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18 救助2


 旅立ちの朝、川辺でステータス確認をしてみる。


 ケンタ LV4 暗殺者


 力 15

 魔力 0

 体力 6

 すばやさ 16


 暗殺者スキル

  LV1 【暗殺術】

 LV2 【忍び足】

 LV3 【気配遮断】

 LV4 【跳躍】


 狩人スキル(LV4)


 まさかここまで上がらないとは思っていなかった。


 最後の方は意地になってゴブリンを狩りまくっていたが、結局レベルが5になることはなかった。レベルを上げ、オークと戦えるか試してから旅立ちたかったが、ここは仕方ないだろう。


 ここに留まり続けてもお金は貯めにくいし、月日が経てば気温も下がってくる。


 目的はほぼ達成しているし、これ以上はあまり意味もない。


 続きは次の街で再開すればいいことだ。



 このまま出発してもいいが、最後に買い忘れた物がないか確認のため、街の市場に寄っていくことにする。


 色々な店の商品を見て回っていると、はじめてここに来た時の事を思い出す。旅立つと思うとここにもちょっとした愛着を感じる。


「ん?」


 色々な店を懐かしんで見て回っていると、街の人が血相を変えて走り回っているのがちょくちょく視界に入ってくる。


 はじめはカツアゲから逃げているのかと思ったが、それにしては頻度が高い。


 様子を窺うと、どうやら避難しようとしている様子。


 だが、どこに行ったらいいか分からず右往左往している感じだ。


 逃げ惑う人々の声を【聞き耳】で拾ったり、逃げてきた方向から推察すると、西の森の方にある街の出入り口で何か事故があったようだ。


 そちらに視線を向けてみると確かに土煙が上がっているのが見えた。


「火事って感じじゃないよな……?」


 目を凝らすも、炎や煙は見えない。


 土煙が起きたのは何かが壊れて粉塵が巻き上がっているからのように見える。



 揺れは感じなかったので地震で家屋が倒壊したというわけでもないだろうし、なんだろう。


 と、俺が考え込む中、事故が起きた場所から衛兵が悲鳴を上げて逃げていくのが見えた。お前は逃げちゃダメだろと、心の中でついツッコんでしまう。



「オーガだ! オーガが結界壁を破って侵入してきたぞ! 逃げろっ! みんな逃げるんだ!」


 次の瞬間、誰とも知れない声が辺りに響く。



 そういうのも衛兵がやるべきだと思うのだが、さっき逃げていった奴は何をしていたのだろうか。


 そうこうしている間にオーガの情報が広まり、周囲のざわつきが増していくが人々の動きは緩慢だ。


 多分、半信半疑なのだろう。


 俺は今日、街を出て旅立つ予定だ。


 この街に対してあまりいい思い出もないし、積極的に関わるつもりはない。


 オーガが出たというのなら衛兵なんかが、うまくやってくれるはず。……さっき、真っ先に逃げていくのを一人見たけど。



 とにかく、素人に毛が生えた程度の冒険者である俺にできる事は何もないだろう。


 などと考え、その場を立ち去ろうとする。


 だが、悲鳴交じりの喧騒が刻一刻とこちらへ近づいて来ているのがわかる。


 この感じだと残念ながら接触は免れないようだ。


 どうやら行動に移すのが少し遅かったらしい。



 などと考えているとドォーンという大きな音とともに少し前にある店の壁が吹き飛ぶ。


 土煙がたちこめる中、特徴的なシルエットが見えた。



「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッッ!!!」



 咆哮が辺りに響くとともに土煙も消し飛ぶ。


 そこには胸に傷跡のある一匹のオーガが立っていた。


「キャァアアアア!? わ、私の店がぁあああ!」


 と次の瞬間、ひときわ鋭いおばちゃんの悲鳴が耳に届く。


 視線を向ければ、俺がお世話になった宿屋が倒壊しており、宿屋のおかみさんが顔に手を当てて絶叫しているのが見えた。


「お、おい! やめろ! それは俺が、俺が騙して稼いだ金だ!!!」


 次に聞こえたのは野太いおっさんの叫び声。


 声が聞こえた方を見れば、おかみさんの旦那さんが吠えていた。


 なぜ、吠えていたかと言えば、宿屋が倒壊した影響で金庫が壊れたからだ。


 壊れた金庫の側には人が大量に集まり、金を奪って逃げていく。


「今、騙してって言ってたな……」


 明らかに黒な発言。今さら言質をとったからと、どうこう言うつもりもないが、ここは本当に治安が悪い……。


 俺がぼんやりとそんな光景を眺めていると、またしても悲鳴が聞こえてくる。



 振り返れば、避難しようとしていたおばさんがオーガを見て固まっていた。


 そして、それを合図に周囲に残っていた人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。



