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7 心に染み入るありがたいお言葉


 …………



「どうもこんにちは」


 全力疾走中でも挨拶を忘れない俺。


 第一印象はその後のコミュニケーションを大きく左右するので、ここはきっちりとしておかないといけないところ。


「何言ってるのこいつ!」

「もうだめ……」

「諦めるな!」


 だが、俺の挨拶より背後から迫る鉄球に興味がある女達。


 こいつらはコミュニケーションの重要性を理解していない模様。


「あ、こんにちは〜。僕、ダーランガッタって言います」


 礼儀正しく挨拶を返してくれる男。


 どうやら青年の名前はダーランガッタというらしい。



 ダーランガッタは金髪の似合う好青年といった感じで、爽やかイケメンさんだ。


 皆揃って鉄球に追われているというのに、日課のジョギング中のような気持ちの良いスマイルを向けてくる。


 なんというかダーランガッタの回りだけキラキラのエフェクトがついているような塩梅で爽やかだ。前の世界ならアイドルとして大活躍してそうな気配すらある。


 服装の方も遺跡調査に来る者が着る服というより、金持ちのお茶会に行く途中だった、と言われた方がしっくりくるようなイケメンにしか着こなせない恰好をしていた。


 そんな高級感溢れる恰好なのに腰に片手剣を差しているのが妙に不釣合いだなと感じてしまう。



「あ、どうも。俺はケンタ、よろしく」


「こちらこそよろしくお願いします」


 などと男二人で挨拶を交わす。中々いい奴そうだ。


 全力疾走中でも人の良さっていうのは分かるものなんだなとしみじみ思う。


「ちょっとぉおおおおっ! 何悠長に話してるのッ!」

「鉄球が……」

「くそっ、何か手は……ッ!」


 どうやら女達の報告によると鉄球は俺達のことが大好きらしく、その距離を着実に狭めてきているようだった。


 残念ながらそんな鉄球の熱い想いに応えてハグしにいくような女子はこの中にはいなさそうである。もちろん俺はハグする習慣のある国の生まれではないのでパスだ。


 俺達が全力疾走で坂を下っていく中、無数にあった脇道ははじめのT字路同様、壁が落ちてふさがって行く。俺達が辿り着く前に絶妙のタイミングで壁が落ちるため、残念ながら横にそれて逃げる事は叶わない。


 ……これは本格的に参った。


(爆弾を使うか……? いや、ダメだ。起爆させるまでに鉄球が爆弾を通り過ぎる。うまく爆破できたとしても通路ごと崩落する)


