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17 エイミー


 



「やっぱり心配だから見に行ってくる!」


 しばらく待ってもアリスが帰ってこないことに我慢できなくなったエイミーはマリアにそう告げ、走り出した。


「待つんだ! バラバラに行動するのはまずい!」


 全員の分断を恐れたマリアは何とか思い留まらせようとエイミーに呼びかける。


「少しだけ見てくる! 待ってて!」


 だが、エイミーはマリアの言葉を振り切り、森の中へと入ってしまう。


「く、待てっ!」


 その場から離れることが出来ず苦渋に満ちたマリアの声が辺りに空しく響くもエイミーが立ち止まる事はなかった。



 …………



(あの人数で入ったのに音が聞こえてこない……)


 エイミーは走りながら周囲の異常に気づく。


 森の中はとても静かだった。


 無音というわけではなく、風にあおられて葉が擦れあう音や虫の鳴き声は絶え間なく聞こえている。



 だが、人の出す音、声や物音が一切聞こえてこないのだ。


 それこそ剣がぶつかり合う音の一つでも聞こえてきてもいいはずなのにそんな気配はない。



 森の中に人が入り込んでいるとは到底思えない、気配が一切しない状態だった。


 そんな森の中ではエイミーが息を乱して走る音が一番大きかった。


 本来なら自分から居場所を知らせるほど音を立てる行為は控えるべきだろうが、そうも言っていられない。アリスの事が気になるエイミーにとっては自ら発する音などどうでもいいことだった。


(これは……ッ)


 エイミーが森へと入ってしばらく経つと部下の死体を発見してしまう。


 恐る恐る近づき状態を確認する。


「弓……?」


 はじめに見つけた死体を見聞し、死因を突き止めるエイミー。


 その死体は頭部に矢が刺さっていた。


 森に入り、数分の間は何事もなく不気味な静けさが支配していたが、死体を見つけた時点で激しさを増したエイミーの鼓動が静けさを取り払ってしまう。


 得体の知れない不安が心臓を鷲掴みにし、一瞬前に進むことにためらいが生まれる。


 それでも、いや、そのことがあって余計にアリスの事が気にかかり、前進する速度が上昇する。



 はじめにいた場所の附近こそなんともなかったが奥へ進むにつれ、その様相は変わっていく。どこもかしこも死体だらけだったのだ。


 進めば死体、更に進めば死体といった感じである。


 はじめこそ注意深く調べもしたが、こう何度もとなるとただの障害物と変わらない。


 エイミーは死体を調べるのを止め、ひたすら森の奥を目指した。



「出口?」


 ずっと移動と続けていたせいか、とうとう森の出口が見えてくる。


 その事を自分へ確認するように呟くエイミー。



 木々の隙間からは月明かりが差し込み、柔らかな光が温かさをかもし出していた。



(アリスはどこに……、森の端まで来てしまったし、一旦引き返すしかないか……)


 アリスと合流できずにこんな所まで到達してしまったことに不安を隠せないエイミーは一旦引き返すことを決める。


 このまま暗い森の中を闇雲に探し回っても無駄だと判断したためだ。



 丁度森の出口があるし、そこまでは行ってみようと歩を進める。



 すると――


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 ――悲鳴が聞こえてくる。



(アリス!?)


 取り乱し、普段の声音からは想像もできないものだったが今聞こえた悲鳴がアリスのものだとエイミーにははっきりと分かった。


 驚愕したエイミーはつまずかんばかりの勢いで駆け出した。


 声の聞こえた方へ、必死で走る。


 すると出口が近づき、次第に木々がなくなって崖が見えてきた。


 崖は途中から崩落したようで、歪な形になっているのが少し離れた現在地からでも分かる。


 そんな歪な形をした崖に二つの人影が見えた。


 その一つが膝を突き、バタリと倒れてしまう。



 長年の付き合いから、そのシルエットがアリスのものであるとエイミーは即座に理解した。



「アリスッッ!!」


 エイミーは叫びながら倒れたアリスの方へ駆ける。


 服が汚れるのも構わず全力で走るも、距離はまだ遠い。


 激高したエイミーは必死で走りながらアリスを傷付けたであろう人物へ視線を向ける。


 まだ距離があるせいで顔は分からないが、誰がやったかなんて分かりきっている。


 ここでアリスを傷付ける理由のある者はたった一人。


 あのうだつの上がらない冒険者だけだ。


 名前もうろ覚えだったが、間抜けな顔だけははっきりと覚えている。



(あいつ、絶対に許さないッッ!)


 怒りに燃え、いつでも魔法を放てるように杖を構えながら走る。


 魔法の射程に入ったら容赦なく撃つ。


 脚を焼いて逃げられなくした後は、いたぶり殺してやる。


 エイミーはそう心に決め、走る。


 必死に走り続けたせいで距離が縮まり、闇の中でもその姿が段々はっきりと分かるようになってくる。



 アリスを傷付けた憎い相手、それは――


「え」


 ――エイミーだった。



 ならば一体自分は誰なのか。


 わけの分からない状態に直面し混乱したエイミーは答えの出ない自問自答を繰り返しそうになる。



(誰だっていい! アイツがやったのは間違いないんだから!)


 即座に気持ちを切り替え、標的に杖を向けて魔法を射出しようとする。


 が、アリスを刺したエイミーに似た女はニヤリと顔を歪めると、途轍もない速度で走り去ってしまった。エイミーが呆気に取られて固まる中、外見がそっくりな女は森の闇へと吸い込まれてしまう。


「ッ!?」


 余りに人間離れした速度に呆然と立ち尽くすエイミー。


(それよりアリスが!)


 我に返ったエイミーは倒れたアリスへと駆け寄る。


「うそ……」


 しかし、アリスは息絶えていた。


 まだ肌に暖かみは残っているものの、生きているものとの完全な隔たりを感じてしまう。


 地面に転がったアリスは胸を貫かれ、完全に絶命していたのだ。



「なんなのよ! 一体!」


 アリスの死体を抱きかかえ、絶叫するエイミー。


 あれは一体何だったのか。



 自分達は間抜けな冒険者を一人殺すだけだったはず。


 それがいつの間にか相手が変わっていた。


 自分そっくりの女に。



 あのうだつの上がらない男に仲間がいたのか。


 それともあの自分にそっくりな外見の女はこの森に住む幽霊とでもいうのだろうか。


(何がどうなってるのよ……ッ!)


 古くからの友人を目の前で亡くし、混乱状態にあるエイミーには答えを見つけ出せそうにない問題だった。



 だが、そんなエイミーにでも見つけ出せた答えもある。


 ……見つけ出せてしまった答えもある。



 それはあの幽霊じみた存在が次に何をしようとしているのか、だ。



(マリアが危ない!)



 そう、一人で待っているマリアの安否だ。



 アリスはあの姿に油断して自分とそっくりな女に殺された。


 そしてあの女はこの場におらず、走り去った。


 つまり、マリアにも同じ事が起こる可能性がある、そう考えたのだ。


(急がないと!)


 エイミーはアリスの死体をそっと床に寝かせると、マリアが待つ場所へ駆け出した。





(二人とも戻って来ない……。どういう事だ……)


 腕組みしたマリアは苛立たしさを解消しようと何度も小刻みに地面を踏みつけた。




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