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17 類は友を呼ぶ


「くそっ、援護するぞ」


「ああ、落ち着きの無い奴らだぜ」


 俺は弓を構え、レガシーは魔法を撃つ準備をする。



「死ねぇぇええ!」


「ヒャヒャッ!」


 物騒な掛け声と共に背後から手斧で襲い掛かる掃除屋。


 それに続いてパトリシアもナイフで斬り掛かる。



「ガァッ!」


「グフッ!」


 虚を突かれた男達は成す術も無く背後から攻撃を受けて一撃で絶命していた。


 だが、残りの二人が異変に気づいて身構えようとする。



「フッ」


「フレイムアローッ」


 そこへ俺の放った矢とレガシーの魔法が飛来し、掃除屋とパトリシアが討ち漏らした奴らへと向かう。


 俺が放った矢は頭部、レガシーの魔法は胸部に命中し、残っていた二人の誘拐犯を仕留める。


 ……殲滅完了だ。



「これで馬車はなんとかなったな」


「荒地で野垂れ死ぬ可能性は低くなったってわけだ」



 援護に成功した俺とレガシーは掃除屋達に合流しようと馬車の方へと向かう。


 掃除屋達と合流し、荷台の中を覗き込むとさっき見かけたご令嬢がすやすやと眠っていた。



 誘拐犯が使っていた馬車だし何か仕掛けがあっても嫌だったので、とりあえずご令嬢を背負って外に出すと床に寝かせる。


 一旦馬車の中を調べてこのまま使うか、馬だけ引き連れて俺達が使っていた馬車に繋げるか迷うところだが、ひとまず一段落ついた形となった。


「とりあえず、足の確保と人質救出は何とかなったな……」


 レガシーに声をかけながら寝かせたご令嬢を見下ろす。


 冷たい床の上で熟睡中のご令嬢は薬でも嗅がされたのか全く起きる気配がない。



「こんなわけの分からんところに長居は無用だ。詳細は後で決めるとして、一旦ここから離れようぜ」


「レガシー……、いいのか?」



 レガシーがここから離脱しようと言ってくる。


 だが、ここには人がいないとはいえ、今戦った五人組の情報があるかもしれない。レガシーとしてはここを調べて手がかりを探りたいのではないだろうか。


「この間みたいに暴走して迷惑かけるわけにはいかんからな」


 しかしレガシーは前回オカミオの街で独断先行したことを気にしているようで自嘲気味にそう呟いた。


 ……この施設は広い上にほとんど物がない。



 そのため調べるとなると、かなり時間がかかってしまうだろう。


 だが、時間をかけて調査してもメリットがあるのはレガシー一人。


 レガシーはそういった部分を気にしているのだろう。



 俺とレガシーの二人だけの状態なら調査に付き合っても構わないが掃除屋達がいるうえに誘拐されたご令嬢もいる。他の面子を説得するのは難しそうだし今回は残念だが断念してもらった方がいいかもしれない。



「……分かった、なら行くか。馬車はどっちを使おうか? このままこいつらので行っちゃうか?」


「どうやら罠もなさそうだし、このままでいいんじゃないか? 都合良く補給も済ませてあるしな」


「それもそうか……。おい、お前らもそれでいいか?」


 レガシーとの話を終え、馬車をこのまま利用する方向でいいかと掃除屋達に確認しようと顔を向ける。




 すると、なぜか掃除屋がご令嬢に斬りかかろうとしていた。


 掃除屋は握りこんだ手斧を躊躇なく振り下ろす。




「って、なんでお前が暴走してるんだよ!」




 慌てて二人の間に滑り込み、振り下ろされた手斧を片手剣で受け止めた。


 冗談で振り下ろしたわけではないのが受け止めた手斧の重圧からはっきりと伝わってくる。



「ちょっとその人質を殺させてくねえかな? シシッ」


 掃除屋の発した言葉と共に受け止めた手斧が力任せにぐいぐいと押し込まれてくる。


「はぁっ!?」


 驚いた俺は片手剣が抜けそうになったのを慌てて握りなおす。



「失敗した仕事の対象がそいつなんだよな。一応やっておこうかと思ってね」


「今更殺しても報酬なんて貰えねえだろ!」


「全額は無理だろうが、交渉次第だな。シシッ」


「こんな時に面倒事を増やしてるんじゃねぇっっ!」


 どうやら失敗した要人暗殺のターゲットがこのご令嬢だったらしい。


 ……通りで顔を知っているわけだ。


 俺は鍔迫り合いから振り下ろされた手斧を力任せに押し戻し、掃除屋との距離を空ける。



「ッ!?」


 が、そこで妙な気配を感じて体をそらす。



 身体を捻りながら気配がした方へ顔を向けると、そこにはナイフを突き出したパトリシアがいた。相変わらず舌を出したままの口元は歪に吊り上がり、狂気を孕んだ笑みを漏らす。



