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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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53 ケンタは返事に窮する

 


 俺の眼前でブラックキャンサーが大爆発し、エルザの首が外れるようにして宙へ弾けとんだ。



 首は空中で大きく回転しながら甲板を目指す。


 そんな中、炎上するブラックキャンサーのボディの中から人影が飛び出してくるのが見えた。



「えっ!?」


 驚きの声を上げる俺の目の前で炎を突き破って現れたそれは、首ナシの黒い全身甲冑だった。


 女性用を思わせるスッキリとしたシルエットの全身甲冑は陸上選手かと見紛うばかりの綺麗なフォームで走り、首を追走する。


 そして、ジャンプしたかと思うとラクビー選手ばりのナイスキャッチを決めた。


 首をキャッチした全身甲冑は、これまた綺麗なフォームで着地を決める。



 そして頭部を両手で持つと、首部分へ掲げてはめ込んだ。


 するとエルザの頭部が電動ドライバーで回したかのように規則正しい速度で回転し、全身甲冑の首部分へカチリとはまりこむ。



「――お久しぶりですね」


 頭部のジョイントが終了すると俺の方を向き、楽しげに笑顔を作るエルザ。



「久しぶり……か?」


 久しぶりと言われたが体の九割が初対面だ。


 この場合どう答えるべきなのだろうか。




「アッハ。立っているのは貴方だけ……、好都合です」


 エルザがそう言うや否や、全身甲冑の両手部分が裏返るようにしてびったりと腕に張り付き、手首部分がぱっくりと割れたようになる。



 そして手首の断面から何かがみょーんと姿を現した。


 それは楕円の金属に自転車のチェーンみたいなものが巻きついた何か。


 ――キュイーーーーンン!!!


 そんな何かが歯医者のドリルも真っ青な高音を立てつつ高速回転しはじめる。


(あ、電ノコだわ)


 両手首からチェーンソーが飛び出したんだね。


 と一人納得する。


「その回転してるやつをどうするんだ?」


「決まっているでしょう? こうするんですッッ!!!」


 俺の問いかけにエルザは駆け出した。そしてジャスティスマスクZを支える俺目がけてチェーンソーを振り下ろす。


「うおっ!!」


 俺はすんでのところでチェーンソーをかわす。


 かわしたチェーンソーは勢い余って床に接触しギャリギャリと音を立てながら建材を切り裂く。


「私を放せ!」


 片手で掴んで宙ぶらりんのジャスティスマスクZから声が飛ぶ。


「余裕だって。この位のハンデがないと勝負にならないから俺も仕方なくやってるんだって」


 と言いつつ剣を抜く。


「それはそれは……、とても優しいお心遣い感謝しますよッッ!!!」


 エルザは俺の方へ上体を向けながら床に刺さったチェーンソーを引き抜こうとする。が、チェーンソーは抜けなかった。結構深く建材を抉ったようで、中々抜けない様子。


 建材を切り裂いていたチェーンソーは未だ抜き取れていなかったため、もう片方のチェーンソーで切りかかってくる。


「オラアアッ!!」


 俺は【剣檄】を発動し、チェーンソーを弾いた。


 弾いた片手剣を持つ俺の腕も反動でぴんと伸ばされてしまい次撃には移れない。



 俺は【張り付く】を解除し、傾く床にそって少し下降し、エルザとの距離を空ける。そして、また素早く【張り付く】を使って静止する。なんとか隙を見つけてジャスティスマスクZを引き上げたかったが、今の状態では難しい。


