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19 黒い悪夢


「出た」


「出たよ」



「人を虫か何かのように言うのは関心しませぇぇええんんんんんねエエエエッッ! アーーーーーハッハッハッハッ!」


 エルザだ。



 ……エルザ、……だと思う。




 二人を遠方に吹き飛ばした黒い塊は金属の腕だった。


 だが、その腕は人間の腕に例えるより建築物の柱に例えた方が伝わり易い大きさだった。そんな黒光りする金属の柱を四本生やした巨人が目の前にいる。



 その姿は一言で表現するなら黒い金属の巨人。



 体長はゆうに五メートルを越えている。


 腕が四本ある金属の巨人。語弊を気にせず表現するならロボだ。


 腰にはそんな巨体に見合う特大の刀が二本装備されていた。


 刀……、だと思う。



 黒く光る肢体に無骨さはなく、流れるような曲線がどこか女性を思わせるフォルムとなっていた。

 だがその巨人に頭部はない。


 本来頭部が収まる首から上にはエルザの上半身が埋め込まれていたのだ。



 エルザ自身も黒いウエットスーツのようなものを着用しており、全て黒だ。


 今まで義手があった部分には細長い金属の筒が円形に連なった巨大な何か……。


 っていうか、ガトリング砲のようなものがついている。


 巨人の腕が四本、元からあった腕が二本、計六本になっていた。



「アーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハッハッッッ!!!」



 そんな巨人の頭部にあるエルザの上半身が小刻みに身体を震わせながら高らかに笑う。



「なんであんなに笑ってるんだ? 笑いどころなんてなかったよな?」


 と隣のレガシーを見る。



「むしろこっちが呆れて笑いたいくらいの状況なんだけどな」


 肩をすくめて顔を左右に振るレガシー。



「だよな。なんだよあれ」


「俺が知るか」


 俺の問いかけにレガシーが投げやりに答える。


 何をどうやったらこんな結果になるんだ……。



「何をコソコソと話しているんんんですかぁぁああねぇぇええ!」



 目を見開いたエルザが異常に声を張り上げながらこちらを見下ろしてくる。


 その表情からは狂気以外何も感じ取れない。



「なんだよあれ……、もうほとんど原形残ってねえよ」


 呆然と黒い塊を見上げる。



「すげえことになってるな。でもあれはお前担当だろ? なんとかしろよ」


「いつから俺が担当になったんだよ! ……チェンジで」



「悪いな、当店はチェンジできないシステムを採用しているんだ」


「くっそ、なんだよその店……」


 どうやらレガシーが経営する店はサービスに問題があるようだ。



「ここで葬ってくれるわあぁァアーーーーハッハッハッハッハッッ!」



 俺達が呆けていると、エルザが狂気を孕んだ笑い声を響かせながら自身の腕についたガトリング砲をこちらへと向けてくる。


 腕の動きから数秒遅れて連結した筒がゆっくり回転をはじめ、見えなくなるほど勢いがついたところで轟音とともに大量の鉄杭がこちらへ向けて発射されてきた。


 俺はレガシーと共に全力疾走で射出された鉄杭を必死で避ける。



「なんだよあれ!?」


 現状の把握が追いつかず、とにかく走って逃げようとする。


「鉄杭だろ!?」


「そうじゃなくてだな!」


「来るぞっ!」


 わけもわからないままばら撒かれる鉄杭の雨をかわし、ひたすら走る。



「にぃい! がぁぁあ! すぅぅうう! かぁぁあァアーーーーーハッハッハッハッハッッ!」


 エルザは巨人の踵付近についた球状のタイヤのようなものを回転させ、金属の身体を反転させるとこちらを追ってきた。どうやら走って移動するのではなくタイヤのようなものを回転させて走行するようだ。……凄いロボい。


「ァアーーーーハッハッハッハッハッハッハッハッ!」


 エルザは生身の上半身部分を限界まで震わせて狂ったように笑い、巨人部分は前傾姿勢のまま足についたタイヤを高速回転させてこちらを追跡してくる。



 そして、巨人部分の柱のような四本の腕のうち二本を大太刀の鞘へそえ、もう二本の腕で刀を握ると躊躇なく抜刀してきた。


 落下するギロチンの刃のように大太刀が俺達へと襲い掛かる。


「はああああっっ!?」


「うおおおお!?」



 俺達は異常なデカさの大太刀による攻撃をダイブするようにジャンプしてかわす。そしてダイブからしなやかに前転へ移行し、すっと立ち上がるとシンクロしたようにダッシュを再開する。



