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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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57 嗅ぎまわる燃え殻

 

 そこは港町の一角にあるありふれた安酒場。


 酒気を孕んだ生温かい風が漂い、薄暗い店内は仕事の疲れを癒そうとする者達で溢れかえっていた。



 そんな酒場の片隅。照明が届くギリギリの場所にあるテーブル。


 そこで仕事を終えた荷役の二人が酒を酌み交わしながら話していた。


「おい、聞いたか?」

「ゴウカキャクセイン号が沈んだ話だろ? 知ってるって」


 二人の話題は沈没したゴウカキャクセイン号の話だ。


 つい数日前、この港町の沖合いで大量の乗客を乗せた豪華客船が沈没した。


 客は船員の誘導により救命ボートで脱出したが、それでも間に合わなかった者が多数おり、被害者が続出した。


 沈没した原因は不明で回収された被害者の死体も事故に巻き込まれたとは思えないものが大量にあり、謎が謎を呼ぶ事態となっていたのだ。


 ゴウカキャクセイン号は都市部の港に停まる予定だったため、本来ならこんな田舎にある港の前を通る予定すらなかった。それが救命ボートとはいえ、関係船舶が多数訪れたため大騒ぎとなっていたのだ。


 そんな大事件は何の刺激もない静かな港町に住む住民達の話題の的となってしまう。どこもかしこも皆その話でもちきりだった。



 そのため、夜の酒場で流行の話題も豪華客船の話になってしまうのは必然。


 刺激に餓えていた二人も当然のように最近仕入れた新情報をお披露目しようとしていたのだ。



「ほんとか? カニの化け物の話も?」

「なんだそれ? 白い光線が船を切り裂いた話じゃないのか?」


「光線? カニだろ?」

「カニ? 光線だって」


 片方の男が突拍子もないことを言えば、もう片方の男も突拍子もないことを言う。


 もはや噂が噂を呼び、何が真実なのか分からない状態になっていた。


 生存者の証言が曖昧なままに憶測が憶測を呼ぶ。



 そんな、豪華客船に巨大なカニが襲い掛かって沈没したとか、謎の光線が豪華客船を切り裂いて沈没しただのという話が出てしまうほどには情報が錯綜している状態なのだろう。


 二人がお互いの仕入れた情報を披露しているとテーブルに一人の男が近づいてくる。


 元々は三人で飲む予定だったのが一人の仕事が長引き、遅れて来たようだった。


「おい! 知ってるか!?」


 男はテーブルに到着するなり、仕入れた情報を披露しようと自慢げな表情で二人を見つめた。


「カニだろ?」

「光線だろ?」


 遅れて到着した男へ同時に問いかける二人。



「何の話だよ……」


 が、遅れてきた男からすれば何の話かさっぱり見当がつかなかった。


「「お前こそ」」


 そして先に飲んでいた二人も自分達への加勢が到着したのではないと分かり、がっくりと肩を落とし、再びグラスに口をつけながら興味なさげに尋ねる。


「いや、沈没したゴウカキャクセイン号から脱出した奴がここまで泳いで昨日辿り着いたんだよ」


 遅れて到着した男は手に入れた最新情報を得意げに話した。


「「はあ!?」」


 その話を聞いて二人を飲んでいた酒を噴き出す勢いで驚いた。


「全身黒ずくめの野郎で、ひょろっちい身体のくせにピンピンしてやがってよ。締まらねえ顔してた割には大したもんだぜ」


 遅れてきた男は現場に居合わせたようで詳細を知っている風な顔をしつつ、自慢げに話す。


「いや……正確な位置は知らねえけど、船が沈んだのってかなり離れてるだろ……」

「すげえな……」


 遅れてきた男の話に二人は聞き入り、感嘆の声を洩らす。


 なぜならゴウカキャクセイン号が沈没したのはかなり遠方であり、泳いで簡単に辿り着ける距離ではないからだ。


「だろ?」


 遅れてきた男は目の前の二人が知っていない話を出来て満足したのか、まるで自分のことのように得意気に鼻を鳴らす。


「その話、詳しくお聞かせ願えませんか? ヒャヒャッ」


 ――と、三人が話していると急に背後から声をかけられる。


 その声音は女だった。


 声がした方へ三人の視線が移動すると、そこには異常としか表現できない恰好をした女が舌を出して微笑んでいた。


「「「ッ!? ヒイィィィィィイイイッッ!!」」」


 本能的に命の危険を感じた三人は悲鳴を上げながら逃げ出した。


 が、三人の内の一人が急に立ち止まる。



 ――立ち止まざるを得なかったのだ。


 走って逃げだせなかった理由、それは泳いで海を渡ってきた男の話をしていた男の喉下にナイフが当てられていたためだ。喉に当てられたナイフは鉈を思わせるほど大きく、男は唾を飲み込むことすら怖くてできなかった。


 残念ながら走って逃げたくとも、不用意に動けば喉に深い切れ目が入って死んでしまう状況に陥っていたのだ。


「おっと、逃がしませんよ」


 女は男の喉下に大振りなナイフを当てたまま耳元で囁く。


 そして蛇が這うようにゆっくりと男の身体を抱きしめ、密着してくる。


「い、命だけは勘弁してくれ!」


 顔から大量の脂汗を流し、必死に命乞いをする男。


「大丈夫、あなたは標的ではないのでそんな事はしません。だから落ち着いて下さい。それよりもさっきの話をもう少し詳しくお聞かせ願えませんか?」


 女は男の耳元で優しく囁く。


 しかし、女は舌を出しっ放しにしているせいか自然と唾液が垂れ、男の首元にしたたり落ちた。


「な、何でも話すぅううッッ!」


 男は観念し、全てを話すと誓うのだった。



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