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1 囚人四コマ

本作品は残酷なシーンが含まれます。そういった描写に不快感を感じられる方は読むのをお控えくださいますようお願いします。


あらすじにも書いてありますが本作品は残酷なシーン、登場人物の死亡、主人公が殺人を犯す描写が出てきます。なろう内の投稿作品を見ていると該当話の前書きに注意書きをするのをよく見受けますが、本作は該当シーンがネタバレになる部分もあるため前書きでの注意喚起は行わない予定です。また、そのシーンを読み飛ばして読んでも意味が分からなくなってしまうというのもあります。そのため冒頭に当たる第一話での注意喚起とさせていただきます。ご了承ください。







 俺は今、クッションが効いていない硬い長椅子に座っている。



 深夜から早朝の今にかけてずっと同じ姿勢で座っていたせいか、無性に尻が痛い。なぜ姿勢を変えることができなかったかといえば、体が固定されていて身動きが取れないからだ。



 今、俺の体はジェットコースターなんかに乗る時に上から降りてきて上半身を固定する安全バーのようなものにがっちり拘束されて動けない。かろうじて動かせるのは首だけといった状況だ。



 背中を預けている壁には小窓がついており、外の様子が窺える。


 首を動かして小窓を覗き込むも見える景色は白と水色以外は何もなく、どこまでも澄み切った色が広がっていた。硬い椅子のせいで痛くなった尻のことを忘れてしまうほど清涼感溢れる色彩だ。



 ……そう、窓から見える視界の下半分はどこまでも広がる真っ白な雲海、上半分は薄い水色の大空。



 俺は今、とても高いところにいる。


 簡単に言うと上空うん千メートルの世界だ。


 かっこよく言うと空の旅を満喫中ってやつである。


 元の世界での移動は最高でもすごい速い列車の自由席だったので、空の旅というだけでテンションが上がってしまう。



 しかもその空の旅が飛空艇によるものなのだ。



 船の形をしたものがよくわからない仕組みで空を飛んでいるというのを生身で体感できる喜び。


 これぞまさしく異世界といった感じでワクワクが止まらない。



 昔のRPGやファンタジー物の映画では終盤の移動手段として飛空艇が出てくるのはある意味定番だったが、こんなところで経験できるとは思ってもみなかった。


 もしかして俺の人生も終盤が近づいているのだろうか……。


 いや、今はそんな悲しい発想はよそう。



 景色はとても目を楽しませ、心を癒してくれるが耳から入ってくる音はその癒しを帳消しにするほどけたたましい。


 安心安全な空の旅を提供するためか飛空艇内部は何かの駆動音がゴウンゴウンと常時鳴り響いているのだ。


 異常にうるさい駆動音の中、気圧のせいかときどき耳鳴りがして耳の奥がじんわり痛い。


 ……そして地味に汗臭い。


 俺が座っている周囲にはギチギチに密集した状態で厳つい顔をした連中が仏頂面で腰掛けているためだ。更に部屋の四隅には逆三角形体型の軍人っぽい男達が俺達が悪さをしないよう睨みを効かせていて、汗臭さを増量させることに一役買っている。