「いいから私を放すんだ!」


「うっせえ!」


 ジャスティスマスクZの声を遮り、エルザの方を注視する。


「アッハ! では私が二人の意見を両方採用できるようにあなたの腕を切断してあげましょう! それなら手を握ったまま離れられますよ!」



「「お前は黙ってろ!」」


 意図せず言葉が被り、お互い同時にエルザへ物を投げる。


 俺は片手剣、ジャスティスマスクZは盾だった。


「ガッ」


 俺達が投げた得物は見事エルザに命中する。


 頭部にはヒットしなかったがバランスを崩し、ふらつかせる事に成功した。


「これもくらえ!」


 ジャスティスマスクZがとどめと言わんばかりに片手剣も投げつける。


 片手剣はふらつくエルザに脚に命中し、見事に転倒させた。


「今引き上げる!」


 俺はエルザが転倒したのを確認し、ジャスティスマスクZを掴んでいた片手を両手に変えて引き上げようとする。


「……だめだ」


 が、ジャスティスマスクZが添えようとした俺のもう片方の手を振り払った。


「おいっ!」


 時間がないため、焦る俺。


 こんなところでモタモタしていると、エルザが立ち上がってこちらへ来てしまう。


「今度燻製を持ってくるときはチップをブレンドして香りにもこだわるんだな!」


 ジャスティスマスクZは俺にそんな言葉を残すと手を振り払って落下した。


 船が沈む音が鳴り響く中にジャスティスマスクZが海へと着水する音が加わる。


「……くそっ」


 ジャスティスマスクZの手から離れ、虚空を掴んだままさまよっていた自分の手を引き戻す。


「アッハ! とても悲しいお別れでしたねぇ」


 振り返るとエルザが立ち上がってこちらへ笑顔を向けていた。


「お前の首から下みたいに永遠に別れるわけじゃないからいいんだよ」


 俺はドスに触れながら立ち上がる。


 立ち上がりながら【暗殺術】の部分発動、【かまいたち】、【膂力】、【剛力】を発動させる。


「行きますよぉおおッ!!」


 エルザは回転する両手のチェーンソーを構えるとこちらへと駆け出した。


「そんな身体のお前に俺が負けるわけねえだろうが……」


 が、俺はそれに合わせて後退する。


【暗殺術】の部分発動が完了するまで船の傾斜に合わせて下方へ滑り続けた。


「どこまで行くつもりですか!」


「ここまでだ」


 部分発動が完了し、ドスを握る手が半透明になったことを確認すると斜面に踏ん張って立ち止まる。そしてすかさず、【縮地】を発動してエルザへ向けて跳ぶ。


「なっ!?」


 不意を突かれたエルザは強引にチェーンソーを振り回したが一瞬遅い。


 俺はエルザを通り抜け様に【居合い術】を発動し、ドスを振るう。


 ――チン。


 ドスを鞘にしまいつつ、つま先を軸にして回転するように振り返り、再度【縮地】を発動してエルザを通り抜ける。


 往復して元の位置に戻った瞬間、もう一度振るったドスを鞘へとしまう。


 ――チン。


 ドスが鞘へ収まる音と共にエルザの金属甲冑の脚部が両方とも切り離される。


(……いくら金属甲冑とはいえ、あれだけ走り回れるって事は軽量化しているはず、つまり斬れるってことだ)


「ああっ!?」


 支えるものがなくなったエルザの上半身は床へと転がった。


 できれば頭部を斬りたかったがチェーンソーを振り回す腕が邪魔でうまくいかなかった。



 両脚を失ったエルザはすこし傾斜した床面にそって海へと滑り落ちていく。


「あばよ」


「アッハ、今回はここまでで我慢しておきましょうか……」


 落下中のエルザはそう言うと頭部に手をかけた。


 すると電動ドライバーでも使ったかのように規則正しい速度で頭部が回転し、外れる。


 首なし全身甲冑は両手で頭部を掴むと天高く放り投げた。


「あ?」


 宙を舞う頭部を見て呆けてしまう俺。


 そんな事をして一体何になるというのだろうか。



 その回答はすぐに分かった。


 なんと頭部を放り投げた全身甲冑の残骸が変形をはじめたのだ。


 首なし全身甲冑は金属がかみ合う独特の音を発しながら機械仕掛けの大鷲へと姿を変え、飛び立つ。


 そして空中へ放り投げた頭部を鋭い鉤爪で見事に掴みとった。


 頭部を掴んだ機械仕掛けの大鷲は一度大きく羽ばたくと方向転換し、船から離れる軌道を取った。





「ええっ!?」


 余りの急展開に驚きを隠せない俺。


 俺が飛びたつエルザを前に呆けていると背後で大声が木霊する。


 それはジャスティスマスクYの声だった。


「逃がすかぁっ!」


 そんなジャスティスマスクYの怒声が聞こえた瞬間、ブオッと俺のすぐ横を何かが通り過ぎた。


 俺の側を通り過ぎたのはジャスティスマスクYが愛用する特大金属ハンマーだった。



 綺麗な回転を見せるハンマーは姿勢を制御して上昇しようとしていた金属大鷲に命中する。


 ハンマーが突き刺さった金属大鷲は空中でバラバラになって崩壊し、鉤爪で掴んでいた生首はそのまま大海へと落下した。


「ははっ! ざまあみろっ! 隊長を痛めつけようとした罰だ! 今行きます隊長!」


 ジャスティスマスクYは金属大鷲が崩壊するのを満足げに眺めると、落下したジャスティスマスクZを助けようと海へ飛び込んだ。


「あっ! おい!」


 俺が何かする間もなくジャスティスマスクYは海中へと消えてしまう。


「やったね! 大勝利だ!!」


 と、そこまでの一連の状況を見ていたであろうジャスティスマスクXが歓声を上げた。



 ジャスティスマスクXは手すりにぶら下がる恰好となっていたが、今にも落ちそうな状態になっていた。その事に気づいた俺は駆け寄ると手を貸す。



「おい、大丈夫か?」


「ああ、すまない。助かったよ冒険者K」


 ジャスティスマスクXを引き上げ、安定した床へと移動させた瞬間――。



 巨大黒カニの残骸が再度大爆発を起こした。


 沈み行く船はその衝撃に耐えきれず凄まじい揺れが発生する。


「うおっ!?」

「ああっ! お、落ちる!!」


 足場がおぼつかない状態で激しい衝撃を受けた俺とジャスティスマスクXは散り散りになりながら海へと投げ出されてしまった。



 ◆



「ほれ、さっさと来ないと置いてくよ」

「それ、どうやるんですか……?」


 オリンの無情な声にロッソは必死さが滲む声で質問する。


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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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