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11 ダブルピース


「あれかよ! そこに住んでるよ!? 何だよ隔離部屋って!」


 デスザウルス討伐任務が含まれていなかったことについて聞けると思ったら今の居住環境に関して聞き逃せないことを言う掃除屋。


 どういうことだってばよ!



「隔離部屋ってのは用済みになった奴や、問題を起こした奴が入れられる部屋だな。まあ、アンタらは他が満室でそこになっただけじゃないかね。シシッ」


「……いや、だって数十人で行って全滅したって今言ったじゃん。……空き部屋あるよね?」


「なら、危険人物扱いってことじゃないのかね。良かったなVIP待遇で。シシッ」


 どうやら俺達は自分達でも気が付かない内に重要人物として特別待遇を受けていたようだ。


 ……なぜ、俺達が危険人物扱いなのだろうか。



 目の前でシシッて言ってる奴の方がよっぽど危険人物してるというのに。


 危険な匂いのするハードボイルドなイケメンという意味なら甘んじて受け入れなければならないが何故こんなことに……。


「良かねえよ! 大体なんでお前がこんなところにいるんだよ」


 嬉しくない特別待遇に憤りながら、なぜ掃除屋が三等市民生活を送っているのかを問い詰める。


「要人暗殺の仕事を請けたんだが、しくじってこの様だよ。シシッ」


「ざまあねえな」


「報酬が高かったから引き受けたのに、今じゃ借金を返す生活さ」


「まあ、お互い頑張って返済しようぜ」


「シシッ、そうだな」


 なんでこんな所にいたのか気になって掃除屋に聞いてみるも、どうやらこの国で一仕事しようとしたが失敗して捕まった様子。


 今は立派な二等市民になるべく借金の返済に努めているようだ。



 こうやって話してみると案外会話が成立するが、こいつは結構好戦的な性格だったし戦わないとしても警戒しておいた方がいいだろう。



 危険な匂いのする掃除屋との会話を済ませると、正面に座るパトリシアがじっと俺のことを見つめてくるので気になって話しかける。


「なあアンタ」


「ヒャヒャッ、何でしょう?」


 返事を返してきたパトリシアは、掃除屋に負けず劣らず凄い外見をしていた。



 メガネに三つ編みとクラスの委員長を彷彿とさせる大人しそうな特徴もあるが、その服装はボディペイントかと疑うほどピッチリしたラバースーツの様な物を着ていた。


 ボディペイントじゃないと判別できたのは首からお腹にかけてジッパーがついていたからだ。正直目のやり場に困るが、じっと見てしまっているので相手にはバレバレだろう。



 だが、服装にも増してやばいのが口元だ。



 なぜかは知らないがパトリシアはずっと舌を出していた。


 しゃべる時も出しっ放しなのでヒャヒャッと変な音が漏れるのだ。


 俺はそのことが気になってパトリシアに直接聞いてみる。



「ずっと舌出してるけど、乾いたりしてこないのか?」


 パトリシアの顔を見ていると夏場の犬を思い出して、なんともいえない気分になってしまう。暑いのだろうか。


「問題ありません。触ってみますか?」


「え、いや、いいけど。ところでダブルピースとかしてくれない?」



 俺は両手をチョキにしてカニのモノマネでもするかのようにポージングしながらパトリシアにお願いしてみる。



「何故かは分かりませんがお断りします。ヒャヒャッ」


 残念ながら断られてしまった。


 非常に悔やまれる。



 悔しすぎて俺がダブルピースしてしまいそうだ。


 俺が失意のどん底にいるとレガシーとミックの会話が聞こえてくる。



「お前の相棒、普通の面してるけど変な奴と気が合うんだな」


「偶然だな。俺もそう思ってたところだ」


「それにしても五人で工場襲撃とかやってられんぜ」


「一応先遣隊がいるんだろ? まあ、端からこうやって使い潰すつもりだったんだろうけどな」


「はぁ、俺は二等市民に戻りたいだけなんだけどな……」


「ご愁傷様だな」


 レガシーとミックは現状に憂いているようだったが、会話の中で俺が変な奴と気が合うとか根も葉もないことを言い出していた。


 まったく風評被害もいいところだ。



 しかしその後に言っていたことには同意できる。


 正直こんな少人数で兵器工場の襲撃とか御免こうむりたいし、ここは逃げた方がいいんじゃないだろうか。


 普通に考えて武装集団が大量にいる工場を攻略するより、馬車を操っている監視役の軍服メガネ達をやったほうが難易度は低い気がする。


 ……あいつらが超強いってオチでもない限りは。



「なあ、先遣隊と合流するとは言ってたけど工場襲撃するより、監視役を拘束して馬車奪って逃げた方がいいんでないか?」


 と、俺が監視役に聞えないように小声で提案してみる。



