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6 抱き枕プレイ


 翌日からダンジョン探索を再開し、早くも一月が経過した。



 狩りは順調だ。


 ただ相手がゴブリンばかりなので貯蓄は中々増えてくれない。



 一応ダンジョンの最下層まで到達できたが、立ち入りが許されている全てのダンジョンはダンジョンの主、いわゆるボスキャラはすでに倒されてしまっており、ボス部屋は職員の待機場所になっている。


 その奥にはダンジョンコアがあるそうだが立ち入り禁止となっているため、見ることはできない。


 何度も往復したせいで、道も覚えてしまった今となってはダンジョン探索という名のゴブリン狩りになっている。



 戦い方も安定してきて、お決まりのパターンができつつある。


 基本的には曲がり角などで身を隠しながら先を覗き込んで索敵し、モンスターがいた場合はこちらに近づくのを待って叩くという方法をとっている。


 位置関係上どうしようもない場合のみ正面から戦う選択肢をとっている。



 以前想定した通り【気配遮断】と【忍び足】を併用すれば正面から接敵しても少し離れた横を通れば背後を取れることがわかった。


 他の敵で試していないのでなんともいえないが、相手が弱いと気づかれにくいのではないだろうか。



 今日も今日とて順調に討伐数を増やす中、いつもと違うモンスターを発見する。


 キラースネークだ。


 一言で言うならでっかい蛇だ。長さは二メートル位で太さも俺の首ぐらいある。


 そんなでっかい蛇は少し離れた先に三匹いた。



 このダンジョンはゴブリンが一番多く出現するが、他が全く出ないわけではない。



 レアといえるぐらいの確立だが他のモンスターにも遭遇することはある。


 ちなみに目前にいるキラースネークはゴブリン同様、人気のないモンスターだ。



 逆に一番人気なのはビッグスパイダーで、ドロップアイテムの糸が高値で売れるらしくダンジョンを訪れる人が絶えないらしい。



 ゴブリンの人気がない理由は色々あるが、なんといってもドロップアイテムの棍棒と素材の爪が全く使い物にならないのが一番大きな理由だ。


 ……金にならないのだ。



 それに比べるとキラースネークの落とす素材の皮や牙は需要があるのだが、キラースネーク自体が初心者用ダンジョンの中では一番狩り辛いモンスターなので人気がない。手ごわくて数を稼げないのだ。


 キラースネークが狩り辛いのは地面を這っているので攻撃が当てにくく、そして素早いためだ。


 また体が長いので急所を狙い辛く、皮が頑丈なので新人が持つ武器では攻撃が通りにくい。面倒な事この上ないのだ。



 俺もわざわざキラースネークのダンジョンまで行って戦いたいとは思わないが、ここなら増援はほぼ来ないので経験の為に戦ってみることにする。


 倒しにくいとわかってはいるが一度は戦っておきたい。相手の事を全く知らないで不意打ちされたり囲まれてしまった場合、対処が難しいからだ。


 丁度今日はもう十分にゴブリンを倒していたので戦うにはいい機会だろう。


 倒せないと判断すれば逃げても十分な魔石を確保してある。


(どう行ったものか……)


 キラースネークを見据えながら考える。



 俺の獲物は石だ。


 リーチの長い武器や遠距離攻撃手段がない。


 投石という手も考えられるが、そんなこと一度もしたことないので上手く当てられる自信がない。



 結局近寄ってぶつしかないだろう。


 しかし、いくら大きいヘビといっても膝下くらいの高さを這って移動しているので普通に振り下ろしても当たらない。


 しゃがみ込むようにして当てないと体に攻撃が届かないがそうすると次の動きが制限されてしまう。



(けど、そうするしかないか……)


 俺は覚悟を決め、少し距離を置いてキラースネークの側面を通り、後ろに回る。



【気配遮断】と【忍び足】で抜ける方法はこいつ相手でもうまくいった。


 その後はいつも通り二つの石を両手に持つ。


 キラースネークは三匹が並走している状態なのでまず真ん中と左の二匹を狙うことにする。



(行くか……)


