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19 鉄拳乱舞





「オラアッ!!」


 口端を吊り上げたドンナが突進し、力任せの拳をミックへ放つ。



「シュッ」


 両腕を曲げて前に出し、顔を防ぐように構えたミックは最小限の首の動きでドンナの拳をいなす。そしてかわし様に左拳を素早く撃ち出した。


「ッラァッ!」


 ドンナはミックが放った左拳に反応し、体を回転させるようにして避ける。


 更にその回転を活かすようにして裏拳を放った。



「フッ」


 拳を引き戻し素早く構えなおしたミックは、ドンナの裏拳を両膝を曲げてまっすぐ腰を落としてやり過ごす。そしてその姿勢から相手の腹目掛けて右拳を撃ち出した。


「ハアアアアアッ!」


 ミックの行動に反応したドンナは何を思ったか、自身の腹目掛けて振るわれた拳を踏みつけ、飛ぶ。その絶大な脚力を活かして空中へと躍り出たドンナは下方に位置するミック目掛けて拳を思い切り振り下ろした。


「シュッ!」


 ミックは空中から拳を振り下ろそうとするドンナを目で追い、上方向に左拳を繰り出す。



 ――ゴインッ!



 まるで凄まじい勢いで金属の塊が衝突したかのような音が辺りに響く。



 轟音が発生した中心ではミックとドンナがお互いの拳をぶつけ合い、静止していた。


 数瞬後、両者の拳は接触したままにドンナが空中から着地する。



「ハハッ、やるじゃねぇかっ!」


「俺の方が強いんだから当然だろ?」



 ミックと拳を突き合わせたまま上機嫌で獰猛な笑みを見せるドンナ。


 そんな挑発してくるドンナへミックは余裕を見せつつ応える。



「寝ぼけたこと言ってるんじゃねぇっ!」


 ドンナは拳を突き合わせた状態から体を捻ると再度裏拳を放つ。



「っと、やるねぇ」


 迫り来る拳を防御姿勢のまま体を倒してかわし、身をかがめた姿勢から全身を捻るようにして右拳を繰り出すミック。


 ドンナの放った裏拳は空を斬るも、そのまま回転の威力を殺さず、今度は反対の拳で屈んだミック目掛けて連続で裏拳を放つ。


 重く鈍い音を立ててミックの右フックとドンナの裏拳が再度ぶつかり合う。



「ククッ、ぶっ潰してやる!」


 そこでドンナは何かを決めたのか足技を使わず、拳のみでの攻撃を再開する。



「おーおー、そんなに張り切らなくてもいいんだぜ?」


 ミックもそれに対応し拳を放つ。



 そこからは目まぐるしいまでの拳の応酬となった。



 ひたすら拳と拳がぶつかり合う音が短い間隔で鳴り響く。


 だがその音は拳同士が衝突しているとは思えないほど重く固い音だった。



 お互いかわすことを止め、自身の拳で相手の拳を相殺するという離れ業で対応し続ける。相手の打撃での防御を上回ろうと、お互いの繰り出す拳の速度が際限なく上昇していく。


 もはや常人の目では到底追うことのできなくなった拳の連打が周囲に小規模な衝撃波を発生させ、周囲の砂を巻き上げる。



「ぶっつぶれろぉおッ!」


「潰れるのはお前だッ!」


 ドンナとミックは高速連打の最中に言葉を交わす。



 お互いまだ言葉から余裕が感じられる状態だったが、このままでは埒が明かない。両者の連打が終わりを見せず、一種のこう着状態となる中、ドンナが先に動きを見せる。



「はっ、冗談! 誰がお前なんかにっ!」


 ドンナが言葉に合わせて、拳での連打の締めに蹴りを放つ。



「っと、足も使えるわけね」


 ミックは放たれた蹴りを危なげなくかわす。


 それを機に拳での相殺合戦が終わり、一旦攻撃の手が止まる。



 二人ともお互いを見据えながら軽く息を整えステップを踏む。



「行くぜぇ……」


 ドンナはニヤリとしながら蹴り技を視野に入れた構えに移行する。


「来な……」


 ミックはガードを固め、ドンナを睨む。



「オラアアッ」


 ドンナは怒声と共に一歩踏み出すと、上段二連蹴りから中段、そして軽く飛んで踵落としを繰り出した。


「フッ」


 ミックはドンナが放った上段蹴りをかがんで避け、すぐさま姿勢を戻す、次に来た中段蹴りは上体を大きく反らしつつ左拳で弾く。そして空中からの踵落としにコンパクトに畳んだ右拳での打ち上げをあわせた。


