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21 出立


 エルザの声を掻き消すようにして爆発が発生し、俺を見上げていた上半身を跡形もなく吹き飛ばした。


 周囲に問題がないことを確認し巨人から飛び降りると、変身が解けてへばっているレガシーへと近づく。



「助かったよ」


 今回は助けられてばかりだったので素直に礼を言う。



「へへっ、俺がいねえとお前はだめだな」


 顔だけ動かして俺が近づいたのを確認したレガシーは大の字に寝転んだままニヤリと笑った。



「身動き一つ取れない奴に言われても説得力に欠けるわ〜」


「うっせー!」


 俺は動けないレガシーを背負いながらツッコんでおく。



「とりあえず人質と馬車を回収して帰るか」


「だな……」


「まだ新手がいる可能性も考えてお前が動けるようになるまではしばらくこの辺で隠れてやり過ごすぞ」


「悪ぃ……」


「気にすんなって」


 すぐに人質となっていたご令嬢を回収して馬車で脱出したいところだが、まだ何かいる可能性も否定できない。



 そのためレガシーが動けるようになるまで休憩後、再度工場内部へと侵入する。


 用心しすぎかもしれないが、ろくでもないのが二回も不意打ち気味に現れたのでしょうがない。



「さすがにもう何もなさそうだな」


「そう願うぜ」


「レガシー、結局残ったのは俺達二人だけになっちまったし、内部を調べるか?」


「……いや、止めておこう。もしまた新手が出たらきつい、さっさと出よう」


 俺もレガシーも負傷したし、またあんなロボやデスザウルスがでたら一溜りもないのは確かだ。【気配察知】で敵の有無を確認する方法もあるがここは広すぎる。 調べ終わる頃に外から新手が来る可能性も否定できないだろう。


「いいんだな?」


「命より大事な物なんてないからな」


 移動しながらレガシーに再度調べるか聞いてみるも、ここから出ることを優先すると返事が返ってきた。そうと決まったらこんな所に長居は禁物だ。さっさと脱出するに限る。


 俺達は周囲を警戒しながら馬車があった場所まで戻った。



 馬車の周囲には人っ子一人おらず、人質のご令嬢がスヤスヤと眠っているのが妙に悪目立ちして見える。



「なあ、どうするよ?」


 レガシーが眠っている令嬢を見下ろしながら俺に聞いてくる。



「だよなぁ、今が国外へ逃げるチャンスだよな」


 レガシーの言いたいことは分かるので歯切れの悪い返事をしてしまう。



「ああ、でもそうなるとこの子を置いていかないとダメだよな」


「まあな。一緒に行ったら今度は俺たちが誘拐犯になっちまうぜ」


 国外へ逃げる上でこのご令嬢を連れて行くとなると、今度は勝手に誘拐犯の冤罪が確定してしまう。


「そうなるわな」


 俺の答えに神妙そうな顔をして頷くレガシー。



 今なら簡単に逃げ出せる。


 だが、そうなるとご令嬢は連れて行けない。



「かといって置きざりにするのもなぁ……」


 だが俺達だけで逃げてここに置いて行くのも後味が悪い。


 命の危険が付きまとった少し前とは違い、目に見えた驚異が過ぎ去った今になると尚更その気持ちが強くなってしまう。


「助けが来ると思うか?」


 と、レガシー。


「ご令嬢らしいから来るとは思うけど、この場所に連れて来られたことが分かってないと、いつになるか分からんだろうな」


「う〜む」


 俺の意見に二人して腕組みしながら考え込む。


 ……正直参った。



「諦めて、こいつを届けるか」


 俺はレガシーにそう切り出した。



「……そうするか。まあ、逃げるチャンスはまたあるだろうしな」


 レガシーもしょうがないなといった表情でそれに同意する。



「じゃあ、ご令嬢をお家に送り届けるとしようぜ」


「大層なご褒美でも貰えるかもしれないしな」



 俺達は逃亡することを諦め、人質を送り届けることに決める。


 やることが決まった俺達は令嬢を寝かせたまま馬車の状態を確認し、出発準備を整えた。



「うし、後は出発するだけだな」


「ああ。で、このお嬢さんはどうするよ? 寝かせたまま乗せてくか?」


 レガシーがご令嬢を顎で差しながら寝かせたまま移動させるかと聞いてくる。



 ぶっちゃけ寝ていてもらった方が色々手間が省けて楽そうなのだが移動には数日かかるので、きっとどこかで目覚めてしまうだろう。なら事情説明のためにも一旦起こしておいた方がいいかもしれない。



