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6 蛙と思いきや


 それらは俺達と目があうと、こちらへ飛び跳ねながら向かってきた。


「来たな……」


「どうするんだよ!」


 失態を犯したせいでレガシーに怒鳴られてしまう。



「まあ、デスザウルスじゃなさそうだし良かったんでない?」


「やるしかねえか」


 俺達が剣を構える中、一番近くにいたキラーフロッグが飛びかかってくる。



 飛び跳ねたキラーフロッグは空中でサラマンドラのように舌を鋭く伸ばして突き攻撃を行ってきた。


 俺達はそれを両サイドに分かれるようにしてかわしながらキラーフロッグの着地を狙って攻撃をしかける。


「ハアッ!」


 レガシーの蛇腹剣が腹を捉える。



「オラアッ!」


 俺の片手剣がキラーフロッグの頭を潰す。


 キラーフロッグは俺達の二撃をまともに受けて絶命した。



「次だ!」


 蛇腹剣を戻しながら指示を飛ばすレガシー。


「任せろ!」


 俺が返事をすると同時に、はじめの一匹に続いて五匹ほどが一斉にかかってくる。俺達はそれを挟み込むようにして攻撃を加えていく。


 はじめは様子見のために二人で一匹を倒したがその後は一人一匹に変更し、あっという間に残った五匹も倒してしまう。



「案外弱いな」


「ああ、後は数だけが問題だな」


 キラーフロッグは舌を使った突き攻撃のみで表皮も柔らかく、簡単に剣が通る。


 移動も飛び跳ねながらなのでさほど速度もでない。



 ――これは弱い。


 だが気づかれていない数も含めると相当大量にいる。


 そのため、一度でも攻撃を貰えばそこから畳み掛けられてしまう恐れがある。



「接近は避けてなるべく遠距離を保とう」


 俺は片手剣を鞘におさめると弓を取り出した。



「ああ、俺も魔法を使うぜ」


 レガシーも魔法をメインに戦うように切り替える。


 元々慎重に近づいていたため、大半のキラーフロッグはまだ擬態を解いておらず、岩のふりをして動いていない。これなら慎重に立ち回れば二人でもなんとかなりそうだ。


「フッ」


「フレイムアロー!」


 俺は弓、レガシーはフレイムアローを使って擬態を解いたキラーフロッグを一匹ずつ仕留めていく。



 倒した側に擬態している個体がいた場合、擬態を解いて向かってくるのでこちらから何かをしなくても自動的に数が補充されていく。



 数匹倒すと走って距離を離し、弓で攻撃。そして倒すとまた走る。


 ヒットアンドウェイを繰り返し、確実に数を減らしていく。


 少し時間はかかりそうだが安全に立ち回れそうなのでこれなら大丈夫そうだ。


 …………


「とりあえず倒したけど来ないな……」


 カエルの死体を見渡しながら呟く。



「おい、もしかして用無しと判断されて置き去りにされたんじゃぁ……」


 その後、なんとかキラーフロッグを全滅させることには成功したが、肝心のお迎えが来ない。



 今までならモンスターの巣から少し離れた位置に迎えが着陸し、異常にうるさい音で合図を送ってきたが今回はそれがないのだ。


 気持ちに焦りが出たせいか、首筋にじっとりと汗が滲んでくる。



「い、いや、もしかしたらまだキラーフロッグが残っているのかも」


 視界一杯に広がるキラーフロッグの死体を見ながら迎えが来ない理由を探す。



「滅茶苦茶倒したぞ? さすがにもういないだろ?」


 側にあった物言わぬカエルを蹴り飛ばしながら反論するレガシー。



「迎えが来ていると想定するならどこかに着陸している飛空艇を自力で探せってことか……」


「容赦ねえな……」



 今回俺達は巣の側に落下させられたわけではなかったので落とした奴らはモンスターの位置を正確に把握していなかったのかもしれない。


 実際、擬態するタイプのモンスターだったし、その線が濃厚だ。



 もし俺達が見捨てられていないのなら飛空艇はモンスターの襲撃を恐れ、相当遠くに着陸したってことなのだろう。


 つまりこれから飛空艇を探して荒野をさまよう追加ミッションの発生というわけだ。



