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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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50 オリンは細切れにする

 

「気味の悪い手品だね」

「タネがあるといいんですが」


 オリンとロッソがそれぞれ呟きを漏らしながら山羊巨人の千切れた身体が元に戻る様を鑑賞する。


 三分割された山羊巨人はあっという間に元の姿へと戻ってしまう。



 そして千切れた首と縦に割れた体がすっかり元に戻った山羊巨人がすっと指を一本立てて空を指差すような動作をする。



 すると指先に炎の球体が瞬時に発生した。


 ゆっくりと回転しながら膨らんでいく炎球は瞬く間に馬車ほどの大きさになる。


「ありゃなんだい?」

「魔法……でしょうか」


 二人が事の行く末を見守る中、山羊巨人がくいっと軽く指を倒すのと同時に巨大な炎球が落下をはじめた。


 炎球の行く先は当然二人が立っていた場所だったのだが――。


 そのまま落下するのかと思えば炎球は中空で真っ二つに割れた。


 ――チン。


 音もなく着地したオリンが刀を鞘にしまう音が静かに響く。


 それと同時に割れた炎球が上甲板へと落下し、激しい衝突音と共に辺りが炎の海と化す。


「チッ、もうちょっと細かくすりゃ良かったね」

「……貴方がそう言うのならできるのでしょうね」


 無力化できなかったことに舌打ちするオリン。


 その言葉を聞き、ちょっと呆れた表情になるロッソ。



 二人の周りでは転がった死体が燃え盛り地獄絵図の様な惨状となっていたが、そんな事など全く意に介さず、穏やかな会話が続く。


 炎球が割られた事に小首を傾げた山羊巨人は今度は指一本ではなく、手のひらを空に向かって掲げた。



 すると前回と同じように炎球が発生し、凄まじい勢いで膨らんでいく。


 炎球は膨らみ続け、あっという間にゴウカキャクセイン号を覆うほどの大きさへと成長を遂げる。


「すぅううううばぁあああらぁああああああしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!」


 山羊巨人が生成する炎球に見惚れた女が濃厚な黄色い悲鳴を上げる。



 ……そして山羊巨人は掲げていた掌を軽く扇ぐようにして振り下ろした。


 それと同時に小さな太陽は二人へ向けて落下する。



 が、当然太陽が船へ接触することはなかった。



 小さな太陽は花吹雪と見紛うばかりの大きさへと切り裂かれ、真昼の空を彩ることとなる。


 ――チン。


 しなやかに着地し、刀を鞘へとしまう音が鳴る。


 と、同時に火花状の霧雨が船へと降り注ぐ。



 数秒前のオリンの言葉を証明する出来事が起こるも、山羊巨人がその事を理解しているかどうかは疑わしかった。


「はああっ!」


 そこへ気合の雄叫びと共にロッソが剣を振る。


 すると炎の霧雨は霧散し、晴れやかな空が再び顔を出す。


「ああああああああああああああああッ!?」


 そんな一連の出来事を目撃し、まぬけな悲鳴を洩らすローブの女。


 女は炎球が浮いていたであろう中空を見つめたまま固まっていた。


 そんな声に隠れるようにして巨音が発生する。


 音に気付いた女が視線を落とせば山羊巨人が跡形もなく細切れになって床へと降り注ぐところだった。


「――――」


 ローブの女にとってはあまりの出来事だったのか、とうとう目を見開いたまま絶句する。



 呆然とする女だったが次第に頬に赤みが差し、なんとも気持ちの悪い笑顔になってゆく。


 そんな視線の先には肉片が宙を舞い、血液が糸のように繋がっていく元は山羊巨人だったものの姿があった。肉片はじわじわと時間を巻き戻すかのように元あった場所へと戻っていく。



「参ったね……」

「あれ、どう思います?」


 山羊巨人が再生する姿を見てゴキリと首を鳴らしながら、あきれた表情をするオリン。その隣でロッソが何かを見つける。



 ロッソが指差した先には大きく描かれた陣があった。


 陣からはまるで蜘蛛の巣のように桃色の光が糸状に展開し、周囲に転がる死体の下まで伸びているのが分かる。桃色に輝く糸は甲板からその先、船内まで侵蝕しているのが糸自身の発光によっておぼろげながらも見て取れた。


「あれだね」

「ですよね」


 頷きあった二人は狙いを山羊巨人から陣へと変更する。


 目にも留まらぬ速さでオリンが陣の周囲を回ったかと思うと、円形に切り抜かれた床が宙に舞う。


「頼んだよ」


「はあああっ!」


 それを跳躍したロッソが両断する。


 宙を舞った床がまっ二つに割れるのと同時にバキリッと硝子を砕いたような不自然な音が鳴る。二分された陣が描かれた床は、ひび割れた音が伝播するようにして粉々に砕け散った。



 陣が砕け散ると今度は元の状態へと復活していた山羊巨人に異変が発生する。



 ――ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!


 この世成らざるものの声に相応しい声音を響かせ山羊巨人が苦しみはじめたのだ。


 よく見れば山羊巨人が胸元を掻き毟りながら足元から次第に透明になって消えていくのがわかる。


「か、神様ああああああああああああああああああっっ!」


 そんな状況を受け入れられなかったのか、ローブの女は悲鳴をあげつつ消え行く山羊巨人へとすがり寄る。



 苦しむ山羊巨人は膝から崩れ落ちながらも駆け寄る女へ手を伸ばした。


 山羊巨人が伸ばした手と女が掲げた両手は触れ合うことはなかったが、その間に桃色の光が溢れ、女へと降り注いだ。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!」


 絶叫し、光に包まれる女。


 それは歓喜の声ではなく、心の底からの悲鳴。ただ苦痛を訴える絶叫でしかなかった。



 ローブの女の全身が発光しはじめるころには山羊巨人の姿は完全に消えてしまう。


 残されたのは苦しみ悶える女のみとなってしまった。


「あれも斬るかい?」

「そうですね。後顧の憂いを断っておきましょう」


 二人が光るローブの女を見据えて構えたその時――。


 背後から凄まじい何かを感じ取る。


 オリンとロッソは即座に反応し、素早く身を捻って背後から迫る何かをかわした。


 かわしながら二人の間を通り過ぎるそれを凝視する。



 それは光の柱、いや長さから言えば塔が近いかもしれない。


 そんな白色に輝く光の柱が船尾から船首に向かって一直線に通り過ぎたのだ。


 光の柱は凄まじい速度で突き進み、その線上にあったもの全てが消失してしまう。



 白色に輝く光の柱のようなそれは一切の躊躇なく突き進み、ゴウカキャクセイン号を縦に二分したのだった。



 船は縦にぱっくり割れ、とてつもない衝撃が発生する。



 光の柱をかわそうと跳躍したはいいものの、着地する足場を失い海へ落下するしかなくなってしまったオリンとロッソ。


 そんな中、船と共に沈んでゆく発光するローブの女。


 ゴウカキャクセイン号は海の藻屑となった。



 ◆



 ――数分前、船尾部分――



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