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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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30 ヘザーは挙動不審になる

 

「なんとか一日はしのげたな……」


 適当な飲食店に入り、席についたヘザーはほっと息を吐き出した。



 トランクの中に大量の金が詰まっているところを素行の悪い船員に見られてしまったヘザーは盗まれることを懸念して一晩中船内を徘徊していたのだ。


 はじめは人が居ない場所を見つけてそこに隠れるつもりだったがどこにも先客がおり、止む無く逆に人が多い場所を回り続けた。


 そんな努力が実り、一晩やりすごせたがどうにも疲れてしまい、今は飲食店で休憩していたのだった。


(よく考えれば船員が盗みなど働くはずもないか……)


 席について一息つくと、大金を持ち歩いているという事実が自身の冷静さを失わせ、突拍子も無い行動を誘発してしまっていると気づく。



 船員だってバカじゃない。こんな逃げ場の無い所で金を奪っても捕まるだけだ。


 そんな浅はかな真似はしてこないだろう……と今さらながらに考えを改める。



(……まあ、人通りの多い昼間はさすがにそんなマネはしないだろうし、食事が済んだら部屋で仮眠を取るか……)


 白昼堂々自室に乗り込んで強盗行為に及ぶとは考えにくいと判断したヘザーは食事を済ませたら部屋で休むことを決める。


(要は、夜中を寝ずにやりすごし、人の活動が盛んな昼間に寝れば手を出しづらい状況を維持できるんじゃあないだろうか……)


 ここにきて、はじめから昼夜を逆転させて行動すれば問題なかったのではという考えに至る。


(いや、本当はそこまでしなくて普通に船旅を楽しめばいいだけなのかもしれない。自分の性格が嫌になってくるな……)


 今さらながらに自身の過剰な反応と行動に対して皮肉げに微笑すると注文した紅茶をすする。少し落ち着きを取り戻したヘザーはそこで店内の違和感に気づく。


(ん? さっきから騒がしいな……)


 ヘザーの耳に大声で口論する声が聞こえてきたのだ。


 声の出所を見渡して探してみると、どうも店の出入り口附近で隣の席同士の客が言い争っているようだった。


「上等だ! 表に出ろ! 我々の実力を見せてくれるわっ!!!」

「へぇ、そいつは楽しみだねぇ。拍子抜けじゃないといいんだけどね」



 そちらを見やれば丁度老婆に長身猫背の男と体の大きな男達が店外へと出て行くところだった。どうやら口論では済まず、喧嘩に発展したらしい。


(まあ、私には関係ないか……)


 大きな音ならなんでも反応してしまう自分の緊張状態に苦笑しながらこの船自慢の料理に舌鼓を打ち、再度紅茶を楽しむ。



 そしてヘザーが紅茶を口に含んだ次の瞬間――


「動くなっ! 全員席に着け!」


 ――店の出入り口から怒声が聞こえてくる。



 思わず口に含んだ紅茶を嚥下してしまい、何ごとかと声がした方へ目を向ければ、どう見ても強盗にしか見えない連中が店内へ押し入ってくるところだった。


「なっ!?」


 油断していたヘザーは驚きの余り声を上げてしまう。


(まさか客の財布を狙った賊が現れるとは……)



 こんな事態になるとは想定もしていなかった。


 盗みを恐れて逃げまわっていたら別の強盗に会う。


 なんの嫌がらせだろうか……。



 ヘザーはがっくりと肩を落とす。


 そして俯いた瞬間、抱え込んでいたトランクと視線が合った。


(ま、まずいっ!?)


 ああ、強盗に財布を取られてしまう……。


 なんてついてないんだ……、と数瞬前まで思っていた自分を殴ってやりたい。



 そう、ヘザーの抱え込んでいるそのトランクには財布に入っている金などお話にならない額が詰まっているのだ。



 このことがバレてしまえば当然トランクも取られてしまう。


 そして、こんな大事そうに抱え込んでいるトランクのことを賊が見逃してくれるはずもない。



 非常にまずい事態に直面している事にヘザーは今ごろになって理解する。


(何とか逃げ出さないと……)


 幸い、強盗が出たのは店内。


 つまり店の外にさえ出られれば何とかなる可能性が残されている。



 ヘザーはトランクを力強く抱きしめると店から飛び出すタイミングを計るため、注意深く周囲の様子を窺いはじめる。


 すると、なぜかは分からないが強盗の指示に従わずに席から立ち上がる客が複数現れた。


 客達に共通点はなく、年齢もバラバラだった。


「動くなと言っているんだっ! 聞こえなかったのか! 抵抗する者は殺すぞっ!」


 命令に従わない客に苛立った強盗が剣を振りかざしながら再度脅しをかける。


 が、客達はそんな脅しにも全く意に介さず、淡々とした動作で薄茶色のフードつき外套を羽織りだした。


(……チャンスか?)


 店内にいる客の動揺がおさまることはなかったが、ヘザーにとっては今の混乱状態が逃げ出すタイミングとして問題ないかの方が重要だった。


 今なら強盗は命令に従わない客に注意が向いている、だから好機かもしれないと席から腰を浮かし、飛び出すタイミングを探る。


 だがその時、悲鳴が木霊する。


 ――う、うわあああああああああああっ

 ――に、逃げろ。殺されるぞっ。

 ――助けてぇえええっ。



 何事かとヘザーが悲鳴の方へ視線を向ければフードを被った者たちが周囲の客に無差別に斬りかかっているのが目に入る。


 フードの者たちは短い曲刀のような物を持ち、手当たり次第に斬りつけ、暴れまわっていたのだ。そんな凶行を目撃した強盗達は混乱しながらもフードの者たちを止めようと剣を掲げて突進していく。



 フードの者に斬られたくなかった客は席から立ち、逃げ惑う。


 そんな客を追いかけるフードの者。そしてフードの者を止めようと暴れる強盗。



 店内は逃げ惑う者とそれを追う者で人の渦が発生し、もはや収拾がつかない状態へ発展していた。


(もう滅茶苦茶じゃないか!)


 辺りの混乱を目にヘザーの混乱も増す。


(逃げるしかないっ!)


 どの道この場にいれば賊に金を奪われるかフードの者たちに殺されてしまう。


 なら逃げるしかない。


 そう決断したヘザーは逃げ惑う客に紛れで店外へ向けて走った。


 ――どいてくれたまえ!

 ――通りますっ!

 ――早く外に出なさいっ!


 出口に近づくにつれ喧騒が増し、逃げ惑う人が密集したせいで中々前に進めなくなってしまう。だが、ヘザーはもがくようにして人をかきわけ必死で前に進む。


 そんなヘザーが店から出る瞬間に怪しげなマスクを被った三人組が店内へとなだれこむのが見えた。


(もうどうでもいいっ!!)


 あまりに怪しい外見の者達だったが、そんなことに構う暇などないと考えたヘザーは構わず店外へと飛び出した。


 どんなに混乱が増そうともヘザーにとって大事なことは胸に抱えたトランクの安全だけだった。



 ◆



「え?」


 ジャスティスマスクさん達が賊を成敗したのを確認し、逃げ出して外に出た俺は眼前の光景に思わず声を出してしまう。



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