俺はそんなことはお構いなしに、さっきと同じ動きで背後から二つの石で左右から二連撃を見舞った。


 ゴッゴッと短い間隔で鈍い音がすると糸の切れた操り人形のように痩せた男はばったり倒れた。



 四人目だ。


 ……新人狩りはこれで全滅した。


 だが、俺は気を抜かず、眼前にいる男性冒険者を見る。


(どう動く?)


 何をしてくるかわからない男性冒険者に注意を向ける。


 男性冒険者は俺に目も合わせずに剣を放り投げると、ゆっくりとした足取りで倒れた女性冒険者の側へ行き、屈みこんだ。


「悪かったな。巻き込んで」


 男性冒険者は俺の方に一瞬顔を向けてそう言うと、視線を落とし女性冒険者の上半身を起こし、何かを思い出すように話す。



「こいつはつくづく冒険者に向いてない奴だったんだ。育ちが良いせいか、いつも人は話し合えば分かり合えるとか、こちらから攻撃の意志をしめさなければ相手も攻撃しないとかそんなことばっかり言ってやがって……」


 男性冒険者の言葉は続く。


「俺はろくでもねえ場所で生きてきたから、こいつがそういう事を言う度に話し合いや交渉なんて相手より力が強いときにしか成立しないって言っちまって、よくケンカになったんだよ。……いつか痛い目見ると思ってたが、こうもあっさり死んじまうとはな」


 ……どうやら刺された女性冒険者は亡くなったようだ。


 重症だろうとは思っていたが息絶えていたとは……。



「傷は大丈夫か?」


「ああ、問題ない。こいつも俺が運ぶ」


「わかった」


 俺は端的に聞き、返事をする。


 手当てをしたり、運ぶのを手伝うといったことを言い出せない重苦しい雰囲気がそこにあった。


「悪いんだけどよ。新人狩りに会ったことは黙っててくれねぇか? その方があんたのためにもなるしよ」


 男性冒険者はそう言いながら俺を見上げる。


 どういうことだろうか? 職員に報告した方がいい気がするが。



「なんで黙っておくんだ?」


「俺らは、もともと中級者用ダンジョンを攻略してた四人パーティーなんだ。だが、二人が負傷してしばらく動けなくなったんで残された俺らで治療費を稼ぎに初心者用ダンジョンに来てたんだ」


「うん?」


 それだけなら特に隠す必要も感じないが。


「二人が負傷したのはダンジョンのモンスターが原因ではなく、賭場でギャングとトラブルを起こしたからだ」


「え?」


 賭場とかギャングとかデカイ爆弾が放り込まれてきた。



「二人が負傷したのが昨日で、俺達が初心者用ダンジョンに入り、新人狩りに襲われたのが今日だ。多分ただの新人狩りじゃなくギャングの息がかかっている奴らなんだろう」


「おい、勘弁してくれよ?」


 洒落にならないんですけど。できればそういった人たちとはお知り合いになりたくない。


「だから、あんたがこいつらを殺ったとバレたら、ただじゃ済まなくなる可能性がある」


(おいおいおい、それは駄目なやつだろ)


 俺は心の中で毒づきながら動揺する。



「まじか?」


「死体は放置すればダンジョンに喰われる。所持品も処分すれば痕跡は残らん。後は俺らが時間を置いて別々にダンジョンから出ればいい。あんたに迷惑はかけん」


「わかった。それで頼む」


「すまんな。助けてもらったのにややこしいことになって」


「気にしなくていい、自分で決めたことだから」


 とは言ったものの内心はビクビクである。



「処分は全部こっちでやっておく。所持品は捨てるつもりだが金だけでも貰っておくか?」


「いや、いい」


 何が原因で感づかれるかわからないし、何も手を出さない方がいいだろう。


「そうか、なら先に行ってくれ。俺は処分を済ませてから出る。悪かったな」


「わかった」


 俺は短く返事をして、その場を去った。


 もしかしたら……、あの話は全部ウソで新人狩りの所持品を奪うためにそんな事をしたと考えられなくもないが、男性冒険者の顔を見ているとあれが演技だとは思えなかった。


 俺は誰かに後をつけられているかも知れないとビクビクしながらギルドで報酬を受け取り宿へたどり着く。


 部屋に帰ってベッドに寝そべると、気が抜けたのか今度は人を殺した記憶が甦ってくる。


『話し合いで解決できると思わなかったのですか!』


 女性冒険者の言葉が頭をよぎる。


「決めたことだしな」


 あのとき決めた覚悟はそういうものだ。



 どんな結果になろうが、どんなに非難されようが、やると決めたのは自分で、その後自分の身に降りかかる全てのことを受け止めると決めたのも自分だ。


「……寝よう」


 色んな処理できない気持ちが渦巻く。



 しかしそれも仕方のないことだ。


 問題が解決すれば全てスッキリして皆から賞賛される結末なんて人の死が関係した時点でありえない。


 酒で誤魔化したいところだがこの世界でそういう飲み方はしたくなかった。


 これからずっとこの気持ちを抱えて生きていくかと思うとあのとき覚悟を決めた自分を恨みそうになるが、職員を呼びに行くと自分に言い聞かせて逃げていても、今とさして変わらない気持ちになっただろう。



 それなら自分から行動した今の方が増しだ。


 そんなことを考えているうちに眠ってしまっていた。


 …………


「パーティーを組もう」


 翌朝、そう決めた。


 しばらくは精神的にきつい日が続くだろうし、それは油断を招くかもしれない。


 それならいっそパーティーで行動し、自身の負担を減らそうという魂胆だ。


(そううまくいくとも思えないけど、少しいつもと違うことをして気分を変えたほうがいいだろう)


