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15 慌てるミック


「あ」


 そんな中、パトリシアが何かに気づいてぽつりと呟いた。



「何そのやばい感じの“あ”。この状況で“あ”って呟いたらダメだろ!」



「で、何かあったのか?」


 俺が興奮する中、レガシーがパトリシアから事情を聞く。



「どうやら見つかってしまったようですよ? ヒャヒャッ」


 そう言ったパトリシアの視線の先を見れば、馬車から飛び降りた男達がこちらへ向かって来るのが見えた。


「うそだろ!?」


予想外の事に目を見開くミック。



「まあ、工場からは死角だったが、誘拐していた奴らからは普通に見える場所に馬車を停めていたからな……」


 冷静に現状を分析する掃除屋。



「どうすんだよ?」


「工場に知らせに行かれる前にやるしかないよな……」


 俺はレガシーの問いかけにやるしかないと答える。


 工場に到着されてしまえば折角気づかれずにいたのが台無しになってしまう。



 全てを投げ出して逃げるにせよ、向こうに気付かれた状態では口封じのために追っ手を出される可能性もある。


 となると、とにかく誘拐犯を全員倒してからその後のことを考えるしかないだろう。



「いや、なんか人質運ぶ奴と馬車から降りてこちらへ向かって来るのに別れたみたいだぞ?」


 と、レガシー。


「……終わったな」


 目撃者を消してうやむやにしようという俺の目論見は実行前に破綻した。



 残念ながら俺達を消す奴と人質を運搬する奴に分断してしまった様子。


 そのため、人質を運搬している馬車はそのまま止まらずに工場へと向かっていく。



 そして俺達が話している間に馬車から飛び降りてこちらへと足早に向かって来る男達が次第にはっきりと見えてきた。


 気が付けば、逆に俺達が足止めされた状態となってしまったようだ……。



「向こうは三人だな」


 こちらへと迫る男達の方に目を凝らすレガシー。



「地味に多いな……」


「剣を持っているのが二人。杖を持ってるのが一人だ」


「杖ってことは魔法使いか?」


「だろうな、豪華な誘拐犯だぜ」


 レガシーがこちらへ向かって来る男達の分析を終える。


 どうやら戦士系が二人、魔法使いと思わしき奴が一人らしい。



「ようは皆殺しにすればいいんだろ? 任せろ、得意だ」


「独り占めは感心しませんねぇ。ヒャヒャッ」


 俺とレガシーが相手を見定めている内に掃除屋とパトリシアが嬉々とした表情で飛び出していく。



「お、おいっ、あいつら行っちまったぞ!」


 二人の独断行動を見てミックが声を上げる。


「考えがまとまらん……」


 腕組みしながら俯く俺。


「倒したとしてもその後どうするか決めかねるよな」


 レガシーも現状に迷いを感じているようで、行動に移すのをためらっていた。



「そうなんだよな〜。逃げるのが一番だろうけど、そうなると監視役を殺した上に任務放棄して誘拐を見逃すわけで……。逃げ切れずに捕まったら死刑確定だよな?」


 どう考えても八方ふさがり感が半端ない。


「どの道、監視役を殺ってる時点で確定じゃないか?」


「それもそうか〜……」


 目の前で誘拐犯と掃除屋達がおっぱじめるも、俺とレガシーは迷っていた。


 本来なら加勢してさっさと片付けるべきなのだが、どうにも考えがまとまらずにすっきりしないため出遅れてしまう。



「おいッ! 何悠長に話してるんだ! あいつらやりはじめたぞ!」


 慌てるミック。


「そう思うならお前も行って来いよ」


「あ、一人倒した」