 現状、俺が選べる選択肢で一番効果がありそうなのは爆弾だったが失敗する可能性が高い。


 女達も逃げる事に精一杯のようで、鉄球を退ける手を持っているようには見えなかった。


 残すはダーランガッタだが……。


「よし、任せてっ」


 ダーランガッタが立ち止まり、剣を抜く。


「おいっ、何やってるんだ!」


 ダーランガッタの行動に驚く俺。



 あの鉄球は剣でどうこうできる大きさじゃない。


 いくらなんでも無理だ。


 その事を告げてダーランガッタをなんとか逃がそうと俺も立ち止まってしまう。



「きゃーっ! ダーランガッタさまーっ!」

「信じてる……」

「くっ、彼なら或いは……」


 などと言いながら全力疾走を止めない女達。


 俺達からどんどん遠ざかって行く。



 そんな中、ダーランガッタが微笑と共に両手で握った剣を天に掲げるように大きく振り上げた。


「いける……、のか?」


 荘厳な空気を放つダーランガッタを前に、ゴクリと唾を飲み込む。


 俺の問いかけにダーランガッタは軽く頷くと鉄球を待ち構えた。


 俺達が立ち止まる中、全てを粉々にすり潰すような音を立てながら鉄球が凄まじい勢いでこちらへと転がってくる。



「はあああああああああっ! セヤーーーーーッッ!!」


 とダーランガッタの気合一閃、剣を鉄球へ向けて振り下ろした。


 が、鉄球は止まらない。


 止まる筈がなかったのだ。



「おいいいいいいっっ!! 今凄いことやりましたって感じになってたのに、どういう事だよ!?」


 ダーランガッタに警告しようと自分も立ち止まっていたため、もはや今さら逃げる事は不可能だ。鉄球との距離が狭まりすぎてしまった。


 俺は万感の思いを込めて、ダーランガッタに突っ込む。


 これが人生最後の言葉か……。


「大丈夫だよ、ほら」


 そう言いながらダーランガッタが転がってきた鉄球の右端へ向けて手を伸ばす。


 すると鉄球はダーランガッタの手に押さえ込まれて停止した。



 それと同時に縦にすっと線が走ったかと思うと、左半分はそのまま下へ転がり落ちていく。


 が、途中でバランスを失って倒れた。


「え」


 半分になった鉄球を目で追って驚く俺の声を掻き消すように背後でダーランガッタの声が聞こえてくる。



「ごめん……、こっち手伝って……」


 振り返ると残った右半分の鉄球に押し潰されそうになっているダーランガッタがいた。


 俺は慌ててダーランガッタへ駆け寄り、鉄球を倒して転がらないようにする。


「あんたすげえな! よくあんな物切れるわ!」


 命拾いした俺は驚きながらダーランガッタの肩をバシバシと叩いた。


 もうダメだと思っていただけに嬉しさもひとしおである。


「まあね。ちょっとしたコツがあるんだ」


 などと言いながら得意気な顔をするダーランガッタ。



 普通の人が言うとドヤり成分が滲み出る仕草や台詞だが、それら全てを爽やかさが打ち消してしまう。……これがイケメンの成せるワザなのか、と驚愕する俺。


 俺も歯をキラリと光らせながら爽やかスマイルを決めてみたい。



 まあ――、何はともあれ、危機は去った。



「さすがです!」

「ん、私が認めただけはある……」

「いつ見ても素晴らしい剣技だ」


 などと言う女達の声が聞こえたと思ったら、いつの間にかダーランガッタの回りでベタベタしていた。


 相当遠くまで避難していたはずなのに、一体いつの間に距離を縮めたんだ、と感心してしまう。


「あ、どうも。俺、ケンタって言います。よろしくね」


 俺は改めて合流してきた女達にも自己紹介しておく。


 この状況、俺だけ顔見知りじゃないので出遅れると孤立しそうな予感がしたため、フレンドリーなコミュニケーションを再度試みる。


 女性比率の高いこの状況でハブられた場合、完全無視コース確定な気がするので余雁を許さない状況だ。


「あ、そう。私はアリス。ダーランガッタ様にご迷惑だけはおかけしないように」

「二度も名乗らなくていい……。私、エイミー。余り話しかけないで……」

「ふむ、余り強そうに見えないな……。私はマリア。足手まといなら置いていくぞ?」


 と、三人から自己紹介を受ける。



 ちょっと勝ち気な感じがするアリスと名乗った美少女は金髪ツインテールにミニっぽいキラキラしたドレスアーマーを着用していた。


 アリスは発言も行動も真っ先に行わないと気がすまないのか、どうにも落ち着きがない印象だ。



 次に言葉少なく大人しい感じがするエイミーは薄紫の髪のセミロングで豪華な刺繍の入ったローブを身にまとっていた。


 エイミーはいつもアリスの影に隠れて陰気な感じが拭えない。顔立ちは美少女と表現して問題ないのだが、アリスの腕をいつも掴んでいるせいかどうにも頼りない印象だ。



 そして最後に凛々しい雰囲気が漂うマリアはミントグリーンの髪をポニーテールにしていて妙に細工にこだわった感がある革鎧を着ていた。


 マリアは全員の言葉を聞いてから発言するせいか、多少落ち着いて見える。凛々しさを感じる顔立ちとあいまって三人の中ではリーダーっぽい印象だ。



 そんな三人は全員、美少女とも言えるし美女とも言える外見の持ち主だった。



 女性陣の自己紹介にはなんか俺に対しての余分な言葉が色々ついていた気がするが、気にしない事にして笑顔で応えておく。


「大体アンタなんでここにいるのよ! 遺跡の宝を横取りに来た泥棒じゃないでしょうね!」

「あやしい……、変な所から出てきてたし……」

「どうなんだ? 事と次第によっては切り捨てるぞ?」


 などとアリスから順にマリアまでワンセットでお優しい言葉をかけていただく。



 余りのフレンドリーさ加減に、これからうまくやっていけるか不安が残る。


 なんというか、つまらない物ですがどうぞと土産を渡せば、本当につまらない物だなと言われてしまった前の世界での記憶が甦ってくるくらいのフレンドリーさだった。


「ちょちょっ、違うって。遺跡の話を聞いて見学に来たんだけど、罠にはまって下層まで落下しちゃったんだよ! あんたらを見つけて出口を教えてもらおうと近寄ったら早とちりしてあんな事になったんだろうが!」


 と、弁解する。


「あははっ! 罠にはまって落ちるなんてバカじゃないのぉ? うけるぅ」

「無能……。役に立たない者はいらない」

「足手まといはいらんな……」


 などと女性陣から心に染み入るありがたいお言葉を頂いてしまう。



 罠にはまって最下層に落ちたのは事実だが、罠を作動させてその最下層まで逆戻りするはめになったのは誰のせいなのか問い質したい衝動に駆られてしまう。


 これは仲良くする必然性について再検討する必要が出てきた気がしないでもない。


「ちょっとちょっと、みんな〜、酷いよ。困ってるみたいだし助けてあげようよ」


 と、ダーランガッタ。


 俺、ダーランガッタのこと大好きになりそう。



 でも、美少女三人を侍らしているからギリでプラマイゼロだ。


 女性関係に関してはシビアな俺。


 なぜなら孤独で人に餓えているからだ! つい数日前も目がつぶれるほどのイチャイチャシーンを見てしまったしね!


