21 ケンタは昼食を謳歌する 二
「ところであなたは神を信じているのですか?」
しかし、この質問……、どう答えるべきか。
「え? う〜んどうだろう」
結局、咄嗟に思いつかず、パスする。
タンスの角に足の小指をぶつけようとしてくる悪魔の存在を信じるかと聞かれれば即答でYESと答えるところだが、ここは無難にスルーだ。
「ッ!!! 神を信じていないのですか!? つまり悪魔を信仰しているのですか!?」
だがお茶を濁した回答ではミゴは納得せず、むしろ逆方向へと舵を切る。
ヘアピンカーブでドリフトかますドライブテクのごとき思考回路に俺は驚きを隠せない。
「いや、そうじゃなくて……、なんというか色々信じてる感じ?」
慌てた俺はなんとか取り繕うように返事をする。
結局俺はクリスマス祝って除夜の鐘聞いて初詣行っちゃう系。
トイレもすっごいピカピカにしちゃうぜ。
といった旨を伝えておく。
「色々!? 数多の神々……、唯一の神以外の神、つまり邪神ということですね!」
どうにもミゴは俺の返答を悪魔とか邪神と結び付けたがる。
俺はこの世界の宗教には詳しくないので、あんまり突っ込んだ回答をするのもよろしくないと判断して濁していたのだが、どうにもそれがまずかったようだ。
しかし、ミゴの信仰しているゴッドからもそこはかとなくインディーズ臭がするのだが、メジャーなのだろうか。武道館ライブのチケとか一秒で完売してネットオークションで高騰するも落札した奴は本人確認で弾かれて入場できないクラスなのだろうか。
「何その白と黒しかない感じ。もうちょっと宗教素人に優しい灰色のゴッドとかいないの?」
白黒的考え方は良くないと思うんだ。
もっと幅広い考え方って重要。
「灰色! 神を神とも思わぬ発言! あなた悪魔崇拝者ですね!」
「ぇ? そういう感じ? ていうかもう神様の話は終わりにしない?」
どうにも俺を悪者に仕立てようとしてくるミゴにうんざりしたので話題を変えようとする。
折角女の子とのキャッキャウフフトークのはずがどうしてこうなった。
「神は終わり! この世に神などいない! 死んだということですね!」
「ちょっと、俺のこと無理矢理悪者に仕立て上げようとしてない? ねぇ?」
なぜこうも無理くりに結び付けてくるのだろうか。
正直ちょっと怖くなってくる。
「いえ! むしろ尊敬に値します! なんと素晴らしい発想なのでしょう!」
「ぇ」
だが、ミゴは俺を悪者扱いしたいわけではなかったようだった。
むしろ褒めようとしていたのかもしれない。
だがそんなミゴの表情はどうにもおかしい。
感情的になっているというか歯止めが効かなくなっているというか、ちょっとした暴走状態になっている気がするのだ。
「素晴らしい! 素晴らしいです!」
「……おい、大丈夫か?」
ミゴの様子が明らかにおかしくなってきている。
なんていうか酔ってはめはずしすぎて言わなくていいことをカミングアウトした奴みたいになってる。
「やはりあなたは素晴らしいいぃぃぃいっ! 二度目にあなたに会った時、私は運命を感じました。あの時の胸の高鳴りはやはり本物でしたっ!」
「お、おう」
その台詞、ほんの数分前ならすっごい嬉しかったんだけど、今聞くと全く嬉しくないマジック。
占い師のドゥーちゃんは俺にツキがあるみたいなこと言ってたが、どう考えてもあいつの目が節穴だったと言わざるを得ない。
俺がそんなことを考えている間もミゴの熱弁は続く。
「貴方の様な存在を是非人柱にしたいいいいぃぃぃぃっ! さすれば神は貴方に宿り、現世に顕現されるに違いないいいいいぃぃぃぃっ!!!!」
「今、聞き捨てならないこと言ったよね?」
神、神と連呼しているが、ミゴの信仰しているゴッドは本当にゴッドなのだろうか。
それにしても昨日の胸の高鳴りは一体なんだったのだろう。
今、俺の胸は医薬品が必要なレベルで動悸、息切れが激しい。
階段上らなくてもハァハァするレベルでやばい。
電車に乗り遅れそうになって階段を駆け上がった後、全く息切れが治まらない自分に気づいた時のショックはプライスレス。
おっぱいに気を取られていたのと前の世界で見慣れたすすけた顔だったため油断していたが、この世界でこういう顔している奴は間違いなく駄目な奴だったのだ。
どうにも向こうでの記憶のせいで妙なフィルターがかかって親近感を覚えてしまったことで起きた悲劇としか言いようがない。つまり、俺は悪くない。
「ま、まあ、あれだ。ご飯美味しかったよ……、んじゃ、またな?」
俺は興奮してちょっとヤバイ挙動になりつつあるミゴから離れようと席を立った。
なんだろう、朝方にも似たようなことがあった気がしないでもない……。
が、次の瞬間――
「全員動くなッ!!」
――静止の命令を告げる怒声が室内に轟く。
声のした方を向けば明らかに武装している集団が出入り口を塞ぎながらステージへと上がっていくのが見えた。
ステージに上がった集団の中からモヒカン刈りの男が前に出て周囲を見渡しながら声を張る。
「両手を上げて席に着け! おかしな行動をした奴は殺す! いいか! 分かったらさっさと言う通りにしろっっ!!!」
俺は素直にバンザイしながら席に着いた。
すると正面にはニッコリとした笑顔で両手を上げるミゴがいた。
ミゴは満点の笑顔と評するに相応しい表情筋の可動を実現していたが目が全く笑っていない。満点の笑顔には違いなかったが、その顔でほっこりする奴はこの世に存在しないだろう。
――そんな笑顔に睨まれ、強盗に包囲された状況。
……なんか俺一人だけプレッシャーが二倍な気がするのは気のせいだろうか。
◆
「九班が機関室の制圧へ向かいました」
ひょろ長い男がゾックの前に進み出ると簡潔に報告を済ませた。




