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11 ア イ ア ン マ


 俺が部屋の中央へたどり着き、ここまで案内してくれた男へ礼を言おうとした瞬間、全身から煙が発生し稲妻が走り出す。


 そして煙が晴れる頃には元の姿に戻っていた。


 ……制限時間が過ぎて【変装】が解けてしまったのだ。





「だ、誰だ貴様!」



 目の前で女から男へと早変わりを目撃し、驚愕の表情を見せて声を張り上げる男。


 そしてその声につられて室内にいる者達の視線が一斉にこちらへと向く。



「フッ」


 俺は遠くにいる者目掛けて順に鉄杭を投げつける。


「ハアッ!」

 それに続いてレガシーが中距離にいる者達へ蛇腹剣を伸ばす。


「悪いな」


 そしてミックは案内してくれた男へと拳を繰り出した。


「グッ」


 ミックに殴り倒され地面へと崩れる男。


 そして俺とレガシーの攻撃を受けた者達もバタバタと順に倒れていく。



 ……咄嗟の攻撃はなんとか成功し、室内で立っているのは俺達だけとなった。



「ふぅ、間一髪だったな」


 息を吐きつつ周囲を警戒するミック。


「ああ、結構やばかったぞ?」


 剣を鞘にしまいつつ、こちらへと向き直るレガシー。



「まあここまで怪しまれずに侵入できたしいいんでない? とりあえず博士達の居場所が分かるものがないか探そうぜ」


 俺のスキルが解けて危険な状態になるも、なんとか騒ぎになる前に沈静化させることに成功する。とりあえずここで何か手がかりを探そうと俺は二人に提案した。


「了解だ」


 頷くレガシー。


「地図とかあるといいんだがな」


 辺りを見渡しながら机などがある場所へと移動するミック。


 俺達は三方に別れて素早く室内を調べはじめる。



「お、これじゃないか?」


「それだな。どれどれ……」


 しばらく部屋を探索し、レガシーが地図を見つける。


 側に居たミックが近付き二人で地図を調べはじめた。



「何か分かりそうか?」


 少し離れた場所でそれを確認した俺も二人に加わろうと近付いていく。



「ふむ、どうやら博士達はそれぞれ研究室を持っているみたいだな。それぞれが三方に離れていて、そこを拠点に活動しているみたいだ」


「てことは三人同時に始末するのは難しいのか……」


 どうやら地図を見たミックの話では博士達はそれぞれ離れた場所に専用の研究室を持っているようだった。


 ここまで案内してくれた男も博士達は別々の場所にいると言っていたし、その研究室にいる可能性が高いだろう。そうなってくると同時に始末するのは難しく、順に一人ずつ回るはめになりそうだ。


 と、これからについての話をしていると――。



 ――ヴォン! ヴォン! ヴォン!



 突然警報が鳴り響く。


「うお?」


「あそこだ!」


 俺が警報に驚いて身構えているとミックが部屋の隅を指差す。



 そこには仕留めたと思い込んでいた一人の男が何かの機械に覆いかぶさるようにして震えながら手を動かしている姿があった。


 どうやら男は即死を免れたようで、負傷した身体に鞭打って必死の形相で機械を操作している様子。


 多分あれが警報装置だったのだろう。


「ハッ」


 レガシーが蛇腹剣を伸ばし、警報機を作動させた男に止めを刺す。



「……アグッ!」


 蛇腹剣を受け、完全に事切れる男。


 だが、けたたましく鳴り響く警報が止まることはなかった。



 ……警報を聞きながら一瞬呆然と立ち尽くしてしまう俺達。


 そんな沈黙を破ったのはミックだった。



「分かってると思うが、ここで逃げたらお前らも敵とみなすからな」


「お前そればっかりだな」


「目の前にニンジンがぶら下がってるのに逃げるわけ無いだろ」


 ミックから釘を刺されるも、こんなところで逃げても仕方ない。


 ここまで来たらターゲットを仕留めて混乱を招いた方が脱出しやすい気がする。


 レガシーの方は覚悟が決まっているようで、逃げる可能性を完全否定した。


 ――バンッ!


