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13 特に何も


 レガシーから順に何か言ってきていたが全員の視線はすぐに俺から逸れ、焼きおにぎりに熱く注がれる。



「あ、ごめ……。一緒に食う?」



「当たり前だ」


「シシッ、当然だろ」


「もちろん。ヒャヒャッ」


「いいのか!?」


 気持ち良いくらい即答した全員の視線は俺にではなく、焼きおにぎりに密集したままだった。焼きおにぎりに人を惹きつける魔性の魅力でもあるのだろうか。



 何かを諦めた俺はアイテムボックスからおにぎりを四つ取り出し、同じ手順で焼いていく。


 酒を出すべきかちょっと迷ったが、この面子で酔うとトラブルの予感しかしないのでやめておく。


「今、どこから出した?」


 ミックが目を白黒させながら俺のおにぎりイリュージョンについて言及してくる。



「一発芸だよ。もうこれで全部だからおかわりはないぞ?」


 適当にごまかしながら金網の上のおにぎりを小まめに転がして醤油を塗っていく。本当はまだまだあるが、おにぎりのサイズが結構デカイし一個で充分だろう。


 これ以上たかられるのは御免だ。



 上手い具合に焼きあがったら餓えた顔を見せる奴らへと順に配っていく。


「アンタ、料理とかできるんだな。最近ろくな物を食ってなかったせいか尚更うまく感じるぜ。シシッ」


 焼きおにぎりを食いながら掃除屋が満面の笑みを見せる。


 何気に戦闘以外で掃除屋のこんな顔を見るのははじめてかもしれない。



「まあ、ずっと旅してたようなもんだしな。お前だってこのくらいならできるだろ?」


「無理だね。一緒に旅に出るようなことがあれば料理は頼んだぜ。シシッ」


「お前と旅とか、ないわ〜」


 心底嫌そうに返事をする。



「そう、邪険にするなって。これでもあんたの実力は買ってるんだぜ?」


「お前も強いよな。あの時は結構辛かったぜ」


「あれは良かった……。ああいうのがイイんだ」


 ちょっと恍惚な表情を浮かべて呟く掃除屋。


「うーわ……。引くわ〜」



 俺はその顔を見てドン引きである。


 そんな宇宙を感じているような顔をされれば誰でもドン引きするのは当たり前だと思うんだ。


「その内アンタにも命を賭けたギリギリの殺し合い以上の娯楽なんてないってことが分かる日が来るよ」


「ぇ〜……、俺の中で一番の享楽っていったら一日中ゴロゴロしてることなんだけど」


 布団にくるまったままスマホいじって昼まで過ごす――。最高だと思います。



「目覚めさせてやろうか? シシッ」


「やめて下さい。死んでしまいます」


「つれないねぇ」


 俺は隙を見せると戦おうとしてくるバトルジャンキーの誘いをなんとか断る。


 ついさっきまで普通に会話していたはずなのに、どうしてこうなった。



「大体つい最近要人暗殺の仕事で満足したんじゃないのかよ? 何でも食べすぎは身体に毒だぞ?」


「あれは騙されたようなもんだな。不完全燃焼で納得がいかん」


「そうなの?」


「金目当てで受けた依頼だったんだが、ガキ一人殺すはずがおまけが大量にいてよ。散々な目にあったぜ」


「ふーん」


 どうやら失敗した仕事では満足できなかった様子。



「職を失ってちょっと焦っていたのかもな。シシッ」


「その気持ち、ちょっと分かる気がするからなんか嫌だ」


「そう言うなよ。俺とお前の仲じゃないか」


「それほどの仲じゃないだろ!」


「じゃあ、ごちそうさん。シシッ」


 焼きおにぎりを早々に食い終わった掃除屋はすぐに寝ようとはせず、腹ごなしのためかその場でくつろぎはじめた。


 俺は掃除屋との会話を終え、他の奴らをなんとなく見渡す。



 すると焼きおにぎりを食ってるパトリシアと目があう。