「ダーランガッタ様がそうおっしゃられるのであれば。ゴミの世話も止むを得ないですね」

「盾や囮に使うのですね……。さすがです……」

「まあ、貴方がいれば雑魚が一匹増えても問題ないか」


 などと同意を得られる。が、俺の評価は下方でくすぶったままだった。


 この感じだと同行してもつらいだけだし、さっさと別行動した方が良さそうな気がする。


「あ〜、出口の方角を教えてくれるなら俺一人で勝手に行くけど……」


 と、言った瞬間、女達からすごい形相で睨まれる。


「私達を置いて自分だけ逃げ帰るっていうの?」

「罠にはまったのは貴方のせいだというのに……。厚顔無恥すぎる……」

「クズだなっ……! 恥を知るがいいっ!」


 などと心温まりすぎて燃焼間違いなしのお言葉を頂いてしまう。


 なんだろう……、俺の事もダーランガッタみたいな扱いにしてほしいんだけど無理なのだろうか。これが……格差……!


「あ、頑張ります。みんなで頑張って脱出しましょう!」


 止む無く頑張る宣言をする俺。


 この際、出られるならなんでもいいと妥協する。


 遺跡にいる間だけ我慢すればいいんだし、頑張って腰を低くしていこうと気持ちを改める。


「あ、ごめ〜ん。僕達脱出が目的じゃないんだ。この遺跡に眠る秘宝っていうのを探してここまで来たんだよね」


 が、ダーランガッタの言葉により、脱出は当分先という事実が知らされる。


 どうやらこの状況でも遺跡の探索を続行するつもりらしい。


 そして、この遺跡に秘宝があるということを知る。


「え、そんなのあるんだ。なんかすごそう」


 秘宝の存在を知り、素直に驚く俺。


 割と最近に遺跡の入口が見つかったそうだし、以前からあった様々な情報なんかとぴたっとはまって秘宝の存在と結びついたのかもしれない。




「そうよ! 必ず手に入れてみせるんだから! それまでこの遺跡を出るつもりはないわ!」

「遺跡が狭いから私達四人だけで来た……。失敗は許されない……」

「そうだな。手ぶらで帰っては待たせている他の者達に顔向けできん」


 どうやらこの四人は相当強い意思の元、秘宝探しへ訪れた模様。


 果たしてそのお宝は俺の命より価値があるものなのだろうか。



 俺は一刻も早く脱出したいが、この状況で一人別行動をするのはちょっと難しそうだ。


 ここで強引に自分は一人で帰ると頑なな姿勢を見せても、あまりいい結果にはならない気がするのだ。



 一応ダーランガッタが全員を仕切っているようだったが、女三人に詰め寄られれば割と簡単に意見を覆しそうな印象がある。



 現状、ダーランガッタは俺を助けるつもりでいるが、遺跡の探索をやめるつもりはない。


 女達は罠にはまったのを俺のせいにしている上に責任を取って探索を手伝えと言っている。



 つまり俺がここであんまり聞き分けのないことを言い続けると、最悪憂さ晴らしに殺される可能性も否定できない。なんというか、女達にぐいぐい押されて鉄球を両断した剣技で俺を真っ二つにするダーランガッタの姿が容易くイメージできてしまう。


 大体、ここで口論して結局同行するしかなくなった場合、ずっと険悪な状況で遺跡を進むことになる。


 女達の評価は元々低いがダーランガッタまでそちら側に行かれてしまうと、凄まじく居心地が悪くなってしまうわけで。


 となるとダーランガッタとだけでも仲良くしていくためにも遺跡探索に積極性を示しておいた方が円滑に事が進みそうな気がする。



(まあ、結構奥にいるっぽいし、最奥までそんなに時間はかからないだろう……)


 色んな罠にはまったお陰で現在地は遺跡の奥深く。多分遺跡の最奥までの距離も残りわずかなはず。秘宝が存在するのかどうかは知らないが、最奥まで行って何もなければこの四人も諦めて引き返すだろう。


 ちょっと余計な時間はかかってしまうが、一人で帰るより罠にはまったT字路以降のルートと罠の位置を知っているメンバーと帰る方がより安全な気がする。



 下衆い話だが罠を回避できる囮が三個もあるわけだし、案外安全なプランかもしれない。


 多分、向こうも俺を罠を回避させる囮へ使おうと考えているのが最悪三人くらいいそうな気がするし、その辺りはお互い様ってことで許容していく。


「というわけで秘宝を見つけるまではここから出るつもりはないんだけど、一人で動くのも危険だし、一緒に行動しましょう!」


 と、手を差し出してくるダーランガッタ。


「分かりました。よろしくお願いします」


 俺は一緒に遺跡を探索する事に決め、ダーランガッタと握手を交わす。


 というわけで、彼のパーティーに入れてもらう形となった。



 といっても、メニューから登録する正式なものではなく、ただ一緒に行動するというだけだ。まあ……、ようするに全く信頼されていないということなのだろう。


 当然、女達とは握手する流れにはならなかった。




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