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異世界転生したけどヒロインなんていないし、ハーレムとも無縁だぜッ!  作者: 館林利忠
九章 特別篇 ゴウカキャクセイン号にて
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3 ケンタは散策する

 

「おー、デケえ部屋だな……」



 俺はそんな呟きを自然と漏らしてしまう。


 ちょっと早めに乗船手続きをしたせいか、あっという間に客室まで辿り着いた俺はその部屋の大きさに驚きを隠せなかった。



 ミックが取っていた部屋は凄まじいデカさだった。


 このゴウカキャクセイン号は十四階構造で、この部屋はその九階にある。



 十階から上はレストランエリアやフィットネスエリアとなっているので、客室があるエリアでは最上階に鎮座していることになる。



 つまり、スイートルームだ。


 というか、ロイヤルスイートだ。


 だが、一人でこの部屋はデカすぎる……。


 あいつはこの部屋に一人で泊まるつもりだったのだろうか。



(ちょっと気になるけど部屋の内装を見るのは後にして先に船を見て回るか……)


 ここまでゴージャスな部屋だと色々面白そうだが、先に船の中を見て回る事にする。今なら他の乗客は乗船手続きや客室への移動中で、船内を見て回る人は少ないだろうと考えたためだ。


 もう少しすれば他の客も船内を見物しはじめるだろうし、そうなる前に行っておけば混雑も回避できる。



 そう考えた俺は自室に荷物を置くと部屋を出た。


 といっても俺にはアイテムボックスがあるので、鞄の中にはたいしたものなど入っていない。手ぶらでブラブラしていると人目をひくと思って持っていただけだ。


「上からせめるか、下からせめるか……」


 などと考えながら九階を進む。


(一旦下まで行って、上へ向かいながら順に見ていくか)


 展望エリアを人が少ない内に見ようかとも考えたが、楽しみは最後に取っておくことにする。



 というわけで下から順に船内をぶらついてみることに決める。


 俺はレトロな雰囲気漂うエレベーターに乗り込むと四階のボタンを押し、探索を開始した。



「ほっほう」


 四階に到着するとそこはショッピングエリアのようだった。


 乗客用のエレベーターで選択できる最下層は四階だった。


 三階より下は関係者専用のスペースなのだろう。



 ちなみに五階までが船体部分で、六階から十四階までが上部構造物となっている。一応船内での階層の単位はデッキを使うらしいが、どうにもなじみがないのでつい階と表現してしまう。


(普通のショッピングモールだな……)


 エレベーターから降り、広い空間を歩き回ってみると多種多様な店が出店していた。特に土産物屋オンリーというわけではない。そしてフロアの両端に劇場を確認する。今は開いていないが一日に何回かはここでショーがあるのだろう。


「よし、次の階に行ってみるか」


 ざっくり見終わったので早速上の階への階段を上る。一階毎にエレベーターを使っていたら迷惑になるので、ここからは階段でじっくりと見て回ることにする。


「そういやラウンジだった……」


 浮かれて忘れていたが五階はラウンジである。



 今は乗船手続きをしている人たちでごったがえしていた。


 人ごみの中を探索したくなかったのでフロアマップを確認すると、図書館やサロンがここにはあるらしい。


(次、次っと)


 人ごみを避け、さっさと上に上がる。



 ちょっとした吹き抜けになった無駄に長い豪華なデザインの階段を上り、よっこらしょと上を目指す。



 こうやって歩いていると、この船がどれだけ豪華なのかが身に染みて分かる。


 階段もそうだが壁、照明と至る所が凝った作りになっているのだ。



 なんでもない手すりにも細かな彫刻が施され、端部には動物の彫像がセットされている始末。まるで神殿にでも来た気分だ。


 そんな田舎者丸出しの見物スタイルで階段を上っていると六階へと辿り着く。



「ここからは客室なんだな」


 六階からは客室のフロアとなっていた。



 そして五階までが船体部分で、六階からは船体上部構造物になる。


 そのため、六階からはフロア全体の面積が狭くなった。



 といっても船自体が途轍もなくデカいので、船体上部構造物も立派なホテルほどの大きさは充分にある。


「外に出れるかな?」


 俺は客室フロアをつっきるとドアを開けて甲板へと出る。


「おー」


 船首上甲板はかなり広いスペースが空いていた。



 この船、乗り込む前に見た感じだと軽く五百メートルは越えていそうだった。


 だが、船体の上にある建物は船体にぴったりフィットするサイズではなく、少し小振りなためにタンカーの真ん中にちょんとビルが建っているような感じなのだ。



 そんなわけで船首と船尾の上甲板にはかなり広い空間が存在する。前の世界ならそういう空間にヘリポートがあったりするわけだが、この世界なら飛行艇の着陸場所になっていたりするのかもしれない。


「へぇ、ちょっとした球技とかできそうな広さだよな」


 俺は物珍しそうにしながら他の見物客に交じって上甲板を見て回る。



「お、側面も通れるのか」


 甲板部分は船首部分だけ分断されているわけではなく、ぐるりと外周を回れるように広い遊歩道が整備されていた。



 俺はその遊歩道を歩きながら外周を見て回る。


 この感じだと長い船旅で体を動かすためにウォーキングやジョギングができるようにしてあるのかもしれない。


「おー、船がでかいと救命ボートもでかいな」


 遊歩道の上部には水上バスかと見紛うほどの大きさの救命ボートが何艇も吊られていた。


 そんなスペースを抜けると船尾上甲板に到着する。



「こっちも広いのな」


 船尾上甲板もかなりの広さだった。前の世界の感覚だと上甲板のスペースを狭めてびっちり客室を作り、省スペースを実現して回転をあげなければならない強迫感にかられてしまう。だが、そこまでやるとこの世界ではうまく回らないのかもしれない。