「参ったね。とりあえず落下地点に戻ってみるか?」


「ああ、当ても無く探すには広すぎだぜ……」



 俺の提案にレガシーも腕組みをして考え込む。


 とりあえず落下地点に着陸している可能性が一番高そうなので、そこを目差してみることにする。



「……多分こっちだよな?」


「いや……、どうだろう」


 キラーフロッグを探し回り、その後は戦闘に意識が持っていかれたため、どうにも怪しげな記憶を手繰り寄せながら落下地点を目差してさまよう俺達。


 それから数刻歩いたところでレガシーが立ち止まった。


「ん……、あれはなんだろうな」


「何かあったか?」


 俺が振り向くとレガシーが何かを発見したようで、遠くを見つめていた。


 それに釣られて俺も目をこらす。



「建物が見える」


「こんなところに?」


「廃墟かもしれんな。外には誰もいない」



 レガシーが見つめる先には妙な建物があった。


 俺にはギリギリ見える距離なので詳細がわからず、その建物がデカイということしかわからない。


「飛空艇はあるか?」


「いや、何もないな」


 レガシーに聞いてみるも迎えの飛空艇もそこにはいないようだった。



 こんな何もない荒野にある建物だ、人もいないようだし正直今の俺達の救いになる可能性は低いだろう。



「てか、来た時にあんな建物あったっけ?」


「迷ったな……」


 そして落下した時にあんな建物は見えなかったし、キラーフロッグを探していた時も傍を通った記憶がない。


 つまり……、迷ってしまったらしい。


「参ったな……」


「こうなっちまうと落下地点にはたどり着けそうもないな……」


 何もない荒野で立ち尽くし、途方に暮れる俺達。



 周囲の色と違うせいかデカイ建物に自然と視線が向いてしまう。


 特に何かを見ようと思っているわけでもなく、ただ周りと色が違うという理由だけで目が勝手に動いてその姿を捉えてしまうのだ。


 思考停止した俺とレガシーはぼんやりとデカい建物を眺めていた。



「まあ、立ち止まっていてもしょうがないし飛空艇を探すか」


「……だな」


 しばらく立ち尽くした後、どうしようもないと判断し飛空艇探しを再開しようとレガシーに声をかけた。疲れきった返事をするレガシーと再度荒野をさまよう準備を整える。



 そして肩を落とした俺達がそこから離れようと動き出した瞬間――


「アッハ、お悩みのようですね。私が悩みとは無縁の世界へ旅立つのをお手伝いして差し上げますよ」


 ――岩陰からひょっこりと見知った顔が現れた。




「出た」


「出たな……」


 エルザだ。



 黒に近い茶髪で少し伸びたショートヘア。


 片目には眼帯、残された青い片目と口元は俺を捉えて歪な弧を描いている。


 上は要所を革でガードしたシャツに下はかなり短いラップキュロットスカート。


 そんな衣服からはみ出た義手と義足が艶めかしく銀色に輝く。



 ……幻覚だろうか。


 こんな何もないところで会うとかありえない。



 元の世界で限界まで疲れ切ったときでもせいぜい上司の叱責が幻聴で聞こえる程度だったが、とうとう越えてはいけない一線を越えてしまったのだろうか。


「お前あれが見えるか? 俺だけに見えてるわけじゃないよな?」


「ああ、見えるぜ。見たくはないけどはっきりとな」


 眼が良いレガシーの網膜もあれを捉えたらしい。


 どうやら幻影ではなく本物のようだ。



「折角熱い想いを胸に追いかけてきたというのに、人を幻か何かのように言うのは関心しませんねぇ」



「どうでもいいけど、二対一だぞ? お前に勝ち目あるのか?」


「だな。ご丁寧にこんなところまで来たのはいいが圧倒的に不利だぞ?」


 幻の方がずっと増しだったと心の中で強く思いながらエルザを見る。


 俺達が乗っていた飛空艇は大した速度はでない。


 多分エルザは目視で捉える距離をギリギリ保ちながら、ある程度進行方向を予測しつつ馬車で追いかけてきたのだろう。その情熱とやる気、別のことに使えないのだろうか。


「アッハ、一人の女性に男二人でよってたかって乱暴するわけですね?」


