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16 試行錯誤2


 これからのことが決まったころには周りが明るくなってきていた。



 ……そう、目の前にある光の柱のせいで、夜が明けたようだった。



「いかん……やりすぎた」


 考え事をしていたため、ゴブリンを放り投げすぎていたようだ。


 光の柱は以前やらかした時と同じ位の高さになってしまっている。慌てて放り込むのをやめるが、ここまで大きくなると収まるまで時間がかかる。



「まぁ、(多分)実害はないし綺麗だからいいか」


 二つのことを同時にやっていて片方に集中してしまい、もう片方のことを忘れてしまうなんてよくあることだ。


 カップ麺にお湯を入れてテレビを見ていたらカップ麺のことを忘れていたようなものだ。


 いうなれば、この光の柱はスープを吸いすぎてベショベショになった麺だ。


 あれはあれで好きな人もいるし問題ない。……きっと大丈夫だろう。


 とりあえず俺は光の柱に手を合わせ、ルーフに気づかれないことを祈った。


 …………


 翌朝、これからの詳細を決めていく。


 ここを出て次の街まで移動するとなればかなりの金が必要になる。


 となると、少しでも貯金する為になるべく節約していきたいところだ。



 一応、森暮らしの時点で宿代をカットできているが、さらに節約できる部分はないだろうか。


 この森に詳しくなったという利点を活かすなら、やはり食料の調達辺りが考えられる。


 野草やキノコは知識がないと見分けるのが難しいが、川魚なら比較的安全な気がする。


 少しでも無料で食えるものがあると、それだけ貯金が増えるし、ここは魚を獲ってみることにしようと考える。


 というわけで、いつもの川辺に来た。


 目を凝らして見ると魚はちゃんといるようだ。


 雲ひとつなくカラッとした晴天の下、俺はズボンを膝までまくり上げて裸足になると川に入った。


 気温が高く、何もしていなくても暑いので川の水の冷たさが気持ちいい。



 川は思ったより深く、ズボンが濡れてしまうがここまで来たら気にしても仕方ないので、なるべく波立てないようゆっくり歩く。


 川の水は透き通っていて中の様子が良く見えた。


 流れにあわせて日の光がキラキラと反射する。


 そんな綺麗な水に心奪われることなく、ひたすら魚を目で追い、足で追う。


 そんな俺をあざ笑うかのように魚はスイスイ逃げていく。


 やはり、そう簡単に獲れそうにない。


 ここはスキルの出番だろう。


【気配遮断】と【忍び足】を使ってみると、さっきまでの苦労がウソのように魚に近づけた。


 俺はナイフで削って先を尖らせた枝を構え、悠々と泳ぐ魚を目で追う。


 じっくりと狙いを定め、魚が通るであろう少し先に向けて枝を放つ。


 枝はしっかり命中し、魚の胴を貫いた。


 抵抗する魚が跳ねるたびに振動が枝から手へ伝わり、その重さと活きのよさを感じることができる。



 枝には返しが付いていないので逃げられるかと思ったが、深く刺さったので問題なかった。


 その後も場所を変えたりしてしばらく続けたが、今のステータスだと難なく魚を獲ることができた。


