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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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5 ゾックは悪癖を晒す


 船内の一角、人通りが一切無い場所に数十人の男達が一点を見つめていた。


 その視線の先には木箱に腰掛けた男がいた。



 男の名はゾック。強盗である。



 モヒカン刈りの頭髪で薄汚れた革鎧に身を包んだ姿は、他の乗客とは明らかに雰囲気が異なる。なんとも分かり易いくらいに荒っぽさが滲み出た恰好である。



 ゾック達はこの日の為に強盗ならではの方法で金を工面して乗船券を購入したり、券その物を奪ったりして船に乗り込んでいた。


 乗船券を手に入れた手段はともかく、一応乗船手続きに関しては違法性はないので、いくら荒っぽい外見といえども人目を気にする必要はない。



「お頭は何て?」


 ゾックがドスの効いた低い声で目の前にいる集団へ問いかける。



「へい、お頭の話だと三日後に決行するそうです」


 木箱に座るゾックの問いかけに、ひょろ長い男が集団から進み出て説明する。



「三日後だぁ? そんなに船が進んだら戻るのに時間がかかるじゃねぇか。大体ついさっきも馬鹿共が先走りやがったし……」


 ひょろ長い男の説明にゾックは分かりやすいほど顔をしかめた。


 実は出航して間もない時に手下数人が暴挙に出て、倉庫で爆破騒ぎを起こしていたのだ。その手下達は船を大きく揺らす事と引き換えに拘束されてしまった。



 船員達が爆破騒ぎの犯人を取り押さえた事で全て解決したと判断してくれれば問題ないが、他にも仲間がいると勘ぐられてはたまったものではない。



「で、でもお頭が……」

「分かった……。下がっていいぞ」

「へ、へぇ」


 ひょろ長い男が口ごもりながら決行日を決めた者の名を告げ、ゾックを納得させる。


「お頭は慎重すぎる……」


 木箱に座ったゾックは顎に手を当てつつ考えていたことを無意識に口に出してしまう。



 ゾックは考え込むとつい口に出してしまう悪癖があった。


 何度も直せと言われたが、こればっかりは本人の意志でもままならず、難儀している。


「早めるんですかい?」


 それを耳ざとく拾った前列の男が尋ねる。



 ゾックは組織の中では実力もあり、仲間からの信頼も厚い。それはゾックを含めたこの場に居る全員がよく理解していることだ。前列の男は多少の無理なら利く立場にいるゾックなら強引に事を進めてしまうことも可能だと考えたのであろう。



「焦るな。俺がお頭に話をつける。それまで待ってろ! いいか、分かったな!」


 ゾックはそこで自分が思考しながら口に出していたことに気付く。


 周りに良からぬ雰囲気が伝播する前に慌てて強めの口調で皆を大人しくさせる。



 ――そうは言ったものの、ゾックは事を早めるつもりでいた。


 それはゾックの眼前に雁首揃えた者達の気性も考えてのことである。


 こいつらは荒っぽい上に短気だ。三日も待っていたら、じれてどうでもいいところで揉め事を起こすだろうという確信があった。なぜなら彼らを統べるゾック自身が荒っぽい上に短気だったからだ。自分の分身のような存在の目の前の男達のことなら手に取るように分かってしまう。


