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1 よっほい

本作品は残酷なシーンが含まれます。そういった描写に不快感を感じられる方は読むのをお控えくださいますようお願いします。


あらすじにも書いてありますが本作品は残酷なシーン、登場人物の死亡、主人公が殺人を犯す描写が出てきます。なろう内の投稿作品を見ていると該当話の前書きに注意書きをするのをよく見受けますが、本作は該当シーンがネタバレになる部分もあるため前書きでの注意喚起は行わない予定です。また、そのシーンを読み飛ばして読んでも意味が分からなくなってしまうというのもあります。そのため冒頭に当たる第一話での注意喚起とさせていただきます。ご了承ください。



※本章ラストはスッキリしない終わり方となっております。

(展開が読めるベタベタな前振り(セリフでまんま言ってます)なのですがスッキリはしません)

そういうのが苦手な方は読むのお控えくださいますようお願いします。







 俺は今、廊下に立っている。



 遅刻して先生に立たされているわけでも、奥さんが玄関を開けてくれないわけでもない。



 そういう仕事なのだ。


 黒スーツを着て列車の通路に立ち、不審者を個室へ寄せ付けないのが今の俺にかせられた仕事だ。


 立っているだけだとどうにも暇なのでステータスを開いてみる。



 ケンタ LV16 剣闘士


 力 85

 魔力 0

 体力 38

 すばやさ 94


 剣闘士スキル (LV4)


 LV1 【斧術】 

 LV2 【槌術】 

 LV3 【膂力】 

 LV4 【耐える】 


 狩人スキル (LV5MAX)


 LV1 【短刀術】 

 LV2 【弓術】 

 LV3 【聞き耳】 

 LV4 【暗視】 

 LV5 【気配察知】 


 暗殺者スキル (LV5MAX)


 LV1 【暗殺術】 

 LV2 【忍び足】 

 LV3 【気配遮断】 

 LV4 【跳躍】 

 LV5 【張り付く】 


 戦士スキル (LV5MAX)


 LV1 【剣術】 

 LV2 【槍術】 

 LV3 【剛力】 

 LV4 【剣戟】 

 LV5 【決死斬り】 


 サムライスキル (LV5MAX)


 LV1 【居合い術】 

 LV2 【疾駆】 

 LV3 【縮地】 

 LV4 【白刃取り】 

 LV5 【かまいたち】 


 ニンジャスキル (LV5MAX)


 LV1 【手裏剣術】 

 LV2 【火遁の術】 

 LV3 【水遁の術】 

 LV4 【鍵開け】 

 LV5 【変装】 





 最近は延々とモンスターを狩り続けるような状況が減ってきたので、数値的には安定してきている。


 現状で直面する危機には今の強さでも充分対応できるのと生活も安定してきたせいか、以前ほどこういったことも気にしなくなってきた。



 その原因はレベルやステータスの数値を過信しなくなったのが大きいだろう。



 これまで様々な戦いを重ねてきた結果、どれだけ強くなっても人の範疇を超えることはそうそうないだろうという結論に辿り着いた。



 どれだけ高レベルになろうとも高所から落ちたり、首を絞められれば死ぬし、毒を盛られても死ぬ。スキルを使わない限り筋肉が鋼のようになって全てを無効化することなどあり得ないのだ。


 そういう意味ではスキルを覚えていくことは大事だが、そろそろ打ち止め感が出て来ている。そういったこともあって、レベル上げに執着することは少なくなってきている。


  一応レガシーと訓練は続けているが、これ以上短期間でレベルを上げようとするなら山籠もりコースになりそうだし、生活との兼ね合いを考えるとこんなものでいいんじゃないだろうか。


(今の仕事なら現状の強さでも十分活躍できるしなぁ……) 


 俺はそんなことを思いながら腕組みする。



 前回、誘拐事件をたまたま解決したところ、人質にされていたご令嬢が救出してくれた報酬として三等市民になった際に発生する借金を肩代わりしてくれたうえに誘拐犯を殲滅した実力を買って、護衛として雇ってくれることとなった。


 監視役が死亡していたので一悶着あると思っていたが、その辺りはご令嬢の一声でするっと解決してしまった。権力様々である。


 そんなわけで俺達は各街を列車で回って視察するご令嬢の護衛をやることになった。だが、この仕事に就いて二週間も経っていないが、正直俺にこの仕事は向いていないような気がする……。



