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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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49 オリンは眉をしかめる

 

「「…………」」


 あまりの出来事を前にしてオリンとロッソは一言も発することができずにただ立ち尽くしていた。



 二人の眼前にいきなり山羊巨人が現れたと思ったら、今度は船内に黒船が乗り上げた。


 そして黒船は飛び込んだ進路上に合った山羊巨人の首を撥ね、ゴウカキャクセイン号の船首に着地する。


 そこで黒船は巨大なカニへと変形し、猛スピードでどこかへと行ってしまった。



 そんな出来事を数秒の間に見てしまえば無言になってしまうのも頷ける。


 二人はぱちくりと瞬きをしたあと我に返る。


「ひとまず危機は去りましたね……」

「変なのが来たけど概ねそうだね」


 あまりのことに黒船周辺でちょろちょろ走り回っていた人影に気付かなかったオリンとロッソはそんな会話を交わす。


「とりあえずアレを追いますか?」

「ああ、あんなのがいたら面倒だからね」


 次の目標を黒船……、いや黒蟹に定めた二人が船首から去ろうとした次の瞬間――。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! 素晴らしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃッッ!」


 陣の中央にいた女の奇声と呼ぶに相応しい絶叫が聞こえてくる。


 どうやら女はあの船の直撃を避けたようだった。


 そしてあの女が喜びの奇声を上げる理由はただ一つ――。


「……なかなかしぶとい山羊だね」

「大きいからですかね?」


 振り返った二人の眼前には首を撥ねられたはずの山羊巨人が何ごともなかったかのように立ち上がっていたのだった。



 そして頭部が撥ね落ちた首の切断面から血液が縄のように伸びはじめる。


 蛇のような動きを見せる血液は転がった頭部の切断面へと繋がった。



 すると地べたに転がっていた頭部が血液の綱で引き上げられ、上半身へとぴたりと吸い付き、元通りになってしまう。



 だが、そんな回復していく様を悠長に観賞している二人ではなかった。


 首が完全に接合した瞬間にロッソが再び首を切断し、オリンが体を縦に二分する。



 再起動させる間も与えず、即座に三分割である。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」


 山羊巨人の惨状を目撃し、身悶えしながら絶叫する女。


 もう駄目かと思った山羊巨人が元に戻ったと安堵した次の瞬間に、以前よりも酷い有様になったことで錯乱したような悲鳴を上げる。


 ――だが、またもや断面から血液が縄のように伸び、切断した部位を引き寄せるようにして接着してしまう。


「こいつは一筋縄じゃいかなそうだね」


 自身の肩を揉みながら首をゴキリと鳴らすオリン。


「こんなモンスターもいるんですね」


 深い沼の底のような沈んだ瞳で対象を見つめるロッソ。


 二人は常人なら逃げ出すような光景を目の当たりにしても特に心を揺るがす事もなく、再度武器を構えるのだった。



 ◆



「むう、これでは身動きが取りづらいですね」

「ここまでの敵は一掃できましたし、一旦戻りますか?」


 並居る敵を倒し、一直線に進んだジャスティス団だったが救助した乗客の数が多くなり、これより先の進行が困難になってきていた。


 そのため、つい先ほども護衛する乗客に気をとられて走ってきた船員と衝突してしまったりもした。その際は大事に至るどころか感謝される結末となったが、次もそうなるとは限らないのだ。


 その事を懸念したジャティスマスクYとZはリーダーであるジャスティスマスクXへ確認を取る。


「そうだね。一度避難所へ乗客を連れて行って全体がどうなっているかも確認しておこうか」


 二人の言葉にジャスティスマスクXは深く頷き、一旦避難所へと向かうことを決めるのだった。


 …………


 そしてジャスティス団は乗客を誘導し、問題なく避難所まで戻ってくることに成功する。



「ありがとう。こっちは順調だ……、現状で生存者の大半は保護できたはずだ……」


 乗客を引き渡し、船員からも礼の言葉を受け取るがどうも表情が優れない。


「どうしたんだい? 気分が優れないようだけど」


 船員の表情が気になったジャスティスマスクXがそのことについて尋ねる。


「避難所にも敵が潜んでいたんだ……。そのせいでかなりの数の乗客が犠牲になってしまった」


 すると船員は暗い表情で避難所で起きた事件を話す。


 話を聞くと避難所で乗客を装った賊が周りの客を巻き込んで自害したということらしい。


「なっ!?」

「そんなことが……」

「非道な……」


 予想だにしない展開に驚きの表情を見せるジャスティス団。


「しかも機関室も破壊されてしまったみたいでこの船は動かない。だから生き残った乗客には救命ボートへ移動してもらって順次脱出してもらっている状態だ。今のところ移動の方は順調で、船外へ出るのはほぼ終了している。君たちが連れてきてくれた人たちも今説明したボディチェックを終えて問題なければ脱出してもらう手筈だ」


