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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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19 バードゥは狙いを定める

 

「フフ、あれは間違いない」


 バードゥは立ち去るケンタの背を見ながらとてもゆっくりと舌なめずりをした。


 じっくりと舌を這わせ、唇を湿らせる。



 その瞳は歓喜のあまり、少し潤んでいた。


 小さく遠ざかって行くケンタを見ながら今日までのことを思い出す。



 ここのところずっとツキが落ちているの実感していた。



 このままでは裏の仕事に支障をきたしてしまう。


 偽装のために行っている占いや踊りは人と接するためのもの、そして裏ではそれを利用して薄く広く情報を集めるのがバードゥの主な仕事だった。



 はじめは戦闘が主軸になる仕事を任されていたが、ツキを気にしてやっていたある行いが不評を買って今の状態になっている。


 対象を絞って深く情報を集めるのは別の者が担当し、バードゥは全く関わりのない者達から周囲がどの程度異変に気づいているのかを探るのが役目だ。


 戦闘にせよ情報収集にせよ、こんな仕事をしていると緊張感に耐えかねてどうしても験を担ぎたくなる。それは軽い気持ちでやりはじめたことだったが、今となっては欠かせないものとなってしまった。


 実際にはツキなど関係なく、心の平静を保つ儀式と化していることには自身でも気づきはじめていたが、それでもとてもうまく機能していた。


 それは何度も繰り返した事により洗練され、精神状態を高める領域まで到達してしまったためだ。ツキという名の自身の心身の微細な変化を感じ取り、コンディションを管理する。


 そう表現した方がいいのかもしれない。



 しかし、うまくいき過ぎたため、儀式に依存しがちになってしまうという弊害も出てきてしまっていた。


 そんなバードゥのコンディションはここ最近悪化し続けていたのだった。



 まだ仕事に支障が出るレベルではなかったが、早急に手を打ちたいとずっと考えていた。


 そんな折、新たな仕事の話が上がる。


 バードゥはこれをチャンスと捉え、移動中の時間を最大限に利用することにした。



 乗船前から入念に乗客を調べた結果、かなりの候補を見つけることに成功する。



 ただ強い者というだけならかなりの数の当たりを引いたことに期待が高まった。


 だが、残念ながらそれらは候補止まりで本当の当たりと呼べる者を見つけることができないでいた。候補者はそれぞれ微妙にバードゥが求めるものと違っていたのだ。



 まず一番強い者。


 それは強烈な殺気を放っていた老婆で間違いない。だが、彼女は女だ。


 ツキを呼び込むには異性である必要がある。


 そのため却下。



 次に強い者


 それは隣に居た長身で猫背の男性だ。だが、彼は覇気がなさすぎた。


 強いのは良いが生気が薄すぎるのだ。あれではツキを呼び込む対象として相応しくない。


 そのため却下。



 次に強い者。


 それはマスクをした中年男性だ。だが、彼はバードゥの好みから大きく外れすぎていた。


 強い自我を持ち、思考の柔軟性が無い上に外見が全く受け付けなかったのだ。


 そのため却下。



 次に強い者


 それはマスクをした男性だ。 だが、彼はあまりに潔白すぎた。バードゥの見た感じではとても固い印象があったのだ。



 強くて潔白、そして色男。


 悪くは無いが良くも無い。これもまた微妙に好みから外れてしまう。


 ツキを呼び込むためには妥協を許したくないため、これも止む無く却下。



 次に強い者


 それはマスクをした小柄な女性だ。


 だが、一番はじめの老婆同様、同性は対象外なので却下。



 これだけ強い者に巡り会えたのに駄目なのかと諦めかけていたとき、その人物を見つける。


 意気消沈し諦めかけていたときに現れたのが件の冒険者の男だ。



 名はケンタ。


 ケンタを見かけたのは乗船時に女を介抱しているのがはじめだった。


 一目見た瞬間に全身に電流が走るのを感じだ。


 これだ、と。



 あれだけ強い者がいても候補者が見つからないとがっかりしていた瞬間に見つけたので喜びもひとしおだった。


 だが焦るのはまだ早いと我慢する。


 もしかしたらそんなケンタより素晴らしい存在がいるかもしれないと思ったからだ。



 しかしその後、ケンタ以上の存在を見つけることは叶わなかった。


 それでもバードゥには充分だった。


 それほどまでにケンタは自身のこだわりに合致した存在だったのだ。



 改めてじっくりと観察するとそれがよく分かる。


 見るからに不完全さが漂い、とても人間臭い。


 そして強さも充分である。



 まさしく自分が求める逸材だった。



 何よりかなりの人を殺しているのが良い。とても良い。



 強い者の中にはモンスターしか倒さずに上り詰めたり、人を傷つけることを異常に毛嫌いするタイプがいる。そういうのはダメだ。


 血の匂いが薄くなってしまう。



 だが、ケンタはその辺りも素晴らしかった。


 確実に殺している。しかも一人や二人といった人数ではない。


 普通それだけ殺していると路地裏で遭遇した野盗を思わせる犯罪者独特の嫌な気配が滲み出てくるものだ。


 だが、ケンタにそれはない。



 あっても微細。


 多分、相手が自身の価値観に照らし合わせて悪と判定できる存在だったのだろう。



 そのため毒気や灰汁が料理の味を殺さないアクセント程度で納まっている。


 そんなちょっと癖のある味が大好物なバードゥには願っても無いことだった。



 更に何故だかは知らないが、ケンタには妙に初心者というか新参者といった雰囲気がある。


 とても新鮮な感じがするのだ。



 これもおかしな話で、適齢から冒険者としてやってきているなら中堅どころにいる年齢のはず。それなのにどことなく初々しさのようなものまで感じてしまう。


 手や脚に触れてみたが手には目新しいまめしかないのに、脚の筋量はベテランの域だった。


 なんとも不自然だがその精神からは人を殺めてでも生き抜く成熟した部分、そして経験未熟さが窺える肉体からはもぎたての果実のような新鮮さがある。



 そんなアンバランスさがバードゥにはたまらない魅力となってしまう。


 あれは間違いない。


 間違いなく自身に素晴らしいツキを呼び込んでくれるし、今の状態から回復もしてくれるはず。



 などとケンタの事を想像し、うっとりとした表情を見せるバードゥの前を偶然二人組の男が通り過ぎた。


「ガハハッ、プールでも行くか!」


「俺の肉体美を見せつけてくれるわっ、ダハハッ!」



 男達は自慢の肉体を披露したいのか、なぜか上半身が裸のまま辺りを歩き回っていた。


 それを見たバードゥの表情が熱のこもったものから一気に冷え切ったものへと変化する。



(話にならないわ……)


 あれはダメだと白けた視線を送る。



 二人組は両者共に筋肉がつきすぎていた。


 あれでは体重が重くなりすぎて持久力に影響が出てしまう。


 それに腕や脚が太すぎるせいで可動域が制限されて柔軟性にも問題がある。


 力は強いかもしれないがそれだけ。



 総合的に見て平均以下の強さしか持ち合わせていないだろうという結論に辿り着いてしまう。



(ただただ弱すぎる)


 そんな大仰に話す二人組を見て深いため息を漏らすバードゥだった。



 ◆



「占い師ってああいうのが普通なのか……?」


 俺はそんな呟きを漏らしながら腹ごなしに船内を歩いていた。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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