「なんでお前まで暴走してるんだよ!」



 声を荒らげながら少しずつ後退し、パトリシアとの間合いを離す。


 俺は掃除屋とパトリシアを視界に入れつつ横たわるご令嬢の傍まで移動する。そして、ご令嬢をわきに抱えて更に下がる。



「いやあ、実は私、こう見えて殺し屋なんですよ。少し前にあなたの抹殺依頼を受けたのですが、依頼主があなたに殺されてしまいましてねぇ。あなたを探し出すのにとても苦労したんですよ?」


 パトリシアは狙いが外れて空を斬ったナイフを器用に回転させながら手元へと戻す。



「ん? 依頼主が死んだのなら別に俺を殺す必要なくね?」


「とても払いの良い方でしてね。私のことを信用して前金で全額払ってくれたのですよ。そうなってくると依頼主が死んだからといって仕事を放棄するとお金を持ち逃げしてるみたいで後味悪いじゃないですか? それに折角あなたに会えたのに何もしないとか有り得ないですね。ヒャヒャッ」


 なるべくなら知らずに別れたかった情報を今得てしまったが、どうやらパトリシアは殺し屋でそのターゲットが俺だったらしい。



 パトリシアの依頼主に関しては心当たりがあるといえばある。


 多分、ギャングの幹部の内の誰かが依頼したのではないだろうか。


 となると掃除屋と共謀していたのだろうか……。



「へぇ、こんな所までご苦労なこった」


 そこで感心したような呟きをもらす掃除屋。



 その言葉にはパトリシアが殺し屋だったことを知っている素振りはなかった。


 むしろ今はじめて聞いたという感じがする。



 どうやら今の行動は二人で計画されたものではないようだ。


 掃除屋は単独で行動することが多いと聞いたし、何も知らなかったのかもしれない。



「なんで今襲って来るんだよ!?」


 一番の疑問をパトリシアにぶつける。



「どうやらここには誰もいないようですし、大した邪魔が入らない上にこの国を出る移動手段も手に入った今がその時かと思いましてね。ヒャヒャッ」


 この状況で襲ってくるパトリシアにうんざりして尋ねるも、今が好機だと答えられてしまう。確かにこの国でやりあうことを考えると今はかなりベストな状況なのかもしれない。


 俺にしてみれば迷惑な話だが……。



「一緒に戦ってきた仲間を殺すのは後味悪くないのか?」


「それは経験してみないと分からないですね。ヒャヒャッ」


 そこそこ仲良くなれたと思って情に訴えてみるもすげなく断られてしまう。



 パトリシアはそんな俺との会話の合間に抜いたナイフをアイスキャンディーのように丹念に舐め回しながらギラついた目をこちらへ向けてくる。


 刃を舐める奴ってはじめて見たけど見てるこっちが緊張してくる。


 どうでもいいけど舌とか切りそうなんだよな……。



「グンクリーニ、落ち着けって。普通に人質救出で謝礼が出るかもしれないだろ? パトリシアも依頼人が死んだのならもういいじゃねえか、な? 二人とも止めろって」


「シシッ、いやだね! 俺としてはアンタと決着をつけられるのは願ったり叶ったりだしな」


「お断りします! 依頼を成し遂げ、清々しい気持ちになりたいですからね。ヒャヒャッ」



 再度説得してみるもやはり断られる。


 二人とも受けた仕事に対してとても誠実な態度を示す……。


 どうせなら俺に接するのにもそのくらいの優しさみたいなものがあってもいいと思う。



「……結局こうなるのか」


 二人を交互に見据えながら片手剣を構えつつジリジリと間合いを調節する。


 会話しながら後退していたので随分と距離を離すことには成功したが、油断できる状況ではない。



「お前ってシリアルキラーを惹きつけるフェロモンでも出てるんじゃないのか?」


 俺の呟きを拾ったレガシーがやれやれと肩をすくめる。



「その話でいくとお前もシリアルキラーってことにならないか?」


「じゃあ……、あれだ。類は友を呼ぶってやつか」


「その話でいくとお前も類に入らないか?」



 レガシーはどうにも俺に殺人鬼を吸い寄せる何かがあると結論付けたいようだが、そこは断固として否定したいところ。そんな物があるならチョロイン引き付ける何かを持ってる奴にトレードを申し出たい。…………断られるか。


「お前……、ほんとそういうのに大人気だな……」


「ちょっとーーー! 傍観してないで助けてーーーー!」


 俺が二人を警戒しながら武器を構えていると、レガシーが半眼で溜息混じりに呟く。


 そんな他人事みたいに振る舞わずに助けて欲しいと情感たっぷりに訴える。


 二対一とか勘弁してほしいのでまじヘルプです。



「「死ねえぇぇぇっ!」」


 しかし、レガシーに助けを求めている間に掃除屋とパトリシアは俺に襲い掛かって来た。



「ヘルーープッ!」


 俺は叫びつつも、抱えていたご令嬢を床を滑らせるようにして遠方へと放り投げる。


「しょうがねぇなぁ……」


 再度救援を要請すると呆れたような物言いでレガシーが武器を抜く。


 二人で会話している間に掃除屋とパトリシアは凄まじい速度で接近し、俺との距離を縮めてきた。



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