 まあ、どの程度の強さか分からないので不確定要素はあるが、それでも馬車を奪うのはありだと思うわけで。


 これは案外ナイスプランではないだろうか。


「シシッ、いいアイデアだな」


「ヒャヒャッ、では早速殺しますか」


「おい、やめろ! 俺まで共犯になるだろうが!」


「でも馬車も奪えるし、いい案だと思うが」


 俺のナイスアイデアはミック以外の賛成を得られる。



 が、会話の中で“拘束する”が“抹殺する”に変換されていたことが気になる。


 どうやらこの中にシリアルキラーが紛れている可能性がある。


 具体的には二人くらいいそう。



「なんで俺だけ反対なんだよ! 普通逆だろ!」


 皆が賛成したことにミックが逆上して声を張り上げているが、こいつはどうしたいのだろうか。



 このまま工場へ行って死にたいのだろうか。


 それとも工場を破壊したあと、次の任務で死にたいのだろうか。


 モンスターの巣への降下任務を終え、街とは名ばかりの監獄へ案内された俺はこの国のやり方に関しては心を許してはならないと思っている。


「いや、だってなぁ……。このまま無事任務が成功してもまた同等の内容が来るんだったらいつか死ぬだろうし、逃げた方がいいんでないか? まあ、殺すわけじゃないし拘束するだけじゃん?」


 俺がかみ砕いてミックに説明する。


 無事帰れても絶対“ご苦労! では次の任務を言い渡す!”とか言われそうなんですけど。



 大体今回は先の降下任務とは違い、借金の返済がプラスされている。


 俺が考えた結果になるのはほぼ間違いないだろう。



「なんだ? 二等市民に上がるのを狙っているのか? シシッ」


「それは頑張り屋さんですね。精々死ぬまで借りていないお金を返し続けて下さい。ヒャヒャッ」


「まあ、俺も賛成だな。工場襲撃するのも逃げるのもたいしてリスクが変わらんよな」



 やはりミック以外の賛同を得る。



 だがそこで今までずっと声を張り上げて反論していたミックが深刻な表情で静かに呟いた。


「あいつらは強い……やめとけ」


「そうなの?」


「当たり前だろ? 五人に対して三人の見張りだぞ」


「ん〜、いけそうな気がするんだけどな」


「俺たちみたいな雑魚がいくら束になっても勝てる相手じゃねえよ」


「雑魚……、ねぇ」


 俺はミックの言葉を受けて周りを見る。



 魔法剣士で変身ができるレガシー。

 ギャングの元幹部の掃除屋。

 そのギャングを殺して回った俺。

 よく分からないパトリシア。


 なんか大雑把に見て戦力的に問題ない気がしないでもない。


 ……案外いけるんじゃないだろうか。


 そんな思いでぼんやりと見回しているとレガシーと目が合う。



「いけるんじゃねえか?」


「ああ、問題ないね。シシッ」


「私も腕にはちょっと自信がありますよ? ヒャヒャッ」


 三人からも“大丈夫なんじゃね?”と言われてしまう。



「案外いけそうだぞ?」


 ミックに向き直って改めて問題なさそうだと言う。



「だが……、俺達や馬の食料は最低限の分量しか積まれていないはず。収容施設は国境からは遠い位置にあるだろうし、あまり日数がかかる移動なら難しいぞ」


「なるほど。確かにその辺も考えられてそうだよな」


 それもそうだと頷く俺。



「一気に国境まで行かずに近場の街で補給すれば大丈夫だろ?」


 中継点を探せば問題ないとレガシー。



「シシッ、それこそ今から行く兵器工場で何かしらかっぱらえば問題ないな」


 奪えばいいと掃除屋。


「監視官を食べましょう。ヒャヒャッ!」



「「「「え……?」」」」


 パトリシアの発言に全員が凍りつく。



「ま、まあ、食糧問題に関しては結構選択肢がありそうだぞ?」


 約一名を除いて案外良いアイデアが出た気もする。


 食糧問題もなんとかなりそうだ。



「目的地までまだ数日ある……、少し考えさせてくれ……」


 ミックはどうにも納得できないようで、そう言うと黙り込んでしまった。



「まあ、やるならあの街からは離れておいた方がいいよな」


「だな、追っ手がかかったときに振り切りやすい。シシッ」


 街から離れておいた方がいいという俺の発言に同意する掃除屋。



「では、目的地の側までは何もしないということで。ヒャヒャッ」


「その方が得策だな。しばらくは大人しくしておくか」


 パトリシアとレガシーもそれに同意する。



 どっちにしろ選択肢としては任務を遂行するか、逃げるかしかない。


 遂行する場合はそのまま流れに任せておけばいいので、逃げる選択を取ったときのことを皆で相談しながら工場を目差すことになった。


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