 逃げていく人たちから光の塔の呪いだ! みたいなことを言っているのがちらほら聞こえてくる。濡れ衣ですって。


「どけぇっ邪魔だ!」


「あっ」


 そんな中、オーガから逃げようとした誰かが固まって動けなくなっていたおばさんを突き飛ばした。


 おばさんは軽く声を上げると成す術もなく倒れた。


 なんとなくだが突き飛ばした奴の声に聞き覚えがある。


 気になった俺は声の主を目で追う。


「ぼーっと立ってるんじゃねぇ! クソババア!」


 突き飛ばした上にさらに捨て台詞を吐きつつ逃げる男。


 間違いなくゴナンだった。


 ゴナンは汚い言葉を吐く瞬間、ご丁寧にもおばさんの方を振り返りながら走っていた。


 前を見ていなかったせいで、オーガが暴れまわって出た家屋の破片に気付かずつまずいてしまう。


 そしてそのまま器用にオーガの前にヘッドスライディングしていた。


 普通は逃げて遠ざかろうとしている方にヘッドスライディングなんかできない。


 器用すぎる。


 突き飛ばされたおばさんは一連の出来事が刺激になり、我に返って立ち上がると一目散に逃げていった。


 ゴナンはヘッドスライディングしたあと、恐る恐る、ゆっくりと、周囲を確認するように立ち上がり正面を見た。


 目の前には当然オーガがいた。


 ぴったり視線が合う。


「ガアアアァァア!」


「ヒッッギャアア!」


 オーガ流の挨拶に戸惑いつつも挨拶を返すゴナン。


 そんな光景をぼんやり見て俺は思う。


 強く思う。




 非常に見殺しにしたい。


 もしくは囮に使ってオーガを攻撃したい。



 しかし、ここは街中だ。どこに目があるとも限らない。


 不本意だがここは救助しておくべきだろう。



 嫌々ながら俺はロープを取り出し、先っぽに輪っかを作って結ぶ。


 輪っかを作り終えたら、ロープを回して勢いをつける。


 勢いが乗ったところで輪っかを目標のゴナン目掛けて投げつけた。



 輪っかがうまいことゴナンの首にはまったのを確認して、思いっきり引っ張る。


 ゴナンはグェッという奇声をあげたあと、脱力して静かになったが気にせず力任せに引き寄せた。



 俺は引っ張ったゴナンを側まで手繰り寄せ、ロープを外す。


 そしておもむろにゴナンの両足首を掴む。


 そんなところを掴んで何をやるかといえば、もちろん――。



「死ねええぇぇえっ!」


 俺はゴナンの両足首を掴んでジャイアントスイング。


 限界まで遠心力を乗せ、適当な家の窓に向かって思い切り投げ入れた。


 放り投げたゴナンは窓に激突。激しい音と共にガラスが割れ、その姿が見えなくなる。


 どうやら、無事家屋に避難させることに成功したようだ。


「救出完了!」


 窓を割ってしまったが非常事態だからギリセーフだろう。


 心なしかスッキリもした。



 人命救助も終わり、回りを見てみる。


 軽く見た感じでは皆うまく逃げたようで、周囲に人はいない。



 近くにオーガはいるが、それ以外のモンスターは見当たらない。


 だが他に侵入したモンスターがいないと判断するのはまだ早い。簡単に見回って、逃げ遅れた住人や他にモンスターがいないか確認しておいた方がいいだろう。


 さすがにオーガと戦うのは御免だが、誰かがオーガと戦うのに集中できる環境を作っておく位はしておいても罰は当たらない。


 きっとこの街にだって、オーガを倒せるくらい強い奴の一人や二人いるはずだ。


 ここは俺みたいな雑魚ではなく、そういう人たちにお任せしたい。



 俺は物陰に隠れ皮袋を取り出すとナイフで穴を二つ開ける。


 それを頭からすっぽり被ると、袋を軽く締めて脱げ落ちないようにする。



 そして念のため市場の武器屋から弓と矢を拝借する。



 あまり褒められた行為ではないが、非常事態だしギリセーフだろう。


 自分を守る手段が欲しいので、ここはやむを得ない。


 事が済めば返却するつもりなので許してほしい、と心の中で謝罪する。



 そして弓を取った俺は、オーガに背を向け逃げ出した。



 オーガの視界から外れるように【気配遮断】と【忍び足】を使って逃げる。


 ある程度距離が開いたところで建物の影から様子を窺う。



 オーガはこちらに気づいていない様子。


 被った皮袋がかなり息苦しい。


 口の部分も穴を開けておくべきだったと今頃になって後悔してしまう。



 次に周囲の状況を見る。


 誰も居ない。


 一旦オーガを放置し、奴が侵入した西の出入り口へ全力で走った。



 破壊された西の出入り口に到着すると、三人の衛兵が復旧工事を行っているのが見えた。


 だが、他に工事を手伝うような者は誰もいない。かなり少人数だが、大丈夫なのだろうか。


 出入り口から森の方へ視線を移すも、モンスターがいる様子はない。