 俺は狙いを定めて駆ける。


 相手はヘビなので背後からだと胴体が邪魔をして少し頭が遠くなってしまう。


 そのため、少し助走をつけ幅跳びのようにジャンプし、頭付近に着地するのにあわせて石もそのまま振り下ろす。


「よっ」


 ジャンプのタイミングを計るため、つい声が出てしまう。



 石は上手く二匹の頭付近にヒットした。


 そのまま、真ん中のキラースネークの上を前転で転がり右の個体へ向かって移動する。


 転がりざまに石を一つ捨て、抱き枕を抱きしめるようにしながら右のキラースネークに抱きつき押さえ込む。



 抵抗するキラースネークを必死で押さえつけながら頭に何度も石を振り下ろす。


 しばらくすると静かになって動かなくなった。


 押さえつけていたキラースネークを放して立ち上がると、背後から威嚇するような鳴き声が聞こえた。


「シャアァァ!」


 どうやら、うまく頭を捉えきれなかったようで、はじめに相手をした二匹がまだ生きていたようだ。


 振り向くと二匹が体にぐっと力を溜めているのがわかる。飛び掛るつもりだ。



「やべッ」


 一匹なら横に前転すれば避けれそうだったが、二匹だとどちらかに当たってしまいそうだ。


 慌てた俺はキラースネークが飛び掛ってくるのと同時にとっさに真上へ【跳躍】した。



 【跳躍】は成功し、一匹は上手くかわすことができた。


 だが、もう一匹は少し時間差で飛んできたため、このままだと落下する無防備な瞬間を狙われてしまう。


「くそっ」


 俺は【跳躍】しながら、石を持っていない手を天井に向かって精一杯伸ばす。


 腕を限界まで伸ばし、天井に指先が触れた瞬間を狙って【張り付く】を使った。


 途端、指の腹が天井にぴったり張り付き、落下を防ぐ。



 そのまま体を前後に揺すり反動をつけて天井に足をつけると【張り付く】を解除し、天井を蹴ってキラースネークに向かって飛び掛る。



 俺は反動をつけた落下速度に反応できずに固まっているキラースネークの頭に石を向けて激突する。


 そしてそのまま転がるようにしてもう一匹に抱きついて押さえ込み、動かなくなるまで頭を石で殴打し続けた。しばらく殴ってキラースネークが完全に沈黙したのを確認して立ち上がる。


「あぶねぇ……」


 かなりバタバタしたが、なんとか全てのキラースネークを倒すことに成功した。


「……近接で戦うのが無理な相手なのはよくわかった」


 乱れる息を整えながら呟いてしまう。


 槍か弓でも手に入らない限り二度と戦いたくない。



 なんか無駄に一段難しい戦い方をしてしまった気がする。


 ただ、苦戦の後なのにキラースネークのことはあまり頭を占めていなかった。


 それより今の戦いで気になることがあったからだ。



  ……【張り付く】だ。


 さっきは無我夢中だったのではっきりわからなかったのでもう一度同じことを試してみる。


【跳躍】を使って天井まで跳び、片手が着く瞬間に【張り付く】を使う。


 今回は咄嗟の行動ではなくしっかり力を溜めてから跳んだので余裕をもって片手をべったり天井に着けることができた。


「やっぱり、痛くないな」


 片手一本で天井からぶら下がっているのに体のどこにも負担を感じないのだ。


 さっきは指先しか着いていなかったのに今と同じ感覚だった。



 さらにそこから同じ要領で体を前後に揺らし、反動をつけて足の裏を天井に着ける。足の裏が着いた瞬間に片手の【張り付く】を解除し、再度足の裏で【張り付く】を使う。


 すると天井に直立できた。


「おお〜、天井に立てるとかロマンだな」



 そして不思議なことに頭に血が上らない。


 片手をつけたときと同じくどこにも負担を感じないのだ。


 地面に立っているときと感覚が変わらないと言ってもおおげさではないくらいだ。



「片足ずつ解除すれば歩けるか?」


 と思い、【張り付く】を解除したら頭から落下した。


「いてぇ」


 なんとなくいけそうな感じはあったが、スキルより重力の方が勝った感じだ。



 長期間猛練習を積めば天井ウォーキングとかできるかもしれないが、失敗した時のリスクが高すぎるのでどんなに上達しても本番で使う勇気が湧きそうにない。


 重力に逆らってスキルを使用していた場合、失敗したら即落下に繋がるわけだし、怖すぎる。


 このスキルを使う時はあまり過信せず、天井や壁に留まる程度に抑えておいた方がいいだろう。



(でも、これなら三角跳びとか簡単にできそうだな)


 そう思い、今度は壁に向かって【跳躍】し、壁に手が着いたら【張り付く】を使う。


 手を支点に膝を抱えるように体を丸めて天井に狙いを定め【跳躍】と同時に【張り付く】を解除。天井に手が着いたらすかさず【張り付く】を使い、体を強引に引き寄せる。


 そして反対側の壁目掛けて【跳躍】し、それと同時に【張り付く】を解除。同じ要領で張り付いた壁から地面に向かって【跳躍】する。


――通路の空間を壁から天井に向かって、菱形のラインを辿るように立体的に一周した形となる。



「こうやって使うっぽいな」


 スキルを手に入れたときはどう使うかわからなかったが、どうやら【張り付く】は【跳躍】とのコンボで立体的に移動したり、側面や天井のようなところで体の負担なく長時間静止するために使うスキルのようだ。


(これはダンジョンと相性がいいかも)


 このスキルは天井があるところだと真価を発揮できそうだ。


 障害物がなくて隠れるのに苦労していたが、うまく天井を使えばその問題も解決できるかもしれない。


 次からはうまく連携が組めるようにゴブリンを実験台にして試していきたい。


 俺はキラースネークの魔石を回収すると狩りを切り上げ、ギルドへ向かった。



(無駄に疲れたな……)


 キラースネークと地面を転がり回ったので結構疲れた。


 傷は負っていないが今日はさっさと休みたい。そんな事を考えている内にギルドへ到着し、受付での手続きを済ます。


「ケンタさん」


 報酬を受け取って帰ろうとすると受付のお姉さんに呼び止められてしまう。


「はい、どうかしましたか?」


「ケンタさんは、スーラムの街でゴブリンばかり倒していましたが、こちらに来てからは色々なモンスターを討伐されていますよね?」


「え? えぇ」


 今日キラースネークを倒したし、答えはイエスで大丈夫なはずだ。



「本当ですか? 具体的には? 何をどの程度倒したのですか? 討伐数は?」


 なんか、根拠は? 数字は? みたいなことを聞かれると、元の世界のことを思い出して胃がキュッと締まる。


 あいつら会議になると嬉々としてあまり関係なくて調べてないこととか準備してないことばっかり聞いて来るんだよな。


「あ、えっと……キラースネークを三匹ほど……」



「ちょっと来なさい!」



 あ、お説教タイムに突入の予感です。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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