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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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22 ゾックは遮られる

 

「九班が機関室の制圧へ向かいました」


 ひょろ長い男がゾックの前に進み出ると簡潔に報告を済ませた。



「よし! おい、聞いたかテメエら、準備は整った! 行くぞ!」


 それを受けてゾックが全員に聞こえるように声を張る。


 と、同時に武器を掲げ、待機していた場所から移動を開始した。



 八十名を超える武装した男達がゾロゾロとレストランエリアを目指す。


 待機していた場所からレストランエリアまでの距離はさほど空いておらず、すぐに到着してしまう。


「よし、ここからは時間が勝負だ! 一気にかかれ!」


 レストランエリア全体を見渡し、武器を掲げたゾックが合図を送る。


「「「うおおおおおおおおお!!!」」」


 ゾックの指示を聞いた手下達が威嚇するような叫び声を上げつつ、レストランエリアへとなだれ込む。


 その際にすれ違った従業員を斬りつけるのも忘れない。



 人が倒れるたびに異常な雰囲気が辺りを満たしはじめ、血の匂いが立ち昇るたびに周囲の客の顔色が青くなっていく。客達の間で起こったどよめきは次第に悲鳴へと変化していった。


 レストランエリアの中央に到着したゾックは手下達へ視線を送り、口を開く。



「打ち合わせ通り八班に別れるぞ! それぞれの店を包囲し、奪え! 事が済んだら終わっていないところに合流しろ! 行けッッ!」


 ゾックは手下に分散するよう指示を出し、それぞれの店へと向かわせる。


 そして、残った手下と頷き会うと自身が担当する店へと足を踏み入れた。



「全員動くな!」


 武器を振りかざしたゾックは声を張りつつ全体を見渡せる場所を探す。



 そしてバンドが生演奏をしていたステージを見つける。


 ゾックは店内全域に声が届くように声を張りながらそちらへと進んで行く。


 手下たちは店を囲むようにして動きながら数名がゾックの後に続いた。



 そしてステージに上がったゾックは客に向けて怒声を上げる。



「両手を上げて席に着け! おかしな行動をした奴は殺す! いいか! 分かったらさっさと言う通りにしろっっ!!!」


 ゾックはステージの上から手下に目配せし、出入り口に立たせる。



 これで第一段階は終了だ。


 店の包囲が完了し、客が抵抗していない事を確認したゾックは事がとてもスムーズに進んでいることに内心安堵する。



 次は財布や鞄をテーブルの上に置かせて回収させる。


 ここからは迅速さが勝負になってくる。


 ゾックは自慢のモヒカン刈りを撫で付けて調子を掴むと、次の命令を出そうと口を開こうとした。


 その時――


「ちょっと待ったぁあああっ!!」


 ――明らかに野太いおっさんの声が静まり返った店内に響いた。



 ◆



「ふむ、食事は美味しいのだがどうしたものか……」

「困りましたね……、リーダー」


 マスク越しに表情を曇らせながらも眼前の山盛りに積まれた肉類を淀みなく口へと放り込むジャスティスマスクXとY。


 咀嚼速度は増す一方だったがマスクに隠された顔は沈うつなものだった。店の奥の方ではバンドが演奏を行っていたが、そんな軽快でムーディな音も三人の耳には届かない。


「確かに……、手がかりが途絶えましたね」


 そんな二人を見つめながらコーヒーを静かにすするジャスティスマスクZ。



 なんとも消沈した雰囲気が漂う会話になっているのには理由があった。



 三人は身分を隠した状態である人物を追っていたのだが進捗はかんばしくなかった。


 その人物が残した手がかりを頼りに、ここまで辿り着いたはいいが完全に手詰まりとなっていたのである。


 何度か捕らえる寸前までいったので外見は分かっていたのだが、こうも乗客が多いと捜し出すのも難しい。


 名前は偽名を使っている可能性が高いし、なんともならない状態になっていた。


 しかも、この船は旅客船のため、目的地まで一直線に進むのではなく各地を回って何度も停泊するのだ。


 つまり各港へ着く度にその都度乗客の乗り降りが発生してしまう。