『アイアイサーッ!』


 ゾックの指示に、了承の返事を声高に叫ぶ手下達。


「明日でも大丈夫だっつうの……」


 またもや考えを無意識に呟いてしまったゾックの声は、仲間たちのざわめきに溶け込んでいく。



 ◆



 ルッスマとトーミは自慢の筋肉が目立つように薄着姿で肩を怒らせながら船内を練り歩いていた。



 そんな二人の姿に人は避け、道を開ける。


 自分達を避ける周囲の反応にたまらない快感を覚える二人は上機嫌だった。



 そんな二人がある一点を見つめてピタリと動きを止める。


「見ろよアイツ。何て恰好してやがるんだ!」

「ああ、恥ずかしくないのかね」


 ルッスマとトーミの視線の先には妙な金属マスクをした三人組がいた。


 マスクは顔全体を覆うもので、素顔は分からない。


 また前面にそれぞれ独特のマークの意匠がベットリとついており、壮絶に目立っていた。



「ああいう恰好をしている奴っていうのは弱いって相場が決まってるんだ」

「だな、ああやって威嚇してビビらせようって腹なんだろうが、それにしたって壊滅的にセンスがないな。ダハハッ」


 ルッスマとトーミはマスクを被った三人組を見ながら持論を展開し、嘲笑を続ける。


 その声量はとても大きく、辺りに響いた。


 元々地声が大きいだけで言いふらす目的があったわけではないのだが、本人の意思とは無関係に同じ効果をもたらしてしまう。



「ガハハッ、だよな? まあ俺はあんな恰好しなくても強いから問題ないけどな」


 と、言いながら自慢げに力コブを作って歯を見せて笑うルッスマ。



「そうだな。俺達コンビに適う奴なんざいねぇぜ。あんな雑魚がちょろちょろしてると目障りでいけねえや」


 ルッスマの力コブに対抗するようにして大胸筋をピクピクと上下させるトーミ。


「違いねえ!」

「ダハハハッ」


 二人はからかう相手を見つけて上機嫌だった。



 ルッスマとトーミは三人組を見て大声で嘲笑を続ける。


 二人は自身の腕に相当自信があり、そのことが更にマスクをした三人組を蔑むことに拍車をかけた。



 そしてそんなルッスマとトーミの大声はマスクを被った三人組の耳にも届いてしまったようで、ピタリと立ち止まってしまう。


 そして三人組の中で一番身長の低い者が二人の方へ振り向くとずかずかと早歩きで向かってきた。



「おいっ、聞き捨てならんな! 貴様たち、誰が弱いって!?」


 二メートル近いルッスマとトーミに比べ、近づいてきたマスクをした者はかなり小柄だった。子供だと説明を受ければ納得する身長である。



 小さな者は腰に手を当てて二人を見上げつつ威嚇する。


 だが、発せられた声音は女性のもので、威嚇したにもかかわらず、なんともかわいらしい雰囲気が漂ってしまう。


 そんな怒れる小さな者のマスクの前面には、Yを思わせる金属のプレートがべっちょりと貼り付いていた。


「止めるんだジャスティスマスクY! ケンカはダメだよ」


 そんな小柄な者、ジャスティスマスクYを制する声が後ろから聞こえてくる。



 どうやら、残された二人の内の一人であるマスクをした中年太りの男が声をかけたようだった。その声はどこか緊張感に欠け、周りの雰囲気を勝手に弛緩させる。


 小柄な者を声で制すると中年太りでふっくらしたお腹を揺すらせながら小走りに近付く。



「す、すみません。ジャスティスマスクX」

「ううん。こういうときはリーダーって言ってね」

「分かりましたっ、リーダー!」


 どうやら中年太りの男はジャスティスマスクXと言うらしかった。


 またジャスティスマスクYとの会話からリーダーを務めていることも分かってしまう。


 正直、その場を行き交う誰もが全く必要としない情報であった。



「なんだ、さっきの威勢の良さはどうしたんだ? ほら、かかってこいよ?」

「ダハハッ、おい、止めとけって。相手は子供だぞ?」


 親子のようなジャスティスマスクYとXの会話を見たルッスマとトーミは、その様が面白かったのか更に挑発を続ける。その言葉を聞いたジャスティスマスクYが勢い良く振り向く。


「なんだと!」

「止めなさい」


「は、はい」

「君たちもあからさまな挑発はやめてくれないかな?」


 が、そこはリーダーであるジャスティスマスクXがしっかりと止める。



 そしてルッスマとトーミにも苦言を呈した。


 その怪しげな外見とは裏腹に、しっかりとしたリーダーぶりを発揮してみせたのだ。


 辺りを行き交う人にとってはどうでもいいことであったが、さすがリーダーである。



「おーおー、デブのリーダーがなんか言ってるぞ?」

「そういう台詞はもうちょっと体を引き締めてから言った方がいいぞ? この俺様みたいにな!」


 だが調子付いた二人はその言葉に従うことはなかった。


 今度は標的をジャスティスマスクXへと代え、その体型をいじりだす。



「な、なんだとぅっ!」


 どうやらジャスティスマスクXに体型のことを突っ込むのはご法度だったらしく、一瞬にして堪忍袋の緒が切れ激高してしまう。


 腰にかけた剣の柄を握り、今にも引き抜かんばかりの勢いで怒り出す。



 明らかにリーダー失格である。


「や、やめて下さいリーダー! 洒落にならないです!」


 そんな状況を見かねて最後のマスクを被った男が走り寄る。


 男は妙なマスクを被っていても、どこからともなく色男の気配を漂わせるという離れ業をやってのけた。そんな男がジャスティスマスクXを背後から羽交い絞めにして行動を制限する。



「は、放してくれたまえジャスティスマスクZ! あいつらブッ殺してやる!」

「何を言っているんですか! ちょっと落ち着いて下さい!」


 乗客が行き交う場で起こった口論は、収まるどころか殺し合いへと発展しそうになってしまう。その原因は挑発したルッスマとトーミにあったがジャスティスマスクXの短気振りにも目を見張るものがあった。


 つまり、どっこいどっこいだったのである。



 ◆



「前来た時と変わらずやっぱり禄でもない国だったよ……」

「そうですねぇ〜。まあ、この船に乗れたのは良かったじゃないですか」


 乗船手続きを終えた老婆と長身猫背の男は客室へと向かおうとラウンジから客室へと向かっていた。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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