 この感じだと、新たなモンスターが街に入り込むことはなさそうだ。


 俺はそれらを確認し終えると、オーガがいる街の中へ戻る。



 しばらく走って、オーガが暴れていた地点に戻ると、複数の人影が見えた。 


「お、猛者が倒しに来てくれたのか……?」


 俺は期待に胸を膨らませながら目を凝らす。


 オーガの近くにいたのは以前西の森で見かけた六人の冒険者たちだった。



 様子を見る限り、オーガと戦ってくれるようだ。


 これは、凄腕冒険者の皆さんに頑張ってもらってなんとか倒してもらいたいところ。


 このままオーガに暴れられると街の復興に金がかかってさらに物価が上がってしまう可能性がある。



 それでは残されたルーフが困るだろう。そう考えた俺は弓もあることだし、軽く援護することを決める。だが、やってみて効果が薄かったらさっさと逃げてしまうつもりだ。


 何の役にも立たないなら、俺が居ない方が冒険者も戦いやすいだろう。


 邪魔になっても仕方ないのでまずは六人の様子を【聞き耳】を使いながら見る。



 会話を盗み聞きする限り、どうも揉めているような……。



「てめえら臆病者はさっさと帰りな! 俺たちで何とかする!」


「いいから逃げるんだ! 人数を集めて態勢を立て直すべきだ!」


「うるせえ!黙ってろ! 行くぞお前ら!」


「おお!」


「俺らがオーガを討ち取るところを指をくわえて見ているんだな!」


「臆病者め!」


「やめるのじゃ!」


 そんな言い争いの後、六人のうち四人がオーガに切りかかって行った。


 残ったのは、以前見たごついおっさんと魔法使い風の老人の二人だ。



 オーガに向かった四人は一斉に切りかかった。


 作戦がなくても力任せに行けば倒せるという判断なのだろう。


 相当の自信があるみたいだが大丈夫だろうか。


 俺の心配をよそに四人の剣がオーガの体に当たるも吸盤に吸い付いたかのようにぴくりとも動かない。四人同時攻撃はオーガに傷一つつけることができなかった。


 攻撃が通じなかった四人が驚愕の表情。冒険者に攻撃されたオーガは憤怒の表情。


 残された二人は絶望の表情のまま固まってしまう。……最悪だ。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッッ!!」



 そして一瞬間を置いた後、咆哮と共にオーガが力に任せてがむしゃらに両腕を振り回した。



 剣を止められ、動きがワンテンポ遅れた四人はオーガの振り回した両腕がもろに直撃してしまう。


 例えるなら土砂流の中で荒れ狂う丸太に接触したようなものだ。


 振り乱れるオーガの一撃を食らった四人は散り散りに吹き飛び、動かなくなる。



 ――完全に戦闘不能だ。


 一気に戦力が四人減り、残された冒険者は二人となってしまう。


 そんな中、残されたごついおっさんと老人の会話が聞こえてくる。


「どうする?」


「憲兵に援護を頼むのが最良じゃ」



「一番初めに逃げ出したあいつらにか? 全員に袖の下でも渡すのか?」


「お主の稼ぎなら軽いじゃろ」



「オメーと一緒なのに渡せるわけないだろ」


「……逃げるか、やるか、じゃな」


 老人の顔が真剣なものに変わり、そう告げる。



「丁度、オーガを倒す武勇伝の一つも作っておきたいと思っていたところだ」


 ごついおっさんは老人の真剣な顔を流し、飄々とした今までと同じ調子で言い切る。


「わしは老い先短いので失礼させてもらおうかの。一人の方が武勇伝も受けが良かろう」



「おいっ」


「冗談じゃ。いつも通りに……時間を稼ぎ、隙を作るのじゃ」


 老人も覚悟を決めたようで何やら指示を出している。


「わかってるよ」


 静かに頷くごついおっさん。



(キャーカッコイイーッ! でも絶対死んじゃうー!!)


 非常にフラグ臭い。


 武勇伝が偉人伝になっちゃう。


 でもそれも倒せたらの話だけど。


 ぶっちゃけ、あの二人以外にオーガと戦える人間はいない気がする。


 オーガが現れて随分と時間が経つのに、増援が現れないのがその証拠だ。


 となると、二人がオーガにやられた場合、この街はどうなってしまうのだろうか……。


 いくら自分には無関係な話とはいっても、街の壊滅は避けた方がいい。



(攻撃が通じなかったら逃げるつもりでいたけど、もう少し粘った方がいいか……)


 動けなくなったら運んで避難させたり、道具を渡したり、俺でも手伝えることは何かあるだろう。


 こうなったらギリギリまで援護して、あわよくば経験値を少しでも頂いていこう。



 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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