「その通りだ」


「端的に表現するとそれであってるな」



 俺とレガシーはエルザを見据えながら剣を抜く。


 俺達二人とも疲れているので、ここはさっさと済ませたいところだ。



「ならば、か弱い女性としては助けを呼ばないわけにはいきませんねぇ」



「今の発言には納得でいない部分がいくつかあるが意味はわかった」


「だな。助けを呼ぶって部分が納得できないよな。お前を助ける奴なんているわけないぜ」


 エルザは指を鳴らしながら意味の分からないことを言う。


 すると岩陰からやる気のなさそうな顔をした二人の男がのそりと出てきた。


 一人は革鎧に身を包み、腰に大振りの剣を差した男。もう一人は軽装に弓を持った男だ。


「……まあ、助けっていうか、俺達は雇われただけなんだけどな」


「そういうこった。払われた金の分だけはきっちりと働くぜ」


「「納得」」


 俺とレガシーは心の底から納得する。


 男達の言葉でさっきのエルザの説明では納得できなかった部分が全て氷解する。


「アッハ、これで三対二です」


「騙して思い通りに動かしてるのかと思ったら金かよ」


「善意で人を殺す手伝いをしてくれる人間なんてそういませんよ?」


「なるほどな」


 エルザは俺達と会話しながらビスケットの缶のような短くて太い金属の筒を背後から取り出していた。


 俺はそれを目で追いながら相づちを打つ。


「納得して頂けて幸いです。それでははじめましょうか!」


「ぇ〜……、帰りたいわ〜……」


 やる気に満ち溢れたエルザとは対照的に疲労困憊の俺。


 帰って酒飲んで寝たい気分だ。



「お前はあれを何とかしろよ? 俺は雇われの人と交渉して観戦する方向へ持っていく」


「おまっ! それはダメだろう!」


 俺がツッコむもレガシーはそれを無視して雇われの男達に話しかける。



「なあ、あんたら。俺を足止めするって意味で、二人の戦いを見守ることにしないか?」


「なんとも魅力的な申し出だが、俺は仕事熱心な性格なんでな。悪いが仕事の評価が下がるようなことはしないことにしているんだ」


「大体、不意打ちしないだけでもありがたいと思って欲しいもんだぜ」


 だがエルザに雇われた男達はレガシーの誘いをすげなく断った。


「ちょっとはサボることを覚えたほうが今後のためだぞ?」


「ああ、次からは考えるよ」


 と口角を上げる戦士風の男。



「俺達ってまじめだろ?」


 肩をすくめて見せる狩人風の男。



「人を殺す依頼を受けて報酬を得ているという部分を除けばまじめだな」


 レガシーと男二人の会話を聞く限り、どうやら交渉決裂だ。二人とも中々仕事熱心な様子。


 結局三対二で戦うことは避けられそうにない。



「残念だったな! はぁー! 俺とエルザの熱戦を観戦できたら良かったのにな!」


「嬉しそうだな」


「そうか!? 全然ッ! 全、然、嬉しくないからっ!」


 俺は交渉を終えたレガシーにねぎらいの言葉を掛ける。


 だが、俺がこんなにも上機嫌だというのにレガシーはどこか不機嫌だった。


「それじゃあ始業といくか」


 腰から大振りの剣を抜く戦士風の男。


「ああ、さっさと終わらせようぜ」



 弓を構えつつ、後退していく狩人風の男。


「待っていましたよ、この時を……」


 エルザは俺に視線を固定したまま義手にさっき取り出した筒のようなものを装着する。



 俺は以前、あの義手から鉄杭を射出しているのを見たことがある。


 となるとあの筒はマガジンのようなもので、連続射出を可能にするのではないだろうか。


 多分あの中には鉄杭が大量に詰まっているのだろう。


「そっちは任せたぞ」


 レガシーが剣を持った戦士風の男を見据えながら言ってくる。



「後ろに行った奴はどうするんだよ?」


「前二人の内どちらか一人を倒さないことにはどうしょうもないだろうな」


「厄介なことになりそうだぜ」


「ああ」



 俺はエルザ、レガシーは戦士風の男と対峙する。



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