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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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45 ケンタは言い当てる 三

 

 ハルバードのリーチを活かし、挨拶代わりにバードゥから鋭い突きが来る。


「クッ」


 俺は下がるようにして突きをかわす。


 相手の武器はハルバードで俺は片手剣。リーチの差がありすぎて今の間合いではこちらの攻撃が当たらない状況だ。攻撃を当てるためにはなんとしても接近しなくてはならない。



 俺は突きをかわした隙を活かして前に出ようとする。



「ほれほれっ!」


 が、突きは一発で終わらず、連続で繰り出される。


「チッ」


 連続突きは直線方向に鋭く、後退を余儀なくされる。


(寄りにくいな。けど……)


 だが、ハルバードでの攻撃は直線的。


 これなら大きく横に迂回するように駆ければ突きを繰り出されても追いつけないはず。



 そう考えた俺はバードゥを中心に円を描くように旋回して走った。


「そうくると思ってたで」


 ニヤリとしたバードゥは突きから横薙ぎの攻撃へと切り替える。



 身体を回転させ、遠心力をのせたハルバードでの旋風が襲い掛かる。


 ハルバードの刃の側面についた斧状の刃を活かした攻撃が俺へと迫る。


「うおっ」


 俺は横から迫ったハルバードをなんとかかわす。



 基本は縦方向の鋭い突きを連続で行い、こちらが嫌がって逃げるところを強力な横薙ぎの一撃で押し戻すのがバードゥの戦法らしい。



 敵ながら得意の突きの間合いを維持するのに適した戦法だと思う。



 しかし、今の感じで分かったこともある。


 突きは鋭く早くてかわすのが精一杯だったが、横薙ぎの回転攻撃は大振りで一回のみ。


 つまり横方向の攻撃を誘えば、こちらの攻撃のチャンスを作れそうだ。



「フフッ、死にたくなかったら大人しく渡しや」


 バードゥはハルバードをバトンのように軽やかに回転させて体側へピタリと止めると構えを取って威嚇する。


「断る」


「ならしゃあないよね」


 と言いつつ再度連続突きを放ってくる。


「クッ」


 俺はハルバードを避けながらもう一度横へ走る。


 さっきの横薙ぎの回転攻撃を誘うため全速力で走り、突きの範囲外へ脱出する。


「フフッ、あきらめ」


 するとバードゥは数秒前と同様に横薙ぎの攻撃を行ってきた。


「オラアッ!」


 俺は横薙ぎに振るわれたハルバートの下を潜って、そのまま前進する。


(いける!)


 片手剣を構え一気に距離を詰める。



 俺が順調に距離を詰める中、バードゥはハルバードを振り回し、身体を回転させる。ハルバードを身体の側まで寄せることには成功していたが、そこから突きを繰り出そうとしても俺との距離が近すぎる。


 あれでは柄で防御するのが精一杯だろうと高をくくった瞬間、バードゥはそのままハルバードを床に突き刺した。途端、ハルバードの柄が少し伸びる。


「残念〜」


 ハルバードを床に突き刺したバードゥはまるでポールダンスの技をきめるように柄を掴んで身体を宙へ向けて回転させる。



 そしてそのまま柄を使って倒立をした。


 倒立をした際に蹴り上げた脚が俺へと襲い掛かる。



「何!? くそっ!」


 蹴り上げが顎をかすめるも咄嗟に後方へ飛び退いたのがなんとか成功する。



 飛びながら今まで俺がいた位置を見ればバードゥが突き刺さったハルバードの柄に掴まったまま連続で回転蹴りを放っているのが見えた。その動作はとてもしなやかで、まるで踊っているかのようだった。


「お、よくかわしたねぇ。初撃でかわすのは珍しいで。さすがはうちが認めただけはあるわ」


 バードゥはまるでハルバードに四の字固めでもかけるように柄に膝を挟みこみ、仰向けのまま状態を目一杯そらした姿勢で空中に静止しながら俺に微笑みかける。



(このまま逃げれねえかな……)


 俺はじりじりと後退しながらそんな事を考えていた。



 今、バードゥはハルバードの柄によじ登って止まっている。


 全力で走ればバードゥが柄から降りてくる間に相当距離を稼げるはずだ。


「今ちょっと逃げようか迷ってるやろ?」


 バードゥはハルバードの柄のかなり高い位置でみこしを担ぐような姿勢で中空で床に対して平行に静止し、そこから両手の間隔を空けながら身体をひねりつつ倒立のポーズへ移行しながら俺の思考を読んでくる。