 ダッキングで蹴りをくぐりつつ間合いの調整、そこからスウェー気味の左パリング、そして最後に右アッパーを繰り出す。


 振り下ろされた足と打ち上げた拳が交差し、ゴツリと重い音を立てる。


「ッラアアァッ!」


 ドンナは打ち合って止まった踵落としをした方の足に体重を預け、空中へ跳ぶようにして、もう片方の足で膝蹴りを撃ち出す。


「フッ」


 ミックはドンナの膝蹴りに対応し、左肘を放つ。


 最短距離で放たれた肘打ちはドンナの側面を捉えた。



「ア?」


 肘うちを受けたドンナの体が空中で傾く。


「シュッ」


 バランスを崩し倒れ行くドンナの頭部へミックの右膝が急接近する。


 それに反応したドンナはなんとか側頭部への接触を避けようと顔をそらすも、完全に避けることは叶わなかった。


 ドンナの視界がミックの膝頭に塞がれたと思った次の瞬間、ゴンッと鈍器で殴られたような音が響く。


 膝を顔の中心で受け止め、軌道を変えながら鼻から血を噴き出して倒れるドンナ。


「シュッ」


 そこへ更にミックの腰の入った右拳が放たれる。



「ダラアッ!」


 が、ドンナはそれを不安定な空中で掴んでガードし、無理矢理地面へ両足をつけた。そして地面に立つと同時に【バット折り】を発動させ、ミックの足を刈り取ろうとする。



 しかしミックはその下段蹴りに反応して、ひょいと軽く飛び越えてみせる。


 そこから着地と同時にドンナの足を踏みつけながら左拳を放つ。


「あ?」


 足を踏まれて咄嗟に身をかわすことができず、顔面でミックの拳を受けてしまうドンナ。



「シュッ、シュッ」


 ミックは、拳を受けて動きが鈍ったドンナの隙を見逃さず、すかさず連携を放った。



 突き出した左拳が戻る前に右拳を連続で放ち、顔面への攻撃に相手の注意が向いたところで締めに全力の中段蹴りを撃ち出す。



「グオァァッ!」


 ワン、ツーと小気味良く拳の二連撃を受けた後、腹部に特大の一撃をもらい、白目をむいて吹き飛ぶドンナ。


 口や鼻から噴き出した血が倒れる軌道に沿って綺麗な弧を描く。


 なんとか吹き飛び様に意識を取り戻し、目を見開くと、もがくようにして身体をばたつかせる。



 深刻なダメージを負ったドンナは着地に失敗し、地面に倒れるも追撃を恐れてすぐさま立ち上がった。


 鼻血を手の甲で拭いながら正面を見れば案の定、両腕で顔を隠すようにした独特の構えのミックが急接近してくるところだった。


「シュシュッ、シュ」


 ふらつくドンナ目掛けて速度重視の左拳が放たれる。



 ドンナは朦朧としながらなんとか引き上げた腕でガードするも、防御姿勢が崩れてしまう。ミックの左拳の余韻が薄れる間もなく、右拳がドンナのガードを割り入るようにして顔へとめり込む。


 そして最後の止めに数瞬前と同様の中段蹴りが放たれた。



 ドンナは同じ展開になるのを防ごうと腕を下ろし、身を屈めて腹部をガードしようとする。



 が、ミックの放った中段蹴りは途中で軌道を変え、まるで首を刈り取るような動作の打ち下ろし上段蹴りへと変化する。



 研ぎ澄まされた刃のような一撃が腹部へガードを集中していたため無防備に晒されたドンナの頭部へと叩き込まれる。


「…………ガアアッ!!」


 視界が霞み、たまらず声を漏らすドンナ。


 だが、ミックの攻撃はそこで終わらなかった。



 ミックは蹴りを終えるとドンナの首を掴み、引き寄せるようにして頭部目掛けて飛び膝蹴りを放ったのだ。意識が混濁状態にあったドンナは成す術もなくその膝を顔面で受ける。



 まぶたや口の中を切り、顔中から血を流しながら力なくふらつくドンナ。


 その瞳には何も写っておらず、完全に意識を失っていた。


 膝から崩れ落ち、仰向けになるように倒れると、そのまま動かなくなってしまう。


「ふぅ」


 ミックは崩れ落ちるドンナを見届けると握りこんだ拳を解いて短く息を吐いた。


 …………


「チッ、負けだ……」


 倒れて数瞬で意識を取り戻すも、まともに動くこともできないドンナは小さくそう呟いた。どうやら最後に貰った連携が相当重かったのか、しばらく立ち上がるのも難しかった。


 ミックは倒れて呆然とするドンナへと近づくと口を開いた。


「お前はここの関係者なのか?」


「違う……」


 結局この女は何をしにきたのか分からず、簡潔に訊ねる。


 打ち合ったときの性格からして素直に答えるだろうという予測をもとに質問すると、返って来た答えはここの関係者ではないというものだった。



 だが、当てずっぽうでここに来たという印象ではなった。何か目的があって来ていたのではと、はじめの会話から予想する。



「ここが何の施設か知っているのか?」


「知るわけないだろうがっ!」


「お前は結局何しにここに来たんだ?」


「人捜しだよ! 悪いか!」


「ならいい。気が済まないかもしれないが、その体じゃ何もできないだろうし、もう帰っていいぞ」


 聞くと女は結局何も知らずにここへ来たことが分かった。


 目的としては人を捜していたらしい。


 その表情や短絡的な性格からしても、嘘をついてるようにも見えない。



 元々ターゲットだった存在でもないうえに、今は要塞の爆発が気になるミックはその女を見逃すことにした。



 もし、殺すとなれば負けを認めていても抵抗してくるだろう。


 そうなってくると、こちらが無駄な怪我を負う危険もある。


 ここの関係者である可能性は薄く、再度戦えば負傷する畏れもある。


 なら、逃がしてしまえばいいと判断する。



(いつまで経っても来ないし、少し探してみるか……)