 パトリシアは掃除屋と違い、少しずつ上品に焼きおにぎりを食っていた。



「物を食べるときはちゃんと舌をしまうんだな」


 焼きおにぎりが熱いのか大事に食っているのか、少しずつ食うパトリシアを見て舌が出ていないことに気付く。


「舌をかみ切ってしまいますからね」


「そういやパトリシアは何やって捕まったんだ?」


 それもそうだと思いながら捕まった理由を聞いてみる。


「私は特に何も?」


「え?」


 が、返ってきた回答の意味がよく分からず首をかしげる。



「街を歩いていたら不審者と間違われてそのまま一直線でした」


「……その舌、しまっとけよ」


 俺は焼きおにぎりを食べ終えて元気そうに顔を出したパトリシアの舌を見ながらそんな事を言ってしまう。


「それはできない相談ですね。ヒャヒャッ」


「舌のせいで捕まった可能性が否定できないな……」



 何もしていないのに不審者と間違われて連行とか同情を禁じえない。


 それと同時に深夜の帰宅中に必ず職質食らう友人のことを思い出し、懐かしい気持ちになってしまう。


 なんとも罪作りな舌だ。



「私も冤罪だと主張して捕まえようとした者を片っ端から昏倒させましたがダメでしたよ……」


「うおい! 何やってるんだよ!?」


 数秒前まで可哀相だと思っていた俺を返して欲しい。



 それは間違いなく一直線だと思うわけで。


 というかそれだけ暴れまわってよく三等市民まで上がってこれたものだ……。


 パトリシアが一体どれだけの修羅場をくぐってきたのか想像もつかない。



「何って、何の理由もなく捕まりそうになったら抵抗するでしょ?」


「抵抗の仕方に大きな問題を感じるけど、その質問だとYESと言わざるを得ないな」


「捕まった後、何度も何もしていないと言ったのですが問答無用でしたね」


「……そりゃな」


「何故でしょう」


「何故だろうな」


 パトリシアは心底不思議そうな顔をしていたが、俺は全ての疑問が解消されてスッキリした。



 ついでなので傍で焼きおにぎりを大事そうに食っているミックにも捕まった原因を聞いてみる。ミックは久しぶりのまともな飯のせいか、少しでも味わえるようにゆっくりと食べているようだった。


 が、焼きおにぎりを凝視する目に狂気を感じてちょっと怖い。



「ミックも何人か半殺しにしたのか?」


「おい、何自然な導入みたいな感じでろくでもないこと聞いてきてるんだよ! 俺は何もやってない」


「どうやら最近の流行では暴行は何もやってない内に入るらしいぞ」



 俺は今日、何もやっていないという言葉に個人差があることを学んだ。



「どこかのあばずれと一緒にするな。俺は本当に何もやってない」


 その言葉を聞いてパトリシアがこちらをチラリと見てきたのを感じたミックはぶるりと震え、身を強張らせていた。……言わなきゃいいのに。


「じゃあ、なんで捕まってるんだよ」


「……暴動に加担したと勘違いされて捕まったんだよ」


「まじか」


「まあ勘違いされたのは俺だけじゃなくて近所に住む奴ら全員だったけどな」


「ぇぇ〜……」


 どうやらミックは誤認逮捕らしい。


 しかも集団を丸々逮捕とか超怖い。



「この国じゃ珍しいことじゃない」


「そうなの? 物騒な国だな」


「俺は市民権購入の借金もないし、二等市民からの降格だから刑期も短いはずなんだよ。だからあんたらが大人しくしていれば俺のお勤めはすぐ終わるんだ」


「それは心臓が停止して人間としての全ての労働から解放される的な意味合いで?」


「違う! 多分俺はこの一回だけで大丈夫なはずなんだ」


 ミックの話では自分は二等市民から三等市民に落ちたので借金もないし、大した罪でもないから短い期間で戻れると言う。それはうまくいけば今回の任務だけで済むくらいらしい。



