52 ジャスティスマスクZは連携する
「了解だ、っと」
そんな説明を聞きながらも弓でのけん制を忘れない冒険者K。
「よし、リーダーは溜めに入ると完全に動けなくなってしまう。その間、我々で何とかするんだ」
「できればリーダーの攻撃が当たるように誘導できるのがいいだろう」
ジャスティスマスクYとZが補足説明を入れ、全体の動きが決まっていく。
「中々難しそうだが援護するぜ」
二人の説明を聞いた冒険者Kは深く頷いてみせる。
こちらの作戦が決まる頃、黒カニモンスターが迫ってくる。
黒カニモンスターは巨大なハサミを全員を巻き込むように斜めに振り下ろした。
巨大なハサミを使った攻撃は当たれば終わりが確定するほどの威力を有していたが大振りであり、軌道が限られる。何度となくハサミを弾いたジャスティスマスクYはその事実に気づき、鋭敏な反応を示す。
「来ました!」
即座に反応したジャスティスマスクYがハンマーを振るいハサミを弾いた。
が、ハサミはもう一つ。
「せいっ!」
そこへジャスティスマスクZが盾を構えて飛び込み、ハサミをいなす。
両方のハサミでの攻撃を防がれ一瞬隙ができる黒カニ。
「フッ」
すかさず冒険者Kが矢を射る。
矢は黒カニの腹上部にある人の顔目がけて飛んでいく。
が、本来カニの目がある部分から鉄杭が射出され、矢が撃ち落とされてしまう。
黒カニモンスターのハサミ攻撃を受け流してからの弓での攻撃。
完璧なコンビネーションを防がれてしまったが三人の顔に焦りの色はなかった。
目的は時間稼ぎ。
無理に深追いしてダメージを与える必要などないのだ。
とにかく相手の攻撃を無力化し続ければ問題ない。
「ハサミでの攻撃は大振りで対応しやすいですね」
数歩後退して皆と合流しつつ呟くジャスティスマスクY。
「ああ。上部から来る鉄杭も射角が限られているから攻撃範囲が絞れる」
そんなジャスティスマスクYをカバーするように動くZ。
「それに鉄杭は手持ちの弾数が少ないのか、大量にばらまいてこないな」
そして黒カニモンスターの鉄杭を射出する間隔に気づく冒険者K。
三人はそれぞれ攻撃を分析し、対応策を見出そうとする。
黒カニモンスターはその巨体ゆえ、精神的な圧迫感が強かったが実際の攻撃方法は意外と隙があり、充分対応可能だという事が徐々に判明してくる。
これならなんとかなりそうだという空気が強まったその時――。
「まずいです!」
いち早く異変に気づくジャスティスマスクY。
その声に反応し皆が黒カニモンスターの動向に気づく。
黒カニモンスターは後方へと跳躍するとしっかりと助走スペースを確保し、突進攻撃を仕掛けようとしていたのだ。
「かわすとリーダーに当たる!」
「突進かよ……」
黒カニモンスターはその巨体を活かしての突進攻撃を仕掛けてきたのだ。
その事に目を見開くジャスティスマスクZと冒険者K。
大きさと重量から考えると、今まで仕掛けてきたどんな攻撃方法より、突進攻撃が一番厄介なものかもしれない。
「全員で片足を狙ってバランスを崩させるしかない!」
冒険者Kの言葉を聞いたジャスティスマスクYとZは走り出した。
突進中のため、精度の低いハサミの振り回しを抜け、一気に片足へと迫る。
そこへ追随して冒険者Kも駆けつけ、剣を抜く。
「はあああああっ!」
「せいっ!」
「おらああっ!」
ハンマーと片手剣二つによる同時攻撃は成功し、黒カニモンスターはうまく足を動かせずに突進の軌道がずれ、つまずきそうになる。
黒カニモンスターはなんとか踏ん張って姿勢を保とうとした。
「フッ」
そんな隙を冒険者Kは見逃さず、矢を射る。
が、黒カニモンスターは両方のハサミをクロスさせ腹上部にある人の顔部分を守った。
そしてクロスした両ハサミを解くと、大きく掲げ、眼前の三人目がけて同時に振り下ろす。
と、丁度――
「準備できたよ!」
――ジャスティスマスクXの声が冒険者K、ジャスティスマスクYとZの三人に届く。
三人が振り向くと、そこには白色に輝く光の塔が天を貫いていた。