 大漁である。


 川から上がり、獲った魚を早速調理してみることにする。


 設備の整った場所でバーベキューならやったことがあるが、全てをゼロからやるのはこれが初めてだ。


 まずはかまどを作ろうと大き目の石を拾い集める。


 集めた石をCの字に組んでかまどを作り、集めておいた枝を中に入れる。



 俺は枝に火をつけようと、買っておいた着火用の魔道具を近づける。


 だが、中々火がつかない。枝がしっけているわけではないのだが上手くいかない。


 しばらく悪戦苦闘し、なんとか火をつけることに成功する。次に枝を切って作った手作りの串に魚を適当にぶっ刺し、炎の側に串を差し込んだ。


 その後は煙に目をしかめながら焼けていく魚をじっと見守る。


 そうやってできたのが真っ黒な焼き魚だった。



 見た目は丸焦げのように見えるが、この世界では魚を焼くと黒くなるのかもしれない。


 そう、これは食べごろの焼き加減。


 これはとても美味しい。


 そう自分に言い聞かせ食べてみる。



 ザリザリジャリジャリといった擬音が似合う食感。


 魚の味が全くしない上に苦味を通り越して炭の味がする。


 そういえば塩も振り忘れた。いや、塩のあるなしで修復できる味ではないが。


 そして見て分かっていたが丸焦げだった。誤魔化しきれない黒さと匂い。


 どう言い訳しようとも現物が目の前にあるのだから無意味だ。


 ……まずい。


 だが、よくよく考えると当然の結果ともいえる。


 俺に料理ができるはずがないのだ。


 仕事が忙しかったのもあるが家事が面倒くさくて、食事は全て外食ですませていたし風呂は銭湯へ行き、家には寝に帰るだけの毎日を繰り返していた。


 料理なんて小学校の家庭科の授業以来かもしれない。


 何故できると思ったんだろう。



 しかし、魚は簡単に獲れるのでなんとか物にしたい。


 金を貯めるためにも節約していきたいのだ。


 道具類を安物で補って節約しようとすると、すぐに壊れて結局うまくいかない。


 今のところ、食材の現地調達が一番負担が少ないと思う。


 まあ、今回は初めてだったし、何度かやれば味はともかく、食えるものにはできるだろう。



 とりあえずこれからは毎日魚を焼く時間を作ることにする。


 魚は今日の内に乱獲してアイテムボックスに入れておき、調理に集中できるようにしておく。これから少しずつでも上達すれば楽しみに変わるはず。


 味が旨ければなお良しといったところだ。


 次回に期待したい。



――焼き魚挑戦二回目。


 一回目の敗因で今の俺が思いつくことは、焦げたことと塩をふらなかったことぐらいだ。


 その二つはきっちり改善していこうと思う。


 と、今回改善するポイントを認識できたので早速準備に移る。


 まずはかまどに枝を置いて火をつける。火は相変わらず中々ついてくれない。


 その後、アイテムボックスから魚を一匹取り出し、塩を表面に塗りたくってから口から尻尾に向けて手作りの串をぶっ刺す。


 と、ここまでの作業で火が消えないように管理しながら魚をいじっていたので、焼く作業に入るまでに時間が掛かってしまった。次からは先に魚の作業を済ませてから火をおこすべきだろう。