 ミックを冷たくあしらっていると、レガシーから相手が一人死んだと報告が入る。どうやら掃除屋が戦士系の男を一人倒したようだ。



「ど、どうするんだ! おいっ!」


 慌てるミック。


「いや、それを考えようとしてたわけでだな……」


「あ、また倒した」


 俺達と掃除屋達をせわしなく交互に見ているミックに返事をしている間にレガシーから相手がもう一人死んだと報告が入る。


 今度はパトリシアが残りの戦士系の男を倒したようだ。


「あいつら強いよな」


 何とも危なげない強さの二人だ。


「殺すことへの即決力と行動力は目を見張るものがあるな」


 戦闘を傍観しながら呟くレガシー。


 確かにあの二人は戦う上ではとても頼りになりそうなのだが、それ以外が問題だらけでなんともいえない。



「あ、ああっ! こっちに何か来るぞ!」


 慌てるミック。


「ミック、ちょっとうるさいぞ? って、流れ弾か!?」


「よけろ!」


「やべっ」


 ミックの妨害が入り、ゆっくり考えさせてもらえないことにイラついていると、こちらへフレイムアローとおぼしき魔法が多数飛来してきた。


 慌てた俺とレガシーはダイブするように飛んで魔法を回避する。


 俺たちが飛び退いた瞬間、今まで立っていた場所が爆炎に包まれた。


「おいっ! 大丈夫かおいっ!?」


 心配したミックが俺たちの側へと駆け寄ってくる。



「うおぅ、煙がすごいな……」


「あ、倒したみたいだな」


 地面に直撃したフレイムアローのせいで巻き上がった土煙がおさまると、掃除屋とパトリシアが魔法使いを挟み撃ちにして倒しているところが見えた。


 俺達が加勢する間もなく二人で全て倒してしまったようだ。



「あ、あああああああっ!?」


 そんな掃除屋とパトリシアを遠くから眺めているとミックが絶叫する。



「さっきからなんだよ! ちょっと静かにしろよ!」


「あ……」


「え?」


 騒ぎ立てるミックに苛立っていると、レガシーが呆然とした表情で固まる。


 ミックとレガシーの視線の先を目で追うと、馬がフレイムアローの流れ弾に当たって死んでいた。



「馬が……」


 移動手段を失ってしまった。


 これはまずい……。



 俺とレガシーの二人なら最悪歩きでもなんとかなるかもしれないが、他の面子にアイテムボックスのことを本格的にバラしたくない。特に掃除屋とパトリシアの二人に知られるのはまずい。


 俺達が立ち尽くしていると、追っ手を仕留めた掃除屋とパトリシアが合流してくる。



「面倒臭い悪あがきをしてくれたもんだな。シシッ」


「足がなくなりましたね。ヒャヒャッ」


「ここから徒歩で向かえるところに街ってあるのか?」


 俺は呆然として固まっているレガシーとミックを無視して戻ってきた二人に尋ねる。



「そんな利便性の高いところに武装集団が潜伏していると思います?」


「いや、もしかしたら地域密着型の村おこし武装集団かもしれないだろ」


「わけのわからないこといってないで、さっさと工場で足をかっぱらおうぜ。シシッ」


「そうなるわな……」


 結局工場行きは避けられそうにない状況になってしまった。


 最低でも内部で足を見つけないとだめだ。



「レガシー! ミック! 行くぞ!」


「そうだな」


「あ、ああ……」



 呆けるレガシーとミックに声をかけ、工場へと向かう。


 …………


「つってもどうするんだ?」


 レガシーが建物を目前にして聞いてくる。



「どうするって?」


「いや、周りに何も無いから隠れて近づくこともできないし、さっきの馬車はもう工場の中に入っちまってるから俺らのこともバレてるだろ? そうなると絶対待ち構えられてるよな?」


