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7 その時、ケンタに電流走る


 俺はエルザ、レガシーは戦士風の男と対峙する。



「こんなところまで来てもらって悪いな」


 俺はエルザに話しかけながら、ジリジリと間合いを調節する。



「いえいえ、あなたのことを想えばこの程度なんでもありませんよ」


「なんかその台詞を聞くと勘違いしそうだわ」


「アッハ、あなたを殺せるのであれば、どんなことも苦ではありません」


「なんかその台詞を聞くと胸のドキドキが止まらないわ」


「私もドキドキが止まりません。お揃いですね」


「いや、多分質が違うと思うんだ」


「アッハ、それはどう違うか取り出して詳しく見てみないといけませんねッ」



 その言葉と同時にエルザの姿が霞む。


 異常な速度でこちらへ急接近してきたのだ。



(【縮地】か!? なら次に来るのは……ッ!!)


 エルザは俺の防御が成立するまえに肉薄し抜刀してくる。


 俺は慌てて【剣檄】を発動し、エルザの【居合い術】を弾こうとする。


 なんとか【剣檄】が間に合い、エルザが繰り出した鋭い剣閃を片手剣でギリギリのタイミングで弾く。


「アッハ!」


【縮地】で俺をすり抜けたエルザは刀を弾かれても気にせず、鞘に添えていた義手を振り上げ鉄杭を発射してきた。


「くそっ」


 俺は鉄杭を手甲で防ぎながら射線から逃れようと横へ跳ぶ。


「海賊やってたころはそんな事できなかったよな?」


 ジグザグに走り、連続射出される鉄杭をかわしながら接近を試みる。



「アッハ、親切な鮫に教えて頂いたんですよ。あなたも教わってきますか?」


「授業料に足食われそうだから遠慮するわ」


「なら私が教えて上げますよ。まずは義手を埋め込むためにも両腕を落とすところからはじめましょうか!」


【剣檄】の硬直から回復したエルザは俺を鉄杭でけん制しつつ再び【縮地】で迫ってくる。


 さっきは初見で焦ったが二度目となるとある程度予測も立つ。


 だが【剣檄】はクールタイムでしばらく使えない。


 そのため、俺もエルザの【縮地】に合わせて【縮地】で後退し、距離を保とうとする。



 (くっ!)


 が、そこでエルザの後方から矢が飛んでくる。


 咄嗟にナイフで弾くも【縮地】を発動しそこねてしまう。


 そこへエルザが急接近してくる。



「アッハッ!」


「グアッ」


 エルザの【居合い術】がすれ違い様にヒットする。


 何とか反応し、直撃は避けたが腿を切られてしまう。


「ボーナスよろしく」


 後方から弓使いの男がエルザへ軽口を叩く。



「契約範囲内だと思いますけど、考えておきますよッ」


 弓使いの男へ返事をしながら俺へと振り向くエルザ。


 振り向こうとする身体より先に義手が俺の方へ固定され鉄杭が乱射される。


「ぐおっ」


 足を切られたので一瞬踏みきりが遅れ、鉄杭が肩に刺さる。それでも俺はなんとか転がるようにして立て続けに殺到する鉄杭をかわし続けた。


 前転から起き上がろうと身を屈めたタイミングで足首のベルトから鉄杭を引き抜くと、エルザへ投げつける。


「手癖が悪いですね!」


 が刀で弾かれる。


「お前の義手には負けるぜ」


 エルザが鉄杭を弾いている間に一気に駆ける。


 ナイフを抜き【短刀術】を発動させ、スキルに身を任せた俺はエルザの背後にするりと滑り込む。エルザの刀と鉄杭は接近戦では取りまわしにくく、密着に近い今の状況では反応が遅れる。



