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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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8 レジスは二度接触する


「確かサイヨウ国だったか……」


 男は自室の窓から海しか見えない景色を眺めていた。


 ここまでくれば大丈夫だろうと、くたびれた服を正し深い息を吐く。



 男の名はレジス、逃亡者だ。


 ある日、レジスは衝撃的な光景を見た。



 それはある女性の演説だった。


 その内容はレジスの胸を打つもので、その女性に是非とも協力したいと思った。


 だが、女性はあまりに派手な行動を取り過ぎたため追われる身となってしまう。


 そして女性の消息は途絶え、レジスの願いは潰えてしまった。



 だが、レジスはそこで止まらなかった。



 女性の代わりに自分が後を継ごうと決心する。


 そこからの行動は早かった。


 仲間を集い、活動を開始する。



 民の自由を勝ち取るために支配者の命を奪う。


 そして民自身の手で新たな代表を決める。


 その思いを胸に仲間たちと固い誓いを結び、行動をはじめる。



 といっても仲間は少人数、結果が出せるようになるのはずっと先になるだろうと思っていた。



 そんな時、レジスの元に訪問者が現れる。


 その者はどこから聞きつけたのか、レジスの活動を知っていた。


 密告されることを恐れ、身を強張らせるレジスだったが、その者は予想外のことを口にした。


 なんとレジスの行動に感銘を受け、是非援助したいと思っている者の使いだと言う。



 そんな都合の良い話など有り得ないと思うのが普通だが現状人員の確保以外全く成果が出ておらず、若干手詰まりを感じていたレジス達にとって、その者の言葉は暗闇を灯す明かりのように明確な道しるべとなってしまう。


 男は事あるごとにレジスの迷いや悩みを素早く察知し、適切な助言や資金提供を惜しみなく行ってきた。そんな関係にレジスも心を許し、共に活動することを受け入れはじめる。



 といっても男の言葉は指示や方向性を固定するものではなく、あくまで提案。


 発想の幅を広げるものだった。


 そういうこともあって、レジス達は警戒心もなく受け入れてしまったのかもしれない。



 はじめは各地での宣教、秘密集会。


 同じ思想を持つ者を見つけ出し、人員をひたすら増やしていく。


 数が潤沢になってきたら今度は積極的な活動へと移行する。



 はじめて行った具体的な活動は地方の軍への襲撃だった。


 とにかく相手の戦力をじわじわと減らしていく作戦だ。



 特にこの辺りは男の言葉が参考になった。


 もしレジス達だけで考えていたなら大人数で一気に王都へ押しかけていただろう。


 だがそれをすれば先の女性の二の舞になってしまう。


 だから、慎重に。


 確実に。



 作戦は順調だった。


 だが、あるときを境に水袋に穴が開いたように凄まじい勢いで決壊してしまう。



 きっかけはほんの些細な出来事だったがそれにより潜伏場所がばれてしまい、襲撃を受けたのだ。必至に抵抗を重ねるもことごとく逃走先に先回りされる始末。


 結局決壊を治めることは叶わず、追い詰められてしまう。



 そんな時、手を差し伸べてくれたのも件の援助者だ。


 何も言わずに全員の逃走資金と経路を確保してくれたのだった。


 これで何とか体勢を立て直せると喜んだが、逃走に失敗し自分以外は捕まってしまった。



 よもやここまで大失敗になるとは思っていなかったが、なってしまったものはしょうがない。レジスは組織の代表として最後まで闘うつもりだったがその前に援助者に会い、一言礼が言いたかった。



 一人で続行すれば死は確実。


 ならその前に一目会って礼が言いたかったのだ。


 その旨は向こうにも伝わっているらしく、サイヨウ国で待ってくれているらしい。



 その人に会うためにはここで捕まるわけにはいかない。


 移動中のシュッラーノ国内でも何度も捕まりそうになるも必至で逃げた。


 そしてやっとの思いでこの船に乗る。



 この船に乗っていればいずれサイヨウ国に着くが、それまでの間できれば目立ちたくない。



 それはシュッラーノ国内まで追って来ていた追跡者がこの船に乗っている可能性を否定できないからだ。まさかとは思うが、あいつらは異常にしつこかったのも事実。


 そのためレジスはなるべく部屋から出ないようにしていたが空腹だけはどうしようもなかった。逃走中もあまり食べていなかったので限界が近かったのだ。


「ずっと閉じこもっていたいのに……」


 この船に一つだけ欠点を上げるとすればルームサービスがないことだ。


 何故かは知らないがこの船は部屋での飲食を禁じているため、食事をするためには一旦外に出る必要がある。



 すぐ食べてまた戻ればいいと考えたレジスは自室を出てレストランエリアへ向かうことにする。できれば食料を多い目に持ち込んで部屋から出ないのが一番だったのだが追っ手がしつこく、身一つで逃げるのが精一杯だったためにそれは叶わなかった。



 さっさと食べてさっさと帰る。


 頭にあるのはその事だけだった。



 そんな事を考えながらレジスが通路を進んで十字路に差し掛かると急に女が飛び出してきた。



「う、うわぁっ!」


 驚いたレジスは女を力任せに突き飛ばしてしまう。



 そして突き飛ばした後で気付く。



 こいつはさっきもふらついてぶつかってきた女だ、と。


 そう、レジスは乗船時にも全く同じ女にぶつかられたのだ。



 よもやスリの類ではないだろうなと懐を確認するも財布は無事だった。


 財布が無事だったことに胸を撫で下ろしていると更に声が上がる。



「ああっ!」

「うわっ!」


 何ごとかと思えばレジスがふらつく女を突き飛ばしたせいでそれを避けようとしていた男女が衝突し、倒れてしまったのだ。


(め、面倒なことに……)


 あまり騒ぎを起こしたくないレジスは倒れた女と衝突した男女を見捨てて、そのままレストランエリアへと向かうのだった。


 早足で逃げるレジスの後ろでは衝突した男女がフラフラと立ち上がろうとしていた。


 誰も怪我人がいないことを確認し、少し罪悪感が和らいだレジスは早足でその場を去った。



 ◆



(こういう時、腹が減るというのは不便だな……)


 イハタクはそんな事を思いながら自室を目指して早足で歩く。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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