 別に人間関係や給料に不満があるというわけではない。



 大体護衛の前にやっていた三等市民での傭兵業の方がよっぽど過酷だった。


 要領を得なくて申し訳ないが、何と言うか……、向いていない気がするのだ。


 こんなことを前の世界で口にしようものなら甘えるなと一喝されたと思うが、実際そんな気分になってしまうとそう説明するしかない。



「おい、仕事中にやる気なさそうな顔するなよ。こっちにも影響するだろうが」


 と、隣に立っている男に注意されてしまう。



 隣に立つ男の名はレガシー、ひょんなことから一緒の仕事をすることになった男だ。



 外見は銀髪で薄い褐色の肌に黒スーツと、この世界では割と見かけるいたって普通の姿だ。だが眼球は黒目部分が赤く、白目部分が黒いうえに角の刺青が顔にドンとあるため、厳つい印象を与えてしまっている。


 悪魔面で高いところは苦手だが中々いい奴だ。


「いやぁ……、なんかなぁ……」


 俺は歯切れの悪い返事をしてしまう。


 思考もスッキリせず、もやもやと混濁しているせいか考えがまとまらない。



「言いたいことは分かるが仕事だろ?」


「まあなぁ……」


 俺の言葉を受けてレガシーが何かを察したように諭してくる。


 案外こいつも今の仕事には言いたいことがあるのかもしれない。



「お、おい……。そ、そこをどけっ」



 ご令嬢が滞在しているビップルームの前で警備を続けていると、落ち着きの無い男が俺達の目の前で立ち止まり、震えながらぎこちない言葉を紡ぎ出した。


 男の外見はボサボサ髪に無精ひげ、寝ていないのか目元にクマができ、服の裾や靴の先端が擦り切れてボロボロになっている。そして片手をポケットに突っ込んだままなのだが、手だけが入っているにしては妙に膨らんでいた。



 人を外見で判断するのは恥ずかしいことだとよく言われるが、……非常に怪しい。



「なあ、面会の予定とか入ってたか?」


 いくら挙動不審でポケットが膨らんでいても、一応予定をレガシーに確認しておく。外見で判断し、中の人物と面識があった者を追い返したとなれば一大事なので。


「ないな」


「悪い、ここは立ち入り禁止なんだ。引き返してくれ」


 だが、やはり無関係の人物だったようだ。


 ここは丁重にお引取り願おうと男に声をかけた。



「う、うるさいっ! どけと言ってるんだっ!」


 だが俺の言葉を聞いた男の表情が見る見る変わっていき、感情をあらわにして叫び出す。



 そして男は叫ぶと同時にポケットに入れっぱなしだった手を勢いよく抜き出した。その手には小さなナイフが握られており、緊張しているせいか小刻みに震えているのが見て取れる。


