20 ケンタは昼食を謳歌する 一
「占い師ってああいうのが普通なのか……?」
俺はそんな呟きを漏らしながら腹ごなしに船内を歩いていた。
数分前、朝食を一緒にとったバードゥがおかしなことを口走りはじめたので適当にごまかして早々に席を立った。
(もうバードゥとは会わない方がいいだろうな……)
褐色肌のセクシーお姉さんだったが、これは止むを得ないだろう。
俺の事について詮索されるのはあまりよろしくない。
色々と言い当てていたし占い師というだけあって人を見る目は確かなようだ。
これ以上腹を探られるのは御免なので、なるべく会わないように心がけていくつもりだ。
この船はかなり大きいので運が悪くない限り、そうそう会うこともないはず。
(まあ、今日のメインイベントは昼食だし、気持ちを切り替えよう)
気持ちを切り替えることにした俺は船内を歩き回って時間を潰すとミゴと待ち合わせている店へと向うことにする。ぶらぶらしているだけだと時間を持て余すかと思ったが、土産物コーナーで買い物などをしている間に時間はあっという間に過ぎてしまった。
(もう来てるかな……?)
俺はちょっとそわそわしながら待ち合わせの店へと入り、ミゴを探す。
すると少し奥まったところにあるテーブルに座っているミゴを発見する。
向こうもこちらに気付いたようで笑顔で手を振ってくれた。
どうやら先に入店して席をとっておいてくれたようだ。
俺も手を振り返しつつテーブルへと向かう。
「席をとっておいてくれたんだ、ありがとう」
「いえ、お礼をしたいと呼んだのはこちらですから当然です。さあ、どうぞ」
「じゃあ遠慮なく。体調はどう?」
「もう問題ありません。ご心配をおかけしました」
俺はミゴに軽く挨拶を済ませて席に着く。
ミゴがとってくれたテーブルは食堂の中央壁よりだった。
店の最奥にはステージがあり、バンドが生演奏を行っていたりする。
「それでは注文を済ませてしまいましょうか」
そう言いつつミゴが手を上げて従業員を呼ぶ。
「遠慮しないからな?」
「フフ、望むところです」
俺は適当に注文を済ませ、ミゴとバンドの生演奏を楽しみながら会話に花を咲かせた。
はじめは船の施設の充実さなんかを話していたが、途中からミゴが巫女になったいきさつへと話題が変わっていく。なんでも、ある日突然お告げがきたのがきっかけでその道に入ったそうだ。
そういう電波の混じった話は普段は絶対聞かないがおっぱ……、ミゴなら別だ。
こんな時でもない限り聞く機会のない話だし、少し耳を傾けてみることにする。
「ふむふむ、お告げが聞こえたんだ」
「はい。私が眠ろうと横になったとき、その声は突然聞こえたのです。とても遠慮しがちなか細いものでしたが芯の通った澄み渡る声で――きこえますか、……きこえますか、あなたの心に直接話しかけています。……この声が聞こえますか、と」
「へぇ、気遣いのできる神様なんだな」
なんかミゴの話を聞いていると電話でも頭を下げて話していた自分のことを思い出してしまい、その神様に妙な親近感が湧いてしまった。
一緒に飲みに行ったら話が合いそうな気がしないでもない。
「ええ、とても控えめなお方のようでいつも遠慮がちに交信されてきます」
「……いつも? ってことは最初のお告げの後も結構話す機会があったんだ」
そういうのって、予言めいたことを二言三言言ってそれっきりってイメージがあったが、どうやらミゴの神様はまめなお方のご様子。
「ええ、交信するためには凄まじく気力を消耗する祈祷を行わねばなりませんが、ちゃんとお声を拝聴することはできます」
「へぇ〜、案外フレンドリーなんだね。はじめて会ったときはどんなことを話したの?」
どうやら神様とはそこそこの頻度で会話が出来るかわりにミゴ自身は結構消耗してしまうようだ。しかし、そうなってくると神様とどんな話をするのだろうか。
段々ミゴの話に興味が出てきた俺は好奇心でついつい聞いてしまう。
「そう! その時が一番驚きでした。なんと世界を救って下さるというのです。神はか細く繊細な声で『聞こえていますか……生贄を捧げるのです。……なるべく沢山捧げるのです。あなただけに語りかけています。なるべく早く、沢山です、さすれば世界は愛と平和が咲き誇る楽園となるでしょう。分かりましたか?』とおっしゃいました」
「え?」
俺はミゴの語る話に疑問点を感じてつい話を遮ってしまう。
ちょっとそのゴッド、遠慮しがちな割に大胆な要求してくるな。
大体生贄ってなんだ、ニワトリ的なものだろうか。
しかしニワトリとか子羊を捧げるのって、どっちかっていうと神っていうより……。
「だから! だから私はこの深い信仰を神に認めてもらうためにもやり遂げなければならないのですっ!」
「ぇぇ〜……。いや、悪いことは言わないからやめといた方がいいんじゃない?」
力説するミゴを前に俺はちょっと引き気味に止めとけよと忠告する。
ミゴの話を聞いていると久しぶりに会った同級生が全人類を健やかにするんだと力説しながら俺に霊能浄水器を勧めてきた事を思い出す。
大丈夫か、それ。
「咎人とののしられようと私はやり遂げます! 我が神のためにっ!」
「そ、そうなんだ」
どうやらミゴの決意は固いようだった。
ミゴは昨日までのふらつき具合からは想像できないほど芯の通った声で話し、両手をチョキの形にして目元に持ってくると目を閉じ、「おお、神よ」とか言い出した。
多分あれが祈りのポーズ的なものなのだろう。
が、転生した身の俺からすると、そのポーズは浮かれたJKがテーマパークのマスコットと一緒に記念撮影しているポーズにしか見えなかった。なんでああいう時ってピースサインを横に倒すんだろう。
「ところであなたは神を信じているのですか?」
話題を変えたミゴは両手のチョキを目元に当てたまま俺に聞いてくる。
元気で活発な子が笑顔でそんなポーズをすれば絵になるんだろうがローブ姿で濁った泥沼のような顔をしたミゴがやると無理すんなよ、とか思ってしまう。
しかし、この質問……、どう答えるべきか。