「じゃあ、俺は行く」


 ミックはドンナに背を向けるとケンタ達を探すため、その場を立ち去った。



「……まただ」


 残されたドンナは仰向けになった姿勢で、爆炎に照らされ夜明けのように薄明るい夜空を見上げながら呟く。夜空を見つめる瞳は焦点が合っているか疑わしいほど波の音にあわせて揺れ続ける。


「………………くそ」


 ボロボロになって倒れ、岸に流れ着いた流木のようになったドンナはいつまでたっても起き上がれなかった。


 ドンナはケンタとの闘いに敗れはしたものの、それは奇襲や不意打ちの色合いが濃く、実力の差からくるものではないと思っていた。だが、今回は違う。



 完全に相手の実力が上だったのだ。今までならそこで奮起するドンナだったが、立て続けに負けが込んでしまい、意気消沈してしまう。


 ドンナはミックに完敗したことが引き金となって、軽い諦めのような感情が自身の心を支配する。


 定まらないうつろな表情を見せるドンナはしばらく夜空を見上げた後、自分が乗ってきた小船に這うようにして乗り込むと島を後にした。





「待ってくれ!」


 レガシーは本調子ではない体に鞭打って走り続け、女の姿が視界に入ると精一杯叫んだ。



 レガシーの声を聞いた女は見晴らしのよい崖に辿り着いたところで立ち止まった。


 だが、女の挙動を見る限り言葉を聞いて立ち止まったというよりはこれ以上追いかけて来られては困るという方がしっくりくるかもしれない。


「…………」


 立ち止まった女は無言でレガシーの方へと振り向く。



 短めの銀髪に薄い褐色の肌、全身を革鎧で覆っているが首から胸元だけは大きく開いており、鎖骨辺りに角を模した刺青があるのがはっきりと分かる。


 ぼんやりとレガシーを見つめるその顔は感情が存在するのか疑わしく感じてしまうほど一切表情が読み取れなかった。


「俺が誰だか分かるか!?」


 施設が爆発炎上する音と断崖に波がぶつかる音に負けないように声を張って女に尋ねるレガシー。



 だが女はそんな必死のレガシーの言葉を無視して剣を抜く。


 虚ろな表情を見せる女は剣を無造作に振り上げると早足でレガシーの方へと歩み寄る。



「聞えないのか!?」


 女は軽く首を傾げるも無言で斬りかかってきた。


 止むを得ず自身の剣を抜いて女の攻撃を受け止めるレガシー。



 剣と剣がぶつかり合う重い音が響く。


 女性特有の線の細い体つきからは想像もできないような一撃がレガシーに伝わる。レガシーは顔をしかめながらもその攻撃を受け止め、精一杯踏ん張りながら再度声をかける。


「おい!」


 だが、レガシーの再三の呼びかけにも女は応じず、ひたすらに握りこんだ剣を押し込んでくる。



 レガシーは改めて剣を振り下ろしてくる女を見つめた。


 その眼球は真っ白で瞳が無い。


 肌は褐色で赤くはなかったが、鎖骨の辺りに角の刺青がある。


 そして呼びかけても反応がなく、生気のないうつろな表情を見せる。



 レガシーはそれらの特徴に思い当たることがあった。


 そう、以前工場で戦った元仲間達だ。


 彼らは言葉も通じず、まるで操られるかのような挙動でこちらへと襲い掛かってきた。


 目の前の女もその状態に酷似している。



「……あいつらと同じってことだよな。クソがぁあああ!!」


 レガシーは力任せに押し込まれる女の剣を跳ね返し、間合いを取る。


 やるしかないと覚悟を決めようとするも、レガシーにその覚悟を決めることはできなかった。女はそんなレガシーの逡巡を見逃さず、再度斬りかかってくる。


「クッ」


 迷いが残るレガシーはその攻撃を受け止めることしか出来なかった。


 魔法を撃てたかもしれないし、相手の攻撃をかわしながら斬りこめたかもしれない。


 だが、迷いが生じた思考では即座に判断ができず、同じように受け止めてしまう。



 しかし、ためらいを感じてしまうのは仕方のないこと。


 本来なら博士の部屋で待つつもりだった人物が眼前の女だからだ。



 つまり眼前で剣を振るってくる虚ろな顔をした女はレガシーの姉だったのだ。


 いや、姉だった女と言うべきだろう。



 もはやレガシーを認識できない女は眼前の驚異に対して殺意を向けるのみの存在となっていた。





「狼人間の方はどうにかなったな……。キラーウルフもあと少しだ」


 俺は混乱が収まりつつある現場を前に呟く。




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