 そのため、客の入れ替わりが発生するたびに目的の人物が船にいるのか降りてしまったのかが分からなくなり、逃げられてしまう可能性が上昇する。


 なんとか次の港に着くまでに捕らえたいのだが、現状手詰まりになっていた。



 そんな状況で三人の捜している男の名はレジス。


 祖国で悪さを働いた者の名だ。



 いたずら程度なら三人も躍起になって捜すこともなかったが男のしたことは目に余る物だった。逃がすわけにもいかず、国外で活動されるわけにもいかない。


 そんなわけで三人が選抜され、男を追うこととなった。



 ちなみにレジスという男が何をしたかと言えば、たちの悪い先導である。



 ある女の活動に感銘を受けたレジスは件の人物が逃走後、勝手に後を継ぎ、独自に活動をはじめる。そんなことを一人でやっても何も成し遂げられないのが普通だが、男には何かしらの才能があったらしく、短期間で人と金を集めてしまう。


 そしてそれらを利用して現行の体制に武力で抗おうとしたのだ。



 そんな風に表現すれば聞こえはいいかもしれないが、要するに国の統治に関わる者を無差別に殺しただけだ。しかも簡単に手が届かないほど上に立つ者ではなく、比較的襲い易い下で支える者や大した関わりもない富む者を狙うという卑劣ぶり。



 レジス達は都から離れた場所で何度か事を起こしたが、その度にこちらは行動を起こした者を捕らえ、確実に数を減らす事に成功していた。


 だがレジス本人はしぶとく逃げ延び、国外へ逃走。



 レジスの逃走速度は速く、こちらとしても迅速な行動が求められるため他国の許可を仰がず、国外での無許可な捜査、追跡となってしまう。そのため、身分を隠して少数で追跡することとなり、三人が抜擢された。


 不慣れな土地での追跡捜査は難航し、潜伏先に押し入るも数秒の差で逃げられてしまうといったことが何度も起きてしまう。


 だが、そこまで追い詰めた効果はあり、シュッラーノ国から船を利用して逃亡することが判明。ここにたどり着くまでに何度か接触するも、いつもギリギリのところで逃げられてしまい、とうとうこの船まで来てしまった。



 この船が次の港に着くのは三日後。


 つまり三日以内に見つけ出せれば船上にいるレジスに逃げ場は無く、それを過ぎてしまうと再び逃走を許してしまう危険が発生してくる。



 三人は乗船初日に分散してくまなく船内を捜索したが見つけることは叶わず、お手上げ状態となっていたのだった。


 捜索してみて分かったことは、結局客室から一切出てこなければこちらからは何もできないということだ。何の権限もない立場で全ての客室を強引に調べるなど不可能なのである。


 かといって身分を明かし、船員に協力を求めて捜査するわけにもいかない。



 乗船してから一日で普通に出入りできそうな場所はあらかた調べてしまったため、三人は諦めて昼食を黙々と食べることしかできなかった。


「……やはり、客室をなんとかして調べるしか手はないかと」


 かわいらしい声音を曇らせながらジャスティスマスクYは未だ調べられていない客室に執着する。



「う〜ん、鍵盗ってきちゃう?」


 リーダーであり、二人を導く存在である筈のジャスティスマスクXが鍵を盗むか二人に聞いてくる。



「さすがにそれは……。鍵を盗ったのがバレてこちらの身分が知れてしまった場合、最悪外交問題になります」


 そこですかさずストッパー役のジャスティスマスクZが苦言を呈する。


 三人で行動するようになってからZの役目はもっぱら、荒れ狂う正義の荒波から倫理を守る防波堤となることだった。



「ぐぬぬ」


 諦めきれないのか歯軋りをするジャスティスマスクX。



「地道に捜しますか……」


 ジャスティスマスクZの言葉にはとても素直な反応をしめしてくれるY。



「客室へ通じる通路で張り込むしかないかと」


 そしてジャスティスマスクZが妥協案を提示する。


 今後の三人の行動が張り込みで決定しつつあった頃、店内に怒声が響く。



「全員動くなっ!!!」


「むむっ」


 声の方へと素早く顔を動かすジャスティスマスクX。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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