20 黒い悪夢2
弓を投げ捨て、片手剣を抜いた俺と蛇腹剣を収縮させたレガシーがエルザ目掛けて突進をかける。これで一気に止めといきたいところだ。
「アーーーーーーーハッハッハッハッ!! ざぁあ! んん! ねぇえ! んん!」
が、焦った表情から一変し、ニタリと口角を吊り上げたエルザが全身を反り返らせながら奇声を上げてあざけ笑う。
次の瞬間、だらんと垂れ下がった腕が問題なく動きだし、俺達目掛けて突っ込んで来た。
「くっ」
「うおっ」
すんでのところで迫る拳をかわすも巨大な腕は四本あり、俺達が気がついた時には次撃が目の前にあった。
(かわせねぇっ!)
俺は咄嗟に腕を畳んでガードしようとする。
側面から抉りこむように迫った拳は防御姿勢の俺に接触。
腕でのガードは何の役にも立たず、黒く巨大な拳が一瞬の間にめり込んでいく。
柱のような巨人の腕は俺の腕を砕き、ガードの上から内蔵を圧迫し、それでも突き進む。
「グアッ!」
「ゴフッ!」
俺とレガシーは車に撥ね飛ばされたかのような衝撃を受け、順に空中へ旅立つ。
まるで癇癪を起こした子供がおもちゃに当たったように無造作に吹き飛ばされる。軽く宙を舞い、地面へ叩きつけられ、数回バウンドしたところにレガシーが降ってくる。
「グヘッ」
追加ダメージを受けてうめき声が漏れる俺。
そんな俺を下敷きにして衝撃を和らげるレガシー。
「洒落になってねぇ……」
レガシーは俺の上から転がるように離れて愚痴をこぼす。
「くっそ、あんな頭がおかしそうなしゃべり方で演技するとか反則だろ……」
「どっかの大根より名演だったな」
効果的な攻撃を仕掛けていると思ったら、まんまとはめられてしまった。
エルザとしてはしてやったりだろうが、こっちはお陰で致命傷だ。
そんな中、事態は更に悪化する。
「って……、おい」
「まじか……」
二人してじっとりと額に汗を滲ませながら立ち上がることも忘れて後ずさる。
「…………アッハ♪」
こちらへとゆっくり近づいていたエルザはそんな俺たちを見て自身に怯えているのだと勘違いしたようで唇の歪みが増していく。
俺たちを見下ろしながら目と口元を限界まで歪ませ楽しそうに笑う。
……確かに俺達は恐怖していたが、それはエルザの背後に迫るものが急に見えたからだ。
音もなく、急に姿を現したそれから目が離せないままじりじりと後ずさる。
そんなことには全く気付かないエルザは猛り狂ったように笑い散らす。
「こぉお! れぇえ! でぇえ! おぉお! わぁあ! りぃい! だぁあアアーーーーッッハッハハ…………あ?…………」
俺たちへ刀を振り下ろそうとした瞬間、後ろからがっちりホールドされるエルザ。何ごとかと振り向けばそこには唾液をダラダラと垂らしながら大口を開けたデスザウルスがエルザの巨体を掴んでいた。
デスザウルスのアギトがエルザへと迫る。
「いっけっぇ! デスザウルス!」
「頑張れデスザウルス!」
俺達は重い身体を引きずるようにして立ち上がりながら、やけくそになってデスザウルスを応援する。どちらが生き残っても嬉しくないのは確かだが俺達が狙われなかったのは僥倖だろう。
とにかく巻き添えを食らわないように少しでもその場から離れようとする。
「おまえはああああっ! 私の体をかえぇえせえええええっ!」
後ろから迫るデスザウルスに気付いたエルザは表情を一変させ、憤怒の形相を見せる。以前食われたことを思い出したのか俺たちのことなど忘れ、巨人の腕で肘うちをしてデスザウルスの拘束を解き、背後へ向き直ると掴みかかった。
エルザは巨人の腕でデスザウルスをがっちりとホールドし、生身の上半身でガトリング砲を乱射する。
だが、デスザウルスの硬い皮膚は鉄杭をことごとく弾いてしまう。
デスザウルスは鉄杭を嫌がったのか再度かみ付き攻撃を行ってきた。
「おぉのれぇええええいっ!」
エルザは慌てて巨人の両腕で大きく開かれたアギトの上下を閉じないようにと受け止める。
巨大なデスザウルスのアギトはワニのかみ付き同様、開く力は弱くとも閉じる力は強いようで巨人の腕でも堪え切れずにじわじわと閉じていく。
エルザがアギトの驚異に気づいた時にはすでに遅く、離脱しようとするも巨人の片腕がかみ千切られた。
それ以上の被害を抑えようとデスザウルスの眼球目掛けて鉄杭を乱射するエルザ。
鉄杭は眼球に殺到し見事に突き刺さる。
「グルウゥゥゥウオオオオオンッ!」
鉄杭を嫌がったデスザウルスはうなり声を上げながら数歩後退する。
「許さんぞぉおおおおおおおッッ!」
エルザはその隙を逃さず、残った巨人の腕で巨大な刀を抜刀する。
二本の腕を使って時間差で振るわれた疑似居合い術が二連の銀雷となってデスザウルスへ降り注ぐ。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
二筋の銀雷を受けたデスザウルスは断末魔の悲鳴を上げながら三つに分かれた。
だがデスザウルスの皮膚は相当硬かったようで切り裂くと同時に二本の大太刀は折れてしまい、鉄板となった破片が地面へと落下する。
散らばり落下する金属の破片が光を反射し、同時に落下していく分断されたデスザウルスの肉塊を照らす。肉塊が落下した鈍い巨音と金属の破片が地面へ接触する高音が混じり、風の音しかしない荒野を彩る。