 また、船員の話から乗客は避難場所での待機から救命ボートへの乗り込みへと移行していて、それも終了間際だという事が分かる。


「なるほど、了解だ。僕たちは最後まで残って逃げ遅れた人がいないか捜すのを手伝うよ」

「そうですね。賊もまだ残っているでしょうし」


 リーダーの言葉にジャスティスマスクYが頷く。



「船尾の方へ向かう途中でしたし、もう少し調べますか」


 ジャスティスマスクZは話をまとめ、これから向かう先を提案した。



 船員の説明を聞き、再度捜索に出ることを申し出るジャスティス団。


 三人の意志は固く、最後まで救助作業を手伝う事を告げる。


「すまない。本当に助かっているよ。客室は名簿を持った船員が当たっているので、君たちは外周を回ってはぐれた人や逃げ遅れた人がいないかの最終確認をしてくれ」


 ジャスティス団の言葉を聞き、心底助かったかのような表情をする船員。


 幾分か落ち着きを取り戻した船員はジャスティス団に担当してほしい場所を伝える。



「分かった、引き受けよう」

「任せておきなさい」

「気を落とすな、今は割り切って最善を尽くすしかない」


 ジャスティス団は船員の言葉を受け、深く頷くと再度準備をはじめる。


「ああ、君たちも気をつけてくれ」


「問題ないよ! じゃあ行ってくるよ」


 船員の言葉にジャスティスマスクXは手を振って返すと皆を連れて船尾部分を目指して駆け出すのだった。


 …………


「どうやら大丈夫そうだね」


 船尾上甲板まで到着し、周囲を見回したジャスティスマスクXが呟く。


 ジャスティスマスクXが言った通り、船尾部分に人の気配はなく、内部での出来事が嘘のように閑散としていた。


「賊もいないようですね」

「では最後に船首の方へ移動しながら様子を見ますか」


 リーダーの言葉にジャスティスマスクYとZも頷き、船首を目指す事で話を進めていく。



 ジャスティス団がそんな相談をしている中、突如巨大な異音が迫ってくる。



「何の音だい?」

「分かりません。ですが、こっちへ何か近付いているような……」

「っ! 構えてくださいっ!」


 三人が聞こえた音について会話を進める中、それは現れた。


 ――蟹だ。


 見上げるほど黒く巨大なカニがジャスティス団の前にいきなり現れたのだ。


 黒カニは躊躇なくその巨大なハサミを三人へ向けて振り下ろす。


「ふんっ!」


 が、巨大なハサミはジャスティスマスクYが振り抜いた巨大なハンマーによりすんでのところで止められる。


「せあっ!」


 そこへジャスティスマスクZの剣がハサミの根本へ打ち込まれた。


 しかし、ハサミを狙った鋭い一撃は甲高い音を残して簡単に弾かれてしまう。


「海のモンスターかい!?」


 その巨体に驚くジャスティスマスクX。


「どうやら巨大なカニのモンスターのようですね」

「よもやこんなモンスターがいようとは……」


 ジャスティスマスクYとZもリーダーと同意見のようだった。


 三人は眼前の黒蟹をモンスターと判断する


「とにかく、救命ボートのある方へは行かれるとまずいよ!」

「ここで倒すしかないですね!」

「倒せずとも行動不能までは追い込まないと危険ですね。もし、海に出た救命ボートが襲われれば一溜りもありませんよ」


 現状、船の片側側面では乗客の救命ボートへの移動作業が行われている。


 いくら移動が終了間際とはいえ、その場に眼前のモンスターが現れると大惨事は免れない。



 その事を瞬時に察知した三人はこの場で黒蟹のモンスターをどうにかするしかないと考えた。



「やるよ!」


 眼前の二人へ指示を出すジャスティスマスクX。


「「了解!!」」


 それに力強く返事を返すジャスティスマスクYとZ。


 戦闘開始だ。



 ◆



「気味の悪い手品だね」

「タネがあるといいんですが」


 オリンとロッソがそれぞれ呟きを漏らしながら、山羊巨人の千切れた身体が元に戻る様を鑑賞する。



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