 俺達が警報に混乱していると、扉が手荒に開かれる。


 そちらを見やれば狼人間達が扉を蹴破って中へと駆け込んでくるところだった。


「フッ」


「オラアッ!」


 扉が開く音にあわせて咄嗟に放った俺の鉄杭とレガシーの蛇腹剣が唸りを上げて狼人間達の頭に突き刺さる。


「残念ながら博士達の部屋を順に回ってる時間はなさそうだな」


 倒れた狼人間達を見下ろしながらミックが慌てた様子もなく呟く。



「三箇所だし、それぞれ一箇所を担当する感じかな」


 こうなってくると確かにミックの言う通り、悠長にしている時間は無いだろう。


 もたもたしていると最悪逃げられてしまう可能性もある。


 となると三方に散って、それぞれが一人倒すしかないだろう。



「分かった。終わったらどこで落ち合う?」


 蛇腹剣を引き戻しながらレガシーが聞いてくる。



「施設内で同じ場所に留まって待つのは避けるべきだろうな」


 考えをまとめるように話す俺。



「なら上陸した地点に集合でどうだ」


 ミックが諦め顔で肩をすくめる。


「了解だ。待ってもこない場合は各自の判断で島を離れる方向で」


 大体の骨子が決まったところで俺が話をまとめる。


 結局、単独で博士を倒し、さらに自力で要塞から脱出後、上陸ポイントで集合ということになってしまった。


 警戒状態の中ここから一人で脱出するのはかなり難易度が高いが、別行動したあとに施設内で落ち合って脱出するとなると更に難易度が跳ね上がってしまう。


 苦肉の策だが止むを得ないだろう。



「「分かった」」


 俺の言葉に異論を挟まず、頷くレガシーとミック。



 今まとまった話は決して良い案ではないし、じっくり考えれば他にいい策が思い浮かぶかもしれない。だが、時間が経てば経つほど選択肢の幅は狭まっていくことを二人も理解しているのだろう。


 その後、俺達は地図を見ながらそれぞれが向かう研究室を決める。


 どこに誰がいるかまでは分からないので適当に決めることとなったが、ここは恨みっこなしだ。



「じゃあ、また後で生きて会おうぜ。これが終わったら打ち上げだ」


 俺はニカッと二人に笑いかけ、親指を立てる。


「当然だ。終わったら飲むぞ」


「いいね。その時は俺が出すよ」


 これから間違いなく危険な状況に直面するということを吹き飛ばすかのように快活な表情で頷くレガシーとミック。


「んじゃ、健闘を祈る」


 俺は二人に声をかけると通信室を出た。



「ああ、お前もな」


「さて、行きますか」


 それにレガシーとミックも続く。



 通信室を飛び出した俺達はそれぞれの目的地を目指して三方に別れた。


 …………


 俺は警報が鳴り響く中をひた走る。


 三つの研究棟にどの博士がいるかまではわからなかったため、現場に行ってみないことには誰がいるか分からない。地図を見て分かったことは三人の博士達が集合するような場所が一切なかったことだ。お互い仲が悪いのか知らないが、やりとりは部下任せか通信のみといったところのようだ。


(警報のせいで見回りが増えたな……)


 部屋を出てしばらくは軽快に進行できていたが、少し進んだあたりから見張りが増えていく。


 そのせいで物影に隠れながら少しずつ通路を進んで行くことになり、中々先へ進めなくなってしまう。


【気配遮断】と【張り付く】を使ってここまで来たが人数が増えてきたため、そろそろまずい。このままでは遠からず見張りを倒して進むしか方法がなくなってしまう。


 だが、見張りを倒してしまうと自分がどこにいるかを知らせるようなものなのでなるべくなら避けたい。だが、そうも言っていられない状況になってきた。


(……やるか)


 そう俺が覚悟を決めてナイフを抜いた瞬間、見張りが蜘蛛の子を散らすかのように通路からいなくなった。


「え?」


 予想していない展開に驚いて迂闊にも声が出てしまう。


 が、それに反応してこちらへ来る見張りはもはや一人もいない状態だった。


(どうなってるんだ?)


 俺は隠れていた物影から通路の真ん中へ出ると辺りを見回す。


 やはり目が届く範囲には誰もおらず、無人となった通路が残されるのみとなっていた。



「よく分からんが今の内に一気に進むか……」


 いつまでこの状態が続くかわからないし、ここは行けるところまで行ってしまうことにする。


 原因はよく分からないが好機と判断し、俺は照明に煌々と照らされた通路の真ん中を走って目的地を目指した。


(ここか……)


 目的地である研究棟内部の博士の部屋に到着し、辺りを見回すもやはり誰もいない。



 罠の心配はあるが、ここでじっとしていても仕方ないのでそのまま扉を開けて中に入ってしまうことにする。ドアノブに手をかけるも扉は鍵がかかっておらず、あっけなく開き、難なく中への侵入に成功してしまう。


(誰もいないな……)


 罠を警戒しつつ部屋の中を見るも相変わらず人の気配はなく、誰もいない状態だった。辺りを見渡しながら中を進むと部屋の隅に奥へと通じる扉を見つける。


 どうやら小規模な実験を行う個室や大規模なテストを行う実験場へもここから移動できる様子。



 扉を開け慎重に通路を進み、近くにあった実験室から順に室内を覗いていく。


 一通り覗いた結果、どの部屋も博士の部屋と同じく人はいなかった。


 誰もいないことを確認すると通路へと戻り、実験場を目指す。



 通路の突き当たりの扉を開け、実験場へと出る。


 どうやら通路は少し高所にあったようで扉の向こうには下り階段があり、目の前の空間が一望できる状態になっていた。


 見下ろすとそこは荒野にあった工場を思わせるほど広大な空間だった。



 そんな何もない空間の中心に男が一人立っているのが見える。


 扉を開ける音に気付いたのか照明で照らされた顔がこちらを見上げてきた。


 白衣を着た成年は笑顔で手を振りながら口を開く。



「やあ、侵入してきたのは君だったんだね! 待っていたよ。さあ、早くこっちへ来てくれよ」


「……歓迎されちゃったよ」


 俺は戸惑いながらも階段を降りて博士の下へと向かう。



 博士の下へと向かいながらその容姿を確認する。


 照明に照らされた髪は金髪、顔にはそばかすがあり歳は若い。じっくり見ると全ての特徴がミックが見せてくれたターゲットの映像の一人と合致する。確か元義手職人のトボッロだったか。