「デスザウルスウウウウウウ!」
「うおおおおお!」
まさかの事態に驚愕する俺とレガシー。
あの凶悪なモンスターがやられてしまうとは思ってもみなかったため、目を見開いて驚く。そしてそんなモンスターを倒した相手と今から戦わなければならないという事実を前に自然と声が出てしまう。
「つぅう! ぎぃい! はぁあ! おまえだぁああァアーーーーーハッハッハッハッッ!!」
デスザウルスを倒し、解放感溢れる笑い声を飛ばすエルザがタイヤを回転させてこちらへと振り向く。
じわじわとこちらへと向き直るその目は愛くるしい物を愛でるかのように細められ、口元は三日月と見紛うばかりに薄く弧を描き、喜び以上の何かに満ち溢れたその顔は形容し難い笑顔を貼りつかせていた。
「やべぇ! 来るぞ!」
身構える俺。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
エルザがこちらへ振り向こうとするタイミングにあわせて変身するレガシー。
「爆破あああああ!」
俺はそれに合わせて乱戦に紛れ込んでエルザの足元に仕掛けておいた爆弾を起爆した。起爆ボタンを押し込むと同時に凄まじい閃光と衝撃波が発生し、エルザの片足を破壊する。
「なっ!? 足がッ!」
突然の出来事に何が起こったのかもわからないまま、爆発によってタイヤを破損し片膝をつくエルザ。
「フレイイイムウウウウアロオオオオオオーッ!!」
片足を破壊され身動きが取れなくなったところに変身を終えたレガシーの極太フレイムアローが発射される。
溶岩の塊のようなフレイムアローは巨人のまだ無傷の方の片脚に直撃し、両足の破壊に成功する。
「今度こそ終わりだっ!」
俺は動けなくなって地を這う巨人目掛けて特攻する。
巨人へ駆けながらすばやさを犠牲に力を上げる【剛力】と、体力を犠牲に力を上げる【膂力】を発動して力のステータスを上げ、すばやさが落ちた分を補てんするために【疾駆】を発動させた。
さらにドスに触れ【気配遮断】を限定発動させようと溜めに入り、正面からでも【暗殺術】が使えるように準備を整える。
限定発動が成立するまでにはしばらく時間がかかるが、エルザに到達するころには問題ないはずだ。
「こぉおお! ろぉおお! すぅうう!」
エルザは不完全な脚で膝立ちになり生身の上半身からガトリング砲を乱射してくる。
「うるせぇっ!」
俺はエルザの腕を見ながら軌道を予測して鉄杭をかわしながら接近し続ける。
「あああっぁああああああっ!」
鉄杭が当たらないことに苛立ったのか残った三本の巨腕を振り下ろしてくるエルザ。駆け寄る俺に向かって三本の巨腕が順に迫る。
「オラアッ!」
俺は一本目の巨腕をギリギリまで引きつけてかわす。
振り抜かれた巨腕から発生した強風にあおられつつも前へと駆ける。
かわした巨腕は勢い余って地面に突き刺さった。
俺はその巨腕に飛び乗るとそのままエルザの上半身目掛けて走り続ける。
腕に乗った辺りで【気配遮断】の溜めが終わり、手が半透明になった。
次に少しでもリーチを伸ばすために【かまいたち】を発動させる。
「くぅうるぅぅなぁぁあああああ!」
エルザの絶叫と共に二本目の巨腕が迫る。
「ハアアッ!!」
俺目掛けて振り下ろされる巨腕をエルザの方へ飛ぶようにしてかわす。
「あぁぁあああああああああっ!」
最後の巨腕が空中の俺に迫る。
「ぶっ飛べぇえぇぇぇええええっ!」
俺は空中で【気配遮断】を使っていない方の腕で片手剣を抜き、【剣檄】を発動して巨腕を弾こうとする。片手剣と金属の拳が接触した瞬間にスキルが発動し、巨腕を弾き飛ばすことには成功するも刃が粉々に砕け散った。
刃の破片が舞い散る中、巨腕を弾いた勢いで身体を回転させ、姿勢を制御しながらエルザを見据えて飛びかかる。
「オラアアアアアアアッ!」
俺は回転しながら落下の勢いに任せてエルザの上半身へ【居合い術】を放った。
一瞬の間に鞘から抜き放たれたドスは凄まじい勢いでエルザへと迫り、その軌跡が銀の糸のようになってすっと宙に残る。銀糸はエルザの腹部を這うようにして通り抜けた。
「――――――あっ」
そんな小さな声と共にエルザの上半身が跳ね飛ぶ。
分断されたそれは巨人という高所から落下し、宙を舞う。
――チン。
俺はドスを鞘へとしまい、巨人の首元へと着地する。
巨人から見下ろす俺の目と驚愕の表情で地面へと落下するエルザと目が合う。
その瞬間はほんの少しの間のはずなのに、まるでスローモーションのように見えてしまう。
エルザは地面へ落下し数回バウンドして止まった後、片腕だけで器用に身体の向きを変えて這いつくばった。
「ま、まだだ!」
苦し紛れの台詞を吐くエルザは割とピンピンしているようで這って巨人の身体へと戻ろうとしはじめた。
何とか腕の力のみで巨人へと近づこうとするエルザ。
「よっ」
俺はそんなエルザの上半身目掛けて爆弾を投げつけた。
「ッ!?」
爆弾を間近で見ていないエルザは俺が投げた物が何か分からずに警戒を強めていた。
――だが終わりだ。
「あばよ」
起爆ボタンを押し込む。
「ぁ――」
エルザの声を掻き消すようにして爆発が発生し、俺を見上げていた上半身を跡形もなく吹き飛ばした。
何度か書きましたがエルザは……。