「ほいっ」


 俺は無造作に男へ近付くとそのナイフを手刀で叩き落した。



「よっ」


 地面へ落ちたそれをレガシーがすかさず蹴り飛ばす。


 ナイフは通路の奥へと勢いよく飛んでいき、その場には緊張で震える男が一人残される。



「あっ!」


 一瞬の出来事に呆気にとられる男。


「ほいっ」


 俺は固まる男の顔へ拳を繰り出す。拳は顔へと綺麗にめり込み、男をふらつかせる。


「ぐあっ」


 たまらず声を上げる男。


「よっ」


 すかさずそこへレガシーが男へ近付いて肩を掴むと足を払って地面へ倒した。


 ……終了だ。



「は、放せっ!」


「放すわけないだろ? こんな物チラつかせてたんだからな」


 俺は地面に押さえつけられながらも声を上げる男を尻目に蹴り飛ばしたナイフを拾って見せ付ける。



 ナイフはとても小さく、果物とかをカットするのに使うような物だった。


 それでも凶器には変わりない。



「どうするよ?」


「車掌を呼ぶか」


 取り押さえているレガシーがどうするか聞いてくるので、車掌を呼んで引き継ごうと考える。このままこの男と列車の旅を満喫するのは御免だ。


 車掌に引き継げば何かしら対応してくれるだろう。


「何ごとだ」


「危険です、念のためお嬢様は部屋の中へ」


「構わん」


 そんな会話をしていると背後の扉が開いて、ご令嬢と護衛筆頭が出てきた。



 ご令嬢というのはこの間誘拐から救った女の子だ。


 どこからどう見ても令嬢と一発で分かる高そうな服を着ている。


 そんなもん着てるから攫われるんだと思わないでもないが、立場上きっちりとした恰好をしないといけないのも事実。



 護衛筆頭というのは俺達のボスに当たる人だ。


 筋骨隆々で着用している黒スーツがパンパンになっている。


 ボディビルのポージングであるサイドチェストとかしたら瞬間脱衣できそうな勢いでパンパンだ。



 護衛筆頭は警護していたご令嬢を攫われたうえに俺達がそれを助けて同職になったせいか、やたらと目の敵にしてくる。



 何かといちゃもんをつけてくるが、護衛なんてしたことないのでそれが本当に指導なのか嫌がらせなのか判断が難しい。とにかく面倒臭い人なのは確かだ。


 上司に嫌われた環境での仕事はつらいが、この仕事に対する迷いと護衛筆頭は関係なかったりする。


「すいません。またお嬢さんを襲おうとした奴が出たんですよ」


「こいつです」


 そんな二人に俺とレガシーで報告を簡潔に済ませる。



「またか……」


「愚かな……」


 眉間に皺を寄せる護衛筆頭と捕まった男に蔑んだ視線を送るご令嬢。


 この顔を見るのも何度目だろうか……。


 そんな中、取り押さえられていた男がご令嬢を見て顔が急変する。



「お前を殺してやる!」


「おいおい、物騒なこと言うなよ」


 何ごとかと思えば口から泡を吹きながら殺すと叫び出した。


 なだめようと声をかけるも男は益々暴れ出す。



「お前の父親のせいで俺の仲間は死んだんだ!」


「社長がわざわざお前の仲間を殺しに来たのか?」


 男はご令嬢を睨みつけながら怒声を上げる。


 が、その内容に疑問を感じた俺はつい質問してしまう。



「違う! 俺達は辺境の鉱山で働いていたんだ! だが社員に割り当てられた寮には強度の弱い防護柵しか設置されていなかった……。ある日俺達が仕事から帰ってくると寮はモンスターの群れに襲われて全滅していた……。ちゃんとした防護柵があればあんなことにはならなかったんだ!」


「それはお気の毒な話だが多分柵のことなんて社長は知らんと思うぞ?」


 ゴージャスリッチマン社は手広くやっているので、末端の寮にある防護柵のことなど社長は知らないだろうと男を諭す。


 柵に関しても充分な強度があったがモンスターが強すぎたってこともあるし、上からは強度を上げろと丸投げで来て、そんな金などなかったというパターンも考えられるし、柵に充分な費用が当てられていたにも関わらず担当者が着服したとかも変化球でありえる。



 ぶっちゃけ男の話だけでは柵が壊れて人が死んだという事実しか分からない。



 元の世界なら土下座会見待ったなしな内容だが、この国だと二等市民以下は扱いが悪いのでこのくらいでは大きな問題になりえない気がする。


「ふん、百歩譲ってそれが真実なら何故父を狙わん」


 ご令嬢は地に伏す男の言葉に一切気持ちの揺らぎを見せず、蔑むような視線を送りながら問う。



「お前を殺して同じ気持ちをアイツにも味わわせてやるんだ!」


「愚かな。そんなことをしても父は一切心を痛めんぞ」



 家族を失った苦しみを味わわせると言う男にご令嬢は眉一つ動かさずに腕組みしたまま答える。



「う、うるさいっ! 娘を失って悲しまない父などいるものか!」


「……そうだといいのだがな。そもそも柵が弱いことを知っていたのならなぜ補強しない?」


「そんな金がどこにあるっていうんだ!」


「ないならないで工夫すればいいだろうに」


「うるさい! 殺してやる!」


「聞き分けもなく、愚かで、恥知らずな」


 ご令嬢は押さえ込まれていた男に近づくと、言葉に合わせて顔を何度も踏みつけた。



 踏みつけられた男はマウント状態で何度も拳を振り下ろされた格闘家のように鼻が折れ、歯が落ち、眼から血が混じった涙を流す。その目には次第に恐怖の色が宿りはじめる。


「靴が汚れます、その辺で……」


 それでもなお足を振り下ろそうとするご令嬢の肩を掴み、護衛筆頭が止めに入る。


「あああああああぁ……」


 完全に戦意を失い、怯えた表情を見せる男。



「大体、その仕事を辞めて新しい職につけばいいだけの話だろう? なぜそんな危険な仕事と分かっていて、さっさと辞めなかった?」


 ご令嬢は淡々と自身の疑問をぶつける。



 俺はそんな姿を見てパンがなければケーキを食べればいい的な雰囲気を感じてしまう。それは正論かもしれないが、正論ということ以外なんの意味もない言葉だった。



「うあああああああああああっ!」


「話にならんな。さっさと車掌に引き渡せ」


 冷めた表情を見せるご令嬢の言葉を受けて取り乱した男は発狂したかのように叫び声を上げる。ご令嬢はそんな男に眉をしかめて一瞥すると部屋に戻ろうと踵を返した。


「う、うっす」


 部屋へと入ってくご令嬢の背に了承の返事をする。



「引渡しが終了したらそのまま休憩に入れ、食堂車で飯を食って来い」


 そんなご令嬢に続いて護衛筆頭も俺達への指示を済ませると部屋へと引っ込んだ。



「……おいっ」


「えっ?」


 レガシーに声をかけられて自分が拳を強く握り締めていたことに気付く。


 多分、レガシーは俺が怒っていると勘違いして声をかけてくれたんだろう。



(別に怒っていたわけじゃないんだけどな……)


 拳を見つめながらふと思う。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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