「侵入者が出たと聞いたから先日完成したばかりの新作の性能テストに協力してもらおうと思って手下を下げておいたんだけど、まさか君だったとはね。君の勇姿は以前工場で見ていたよ! これなら素晴らしいテストができそうだ!」


「その性能テスト、辞退したいんだけどダメかな?」


 どうやらここまで来る過程で見張りがあるタイミングから急にいなくなったのは目の前の男の仕業だったらしい。


 見張りを撤去してもらえたのはありがたかったが、今からはじまるという性能テストに関してはありがたみを一切感じない。


「そう言わないでくれよ。これから大事な一戦が控えているのに、ぶっつけ本番で使うんじゃあ心もとないだろ? じゃあ、いくよ!」


「やっぱりその後ろの奴のテストなんだろうな……」


 金髪の成年、トボッロの背後には巨大な彫像のように金属の巨人がそびえ立っていた。



 金属巨人は全身甲冑を纏った巨人の騎士を思わせるような外見をしており、そういう芸術作品だと説明されれば鵜呑みに出来る荘厳な空気を放っていた。


 鎧のような体は純白の輝きを放ち、所々に金色で縁取りがされたり小さなパーツが赤く染められているせいか大きさが人間サイズなら白騎士とか呼ばれそうな感じだ。正直俺が乗って操縦したいくらいである。そんな状況でないことは理解しているが男の子なら誰だってロボの一つや二つには乗ってみたいものだ。


「そう、当たりだよ! 今搭乗するから待ってね」


 トボッロは軽い調子で言うと身を翻して金属巨人へと向かう。


「よっ」


 すかさず俺は金属巨人へと向かうトボッロの背に向けて鉄杭を投げつけた。


 が、トボッロを搭乗させるために屈み込んでいた巨人が自動的に手を前に出して俺の攻撃を防いでしまう。


「おっと、こういう瞬間を狙うのは関心しないなぁ」


「え、隙だらけに見えたから、ついやっちゃったよ。悪かったな」


 トボッロに責められるも、俺は殺しきれなかったことを心の中で嘆く。 



 その間にトボッロは巨人胸部にある操縦席への搭乗を済ませた。


 金属巨人に乗り込んだトボッロは以前戦ったエルザのように生身の部分が露出している訳でもなく、操縦席は分厚い金属の板に守られ、その姿を見ることは叶わない。


 俺が嫌そうな顔で見守る中、胸部装甲を閉じた金属巨人が静かな駆動音と共にゆっくりと立ち上がる。すると巨人に拡声機能の魔道具でも搭載されているのか、内部にいるトボッロの声がはっきりと聞こえてきた。



「無傷だったしいいよ。じゃあ、改めて紹介しよう、これが僕の新作、名づけてアイアンマ「うおおおおおおおおおおい! それ以上はダメだろ!」」



 ここでトボッロが自作した金属巨人の名前を紹介しようとするも、俺はそれに危機感を感じて遮った。


 そのネーミング、待った!


「ん、僕の傑作アイアンマーダーに何か問題が?」


「……マーダーかよ。危ういネーミングだな」


 待った、と思ったがギリ大丈夫そうだった。


 千葉からネズミが攻めてくる事態を回避できて俺はほっと胸を撫で下ろす。



「そうかな? 殺人に特化した魔道機だから問題ないと思うんだけど」


「やな特化だな。通販で見たら目を疑うわ」


『特徴:手軽に殺人が行えます』なんてセールスコピーを見たら二度見してしまいそうだ。



「フフッ、じゃあ君に満足してもらえるよう続きは宣伝のように言わせてもらおうかな。ゴホン、今回は殺人に特化した魔道機に加えて、更にこちらを付けるよ!」


 金髪の成年、トボッロが発したCMでよく言われそうなセリフと共に俺との中間地点の床が大きく開いて何かがせり上がってくる。



 目を凝らすと見知った顔が下方からせり出して来るのが見えた。



 が、見知っていたのは上半身までで、下半身から下は見知らぬ物だった。


 見知った顔だったため人の高さで上昇するのが止まるかと思えば延々と上がり続け、見上げて首が痛くなったところでようやく停止する。



「アーーーーハッハッハッハ!」



 見慣れた上半身が体を盛大に揺らしながら笑い散らす。




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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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