(これで一通り見たし、上へ行くか)


 船尾上甲板を見届けると船内へと戻り、階段を使って上へ登る。



 六階から九階までは客室スペースだ。


 六階と七階の救命ボートが設置されている附近以外は全ての客室にベランダがついており、自分の部屋から海を眺めることも可能となっている。


 それぞれのフロアのつき当たりには多目的ホールというものがあったが、今は閉まっていて中を覗けない状態になっていた。そのため、特に見所もなかったので一気に十階を目指す。


「十階は飯エリアなんだな」



 十階に到着すると、そこは飲食店が建ち並ぶエリアだった。


 また、この階は外周を回れる遊歩道があって、そこにオープンカフェを設けてある店もあった。



(この辺はまた後でゆっくり来よう)


 飯エリアは食事時にじっくり見ればいいだろうと判断し、上の階へ上がる。



(十一階は遊戯コーナーなのね)


 十一階はカジノとダンスフロア、それにバーが何軒かあった。


 他のフロアとはデザインも少し変わり、シックでムーディな雰囲気になっていた。



 現在はどこも閉まっていて利用できなかったので素直に上に上がる。


 そして十二階はフィットネスエリア。


 ジョギングコースや体を動かせる設備が一通り揃えてある感じだった。ここは他のフロアよりガラスを多く使ってあり、解放感が演出されていた。


 自然の光が存分に差し込む気持ちの良い空間になっていたが、船に乗ったばかりでいきなりジョギングやウェイトリフティングをするのもどこか違うと思うので、次の階へ向かうことにする。



「お、こういうの見たことあるわ」


 そして十三階はプールとスパエリアになっていた。


 プールの周りはデッキチェアとパラソルが置かれていたりして南国感が演出されていた。


 スパエリアはちょっと覗いてみた感じだと、多種多様な風呂にサウナも完備されているようだ。ここで一汗流した後にビールとか飲んだら最高だろう。



 そして十四階。


「おー、いい眺めだな」


 最上階の十四階は展望エリアとなっていた。


 船体上部構造物は上階に進むにつれ先細りに面積が狭くなる構造をしているせいか、展望エリアはそれほど広いスペースではなかった。そのため、周囲の景色だけでなく船の施設が一望できる。


「いい感じだな」


 全体をざっくりと見物してみた結果、船上生活を飽きさせないような施設が大量にあることが分かった。今から明日以降の船旅が楽しみになってきてしまう。


(一応全部見て周れたし、出航の様子を甲板で見るかな……)


 展望エリアからだとちょっと高さがありすぎて港の様子が分からないし、出航のときは甲板から見たほうがよさそうだなと考え、一旦下に降りることにする。


(まだ時間があるし、サロンでのんびるするか)


 出航までまだ少し時間があったので、ラウンジのサロンで暇を潰そうと考えた俺は五階へと向かった。



 ラウンジまで戻ると乗客の搭乗が終わったのか辺りは閑散としていた。


 きっと手続きを終えた人達は今ごろ客室へと移動して、荷物をほどいたりしているのだろう。



 そんな人がまばらになったフロアでサロンへ向かって歩いていると目の前に倒れている女性を発見する。


 女はかなり苦しそうな表情で起き上がるのも難しそうだったため、俺は自然と駆け寄っていた。



 腕を取って起こしてやると礼を言われてしまう。


 だが女の容態は芳しくなく、歩くのもおぼつかない状態だった。


 部屋まで送ろうかと提案した瞬間に丁度同行者が来てくれたので、その人に引き継いで事なきを得る。



 二人はそのまま客室があるエリアへと移動していった。


 そんな二人の背を見送りながら思う。


 倒れていた女はデカかった。


 ――ぱいぱいが。



 そればっかり見てた。


 できれば介抱という名の密着状態をもう少し維持していたかったが残念だ。



 と、介抱している間に出航の時間が近づいてきたので、六階の甲板へと向かうことにする。俺はおっぱいの余韻に浸りながら、ふらふらと夢見心地に階段を上る。


 そして六階へと到着した途端、どこからともなく聞こえてきた怒鳴り声で現実へと引き戻されてしまう。



「おいっ、聞き捨てならんな! 貴様たち、誰が弱いって!?」



 声のした方を向けば、ちょっとした人垣が出来ていた。



 どうも客室のあるエリアと甲板へ向かう通路の間で揉め事が起きているようだった。


 ちょっと気になるが、面倒事に巻き込まれるのは御免だったので、その場を避けて上甲板を目指すことにする。


 どの道、事が大きくなれば船員が止めに入るだろうし、俺が格好をつけて仲裁に入る意味はない。


「行くか……」


 そう考えた俺は人垣を避けるようにして移動し、上甲板に出る通路へ移動した。


 …………


「映画のワンシーンみたいだな」



 上甲板から港を見下ろせば見送りの人で溢れ、お祭り騒ぎになっていた。


 俺がそんな景色をぼんやり眺めていると、見下ろすこちら側にも人が集まりはじめる。


 そして――。


 ――ボオオウッ。


 大きな汽笛と共に船が出港した。



 船がまだ速度を出していないせいか、少しずつ港が離れていく。


 こういうゆったりした瞬間になんともいえない良い雰囲気を感じてしまう。



「ん〜、いいね」


 俺はのんびりと遠ざかる港の景色を眺めなら潮風を受ける。



 ゴウカキャクセイン号は何事もなく定時に出航を開始した。



 ◆



「後少しだ……。ここまで来たぞ」


 無事乗船し、自分に割り当てられた客室へ入ったヘザーは自然とそう呟いた。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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