そんな塔の根本には大上段で剣を構えたジャスティスマスクXの姿が見える。
だが、溜めが終わった時、黒カニモンスターも両方のハサミを振り下ろすところだった。
黒く輝く巨大なハサミが三人目がけて落下する。
が、ジャスティスマスクZとYはその場から動かなかった。
それぞれ剣とハンマーを構えてタイミングを図る。
「合わせろY!」
「はいッッ!」
ジャスティスマスクZの掛け声とYの怒声が被る。
黒カニモンスターのハサミが両者へと振り下ろされた瞬間、二人は【剣檄】を発動した。
二つのハサミがそれぞれ剣とハンマーに接触すると大きく弾かれ、黒カニモンスターの腹がむき出しとなる。
が、【剣檄】を放ったジャスティスマスクZとYは、スキルの影響で武器を掲げたままその場で固まってしまう。
「うおおおおおおりゃああああああああああああああッッッ!!!」
そこへ冒険者Kが気合の一声と共に二人を両肩に担ぎ上げると、つまずく様に跳躍してその場を離れた。
そして床へ転がるようにして二人を手放す。
「いいぞ!」
顔を上げた冒険者KがジャスティスマスクXへ向けて叫ぶ。
冒険者Kが二人を担いで跳躍したため、黒カニモンスターと距離を空けることに成功したのだ。
次の瞬間――
「ザコオオオオオオオダアアアアアアアアアッ!! キャリバアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
――ジャスティスマスクXの気合の一声と共に大上段に構えた剣が振り下ろされる。
振り下ろされると同時に天を貫く光の塔が地上へ向けて倒れる。
横倒しに倒壊する巨塔のような一撃が黒カニモンスターへ向けて襲い掛かる。
「くっ……!?」
眼前の戦闘に気を取られていた黒カニモンスターは光の塔の存在に気付くのが一瞬遅れてしまったようでその場に固まっていた。
だがその巨大な六本の脚を巧みに使って塔をかわそうと飛び退いた。
しかし光の塔が落下する速度は早く、完全にかわしきれない。
光の塔は見事命中し、黒カニモンスターは真っ二つに裂けた。
が、カニモンスターを叩き割った光の塔はそこで消失せず、ゴウカキャクセイン号の床を貫き沈み込んでいく。
「うおおおおッ! ヤッ…………、え? ちょ、ぇ?」
カニモンスターを倒して歓声を上げようとしていた冒険者Kは事態の急変に素っ頓狂な声を漏らす。光の塔は船体の床を割っただけでは収まらず、そのまま船全体を縦に二分割にしてしまったのだ。
縦に割れたゴウカキャクセイン号は船首部分が海中へと吸い込まれていき、その反動で船尾部分が大きく持ち上がってしまう。
そして船は激しく振動しながら沈みはじめた。
「グアッッ!」
そんな中、バランスを崩したジャスティスマスクZが裂け目へと滑り落ちていく。
「おらああああっ!」
それに気付いた冒険者Kはダッシュからスライディングへと移行し、素早くジャスティスマスクZの腕を取る。すると、まるで張り付いたような不自然な挙動をみせ、斜めにそそり立つ床で完全停止する。
「二人は!?」
冒険者Kが慌てたように周りを見渡すと、ジャスティスマスクXとYは手すりなどに掴まって事なきを得ているのを確認する。
「すまんっ!」
ジャスティスマスクZがそんな言葉を冒険者Kにかける。
「気にすんな! それよりあのカニがなんかやばいっ!」
ジャスティスマスクZに言葉を返しつつ冒険者Kが凝視する先には、肩口からばっさりと切断された機械じかけの巨大黒蟹が黒煙を噴き出している姿があった。
黒煙の勢いは強く、時折激しい火花が散っているのがわかる。
――ドオオオオオオオオオオンッッ!
四人が見守る中、巨大黒蟹が大爆発を起こす。
そんな大爆発の衝撃でカニの腹部上部にあった人の首が上空へと吹き飛んでいった。
そして巨大黒蟹はボロボロと崩れ落ちながら爆炎に包まれていく。
そんな爆炎の中から人影が飛び出してきた。
「えっ!?」
凝視していた冒険者Kの驚く声が響く。
◆
俺の眼前でブラックキャンサーが大爆発し、エルザの首が外れるようにして宙へ弾けとんだ。




