43 ケンタは言い当てる 一
あまりに凄惨な現場を目撃した俺は気分が優れなくなり、許可を貰って一旦外の空気を吸いに十四階の展望フロアへきていた。
この騒ぎのせいか展望エリアに人の気配はなかった。
俺は貸しきり状態のフロアで手すりにもたれかかる。
船は停船しているせいか大きな揺れがないため、視界一杯に広がる青い海を見ながら深呼吸すると気分が落ち着いてくる。こういう時、濃い潮の香りがなければもっと楽になるだろうなと思うのだが贅沢も言ってられない。
(無理を言って離れたし、なるべく早く戻った方がいいよな)
俺は軽く伸びをしながら再度深呼吸をすると避難所へ戻ろうと歩き出す。
「なんか大変なことになっとるね」
俺が船内へ戻ろうとすると、背後から声をかけられる。
その独特のなまりには聞き覚えがあった。
振り返るとそこには笑顔のバードゥが佇んでいた。
どうやら、たまたま俺の死角にいたようだ。
「おう、ドゥーちゃんか。知ってるなら話が早い。今から皆救命ボートで脱出するから一緒に乗る準備をした方がいいぞ?」
いくら少し前に険悪な雰囲気になったからと言ってもバードゥは単に人を見る目が鋭いだけだ。
別に何か悪事を働いたわけでもないし、現状を伝えておいた方がいいだろうと話しかける。こんなところにいるってことは船の状態や乗客の避難状況を把握してないのかもしれない。
「仲間も全員殺されたし、船が大変な事になってるのは知ってたけど救命ボートで移動する事になってたのは知らんかったわ。でも、ケンちゃんなら絶対ここに来ると思って待ってたんよ」
「占いの結果か? よく分かったな」
「外の空気を吸いに展望エリアか上甲板の遊歩道、もしくはどこかの階のバルコニーに来ると考えたんよ。だけどどこも死体で溢れてるから、ここしかないかなと思っててん」
仲間が殺されたというのに普段と変わらない表情のバードゥは俺を待っていたと妖艶な笑みを向けてくる。俺を捜した方法は占い師らしく、俺の性格から行動を予測しての待ち伏せだと言う。ちょっと怖い。
「ふ〜ん、それで予想的中ってわけか」
「こらこら、またそんな気のない相づちうって、あかんで?」
「ああ、悪い。で、まだ俺に何か用があったのか?」
この世界に来てからこの会話の流れでいい展開になったことが一度もない俺は嫌な予感に首を絞められたかのような錯覚に陥り、呼吸が乱れる。
「ちょっと見て欲しい物があるんよ。これこれ」
バードゥは楽しそうに自身の首元につけていたネックレスのような物を手で摘みながら振って見せた。
笑顔を振りまいて見せてくれた首飾りはアクセサリーに疎い俺でも全くセンスのない物だということだけはハッキリと分かる代物だった。
バードゥが手で触れて愛おしそうに見せる首飾りは二種類あったがその二つ共が妙な物としか形容ができなかった。
一つは頑丈そうな太い革紐にジャーキー、もしくは木の根っこの様な何かが数個通してあり、ただぶら下がっているだけのシンプルな物。
もう一つは白、いや少し黄ばんだ白で不ぞろいな小石のような物を連ねて数珠状にした物だった。
どちらも得意気に見せびらかすようなタイプのアクセサリーには到底見えない。
「変わったデザインのネックレスだな。正直、美人のドゥーちゃんには似合わない気がするけどな」
と、率直な感想を言ってみる。
「あら、嬉しい。でもこれはアクセサリーとちゃうんよ? お守りや」
「お守り? あ〜、ずっとツキがどうこうって言ってたし、それが関係するの?」
バードゥは占い師という職業柄、自身のツキに敏感だと言っていた。
今見せてくれているのが幸運を呼ぶお守り的な物だということなんだろう。
「そう! それそれ! これがそうなんや」
「へぇ、見せてくれてありがとう。用事がそれだけなら俺は行くぞ? 避難の誘導を手伝いたいからな。ドゥーちゃんも一緒に来るか?」
俺は上機嫌のバードゥに軽く相づちを打つと避難所へ向かおうとする。
正直言いたくなかったが、避難するなら同行するかと一応聞いてみる。
「違う、違うんや。見せたいだけじゃないんよ。このお守り、効果が薄くなってきてるんやわ」
俺が軽く相づちを打ってその場を去ろうとするとバードゥが声を上げて引き止めてくる。
「それが? 残念だが俺には何もできそうにないな」
「これ、何やと思う?」
バードゥは首飾りにジャラジャラとついているこげ茶で乾燥し、ねじれてしまった何かを摘んで俺の方へかかげて見せる。
「さあ? 干し肉とか?」
興味のない俺は適当な答えを言う。
正直これ以上ここに留まっている時間が惜しい。
「惜しい! 惜しいわ〜。でも大体正解やね」
「は? ジャーキー首からぶらさげてるのか?」
まさか冗談で言った回答が正解とは思わず、つい聞き返してしまう。




