表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/401

19 激戦


 こうなったらギリギリまで援護して、あわよくば経験値を少しでも頂いていこう。




 そう決めると俺は弓を射るためのポジションを探す。


 ごついおっさん達はまだ打ち合わせをしているようなので、その間に俺は誰にも気付かれないようにしながら弓を射り易い場所を探して移動する。


 二人の視界にも入りにくく、狙うに丁度いい場所を見つけて立ち止まる。


 まず深呼吸し、足の位置を入念に決める。そして矢を手に取って弓を構え、オーガを見据えると再度深呼吸する。



 俺は矢を番え、狙いを空に向けて限界まで弦を引く。


「フッ」


 息を吐きながら矢を放つと同時に、指の間に二本の矢をそれぞれ挟み、弦を引きながらオーガに向かって駆ける。


 オーガにある程度近づいたら片膝を着き、弓を横に構えて二本の矢の軌道がそれぞれ両膝の裏に当たるように調節し一気に放つ。



 二本の矢は吸い込まれるようにオーガの両膝に刺さる。


 矢が刺さって足をもつれさせ数歩前に進むオーガ。


 そんなふらつくオーガ目掛けてはじめに打った矢が落下。


 しっかりと頭頂部に刺さる。即興で試みたコンビネーションが上手く決まった。


【暗殺術】と【弓術】の合わせ技は上手く機能しているようで矢はしっかり刺さっていることが確認できる。

 だが油断は禁物。そこで気持ちを切らずにすぐに動く。



 俺は素早くオーガから距離を離し、物陰に隠れる。


【暗殺術】の影響で俺の攻撃でもダメージは発生しているようだ。


 だが、オーガは頭に矢を受けたのにも関わらず、命に別状はない。


 オーガはまるでおもちゃの吸盤付きの矢でも外すように頭から矢を引き抜くと、雄叫びをあげながら矢が飛んできた方向へ振り向いた。



 怖い。


 超怖い。


 さっさと隠れておいて良かった。


 咆哮するオーガを見た俺は物陰で縮み上がった。



 その時、こちらへ振り向いた瞬間を狙っていたかのようにごついおっさんの両手剣がオーガの背中目掛けて叩き落される。



「オリャァァア!」


 両手剣は首の付け根に斜めに叩きつけられ、泥沼に沈んでいくような速度でずぶりとめり込む。


 そのまま止まってしまうかと思ったが、そこから速度を増し自分の方へ引き寄せるようにして肩甲骨の辺りで両手剣を抜ききる。


 ごついおっさんの重い一撃を受けてオーガがぐらついた。


 それを見たごついおっさんは素早く横に飛びながら叫ぶ。


「今だ!」


 そう叫んだ先には老人が大量の炎の矢をその場に漂わせ構えていた。



「フレイムアロー!」


 大量の炎の矢が一斉にオーガに向かって飛んでいく。


 刺さった矢は小規模な爆発を起こして消えていく。


 無数の爆発と激しい音、そして肉が焦げて立ちのぼった煙により、視界が遮られる。


(おお、あれが魔法か。俺も使いてぇ)


 はじめて見た魔法に興奮するも、ステータスの魔力0という数値が、君が魔法を使うのは無理じゃないかな? と俺に語りかけてくる気がする。


「……やったか?」


 起き上がりながらオーガの方を見るごついおっさん。



「ハァハァ……、もう撃てんぞ……」


 両手で杖に寄りかかり肩で息をし、今にも倒れそうな老人。


 辺りは今までの激しい戦闘がウソのように静かになっていた。


 依然、視界は煙で遮られオーガの様子は窺い知れない。



(この展開でその台詞はフラグだろ……)


 俺も「やったか?」っていうセリフをいつか言ってみたいな、とちょっと憧れていたけど実際の状況は結構きつい。


 そんなどうでもいいことが頭をよぎりつつも、俺は周囲の状況も確認するため、オーガが見下ろせる位置にある建物の屋根に【跳躍】で上った。


 屋根から周りに人がいないのを確認し、オーガの方を見てみる。


「グォオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 その時、激しい咆哮が辺りにこだまする。


 オーガの咆哮により、再び視界を遮っていた全てのものが消し飛ばされる。


(あー……、やっぱり?)