 さて、前回は焦げてしまった。


 原因は火力が強すぎたためだ。


 焚き火はコンロのように炎の微調節は難しいがそれでも簡単な調節ならできる。


 以前は燃え盛る炎に薪でもくべるような感じで焼いたが今回は火を消える寸前のような状態でなるべくキープする。弱火で焼く作戦だ。


 薪の入れ方を調節し、火の勢いが弱まったところで魚が刺さった串を焚き火の側にぶっ刺し、じっくり様子をみながら火を調節していく。


 しばらく待つと表面に軽く焦げ目が着いてきた。


 今回は火が弱いので中が生の可能性があるので表面の皮は剥いでもいいからしっかり目に焼くことにする。


 前回に比べると火の勢いが弱いせいか焼き上がるまでかなり時間がかかったが、なんとか完成した。


 表面はわざと食べれないくらい焦がしたのでナイフで皮を削いでいく。


 焦げて黒くなった表面とは裏腹に中はうまい具合に白身がふっくらしていた。


 これは期待できそうだ。



 焼けた魚の身からじんわりと湯気がたつ、炊き立てのご飯のように白い。


 顔を近づけると温かさが伝わってくる。



 俺はホカホカの白身にかぶりついた。


 表面に塗りたくった塩は焦げた皮と一緒に削げ落ちたので、丁度いい塩加減になり、身はふっくらしている。


 前回の炭としか言えないものとは打って変わって、ちゃんと食べてうまい。成功だ。


 二度目で成功するとは思っていなかっただけに嬉しい。



 しかし食べ進めると苦味があった。


 今回はうまく焼けたため、中身が分かる状態なので観察してみると、どうやら内臓の部分に苦味を感じたようだ。


 そういえば内臓って取ってから焼くものだっけ? と記憶を探ってみるも焼いたことがないので覚えがない。


 外食の記憶を辿ってみるも、塩鮭や鯖の味噌煮なんかは切り身の状態で出てきていたので参考にならない。


 魚が一匹そのまま出てきた料理を思い出そうと頭を捻り、定食屋で食べたさんまの塩焼きを思い出す。 


 しかし、お腹の部分が開いていたような気もするがはっきりしない。



 食べる時なんて、うまいうまいと言いながら食べているだけで、どうやって作られていたかなんて考えもしないものだ。


 俺は思い出すのは諦め、次回は内臓を取ってから焼いてみることにする。



――焼き魚挑戦三回目


 今回は先に魚の処理を済ませてから、火をおこすことにする。


 まず川辺で平たい石を探し、それをまな板代わりにして魚の腹にナイフを当てる。



 生きていたら跳ねてうまくいかなかったかもしれないが、アイテムボックスに入れる為、殺しておいたので刃はすんなり入る。


 そう、以前ためしてみたがアイテムボックスには生きている動物を入れることはできなかった。


 だけど、植物は収納できる。そういったことを考えると収納できる境界線がどこにあるのか、なんとなく予想することはできる。


 アイテムボックスに収納する際、意識してから収納されるまでにラグが発生する。


 多分、あの瞬間に収納しようとしている物の座標や形状をスキャンしているのではないだろうか。


 だから常に激しく動き回っているようなものは収納できない。


 眠っているような個体でも体内では血液などが巡っているわけだし、上手くいかないのだろう。


 と、予想してみたがどうだろう。結構いい線いってる気がするのだが……。


 ――と、思考が逸れたが、魚の調理に戻ることにする。


 頭を落とした方がよかったのかもしれないが、串に刺す時に頭がある方が刺し易いのでそのままとっておく。


 なんとか内蔵を取り除く。次に川の水ですすいだ後、串に刺して塩を振り、魚の準備は完了した。


 串に刺すのも大分慣れてきて、ちょっとウェーブをかけたように刺せるようになってきたのが地味に嬉しい。


 次にかまどの準備をする。いつも火がつきにくかったので今回は細い枝や燃え易そうな枯れ草など中心に置いて外側に大き目の枝を立て掛けるように組み合わせてみる。


 薄く燃えやすいものから厚く長持ちするものへと順に火が燃え移るように枝の配置などにもこだわってみた。


 工夫の甲斐あってか、着火用魔道具で火をつけるとスムーズに薪へと燃え移ってくれた。


 やはり何度もやっているとコツが掴めてくる。前回、火の管理をしているときに魚を離して置けば火が強くても加減を調節できるのでは、と思いついたのでそれも試してみる。


 というわけで今回は火の威力は強いままに魚の串を以前より遠めの位置に刺し、様子を見てみる。


 火の様子をみながら串を回転させたり位置を変えたりして焼くと、とてもうまい具合に焼けた。


 表面は軽く焦げ目が着いて、中までしっかり火が通っているのが外から見てもなんとなくわかる。これは期待できそうだ。



 見ているだけで口の中に唾液が出てくるので、早速実食に移る。


