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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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15 ゾックは決定する

 

「お頭はどう言ってるんですか?」


 むくつけき男達の集団の先頭にいたひょろ長い男が一歩前に踏み出し、眼前にいるゾックへ問いかけてくる。


「……三日後だそうだ。俺は遅いと思うんだよな……」



 ゾックは話し合いの結果を皆に報告する。


 それと同時に心の中で考えていたこともつい口に出して言ってしまう。


 しまったと思いつつも、この悪癖だけは直りそうにないなと頭をボリボリと掻く。



「もう無視してやっちゃいましょうよ!」


「そうだそうだ!」


 ゾックの報告を聞いた他の者達から声が上がる。


 荒っぽく短慮な手下達は待つことに意味を見出せず、たった一日で我慢の限界に到達しつつあった。



「だが、準備もある。お頭の言うことも最もなんだ。……つってもこの船の規模なら範囲を狭めても充分金は手に入るんだよな……」


 ゾックは自身が受けた説明を皆にも話す。


 だが悪癖が抜けず、必要のない感想を無意識に付け足してしまう。


 そんな感想を付ければ当然火に油を注ぐようなもので眼前の手下達が際限なく騒ぎ出す。



「俺達だけでやりましょう!」

「だな! やることやってさっさと帰りましょうぜ!」


 さっさと取るもの取ってさっさと帰りたいと騒ぎ出す。


 そんな提案にすべての者が首を深く縦に振る。



「まあ、お頭の側は数人しかいねえし、大半をしきってるのは俺だからなぁ……」


 強いやる気を見せる者達の姿を前に、頭ごなしに鎮めていいものかとゾックも迷う。ここまで士気が高まっているなら勢いに任せてやってしまうべきではないだろうか、と。



 そしてゾックにはそれができる。


 基本的に手下の大半をまとめているのは他ならぬゾックだからだ。



 お頭と呼ばれる男は少数で行動し、指示を出すのみ。


 仲間の大半がこちらにいる今の状況なら、命令を無視して決行しても大した問題も起こらない。



「行きましょうぜ、ゾックの兄貴!」

「だよな! 俺らなら行けるって!」


 ゾックの揺らぎを鋭敏に感じ取った手下達はやってしまおうと声を上げる。


 その騒ぎはどんどん膨れ上がり、治まる気配がなかった。



「静まれ! ……ちょっと考えるから少し待て」


 たまりかねたゾックが声を張り、皆を押さえ込む。



 腕を組みなおしたゾックはそっとまぶたを閉じる。



 ここまでの状態になってしまって果たして三日後まで待てるだろうか。


 多分それは難しいと判断する。



 この血気盛んな奴らが三日も我慢できるはずもなく、きっとそれまでにこの内の誰かが早まった行動を起こしてしまうはずだ。



 ――もうやるしかない。


 そう考えるまでに数秒とかからなかった。


 そうなると後はどうやるか、ということになってくる。


(もし早めるとしてどこを狙うかってことだが……)



 押さえ込むより気持ちが頂点にある今のうちに方向を定めて誘導した方がいいと判断したゾックは矛先をどこへ向けるかを考えはじめる。



(カジノは警備が厳重だろうし、客室はそれぞれ施錠されている)



 まず、一番得物がデカいのはカジノだろうと考える。



 だが得物がデカければ警備も厳重になる。


 逆に警備が薄く抵抗されにくいのは客室になる。


 だが、客室はそれぞれ施錠されている場所を回らなければならないので時間が掛かりすぎる。



(劇場は封鎖しやすいだろうが位置関係的に脱出が面倒だ)



 一度にまとめて襲うなら劇場も悪くない。


 しかし劇場は船体上部建物にはなく、船体底部にあった。


 そのため逃亡のことを考えると、脱出経路が限られているのがいささか厄介だ。



(となると上部建物にある飲食店の方がいいか……)


 ゾックは色々考えた末、レストランエリアに狙いを定めた。



 階下に通じる逃走経路が多数あり、店舗が複数。


 そして利用する客は必ず財布を持っている。


 事を起こすのに適した条件を充分備えているだろう。



「あ、兄貴?」


 ゴクリ、と手下の唾を飲み込む音が静まり返ったその場に響く。


「よし、決めたぞ! 明日レストランエリアをやる!」


 ――イヤッホゥゥ

 ――そうこなくちゃッ!

 ――さすが兄貴だぜええええっ!

 ――ウオオオオオッ!


 熱狂した手下たちの声が意図せず船内に木霊してしまう。


「おい! 黙れ!」


 ゾックは慌てて静まるように手で合図を送った。



「まず今夜、お頭たちを黙らせる。やりはじめた後に妙な事されても困るからな……」


「え……、お頭たちをですかい?」


 ゾックの発言に驚きの表情を見せるひょろ長い男。



「こうなってくると邪魔だ、仕方ねえだろ。それとも明日にするのを止めるか?」


 ゾックは自分達の行動を阻害する者はなるべく排除しようと考えた。


 その相手がお頭でもしょうがない。



 意見が分かれた時点でこういう荒事に発展するのは自分達の間では珍しい話ではない。


 そういう意味ではお頭の判断が甘かっただけの話だ。



 だが手下達が反対するのならお頭の言う通り、じっと待つしかないだろうと問いかける。


 ――やっちまえ!

 ――俺は兄貴についていくぜ!

 ――もう待てねえ!


 結局帰ってきた返事はゾックの意見に賛成の声しかなかった。


 やはり自分同様に短気である目の前の連中はたった一日で限界に到達していたのだ。


「よし! やるぞ、てめら! 俺の話を聞け!」


 ならば話は早いとゾックは手下達を黙らせ、計画の詳細を話していく。



「ます今夜の内にお頭達を仕留める。ただ船を襲うのは明日になるから死体は客室にでも隠す必要が出てくる。明日までバレないようにしないとまずいからここだけは慎重に行くぞ」


 ゾックの言葉に手下達が静かに首を縦に振り、次の言葉を待つ。



「そして明日だ。まず、警備を減らすためにレストランエリアから一番距離が離れている機関室を襲え! その後、動力炉を破壊しろ! 火災を起こせるなら尚良しだ! それと同時に俺らが店を襲う! 機関室に行った船員がレストランエリアに来るにはかなり時間がかかるはずだからその間にトンズラするぞ! 機関室の奴らは事が済んだら上甲板へ上がって救命ボートを準備しておけ! いいかテメエら気合いれろ!」



 ――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!


(声がでけえよ……)


 再び上がる巨大な歓声を正面から受けたゾックは船員にこの騒ぎが気づかれてしまうのではと煽ったことを後悔するのだった。





 ◆



「クソッ! あの女、一体どこに……」


 客室のあるフロアを何度も周回したイハタクは苛立ちをぶつけるように吐き捨てた。



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