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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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39 ヘザーは弛緩する

 

「愚かな……」


 走り去る救命ボートを見つめながらヘザーは呟いた。



 ――男は一人で脱出してしまった。


 男の気持ちは分からないでもないが、さすがにやりすぎだ。


 自分は仮面の者達の指示通りに避難所へ向かおうと踵を返した。


(酷い有様だな……)


 避難所へ向かう道すがら多数の死体を目撃する。


 それらはフードを被った者が大半だったが、船員や乗客の亡骸も見て取れる。



 未だ状況は掴めないが死体の数から判断すると襲った賊は確実に数を減らしていて事態が収束しつつあるのが窺える。


 ヘザーは死体に触れないようにしながら早足で避難所へと一直線に向かう。


(まさか、隠れ場所を探したことがこんなところで役に立つとはな……)


 前夜、隠れる場所を求めてさまよったせいか道に迷う事もないし、避難所となっている多目的ホールの場所も知っている。いくら死体が溢れて船内の景色が変わろうともヘザーの足取りに迷いは無かった。


「止まれ!」


 無事、避難所の前まで到着すると船員に剣を向けられ静止を促される。


「賊に襲われそうになっていたのを助けられたら、こちらへ避難しろと言われたんだが満室か?」


 ヘザーは両手を上げながら船員へ尋ねる。


「まだ大丈夫だ。だが、武器の携帯は許されない。申し訳ないがこちらで預からせてもらっていいか」


 船員はヘザーの腰に差された剣から目を離さずに武装解除を指示してくる。


「分かった。地面へ置いてそちらへ蹴る」


 ヘザーはゆっくりとした動作で剣を外して床に置くと、船員へ向けて蹴り飛ばした。


 剣は床の上を滑り、船員の足元へと辿り着く。船員は剣を拾い上げると他の客からも預かっている武器が入っているであろう木箱へとしまいこんだ。


「よし、入っていいぞ。いや、待て。その鞄の中も一応見せてもらおうか」


 入室の許可を出そうとした船員だったが、ヘザーが大事そうに抱え込むトランクを見て中身を確認したいと言ってきた。それを聞き、一瞬固まってしまうヘザー。



「…………分かった。他言無用で頼む」


 船員の言葉に迷いを見せるヘザーだったが、ここでトランクの中身を見せるのを拒んだり逃げ出せば賊と誤解されるのは必至。止む無く鞄を開いて中を見せる。



「これは……。通りで大事にしているわけだな。緊急事態とはいえ悪かった。中は混雑しているが、もうしばらくの辛抱だ。ここで待機していれば、いずれ全て解決する」


「いや、現状では仕方のないことだ。では失礼する」


 船員の持ち物チェックを無事終えたヘザーは避難所へと通された。


 ヘザーが入室すると同時に扉が重々しい音を立てて閉ざされる。



(確かに混雑しているな……)


 避難所の中は人で溢れかえっていた。


 そんな中、空きスペースを見つけ、床へ座り込む。


(色々あったがこれで一安心だ。これだけ混乱すれば私が逃走犯ということも目立ちにくいはず。こういうときはいい方向に考えるべきだ)


 そんな事を思いながらぼんやりとした目で辺りを見つめる。



 すると避難所の扉が開き、再度乗客が入室してきた。


 どうやら未だ逃げ切れなかった人が駆け込んできているのだろう。



 だが、そんな事にあまり興味が湧かなかったヘザーはただただトランクを大事に抱え込んでぼんやりしていた。


 …………


 最後に乗客が避難して来て数分経過したころ、また出入り口の扉が開く。



 ただ、扉の開き方が妙に雑だった。


 荒々しい音を立て一気に力任せに開かれる。



 強引に開けたせいか大きな音がして周囲の乗客が一気に扉の方へと視線を向けているのがわかる。


(なにかあったのか……?)


 安心しきっていたヘザーは呆けた表情のまま避難所の中を見渡していた。


 避難所へ入室した乗客は皆、ヘザー同様座り込むか寝転んでいた。


 きっとこの混乱で皆疲れていたのだろう。


 そんな中、扉が開かれ、船員が慌てた表情で室内を見回していると数人の乗客がのそりと立ち上がるのが見えた。


(あの男は見覚えがあるな……)


 ヘザーは立ち上がった乗客の中に見知った顔を見つける。それは前日、この場で酔い止めの体操講座を開催していた中年男性だった。ヘザーは男のことが誰か分かった時点ですぐに興味が薄れ、ぼんやりと事の行く末を見守る。


(ああ、賊を全滅させたのかな……。これなら自室に帰っても良さそうだな)


 あれだけ慌てて扉が開けられたのは事件が解決したからに違いない。


 立ち上がった乗客は一刻も早く部屋に帰りたがっていた連中なのだろうとヘザーは予想した。


 室内の状況から事態の収束を予想したヘザーは自分もこれでやっと部屋で落ち着ける、と胸を撫で下ろすのだった。



 ◆



「結構な人数を保護したし一旦戻る?」


 俺は振り向きながら背後にいる臨時パーティーを組んだ面子に尋ねた。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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