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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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17 船員は見回りを完遂する

 

 出航して一日目の夜が訪れ、船内も静けさに包まれつつある頃。



 大半の店舗エリアは営業を終えて閉店し、乗客もそれぞれの部屋で休みはじめる。



 そんな時間に見回りを続ける船員の姿があった。


 船員は人がいないエリアの施錠を確認するために巡回中だった。


 いつも通り、決められた順番に回って扉が閉まっている事を確認すると次へ移動する。



 そして多目的ホールの前に訪れ、違和感に気付く。


 多目的ホールにはなぜか明かりが灯っていたのだ。



(こんな時間に……、一体誰が……)


 多目的ホールは一日に数回、乗客同士の交流を図るオリエンテーションで使う以外は基本施錠されているスペースだ。


 それは多目的ホールという名ではあるが本来の目的は避難場所であり、有事に備えて空間を空けておく必要があるためだ。


 そんな場所が夜中に開いている。



 普段なら有り得ないことに船員の首筋にじっとりと汗が滲む。


 船員は緊張しながら足音を立てないようにゆっくりと歩き、壁に背を預けると恐る恐る中を覗きこんだ――。そして安堵する。


 ほっとして笑顔になった船員は中にいる者へ声をかけた。



「まだいらしたんですか? そろそろ夜も遅いですし、申し訳ありませんが退去していただけませんか」


 多目的ホールの中にいたのは酔い止めの体操をする者達だった。



 こんなに遅い時間なのにホールの中央で数人が熱心に体操を続けている。


 事前に説明を受けていたため、船員はその事にすぐ気付いたがさすがにもう夜も遅い。


 ここは一旦解散してもらおうと声をかけた。



「おっと、もうそんな時間でしたか。皆さん! 今日はもう終わりにしましょう。体調が優れない方は明朝改めてお越しください!」


 船員の言葉を受け、その場を取り仕切っていた中年男性が声を張って周りに呼びかける。


 すると、その言葉に従って皆ぞろぞろと退去をはじめた。



「ありがとうございました!」

「いやぁ、とても楽になりましたよ」


 体操を終えた乗客が中年男性にお礼を言いながらその場から去っていく。



「いえいえ、はじめての船旅だとつらいですからね」


 出入り口で客室へと帰って行く乗客を見送る中年男性は笑顔で応える。


 そんな光景を見て船員も自然と笑顔になってしまう。



「中にもう誰もいませんね? では閉めますよ」


 船員は室内に誰もいなくなったのを確認し、念のために声をかけてから施錠する。


 そんな戸締りの確認を終えた船員へと中年男性が近付き頭を下げてきた。



「申し訳ありませんでした。明日はもう少し時間に気をつけますよ」

「いえいえ。もし、まずいようでしたら今回のようにこちらからも声をかけさせていただきますのであまり気にしないで下さい。医務室の皆も助かっていると言っていましたので」


 そんな頭を下げる中年男性に船員は恐縮仕切りで説明する。


 実際ここで船酔い緩和の体操講座をやってくれたお陰で普段に比べると医務室へ訪れる者が格段に少ないのだ。


「そうでしたか、お力になれたようで良かったです。では私はこれで」

「遅くまでご苦労様でした」


 中年男性は船員に軽く頭を下げるとその場を去った。


 船員はそんな中年男性の背を見送ると巡回作業へと戻るのだった。



 ◆



 船員に挨拶を済ませた中年男性は多目的ホールから離れ、背後をちらちらと確認しながら上甲板へ通じる通路へと出た。


 中年男性はそこで立ち止まると海の方へと視線を向けた。


 手すりにもたれながら夜の海を眺めていると、どこからともなく一人の男が隣に現れる。



 中年男性の隣に立った男は何の変哲もない服装をした何の特徴も無いただの旅行客に見えた。家族で船旅を楽しんでいると言えば確実に信じられる外見だ。


 そんな男が隣に現れたのを確認すると中年男性はまるで独り言でも呟くように話す。



「今日で多目的ホールの設置作業は完了しました」

「ご苦労。他は?」


 隣に立つ男が聞き返す。



「劇場とダンスホール、そして船首が終わりました。他はまだ……」


 中年男性の報告は段々尻すぼみになり、最後は消え入るように呟く。



「だろうな。だが船首が終わったのは良いことだ。皆も喜ぶだろう」


 だが、その報告を聞いていた男はとても満足気な表情で頷いた。


 どうやら中年男性がかなり高い目標を設定していただけで、男にとっては充分な結果だったようだ。


「ありがとうございます!」


 そんな男のねぎらいの言葉を聞き、喜ぶ中年男性。



「できれば人が多いフィットエネスエリアと飲食店にも設置したいのだが、できそうか?」

「外から中が見えますし劇場のように暗くないので……。客のフリをして大半の席を埋めればなんとか……」


 男は中年男性の成果に満足しつつも新たな注文を出してくる。


 しかし、その依頼は中年男性にとってかなり難しいものだった。


 それでも何とか実現しようと案を練る。



「バレてしまっては意味がないし、他の場所まで怪しまれることになってしまう……」


 中年男性の言葉を聞き、思案顔になる男。


 男の顔を覗き込んだ中年男性も無理をして折角うまくいった他の場所に影響が出るのはよろしくないなと考えた。


「どうされますか?」


 男に再度確認をとる中年男性。


「まだ日程には余裕があるし、一応人を集めて出来るか試してみてくれ。無理そうならしなくても構わない」


 男は思案顔で試すだけ試してくれと中年男性に頼んだ。


 ただ、難しそうなら無理をしなくともよいと注文を付け加える。



「はっ!」


 その言葉を聞き、切れ味の良い返事を返す中年男性。


「今回の仕事、ご苦労だった。皆にもうまくいったと伝えておく。今日はゆっくり休んでくれ」

「もったいないお言葉! 次も成功させてみせます!」



 快活な返事をした中年男性は両手をチョキにして目元に当てる。


 それに応えるように隣の男も両手をチョキにして目元に当て笑顔を見せる。



 二人の顔は真剣そのもので、いい歳した大人が夜中にふざけあっているというわけではなさそうだった。



 ◆



 ちょっと飲みすぎたせいで寝すぎてしまった俺は少し遅めに起床した。



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