「いや、起こそう。誘拐犯の仲間と勘違いされても困るからな」


「それもそうだな」


 誘拐犯の馬車を使って移動するので目覚めたとき攫われたままと勘違いされる恐れがあるし、起こしてしまうことにする。


 ちょっと事情説明が立て込んでいるが、この場で済ませておいた方が後々のトラブルが少ないだろうという判断だ。現場を見てもらっておいたほうが説明もしやすいはず。


「おーい! 起きてくれ! おーい!」


 俺はすやすやと眠るご令嬢の肩を揺すりながら声を張る。


「う……ん」


 するとすごく面倒臭そうに俺の手を払いのけつつ、ご令嬢が目を覚ました。


「気がつかれましたか?」


「ここはどこだ?」


 ご令嬢はむくりと起き上がり、俺を睨みつける。



「多分誘拐犯のアジトです」


「……そうだ! 私は攫われて……」



 混濁していた記憶が段々と戻ってきたのか、ご令嬢の顔は寝起き顔から驚愕と恐怖が入り混じった表情へと変化していく。


「みたいですね。俺達は別件でこの工場を襲撃する任務についていた三等市民の傭兵です」


「そう……なのか?」


 自己紹介を簡潔に済ませるも、その言葉を鵜呑みにしていいのか複雑な表情を見せるご令嬢。



「はい、どうやら俺たちの対象とあなたを攫った犯人が同一組織の人間だったようです。犯人達は全員殺してしまったので、詳しいことはわかりませんが……」


「全員死んだのか?」


「ええ、あれです」



 事情を説明しながら誘拐犯の死体の下へ案内する。


 お嬢様らしいし死体を見て怯えるかと思ったがそんなこともなく、じっくりと見て何かを納得している様子が窺えた。



「……うむ、間違いない。この顔には覚えがある」


 しっかりとした言葉で自身を攫った者達だと断言するご令嬢。



「それでこちらの任務も終了したので帰ろうと思うのですが、どちらにお送りすれば良いでしょうか? 俺達はデーレナイン収容施設までの道しか分からないですけど」


 一番の問題は俺達がいた収容施設しか帰る場所を知らないということだった。


 ご令嬢が自宅までの道のりを知っていればありがたいのだがという思いを込めて質問をぶつける。



「それで構わん。事情を説明すれば、そこから送ってもらえるか迎えが来るはずだ」


 だが、ご令嬢も帰り道はわからないようで収容施設で手続きしてもらう腹積もりのようだった。



 まあ誘拐されていたわけだし、目隠しやら眠らされる薬なんかを飲まされていればここがどこかはっきりわからないのも仕方ないだろう。


「分かりました。ではいきましょうか、俺はケンタです。こいつはレガシー」


「よろしくお願いします」


「ああ、世話になる」


 簡単な自己紹介を終えるとご令嬢を荷台へと案内し、俺達は御者席へと座った。



「じゃあ行くか」


 馬の手綱を握りながらレガシーに声をかける。



「なあ、よく考えたら任務達成して人質救出もしたし、これって案外ポイント高いじゃないか?」


「そうだな。帰り着くまでは浮かれた気分でいても罰は当たらないよな」


「ネガティブだな!」


「これだけの目にあったのにお前がポジティブ過ぎんだよ」


「前向きなのはいいことだろうが」


 確かにレガシーの言う通り、中々良い働きができたかもしれない。



 だが、損害も出ている。


 この国の感じだとその部分を突かれてプラマイゼロくらいにもっていかれそうな気がするのは俺がネガティブすぎるせいだろうか。



「まあ、帰り着くまでは誘拐犯が用意してくれた旨い飯でも食いながら夜はしっかりと呑んでいこうぜ」


 街に着いてからのことは置いておいても、今は誘拐犯が補給した食料が結構あるのでしばらくは楽しめそうだった。


「いいね。だがここはモンスターが大量に出る。油断は禁物だぞ?」


 浮かれた俺を見かねたレガシーにあまり呑むなよと釘を刺されてしまう。



「ああ、ほどほどにしとかないとな。じゃあ行くぞ?」


「おう、頼むわ」


「で、これってどうやって進めるんだ?」


 馬車の操作を知らないことを思い出した俺は手綱を握った今になって首を傾げる。



「俺に聞くなよ。馬に任せときゃなんとかなるだろ」


「こ、こんな感じか?」


 俺がおぼつかない感じで手綱を動かすとそれにつられて馬も前へと進み出す。


「お、動いたな」


「お、おぉ……。行けそうだわ」


 なんとか馬が動き出したことに安堵する。



「まあ、前に進むのはなんとかなったな」


 足を投げ出して座りながらレガシーが呟く。



「ネガディブだな」


「お前がポジティブすぎんだよ。で、どうやって曲がるんだ?」


「え?」


「早くなんとかしないと逆走するぞ」


「え?」



 などと締まらない会話をしながら俺達はデーレナイン収容施設へ向けて出発した。



 ………………逆走はしていない。





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