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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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11 ミゴは真っ赤な糸に導かれる

 

「大分楽になりましたし、少し胃に物を入れましょうか……」


 限界まで体力を消耗し、まともに歩けなかったミゴだったが部屋で少し休んだおかげで体調が快方に向かっていた。



 ただ、いくら体調が回復しようとも空腹は収まらない。



 そのため軽く軽食でも取ろうと部屋を出てレストランエリアへと向かうことにする。


 残念ながら部屋へ案内してくれた同胞は一人の方が休めるだろうと自室へ帰ってしまったため、自力で何とかするしかない状況である。



 だが、いくら体調が良くなったとはいえ三日間不眠で祈祷を行っていたため、歩けば結局よろめいてしまう。


 それでもミゴは通路の壁に手をつきながら、一歩ずつゆっくりと前進を続ける。


 そんなミゴの前に難所が訪れた。


 十字路だ。



 最短距離を進むなら一旦壁から手を放して歩かねばならず、壁に手をついたままなら大回りをしなくてはならない。


 当然船内の散歩を楽しむ体力など残されていないミゴは決死の思いで壁から手を放し、十字路へと踏み出した。



 だがやはり、支えもなく歩く体力はなく、結局ふらついてしまう。


 壁という支えを失い、危うく倒れそうになる。


 そんな予測しづらい動きを繰り返したせいか、丁度同じように十字路に差し掛かった男と接触しそうになる。


「う、うわあぁっ!」


 焦った男は咄嗟にミゴを突き飛ばしてしまった。


 抵抗する力もなく、声も発することもできずに押されるままに反対方向へと吹き飛ぶミゴ。



 更にそこへミゴの正面と背後から通り過ぎようとしていた男女が巻き込まれることとなってしまう。ミゴを挟んで前後にいた男と女はそれぞれかなり急いでいたようだった。


 そのため、ふらつくミゴが邪魔で避けて追い抜こうとしていたのだ。



 そこへ突き飛ばされたミゴが凄まじい速度で振り子のように戻ってきてしまう。



 そんな人間振り子になったミゴを避けようと男女は更に大きく踏み出す。そしてミゴを避けた瞬間、それぞれが正面から現れた者に気付く。


 気付いたときには既に遅く、二人は勢い余って正面衝突し、床へ投げ出されるように倒れてしまう。



 ミゴが死角になっていたため男女はお互い気付いておらず、正面衝突した後も何にぶつかったかはっきり分かっていない様子だった。


 そんな大惨事に発展してしまい、ミゴを突き飛ばした男は関わりたくないと思ったのか逃げ出してしまう。


 残された三人はしばらく倒れたままだった。



 はじめに起き上がったのはミゴを避けて倒れた女だった。


 切れ長の鋭い眼が印象的な女はぶつかった衝撃で落としてしまった自分のトランクを拾い上げると、そそくさとその場を立ち去ってしまう。


 次にに起き上がったのは正面衝突したオールバックの男で、彼もまた自身のトランクを拾い上げるとミゴには目もくれずに立ち去ってしまった。


 数瞬の出来事の後、取り残されたのはミゴ一人となってしまう。


「……ハァハァ……」


 取り残されたミゴは何とか力を振り絞って四つん這いになり、壁まで這って歩く。



 そして壁を支えに起き上がろうとしたその瞬間――。


「うおぅっ、またあんたかよ。大丈夫か?」


 ――声をかけられる。



 重い頭を上げて声をかけてきた方を見れば乗船時に介抱してくれた男が驚きの表情で駆け寄って来るところだった。


「立てるか?」


 男はミゴの腕を掴むとすっと引き上げ、両肩に触れて支えてくれる。


「あ」


「おっと」


 まだしっかりと立てないミゴはバランスを崩して男の胸に体を預ける形となってしまう。


 意外にしっかりとした胸板を支えになんとか顔を上げると心配そうな表情をする男の顔が間近にあった。



 二度も自身の窮地に現れ、手を差し伸べてくれる存在。


 そんな男の顔がミゴには輝いて見えた。



(この場所、この時、ということを考えればこれは運命なのかもしれません)


 男を見つめるミゴの瞳に熱がこもる。


 高鳴る鼓動を落ち着かせようと胸に手を当てながら口を開く。



「あの……、二度も助けていただき……、ありがとう、ございました」


 ミゴは言葉に詰まりながらも男の顔をじっと見つめて礼を告げる。



「ま、まあ、困ってる人がいたら普通でしょ」


 男は照れ隠しに頭をかきながら視線をそらす。



「良ければお礼にお食事でもどうですか?」


 この広い船内で短い間に二度も会えてしまっただけでも奇跡と言えるが三度会えるとも限らない。そう考えたミゴはもっと男のことを知ろうと食事に誘った。



「お、いいですね。でも部屋で休まなくて大丈夫ですか?」


 男は誘いに乗り気ではあったが、尚もミゴの身を案じてくれる。



「……そうですね。では明日のお昼でどうでしょうか? その頃にはずっと楽になっていると思います」


 そこでミゴは食事の約束を明日に変更して再度誘ってみる。



 男に心配をかけながら食事をしても仕方が無い。


 何より断食明けの今の状態ではミゴが食べられる物といえば、せいぜい粥やスープがいいところだ。



 男も自分がそんな物を朦朧としながら食べている前では思い切り食べることも出来ないだろう。ミゴはそう考え、食事の約束を明日に延ばした。


「ん、そうしましょうか。俺はケンタ、冒険者です」


 どこか飄々とした印象がある男はミゴの提案に同意し、笑顔を見せながら自己紹介してくれる。


 男の名前はケンタというらしかった。



「私はミゴ。巫女をやっております。食事はレストランエリアのオーシャンブルーという店に十二時でいかがでしょうか」


 ミゴはケンタの胸の中で上気した頬を隠そうと俯きがちになりながら自己紹介と明日の予定を提案する。


「分かりました、ではその時に。部屋まで送りますよ」


「いえ、大丈夫です。それに軽食を取ろうとレストランエリアへ向かう途中だったのですよ」


 ケンタは快諾し、部屋まで送ってくれるというが、事情を説明し送迎を断った。



「そうでしたか。なら送りますよ」


 それならレストランエリアまで送ると言ってくれるケンタ。



「すみません。明日にはちゃんと食べれるようになっていますので」


 そんなケンタに体を預けながらゆっくりと歩くミゴ。


 二人でぎこちなく歩くも、しばらくするとレストランエリアに到着する。



「いえ、無理しなくてもいいですよ。帰りは大丈夫ですか?」


 店の前で心配そうな表情をして聞いてくるケンタ。



「この店でしっかり休んでから移動することにします」

「ん〜、残りますよ。帰りも送ります」

「いえ、そこまでしていただくとさすがに申し訳ないです。大丈夫ですので」


 その気持ちは嬉しかったが休めばなんとかなると判断したミゴはその申し出を断る。


 そこまでしてもらうのはさすがに気が引けるというのもあった。



「わかりました。駄目そうだったら従業員にでも言ってくださいね」

「そうですね。そうします」


「んじゃ、俺はこれで」

「はい、わざわざありがとうございました。それではまた明日」

「また明日」


 いつまでも店の前で見送ってくれるケンタを背にミゴはおぼつかない足取りで店内へとゆっくり歩を進める。


(明日がとても楽しみになってしまいました……)


 ふらつきながらも頬を染めるミゴの頭の中は明日の昼食のことで一杯になっていた。



 ◆



「ついてるわ〜」


 俺は船内を歩きながら自然とそんな台詞を呟いていた。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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