7 ジャスティスマスクZは見抜かれる
自分を巻き込んで発生した口論に仲裁が入り、無事何事も無く解決して皆が散り散りになっていく中、ジャスティスマスクZは仲間の二人が駆け出していくのをぼんやり眺めてしまっていた。
一拍置いて、自分が置いていかれていることに気づいた彼は慌てて口を開く。
「ふ、二人とも!」
ジャスティスマスクXとYが急に駆け出してしまったため、出遅れてしまうジャスティスマスクZ。後を追おうと一歩踏み出した瞬間、声をかけられる。
「まあ、アンタら全員相当強いんだから、面取ってどっしり構えてりゃいいんだよ」
「目立つのは良くないですよ? ではでは」
喧嘩を仲裁してくれた老婆と長身猫背の男はジャスティスマスクZにそんな言葉を残し、その場を立ち去るべく踵を返した。
「仲裁、感謝する。お騒がせして申し訳ない」
そんな立ち去る二人の背に改めて礼を言うジャスティスマスクZ。
今はいないXとYの分まで深々と頭を下げる。
そんな彼の礼に長身猫背の男は笑顔を、老婆は背を向けたまま手をヒラヒラと振って応え、去って行った。
(私も部屋へ向かうか)
顔を上げたジャスティスマスクZは先に客室へと向かってしまった二人を追うため、その場から移動しようとする。しかし、客室がある方へ向きを変え一歩踏み出そうとした瞬間に背後から声をかけられてしまう。
「ちょっと、そこのお兄さん」
「私のことか?」
ジャスティスマスクZが振り向くと、そこには青みがかった白髪に褐色肌の女が立っていた。女はこちらの警戒を解くような軽快な笑顔を向けながら、ジャスティスマスクZの方へと歩み寄る。
「そうそう自分や」
「何か用かな?」
どうやら自分に用があるのだと立ち止まって女が近付くのを待つ。
意図せずとも騒ぎを起こしてしまったし、それに関することだろうか、などと考えを巡らせる。
「お兄さん悩んでるやろ?」
「っ!? なぜそれを!」
だが女が次に投げ掛けてきた言葉はジャスティスマスクZの予想とは違うものだった。
いきなり確信を突かれるようなことを言われ、うろたえてしまう。
「うち、こう見えて占い師やねん。商売柄そういう人を見つけるの大得意なんよ」
「な、なるほど。だが心配無用だ、自力で解決してみせる」
どうやら女は占い師らしく、悩みを持った者を見つけるのが得意だと言う。
その言葉を聞いたジャスティスマスクZは数瞬前の動揺が嘘のように平静さを取り戻した。
要はこの女は仕事がしたいのだ、と。
占いで悩みを解決してやる代わりに金を寄越せと持ちかけてきたのだと分かったため、動揺と疑問が解消され、落ち着きを取り戻す。
そうなるとそんなものに頼らなくとも自力でなんとかなるということを訴え、営業を払いのけようと試みる。
「あら〜、折角いいお客さんが見つかったと思ったのに。残念やわ」
女はジャスティスマスクZの断りの言葉を聞いてもさして残念そうには見えない笑顔で残念だと言う。
「うむ、答えはほぼ出ているんだ。すまんな」
妙な隙を作って金を取られてはたまらないと考えたジャスティスマスクZはなるべく簡潔に話を進めていく。
「そっかぁ、ならええわ。答えが出ているなら占いようもないしね」
「すまんな。では失礼する」
ジャスティスマスクZは女が諦めたかのような返答をしたのを見逃さず、素早く返事を返すと客室の方へ向けて歩き出した。
「いつでもご利用をお待ちしとるでぇ」
「その時があればよろしく頼む」
陽気で軽い女の声を背で受けながらジャスティスマスクZは足早にその場を去るのだった。
◆
品定めのために声をかけた相手の背を見送りながらバードゥは呟く。
「……ん〜、悩みも自力で解決する上に、色男。そして強い。ん〜、ん〜、ちょっと違うねんなぁ。完璧すぎるっていうか……。うちの求めてるのと微妙になぁ……」
立ち去る仮面の男の背を凝視しながらバードゥは腕を組んで悩ましげな声を出す。
幸か不幸か仮面の男はバードゥの眼鏡に適わなかったようだ。
「しっかし、今ここにおったん全員めちゃ強かったなぁ」
バードゥはふぅっ、と大きく息を吐き、少し前にこの場で揉めていた者達を思い出し、感嘆の声を漏らした。
(ん〜、悪くはなかってんなぁ。キープかなぁ……)
腕を組むと自然と胸部を強調したかのようになるバードゥは色香が溢れるため息を漏らしながらもその場で迷い続けた。
「おい、あまり派手に動くな」
腕組みし、悩むバードゥの後ろから男の声が聞こえてくる。
「全然派手じゃないやん」
バードゥは振り返りながら声の主へと視線を送る。
振り返った視線の先には四人の男が立っていた。
「我々の目的はカッペイナ国だ。ここでの目立つ行動は極力控えろ」
四人の代表である男がバードゥにきつめの視線を送りながら自重しろと告げる。
「何度も言わんでも分かってるって。大体、あんたらとは仲間とはいえ、組むわけでもないんやから、お互い不干渉を貫けばええだけの話やろ?」
どこか色香が滲む流し目で男達に反論するバードゥ。
実際、船内でも行動を共にしているわけでもないし、そこまで目くじら立てられるのはバードゥにとっては非常に迷惑な話だった。
なにしろ彼女が今行っている事は仕事ともとても繋がりの深い、切っても切れないものなのだから。
(こっちにとってはとっても大事な用なわけやし、邪魔されるのは困るんよねぇ)
と、口には出さずに笑顔を貫くが心中は穏やかではなかった。
「とにかく気をつけろ。今回我々の仕事は主目的から外れているため、人員を確保できなかった。お前のような者の力を借りる程度には、こちらも困っているという事だ。こちらとしてもお前と不仲にはなりたくないが、目に余るようならどうしても言わねばならん。なるべく目を瞑るつもりだから大人しくしていてくれ」
長々と話す代表の男の言葉にはどこか懇願めいたものが感じられた。
後ろに控える三人の男達の顔付きからも困惑しているのが窺い知れる。
「あんたらに迷惑はかけへんから大目に見てや」
バードゥは様になった仕草でウィンクする。そして青みがかった白髪を翻して男達に背を向けると、その場を去った。
◆
「確かサイヨウ国だったか……」
男は自室の窓から海しか見えない景色を眺めていた。
ここまでくれば大丈夫だろうと、くたびれた服を正し深い息を吐く。