「なんだよあれ!?」


「刀だろ!」


「二本あったぞ!」


「でかすぎだろ!」


 レガシーに確認するも、やはり刀のようだった。


 ただ、そのサイズには納得いかない。


 あんな電柱みたいな物をほいほい振り回されるこっちの身にもなってほしい。



「こぉお! ろぉお! すうぅぅうァアーーーーーーーッハッハッハッハッッッ!!」


 エルザは巨人部分で特大の刀を鞘にしまいつつ、その隙を軽減するかのように生身の上半身で鉄杭をばらまいてくる。



「このままだと外に出ちまうぞ!」


 いくら広大な部屋とはいえ、ここまで走り続けると端も見えてくる。



「行くしかねえだろ!」


「二手に別れて挟み撃ちにするぞ!」


「了解だ!」


 全力で走り続ける俺とレガシーの前に屋外へと通じる出口が見えてきた。


 このまま屋内で戦えば折角手に入れた馬車に被害が出る恐れがあるので外に出るしかない。


 立ち止まれない俺達はそのまま出口へと駆け出す。



「にぃい! げぇぇえ! てぇえ! もぉお! ムゥウ! ダァアア! だぁあァアーーーーッハッハッハッ!」


 俺達は甲高い笑い声に追い立てられるようにして工場の外に出た。



 そのまま後ろを振り返らずに二手に別れ、舗装された地面をひた走る。


 俺達が別れるのと同時に今までいた場所に大量の鉄杭が突き刺さり、あっという間に金属の草原ができあがってしまう。


 全力で走る俺は接近してきたエルザをレガシーと両側面から挟むように回り込みつつ手甲から鉄杭を抜き取る。


「ハッ」


「オラアッ!」


 タイミングを合わせた俺の鉄杭とレガシーの蛇腹剣が巨人の胴に直撃する。



 が、鉄杭も剣も黒光りする金属の身体には傷をつけることができず、跳ね返されてしまった。



「むぅう! だぁあ! だぁあァアアアアアアアアアアアッッッ!!」


 レガシーの蛇腹剣を巨人の腕で払いながら、俺の方へガトリング砲を乱射してくるエルザ。


「ですよね〜」


「おいおい……」


 俺は飛来する鉄杭を必死でかわしながら全力で駆ける。


 レガシーは払われた蛇腹剣を巻き取りつつも唖然としていた。



 なんとなく予想できた結果のため、さほどショックはなかったが苦戦の気配だけは刻一刻と強まっていく。


「頭部、っていうか生身の上半身を狙うぞ!」


「ああ!」


 今度は狙いを生身の部分にしぼって攻撃すればなんとかなるだろうと考え、行動を再開する。俺とレガシーはエルザの周りを走ってかく乱しながら生身の部分へと狙いを定めていく。


「よっ」


「ハアアッ!」


 俺の放った鉄杭とレガシーの蛇腹剣が巨人の首から上ににょっきりと生えたエルザの上半身へと迫る。


「アーーーーーーーハッハッハッ!!」


 しかし、巨人の腕をボクサーのガードポーズのようにして生身の身体の部分を覆い、鉄杭と剣を弾くエルザ。



「意外に素早いんだよなぁ……」


「どうなってんだよ!」



 巨人は走ることは苦手そうだったが、その部分はタイヤを使った走行で補っているし、腕は居合い術かと見紛う程素早い抜刀を可能にしている。要はデカい割りに動きが素早いのだ。


 そのためガードも完璧で俺達の攻撃はあっさり防がれてしまった。



「関節だ! デカい腕の関節を狙うぞ!」


「おう!」


 こういうのは関節部分が弱いってのが鉄板だと考え、次の攻撃場所を決める。


 腕でガードされるならそれを先に破壊してしまえばいいだけの話だ。


 そう、それだけの話だ……。まだまだ余裕なんだ……。



「ハッ!」


「オラァッ!」


 俺とレガシーは挟み込むような位置取りを保持しながら巨人の四本ある腕の内、上二本を狙って攻撃を開始する。



 俺は鉄杭、レガシーは蛇腹剣でそれぞれ肘の関節を狙って攻撃を放つ。


 俺達の攻撃は上手く腕の継ぎ目に命中し、今度は傷を負わせることに成功する。


 特にレガシーの蛇腹剣での攻撃は俺の鉄杭より威力が高いせいか、うまくいきそうな気配があった。


「グウウウウウゥッ!」


 巨人の部分には痛覚は無いだろうが、それでも俺たちの狙いに気づいて唸り声を上げるエルザ。その表情からは焦りの色が見え隠れしていた。


 エルザはどうにか関節部に攻撃が当たらないようにと暴れまわりはじめる。



(いけるか!?)



 エルザの表情を窺う限り、うまくいきそうな感じがする。


 俺はレガシーの攻撃を受けてエルザが暴れ出した瞬間を狙って、アイテムボックスから弓を取り出し、矢を番えた。


 鉄杭よりこちらの方が威力が高いので、この隙を活かして装備を変更していく。



 激しく動き回るエルザへ弓を向け、弦を引き絞りながら狙いを定める。



 俺はエルザから繰り出される様々な攻撃をやりすごし、確実に当てようと走るペースを調節しながら呼吸を落ち着かせた。


 矢の先端から出る赤いラインだけを頼りにせず、【弓術】に身を任せて狙いを限界まで研ぎ澄ます。


「フッ」


「くらえッ!」


 俺の放った矢とレガシーの蛇腹剣がそれぞれ関節部に命中する。



 焦るエルザを尻目にレガシーと交互に攻撃して翻弄させつつ、ひたすら関節部分を狙う。交互に攻撃して翻弄する作戦は成功し、俺を意識すればレガシーがレガシーに注意を向ければ俺が関節部への攻撃を決めていく。


 その後も攻撃を続行し、徐々にダメージが蓄積してきたのか、しばらくすると腕の動きにぎこちなさが現れはじめた。


 そして――。


「アアアッ!」



 数回巨人の肘関節へ攻撃を加えた後、エルザの悲痛な声が響く。


 それと同時に巨人の腕の上二本がだらんと下がり、全く動かなくなってしまった。


 どうやら狙いは上手くいき、腕の機動が阻害されたようだ。


「今だ! 接近するぞ!」


「おうっ!」


 俺はチャンスと判断し、レガシーに声をかけながら致命打を狙おうとエルザへ接近する。



 どの程度腕が止まっているかわからないので、ここは一気に致命傷を負わせてしまった方がいいだろう。二人で攻撃すればかく乱にもなるし、ここで特大の一撃を喰らわせるつもりで一気に距離を詰める。



 弓を投げ捨て、片手剣を抜いた俺と蛇腹剣を収縮させたレガシーがエルザ目掛けて突進をかける。これで一気に止めといきたいところだ。


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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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