 そう思った俺はギルドへ向かった。


 パーティー募集はギルドに併設される別館で行われている。初めて入ったがここも広い。


 職員のいる受付と掲示板、そしていくつもの番号が振られたテーブルが置かれている。


 ここで募集されているのはいわゆる臨時パーティーと呼ばれるものでギルドを仲介し期間を決めてパーティーを組むようになっている。


 パーティーを組む期間は短いもので一日、長くても一週間と短く設定されていることがほとんどだ。



 期間が短いのは攻略方針の違いや負傷者が出た場合のトラブルを防ぐためだ。


 そういうことが起こる前に解散してしまえばいいということなんだろう。


 まあ、ギルドが間に入ってくれるのでトラブルは早々起こらないらしいが。



 また、固定パーティーを登録する場合は簡単に解散されるのを防ぐため、しっかりとした手続きが必要になるようだ。


 ここでの募集は大体が負傷者や脱退者が出た場合の一時的な補充や、もともとパーティーメンバーが少ない者同士の合併などが行われている。


 募集する方は受付で募集要項をまとめた紙を作成して掲示板に貼り、受付で指定された番号のテーブルで参加希望者を待つという仕組みだ。


 パーティーに参加したい者は掲示板で条件にあったものを探し、受付を通して募集しているテーブルに行き面談する。お互いの条件が合えば受付で契約し、晴れてパーティー結成となる。


 パーティーは基本四〜六人で組まれることが多いようだ。


 俺は一人なので募集するとなると最低三人は希望者を集めなければ体裁を保てない。だが、三人も希望者を見つけるのは難易度が高いだろう。


 ここは参加募集を見て回るべきだと判断し掲示板へ向かった。


「ヤバイな……」


 掲示板を見て周り、今自分が置かれている状況がかなりまずいことになっているとわかった。



 まず、初心者用ダンジョンの募集は一つもなかった。



 しかし、よく考えれば当然だ。


 パーティーを組めば報酬は等分する。


 今俺が初心者用ダンジョンで稼いでいる金額は一人で回して少し余裕が出る程度だ。


 複数人で行くのは報酬的に不味いということになる。



 初心者用ダンジョンへ行く者は昨日会ったパーティーのように負傷者が出て仕方なくとか、パーティーを分割して挑んだりするのが普通なのかもしれない。


 そして募集の大半が中級者用ダンジョンのものだった。


 もうすぐ中級者用ダンジョンにも入れるようになると思い、詳細を確認したが俺には問題だらけだった。


 募集されている職業を人気順に上げていくと魔法使い、僧侶、戦士の順になっていた。


 ……そして狩人と暗殺者がなかった。募集すらされていないのだ。


 これでは自分が暗殺者と公表していいのか判断ができない。



 つまり、俺にはパーティー募集で求められる能力を持っていないことになる。


 一応ギルドカードには職業戦士と記載されているが未だに戦士スキルは持っていない。簡単に戦士になれるため後回しにしていたのがここに来て仇となってしまった。


 といっても、戦士のスキルを上げたとしても募集人気は三番目で決して高いわけではない。


 そうなると俺の能力では面談ではじかれてしまう気がする。



 ……結局、初心者用ダンジョンの募集はないので自分で募集するしかなさそうだ。


 意を決して受付に向かう。


「すいません、パーティー募集をしたいのですが」


「はい、こちらに必要事項を記入してください」


 受付で募集用紙をもらい、早速記入していく。



 パーティー募集はギルドを介するが料金は発生しない。


 冒険者の生存率を上げるためと、魔石を効率よく回収するために無償で協力してくれる形になっている。


 魔石の産出量を増やすのはこの街の活性化にも繋がるのでここを回す人件費は他から出ているのだろう。


 初心者用ダンジョンでは報酬が期待できないため、募集内容はハードルを限界まで下げないと誰も来ないだろう。


 というわけで以下のような募集にしてみた。



 攻略ダンジョンは初心者用。

 レベル不問。

 職業不問。

 パーティー人数不問。

 ダンジョンの進行速度は遅い目。

 パーティーでの連携練習目的。

 ダンジョン攻略やモンスター討伐の慣らし目的。

 期間は三日間。


 この季節は出稼ぎで色んなところから冒険者が来ると聞いていたし、これならなんとか人が集まるのではないだろうか。


 受付に完成した書類を見せてみる。


「これで募集したいんですけど問題ないでしょうか?」


「うーん……」


 受付の顔は渋い。


「駄目ですか?」


「いえ、募集自体に問題はありません。ただ……」



「ただ?」


「ただ、この時期にこの街に来る冒険者の方は大半がベテランです。まだ冒険者になって間もない新人の方もいますが、その場合はベテランの方と同行して来られるか、新人同士であらかじめパーティーを組んで来る方がほとんどです。ですので、この街で連携の練習などを改めてされる方はいないと思うんですよ」


「……そうですか」


「ええ、ですからこの募集を掲示板に貼っても人が来るかどうか……」


「それでも、一応貼ってみてもいいですか?」


「構いませんよ。掲示期間は一日になっていますので閉館までに剥がしてください。こちらが待機テーブルの番号になります」


「ありがとうございます」


 俺は指示されたテーブルで待つことにした。


 …………


 どれ位時間が経っただろうか、もう諦めて帰ろうと思ったとき、声はかけられた。



「あんたのパーティーに参加したいんだけどいいかい?」


 しょぼくれて俯いていた顔を上げるとそこには……。



 お婆さんが立っていた。



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