「どうかな」


「逃げてもええけど、当然うちは逃げたケンちゃんをあぶり出そうと罪もない人を痛めつけたりするわけやけど、そういうの絶えられへんやろ? やめときて」


 バードゥは倒立の姿勢から開脚し、開いた足をプロペラのように回転させながら床へと降りる。着地すると突き刺したハルバードにしな垂れかかるような妖艶な動きで柄に絡みつき、自在に身体を動かす。



「はっきりと言ってくれるな」


 俺は後退を止め、バードゥの動きを窺う。



 今、バードゥが俺に言ったことは虚勢ではなく、間違いなく実行に移すだろう。


 そしてゴタゴタが続いている船内でそんな事になれば収拾がつかなくなるのは必至。



 結局、やるしかないって事だ。


「分かるで、ケンちゃんのことなら手に取るように……」


「そういうセリフは飯の好みを把握して夕食に好物を作ってくれて待っててくれたりする、まだ見ぬ未来の奥さんに言われたいわ」


 俺は色香の漂う流し目を送ってくるバードゥを見ながら溜息をつく。



 なぜこんな現場でこんな台詞を頂戴しなければならないのだろうか……。


 シチュエーションがおかしいと言わざるを得ない。




「どう? まだ逃げたい?」


 着地し、ハルバードを抜いたバードゥが構えを取る。


「お前をここで止めて悠々とここから出て行くよ」


 俺は片手剣を構え、再度走る準備に入る。



「別に倒さんでも出すもん出したら悠々と出れるよ?」


「もうちょっと出し易い物にしてくれたら検討したんだけどな……」


 髪の毛とかをお守りに使いたいと言うなら喜んで差し出したと思うのだが、いかんせんハードルが高すぎる。



「交渉決裂やねッ!」


 バードゥは大きく踏み込みながら連続突きを放ってくる。


「一方的な要求を突きつけられてもこちらも困るわけよッ」


 俺はそれを大きく避けるため、走り出す。



 連続突きに関しては散々イーラで勉強してきたので捌くことは難しくない。


 だが相手の武器が長いので捌いた後に攻撃できないのが痛い。



 そうなると活路を見出せるのはやはり横薙ぎの攻撃をかわした後だろう。


 特にバードゥの横薙ぎは威力を上げるために回転を入れてくるので動作が読みやすくかわしやすい。問題は横薙ぎをかわした後に来る柄を活かして行ってくる自在な蹴り技だ。


 あの攻撃を距離を空けずにかわすのがベストだが、柄を使って予測も出来ない方向から連続で放たれるので慣れないとそううまくはいかない。



(となると、蹴りを打たれる前に接近するしかないな……)


 自在な蹴りはハルバードを地面に刺してから行われる。


 つまり普通に蹴りを放つより余分な動作が多いので、スピードを活かして接近できれば一矢報いれる可能性がある。


「無駄無駄〜」


 バードゥは連続突きを避けた俺目がけて回転ののった横薙ぎの一撃を放とうとしてくる。


(ここだっ!)


 俺はそんな横薙ぎの一撃に対して倒れこむようにして踏み出してかわしつつ【縮地】を発動した。



 ハルバードによる横薙ぎの一撃は俺の頭部をかすめて通過していく。


 そして俺は【縮地】の効果で飛ぶようにして一気に間合いを詰める事に成功する。


「なっ!?」


 俺の突然のスピードアップに驚くバードゥ。


 ハルバードは未だ横薙ぎのフォロースルーを行っており、床に突き立てるまでには至っていない。


「らあぁっ!」


 俺はそんなバードゥ目がけて片手剣で切り上げ攻撃を放つ。


 が、俺が放った一撃はバードゥには届かなかった。


「おっと、危ないわ〜」


 バードゥは咄嗟にハルバードを床に突き立てての蹴り攻撃を止め、両足を開脚して体を沈めて俺の切り上げをかわしたのだ。


 だが、バードゥは大きく動いて攻撃をかわしたため、首飾りが宙に浮く。


 そして俺が振るった一撃は首飾りの紐に接触し切断した。



 紐が切断されてバードゥの首から離れた首飾りは俺の剣に引っかかって大きく舞い上がり、そのまま強風に煽られて海の方へと飛んでいってしまう。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」



 首飾りの行方を追いながら目を見開き、絶叫するバードゥ。


 しかも何を思ったのか落下した首飾りを追って海へと飛び込んでしまった。


「ぇ」


 俺はバードゥの予想外の行動に声が漏れる。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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