 俺はその隙を逃さずナイフで流れるように斬りつける。


 側面から背後へと回る間に腹部、腕部、背部と三箇所を切り裂く。


「ガアッ」


 堪らず声を上げるエルザ。


「悪いな、確認する前にお前のドキトキは止まりそうだ」


 と、エルザに止めをさそうとした瞬間、斬られたのとは反対の腿に矢が刺さった。


「グオッ」


 矢は俺の予想を超えて深めに刺さり、そのせいで転倒してしまう。


 ……どうやらまた弓使いの男が妨害してきたようだ。



 だがそのままで終わらないよう、俺は倒れ様に手甲の裏から鉄杭を引き出し、【手裏剣術】を使って弓使いの男に向けて投げつけた。


 不自然な姿勢から投擲したにもかかわらず鉄杭は凄まじい勢いで弓使いの男へと迫る。



 俺が倒れたのを見て油断していたのか鉄杭は矢を番えようとしていた男の額に見事に突き刺さった。


 弓使いの男は額に突き刺さった鉄杭に押されるようにして地面へと仰向けに倒れて動かなくなる。



 俺はそれを目視で確認しながら勢いに任せて転がるようにして起き上がろうとする。



 だがしゃがんだ姿勢から立ち上がろうとしたところで首に刃が当てられた。


 顎下に触れる刃で首を切らないように気をつけながら顔を上げると、そこにはとても朗らかな表情をしたエルザが見下ろしていた。


「アッハ! 追い詰められた気分はどうですか?」


「お前が強いわけじゃないから微妙に納得できない……」


「フフッ、負け惜しみですか」


「まあな。………ッ」



 愉悦の笑みを浮かべるエルザを前に俺はじっとりと額に汗を流していたが、ある瞬間からその発汗量が極端に増加する。


 激辛料理を食ったかのように顔や首筋から汗が止まらなくなる。


 それはエルザの背後に忍び寄るものに気づいたからだ。


 だが、当の本人はそんな俺の表情にも背後のそれにも気づかずに、とても嬉しそうに声を弾ませながら義手を構える。




「アッハ、それではお別れです……ネエエエエエエエエェェェェェッッ!?」



 俺にとどめを刺そうと声を上げるエルザの語尾が不自然に跳ね上がると同時に身体も跳ね上がる。呆然とする俺の目の前でエルザが宙を舞う。


 なぜ、エルザが不自然な軌道で空に旅立ったかと言えば、巨大な何かに横っ腹をかみつかれて持ち上げられたせいだ。そう、背後にいた何かに。



 エルザの背後に迫っていた“何か”とは多分デスザウルスだった。


 初見だが間違いないだろう。



 デスザウルス。一言でいって恐竜だ。



 見た目が近いのはティラノザウルスだろうか。


 数瞬前まで物音一つせず、姿も見えなかったので全く気づくことができなかった。まるで光学迷彩でも使っていたかのように急に背後に現れたデスザウルスは、エルザをその巨大なアギトですくい上げたのだ。


「アアアアアアアアァァッッ!?」


 現状が把握できないエルザの悲鳴が辺りに響く。



 エルザは混乱しながらも義手から鉄杭を乱射していたが、デスザウルスの金属のような輝きをみせる皮膚は見た目通りに硬いようで全て跳ね返っていた……。


 デスザウルスはエルザを一飲みにしようとしたのか、咥えたまま真上を向いて思い切り顎を動かす。


 途端、エルザはデスザウルスの強力な顎の力により上と下に二分割され、上半分がデスザウルスの口からこぼれ落ちた。


 一瞬その場が凍りつき、地面へ落ちる様がスローモーションのように見えてしまう。


「うわぁ……」


 べしょりと妙に湿気のある音を立てながら地面に転がるエルザの上半分を見て思わず声が漏れる。


「勘弁してくれよ……」


 その光景を目撃して声が漏れたのは俺だけではなく、レガシーと戦っていた仕事熱心な男も同様だった。


 レガシーと共にデスザウルスに目を奪われ、武器を構えた姿勢のままあんぐりと口を開けて固まっていた。


 多分こちらの状態に気づいて戦闘を中断していたのだろう。



「形勢逆転といかせてもらうぜ……、フレイムアローッ!」


「くそっ」


 レガシーがその状況から素早く復帰し、男の隙を逃さず魔法を放つ。


 慌てた男は一瞬動きが遅れ、魔法をかわすことができずに防御姿勢をとった。


「よっ」


 男が魔法を防ごうとした瞬間にあわせて俺も鉄杭を投擲する。



「グッ」


 魔法は耐え切ったが鉄杭が命中し、体勢を崩す男。


「終わりだっ!」


 そこへ狙い済ましたかのようにレガシーの蛇腹剣が男の頭部を貫いた。


 伸びた蛇腹剣がレガシーの手元に戻るのと男が地面に力なく倒れるのが同時になる。



(倒せた……、倒せたんだけどなぁ……)


 なんとか男を倒すことに成功するも、事態は全く好転していなかった。


 上半分となったエルザ。頭を貫かれた男。その後ろにそびえ立つ巨大なデスザウルス。エルザの下半身を咀嚼するデスザウルスの目と見上げる俺の目が合う。


 ロックオン状態だ。



「……やべえっ、逃げるぞ!」


「分かってる!」



 俺とレガシーは咀嚼に励むデスザウルスに背を向けると一気に駆け出した。



 だが、デスザウルスは俺のカリスマ性に魅了されたのか、エルザ上半分と仕事熱心な男の死体を無視してこちらを追ってきた。もしかすると俺がクセになる味でレガシーが一番旨いと知っているのかもしれない。


「くそっ」


 俺は足に受けた傷のせいでうまく走ることができずに少しずつレガシーと距離が開いていく。その状況を打破しようと【疾駆】を発動させる。


 傷を負っていたせいかあまりスピードは乗らなかったが、なんとかレガシーと並走するほどの力は戻った。


 威嚇するように大口を開けたデスザウルスは無音でエルザの背後に迫ったときとは真逆に地面を震わせながらこちらへと追いすがってくる。


「来やがった!」


「無理だッ! 追いつかれるぞ!」


 相手が巨体で歩幅が違うせいか時間が経てば経つほど俺達とデスザウルスの距離が縮まっていく。



 このまま走り続けているだけでは追いつかれてしまう。


 現状の打開手段として思いつくのはデスザウルスを足止めして逃げ切る、もしくは倒すといったところだろうか。


 だが、この地でモンスターの討伐がうまくいっていなかったのは、後ろで俺達を追ってくるデスザウルスの影響だ。そんな奴を相手にして倒すことが叶うのか疑わしい。



 なら逃げきるしかないわけだが、障害物がほとんどないこんなただっ広い場所では煙幕を使ったとしても効果は薄い。足などを負傷させて速度を落とすという手も考えられるが、相手がどの程度の強さか分からない状態では博打要素がかなり高くなってしまう。


 デスザウルスは見るからに頑丈そうな硬い皮をしているし、そううまくいくだろうか……。


 俺は何とかいい案を搾り出そうと脳をフル回転させながら、ひたすら全力疾走を続ける。


 何かないだろうか……。


 そんなとき、俺の頭に閃きが走る。


 地平線が見える広大で平らな土地。デスザウルスに追いつかれない速度。二人で逃げ切る。



 ……全ての条件を満たすのはこれしかないだろう。



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