 俺のですよねー、という心のつぶやきが終わると同時にオーガの姿が鮮明に見えるようになっていく。


 オーガは体の至る所が焼け焦げ、落ち窪んだ跡が残っているがまだ動けるようだ。


 弱っているが後一撃が足りないといった印象だ。


 そんな状況で一番はじめに動いたのはごついおっさんだった。



 ごついおっさんが咆哮にも怯まず一気に距離を詰めて両手剣を振るう。


 両手剣はオーガに届かず目の前を通過しただけのように見えたが、そのまま体を捻って剣を一回転させるようにし、肩の側面へ斜めに当てるようにして振り下ろされる。


 オーガは傷が深くて動けないのか、剣をかわすことも防御することもできなかった。


「吹き飛べええぇっ!」


 両手剣は腕の付け根にめり込み、肉や骨をちぎる切断音とともに右腕を叩き落とす。


「オメーは逃げろ!」


 後のことを考えない渾身の一撃だったため、倒れるように姿勢を崩しながら老人に叫ぶごついおっさん。


「馬鹿者! 前を見るんじゃッ!!」


 老人の声も空しく、倒れるごついおっさん目掛けてオーガが動く。


 地面に向かうおっさんの頭をすくい上げるように赤い丸太のような腕が振りぬかれた。


 ごついおっさんは風車のように空中で回転しながら地面に叩きつけられ転がる。



 やはりオーガの動きが重い。


 ごついおっさんも姿勢を崩していなければかわせただろう。


 しかし、かなり深手を負わせているのに当たればただじゃすまない一撃を放ってくる。


「ゴアガアアアアアアアアアアアアッ!」


 怒りをあらわにしたオーガがごついおっさんへボロボロになった体を引きずりながら近づいていく。


 ごついおっさんは意識が朦朧としているのか、その場からまともに動くことができずにいた。


(やべぇ!)


 慌てた俺は屋根から残された矢を続けさまに射る。


 矢は全て命中したが、オーガは止まらない。


「ガアアアアアアッ!」


 怒り狂うオーガは矢を射ったこちらには見向きもせずにごついおっさんへの歩みを止めない。


 そんな状況を見て、固まっていた老人が決死の覚悟で杖を構えて突進していった。


 だが、それはいくらなんでも無謀すぎる。


 矢で大したダメージがでないのに魔法使いの杖攻撃でどうにかなるわけがない。


 老人をなんとかして止めないと無駄死にする。


(くそっ、もう矢がない……)


 矢を全て射ったため、ここからできる事がとっさに思いつかない。



 今から降りても間に合わない。


 いや、飛び降りればなんとかなるがその後どうする?


 俺が迷っている間も時間はどんどん過ぎていく。


(行ってから考えるしかない!)


 そう決断し飛び降りようとしたとき、誰かが老人を追い抜いた。


 その人物は老人を抜いた後も勢いをそのままにオーガに剣を向けて突進していく。



 オーガはごついおっさんに気を取られていたため、その誰かは容易く懐に潜り込むことに成功する。


 そしてそのまま勢いに任せて剣を横っ腹を突き刺し、抉るように正面に回る。


 姿勢を低く突進したので未だ顔がわからないそいつは、突き立てた剣に力を込めてオーガを押し返し、じわじわとごついおっさんから引き離す。


「ギィグアアッ!!」


 痛みにたまらず身をよじり抵抗するオーガ。


 残った左腕を剣を突きたてた者へ振り下ろそうとする。



 そこへ両サイドからさらに二人が剣を持って突進し、オーガへ突き刺した。


 剣三本で突き刺され、たまらず攻撃の手を止めるオーガ。



「腕の借りを返しにきたぜ!」


「「っす!」」


 オーガへ突進したのは片腕を添え木で固定し首から三角巾で吊った兄貴と新人冒険者の二人だった。

 初めの一撃が兄貴で後の挟撃が新人達だ。


「ウゴアアアッ!」


 オーガは悲鳴をあげつつもまだ抵抗しようともがく。


(タフすぎるだろ……)


 オーガの動きは止まっているが、振り回した腕が誰かに当たれば今の状況は崩壊する。


 新人二人に腕をケガした兄貴の三人ではそうなるのも時間の問題だろう。


 だが、オーガの動きは今止まっている。


 三人が抑え込んているため、わずかな時間だろうが止まっている。


 チャンスだ。


 だがチャンスを活かせる人間があの場にはいない。


 ごついおっさんは倒れ、老人は魔力が尽きているから杖で突進したのだろう。


 そんな状況を見た俺は体が自然に動き出す。


(ここは……)


 俺は弓を店に投げ返す。


 そのまま屋根の端により、アイテムボックスから特大の石を出す。


 そして両腕に目一杯力を込めて石を抱える。



「ここは……行くしかないだろっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

   

間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