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22 工場



 ◆



 生存者が出立し、誰もいなくなったはずの兵器工場から話し声が聞こえてくる。


 その声はどこか軽快でさびれた雰囲気が漂う場に似つかわしくないものだった。



「はあ、あんな狭いところで君と一緒にいるのはもうごめんだよ」


 金髪の男は埃まみれになった衣服を手ではたきながら白髪混じりの男に不満をぶつける。



「そう言うな。お陰でいいものが見れただろ?」


「そうそう! いい動きしてたでしょ!」



「寄せ集めにしてはいい動きだったな」


「僕の言った通りだっただろ?」


「核に使った人間が良かったのかもしれないな」



 男達は身を隠して今まで見ていたことを興奮冷めやらぬ様子で話す。


 そこで金髪の男が何かに気づいたように顔を輝かせる。



「そういやまだ使えるんじゃないかい? あれ」


「どうだろうな、見てみるか」


 そう言うと男達は工場の外に出る。



 そこには切り刻まれた巨大なモンスターの死骸と破損した金属の巨人が倒れていた。


 男達は金属の巨人の方へと近づく。



「結構、手ひどくやられたけど胴体が無傷だったのが幸いだったね」


「中はどうだ?」


「今開けてみるよ」



 金髪の男が倒れた金属の巨人によじ登る。


 胴体部分に座り込むと小さなカバーを開け、中の装置を操作する。


 すると胴回りの装甲がバシュっと中に溜め込んだ空気を吐き出すような音を立てて開いた。



 金髪の男はそこに手を入れて一気にこじ開ける。


 腹部の装甲を開けると大量の機械に紛れて一斗缶ほどの大きさの水槽に女の生首が収められていた。


 金髪の男は鼻歌混じりに水槽を取り外すと中の様子を観察する。



「大丈夫そうだね」


「どうやら相性が良いようだし、何かに再利用したいところだな」


「そうだね。今回は上半身しか複製できなかったけど、時間をかければ全身もいけるし色々試してみたいね」


「簡単に言ってくれるな……。複製はコストもかかるし短期間しか持たないから気軽にはできんぞ。だが、いい拾い物をしたのは事実だな」


「全くだよ」


 男達は球遊びをする子供のように水槽に入った生首をぞんざいに扱いながら話す。



「さて、用も済んだし移動するか」


「これでこの荒地も見納めかと思うとちょっと名残惜しいね」


 話を一区切りつけ、用も済んだ男達はこの場を去るようだった。



 そんな二人の元へ銀髪の女がやってくる。


 女は無言で軽く頭を下げると工場を指さした。



「移動の準備が終わったみたいだね」


「ああ、行こうか」


 三人はこの地を去る為、再度工場へと入っていった。






 何もない広大な空間があるのみの工場。


 そんな一画に死体が六体あった。


 広い室内に六体の死体が散り散りに横たわる。



 五体は奇抜な外見をしていたが、残る一つは出血痕が生々しく残るもいたって普通の死体だ。他には何もないせいか、それらの死体が妙に際立って見える。



 そんな中、一つの死体がのそり動く。



 仰向けに倒れていた血塗れのそれは何事もなかったかのように立ち上がった。



 どうやら本当に死んでいたわけではなく、死体のふりをしてやり過ごしていたようだ。死体のふりをしていた男は同じ姿勢で身体が凝ったのか大きく伸びをして肩を回す。


 男は大きく切り裂かれた服の下へ手を伸ばすと、ごそごそと何かを引っ張り出し、摘まむようにして目の前へと持ってくる。


 それは血糊が入っていた布袋だった。


 男は空っぽになった布袋を無造作に放り捨てる。



「ふぅ、これで自由の身だな。侵入のためとはいえ犯罪者になるのはもうこりごりだぜ。しかしここまでやってハズレを引くとは思ってもみなかったな」


 偽装した切り傷以外、何の特徴もない男はそう言いながら顔の顎下辺りに手をかけると爪を立ててカリカリと擦りはじめた。


 すると皮膚が大きくはがれる。



 男は構わず、そこに指をかけ思い切り額の方へ向けて勢い良く引きはがす。


 すると顔全体の皮がビリビリと音を立ててめくれ上がった。



「いてて、糊が効き過ぎなんだよな……」



 それは皮ではなく皮に似た物――。


 つまり変装用のマスクだった。


 マスクを外した素顔は特徴のない顔から、縫い傷だらけのものへと一変する。



「こんなもん着けてると暑苦しくてかなわんぜ」


 と溜息交じりにマスクを投げ捨て、新鮮な空気を肺一杯に吸い込む。



「ふぅー。さてと、報告に戻らないといけないわけだが……」


 何もない周辺を見渡しながら、ふっと溜め込んだ息を大きく吐き出す。


「……どうやって戻ればいいんだろうな」


 男の呟きは広々とした倉庫に吸い込まれ、砂煙の舞う荒野へと漏れることはなかった。





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