 今回は皮も食べれる程度に焼いたので皮ごと食べることにする。



 改めて焼き魚を見てみる。


 表面は焦げ目がつき所々表皮が薄く剥がれていて、まだ焼いた余韻が残っているため、ほんのり湯気がたっている。


 表皮が割れた隙間から気泡がたち、それが割れると肉汁じわりと垂れる。そんな熱々の魚を見れば食べなくてもわかる。


 これは間違いなく旨い。


 俺は反射的にかぶりついた。


 表面のサクッとした歯応えのあとは、魚の身のふんわりとした食感が続く。


 口に入れ咀嚼していると表面に多めについた塩とふっくらした身の旨味が混ざり合って口の中に広がってくる。


 上手く焼けた達成感と焼き魚の旨さからくる満足感で心が満たされる。


「ここに酒があればなぁ……」


 少し塩気が強いせいもあり、無性に酒が欲しくなってしまう。


 だが贅沢は禁物だ。いつかは飲みながらつまみたいものだ。


 その後、大き目の魚は鱗を取るようにした。


 他にできることはないかと血を抜いたりもしてみたが魚のサイズがそれほど大きくなかったためか、あまり味に変わりはなかった。


 多分そういう作業が必要になるのは切り身で食べるようなサイズの魚なんだろうと思う。一種類しか調理したことがないのでなんとも言えないところだが……。


 なんとか今回で食べれるくらいには上手く焼けれるようになった。


 次は一度に複数焼いてみようと思う。



――焼き魚挑戦四回目


 三回目でうまく焼くことには成功したので今回はアイテムボックスにある残った魚を全て焼いてしまい、いつでも食べられる状態にしていく。


 まずはひたすら魚の内臓を取り出す作業を行う。


 何度かやるうちに刃の差し込み加減や、お尻の方から刃を入れると上手く内臓がとれることがわかった。


 次に塩を塗り、串に刺していく。


 串に刺すのもいろいろ試してみたが口から差し入れ一旦エラから出し、その後は串に対して背骨が波線を描くように刺すと安定するようだ。


 初めは口から真っ直ぐぶっ刺していたが、それだと串が途中で外れたり、身と串に隙間が出来て、焼いている最中に回転したりするので今の方法に落ち着いた。


 無事魚の下処理が終了したので次にいく。


 今回、獲った魚を全部焼いてしまうため大き目のかまどを五個作った。このかまどで同時に焼いていくことにする。


 そのため、薪にする枝も途中で尽きないように大量に用意した。


 積み上げられた薪は、遠くから見ると素人が作った丸太小屋のようだ。


 そんな丸太小屋の側にあるかまどで早速火をおこしていく。


 色々工夫してきたせいか一連の作業が随分手早くできるようになってきた。


 全てのかまどの火が安定したら、串に刺した魚をかまどの内側に斜めに傾くように刺す。


 そして大量の串が円錐状になるように調整して配置する。


 同時進行で大量に焼いていくので中々集中力が必要な作業になりそうだ。


 火を安定させながら串を回転させ、魚に火がまんべんなく当たるようにしていく。


 一つのかまどが終われば、中腰のまま駆け足で隣のかまどへ移動し、同じ作業を繰り返す。


 一番端のかまどにたどり着き、作業が終われば折り返す。焼き上がった魚は冷めないよう、すぐにアイテムボックスにしまい、入れ替えで次の魚を刺していく。


 そんな作業を終わりが見えないまま延々と続ける。


 雑念を払って眼前の作業に集中し、かまどの間を中腰で移動し続ける。


 煙に目をしかめながらひたすら往復する……。



 ――何か思った以上に大変だった。


 まるで焼き魚の屋台でもやっている気分だ。


 前回までは試行錯誤しながらのんびり楽しくやっていたのに今回は大違いだ。



 ……一体どこで間違ったんだ。


「なぜ俺は一度で全てを終わらせようと思ったんだ……」


 一気にやろうとせず、何回かに分けて焼くべきだった。


 そんな思いを抱きながら最後の周回に入る。


 これが焼き上がれば終了だ。


「ん~」


 ずっと中腰だったためか、腰に疲労を感じたので一旦立ち上がり伸びをする。


 確か作業を始めたのは早朝だったのに今はもう夕方だ。


 随分時間が経ってしまった。


 手を組んで思い切り体を伸ばした姿勢のまま視線を落とす。


 そこには五つのかまどと、それぞれにびっしり刺された焼き魚が見えた。


 ……少しやりすぎた。


 冷静になると中々に異常な光景だ。




「何やってるんだ……、俺は」



「何やってるんだ……、お前は」


 かけられた声にハッとして振り向くと、そこにはルーフが佇んでいた。



 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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