「ってことはミックはこれがはじめての任務なのか?」


「そうだ。あんたらもそうだろ?」


「そうそう、俺らが最後に集合場所に来たからその辺知らなくてさ」


「俺を含めて全員初任務のはずだぜ」


 そして今の会話で分かったがどうやら俺達全員今回が三等市民小隊としての初任務のようだった。



「そっか、一発目から命綱なしの綱渡り状態だな」


「俺は渡りきってみせるぜ……」


「生きて帰れるといいな……」


「物騒なこと言ってるんじゃねえよ」


「でもなぁ……」


「俺は生きて帰る……。帰るんだ……」


 ミックは俯きがちになりながら思いつめた表情で何度も帰ると呟いていた。


「そういうお前らはどうしたんだよ?」


 気を取り直して顔を上げたミックは俺達が捕まった理由を聞いてくる。



「「密入国!」」


 レガシーとハモってドヤり気味に答える。



「……そんな胸張って言うようなことかよ」


「脱獄囚だもんな、シシッ」


 呆れ顔のミックに掃除屋が続く。



「え、なんで知ってるんだよ!」


「風の噂でな……」


 が、掃除屋がこちらの事情を知っていたことに驚く。


 元幹部だし、俺なんかよりずっと広い情報網を持っているのかもしれない。



「中々波乱万丈な人生を送っているようですね。ヒャヒャッ」


「俺は平穏に過ごしたいだけなんだけどな」


 パトリシアの感想に俺はしみじみと呟いた。



「同感だ」


「奇遇だな」


 俺の呟きにレガシーとミックが同意する。


 穏やかな日常ほど尊いものなんてないよな、と目をあわせて頷く。



「私もです」


「ああ、俺もだ。シシッ」


「お前らは違うだろ!」


 それに続いてパトリシアと掃除屋も同意するがそれに関してはツッコんでおく。


 平穏とは無縁な方向に行動力があるくせに何を言っているんだか……。



「違いませんよ?」


「つれないねぇ……。シシッ」


 俺のツッコミに心外だな、というような表情を見せるパトリシアと掃除屋。


 心の底からそう思っているならこれ以上ツッコんでもこちらが疲れるだけと判断して俺はその言葉をスルーした。



 不意打ちのような展開から急遽はじまったトークだったがお互いのことを知れるいい機会となった気がする。


 それぞれ個性の範疇で価値観は違ったが、焼きおにぎりを通して少し仲良くなれた気がする一夜だった。


 その後、全員焚き火の前でしばらく思い思いにくつろいだ後、それぞれ気が済んだ者から馬車へと戻っていった。


 それを見送った俺は引き続き見張りを続け、交代の時間まで夜景を楽しんだ。



 その夜を境にして移動中に全員で会話する頻度も随分と増えたと思う。


 話すにつれ、それぞれどんな奴らかというのも大体わかってきた。



 掃除屋は案外話せる奴で、その夜をきっかけに割と会話も弾むようになった。


 だがそれを見たレガシーは俺の正気を疑うようなまなざしを向けてくることがある。


 まあ殺しあったわけだし、そう思われるのも仕方ないがこれから任務を一緒に遂行する上で不仲になるよりは増しだと思う。



 逆にパトリシアは話せば話すほど危険な奴であることが分かった。


 とにかく思考が殺すことに直結していて、何かにつけて殺しで解決しようと提案してくる。



 そのせいで会話がかみ合わないことこの上なかったが、いきなり逆上して暴力を振るってきたりするわけではない。


 そのため、大人しくしてくれている内は静観の方向でいこうということになった。



 そしてミックは普通にいい奴だった。


 ただ、掃除屋とパトリシアのキャラが濃すぎるため存在感が薄い。



 油断すると不在扱いにされる始末。


 とにかく二等市民に戻ることに必死な様子。


 今回の任務に一番やる気をみせているのはミックだろう。



 だが、国の汚いやり方を熟知しているので、そう上手くいくのか懐疑的でもある。俺達と話す機会も増え、仲良くなるにつれ逃亡に気持ちが傾いてきている気がする。



 色々あってはじめの頃より雰囲気が改善された馬車の中は食事事情以外は案外居心地が良かった。


 …………


 その後、数日かけて目的地付近に到着する。



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