「そういやそうだった……」



 全てバレてる状態で近づくとか自殺行為過ぎる。


 だが、移動手段が欲しいので結局行く以外の選択肢がない。


 逡巡しながら建物の方を見てみるも外へ出てくる人影はない。


 ……案外バレていないのだろうか。



「何を迷ってるんだ? 正面から行けばいいだろ? シシッ」


「問題ありません。こちらへ寄って来るものから順に殺せばいいだけですよ。ヒャヒャッ」


 そう言うと掃除屋とパトリシアは何を思ったのか工場へ向かって駆け出した。



「あっ、おいっ!」


 ミックが二人を手で制しようとするも間に合わない。



「追うか……」


「だな……」


 気は進まないがあいつらが死ぬと確実に戦力ダウンになる。


 そして、どの道工場へは入らないといけない。


 なら行くしかないだろう。



 意を決した俺とレガシーは掃除屋とパトリシアの後を追って工場へ向けて走り出す。


 やはり外に人はおらず、すんなりと建物の傍まで接近できてしまう。


 そんな状況にいぶかしみつつも、俺達は内部へと侵入する。



 …………


「あれ?」


「誰もいないな……」


 掃除屋とナンシーを追って施設内部へと入り、辺りを見渡すも誰もいなかった。


 先行していた掃除屋達も奥へと進んでしまったようで、目が届く範囲には見当たらない。



「どうなってるんだ?」


「やっぱりただの廃墟なのか?」


 辺りを見回して出た感想は人がいないというより何もないといった方が適切だった。俺とレガシーは内部の様子に首をかしげる。



 お城だと思って近づいたらハリボテだったと思うほど何もない。


 建物のガワだけで中身はほんとにすっからかんの状態だ。


 とても風通しが良い。



「……おい、待ってくれよ」


 俺達が呆然としていると遅れていたミックも慌てて駆け寄ってくる。


 ミックと三人でそのまま建物の奥へと進むも物が何一つない状態の広い空間がただただ広がっているだけだった。


「人どころか物もないな」


 周囲を警戒しながら進むミックは緊張しているせいか妙に動きがぎこちない。



「ああ、だがさっき入って行った誘拐犯と馬車はどこかにいるはずだ」


「薄気味悪いところだぜ」


 レガシーとミックは不気味に静まり返る建物を見回しながらそれぞれ感想を漏らす。



 何もないせいか屋内運動場かと思ってしまうほど広い空間を見回しながらずんずんと進んで行く。


 ここまで何もないと見つからないように隠れる場所もないので慎重さも忘れてハイペースで歩を進めてしまう。


 それに先行した掃除屋たちの安否も気になる。



 レガシーが言った通り、建物に何もなかったとしてもさっき入り込んだ馬車は確実にあるはずなので最悪あれを奪うしかない。



 なんとも異常な雰囲気を感じながらも奥へと進む


 しばらくすると飛行機の整備場のようになっている更に広大な倉庫へと出た。


 もちろん倉庫の中は何もなく、ただただ広い空間があるのみだ。


 兵器工場という話だったが、ここまで作られた兵器も機材も見当たらない。


 もぬけの殻だ。


「ん〜……?」


 床を注意深く見てみるも数年放置されたような埃が蓄積しているわけでもない。


 むしろどこにどれくらい大きさの物が置いてあったか分かる感じで日焼け跡や隅に埃がたまっていたりする。


 なんというか少し前まで色んな物で溢れていたが今は全てが持ち出されてしまったのではと思わせるような痕跡だ。


「ダメだ、見つからねえ。シシッ」


「ここは広すぎますね……」


 俺達が倉庫の中心で佇んでいると掃除屋とパトリシアがこちらへと向かってきた。どうやら、この建物が広すぎて馬車を探すのに手間取っている様子。


「まあ、この広さだとな……」


「手分けして探すか?」


 俺とレガシーが掃除屋達を向かえているとミックが何かに気付いて表情を変えた。



「おい、何か来たぞ!」


 ミックの声が合図となり皆の視線が一斉にそちらへと向く。


 何もない建物の中コツコツとこちらへと向かって来る足音のみが静かな空間の中で響く。



 足音は一つではなく複数。


 これだけ広い空間だと端々まで見ることはできなかったので、どこか別の部屋にいた連中がこちらへと向かって来ているのだろう。


「五人か……」


 こちらへ向かって来る人数が微妙に多くてぼやいてしまう。


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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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