 この部屋、非常に人口密度が高く、これでもかと言うほど男臭い。


 つまり癒しは窓から見える景色のみで、それ以外は割と不快指数が高かったりする。



 そんなことを考えながら俺は隣に座る男に声をかけた。



「なあ。俺、飛空艇ってはじめて乗ったわ。いや〜、いい眺めだな!」


「そうかよ」


 窓から見える景色に浮かれた俺の隣で味気ない相づちを打った男の名はレガシー。


 ひょんなことから行動を共にしている。



 その見た目は銀髪に薄い褐色の肌、顔には即頭部から顔の中央でクロスするようにして角の刺青があり、目は黒目部分が赤、白目部分が黒という悪魔面をしている。



 魔力がない俺とは違い、レガシーの職業は魔法剣士で魔法と蛇腹剣を使って戦うスタイルだ。


 服にもこだわりがあるらしく、基本ジャケット姿だったりする。


 顔は悪魔顔で厳ついがそれに反して中身はいい奴だ。



 だが、今日は普段より会話の乗りが悪いと感じる。


 どうしたのだろうか……。


「いや〜、船が空飛ぶってすげえよな!」


「ああ」


 俺の浮かれたテンションとは対照的にレガシーは気もそぞろで適当な返事をしてくる。



「俺、このゴーグルってやつもはじめて着けたわ。案外かっけーな? でもこの背中に背負ったリュックみたいなのは何だろうな? 全員装備してるみたいだけど……」


「さあな」


 この飛空艇に搭乗したときに全員に支給されたゴーグルとバックパックのようなものが気になりレガシーに聞いてみるも、そっけない返事しか返ってこない。


「さっきからどうしたんだよ? 酔ったのか?」


「何がだ? 俺はいつも通りだ」


 微妙な振動があるし特殊な条件なので船酔いにでもなったのかと思ったが、自分は何とも無いと言い張るレガシー。


 だが、この飛空艇に乗ってから明らかに様子がおかしい。


 もしや…………。



「あ、お前、もしかして高いところが苦手なのか?」


「………………………………違う」


「そっかそっか〜」


 俺は思い切り椅子や安全バーをガタガタと揺らす。


「や、やめろぉ!」


「え、なんだって?」


 片手を耳に当てながら更に揺らす。


 日頃の感謝の気持ちを込めてマグニチュード7くらい揺らす。



「止めろって言ってるんだよ!」


「何で? お前いつも通りなんだろ?」


「ふぬぅぅ!」


「おう……、悪かったって」


 レガシーが完全に切れてまともに話すことも出来なくなったところで謝って揺らすのを止める。


 どうやらこいつは高いところが苦手なようだ。



 こんな地面が全く見えないところまで連れて来られて精神的に限界がきているのだろう。


 俺に浴びせる言葉にも一切余裕が無く、切羽詰った物を感じた。


 それでも安全バーを揺らしてしまうお茶目な俺。


「静粛に!」


 俺達以外も結構ガヤガヤと騒いでいたが、コクピット側から現れた女の一声で場が一気に静まり返る。それと同時に両壁際にビッチリと座った強面の男達の顔が一斉に声が聞こえた方を向く。


 そこには血で染め上げた様に真っ赤なベレー帽を被り、軍服を着た女が天井に設置された取っ手を握って立っていた。几帳面なのか規則が厳しいのか濃いめの茶髪は綺麗に結ってまとめ上げられており、鋭く吊り上がった眼で座った俺達を見下すように睨みつけて来る。


 その筋の人ならたまらない魅力を感じるかもしれないが、俺は学生時代のヒステリックな音楽教師を思い出して正直きつい。


「いきなりこんなところに連れて来られて貴様たちもさぞかし混乱していることだろう!」


 ベレー帽の女は集団の前で話すのが慣れているのか、良く通る声を更に張り上げて話す。



 飛空艇の駆動音が相当うるさいのにその言葉の内容がはっきりと聞き取れる。


 元の世界ではもにょもにょと早口で話す上司にしか恵まれなかった俺には非常にありがたい話だ。



「貴様たちは犯罪を犯し捕まった! 本来なら監獄へ送られるところだが、現在、我が国の行刑施設は全て収容定員を大幅に超過している状態だ! その為、重罪ではない者に対しては特別な刑務作業を行ってもらうことにより、恩赦を受ける事ができる!」


「お、まじかよ。ついてるな」


 ベレー帽の女の説明によるとム所が満員だから、刑の軽い奴は仕事をこなせば無罪放免になるらしい。


 俺とレガシーも捕まった時こそ違法薬物の所持と密入国の罪に問われたが、調べられた結果、薬物は所持していないことが分かってもらえ、密入国の罪のみとなった。


 また、持っていた荷物や装備は一切取り上げられることもなく、現在も捕まった前と同じ恰好をしている。手錠などもされていないし、かなり緩い対応だ。


 そう考えると罪が軽い部類に入るのだろう。



「貴様たちは運が良い! 無事作業を終えることができれば刑の執行は免除され、晴れて釈放となる!」


 ――やったぜ!

 ――ヒャッハー!

 ――ありがてぇ!



 女の言葉を聞いて色めきたつ面子。


 緊張して話を聞いていた俺の顔にも自然と笑顔がこぼれる。



 シュッラーノ国、前評判は良くなかったが、案外良い国なんじゃないだろうか。



「それでは刑務作業の詳細を説明する! 貴様たちにはこれからサラマンドラの巣へ上空から強襲をかけてもらう!」


 ――はぁ!?

 ――なんだそりゃ!?

 ――聞いてないぞ!?


 女の言葉を聞いて色めきたつ面子。


 さきほどとは違う意味で色めきたっている。


 話の内容から危険を感じ取った俺の顔も自然と顔面蒼白になる。



 シュッラーノ国、前評判は良くなかったが、噂通りヤバイ国なんじゃないだろうか。



「これからハッチが開くと同時に全員を投下。その後、各自背中に装備したパラシュートを使って降下せよ! サラマンドラの全滅を確認の後、生存者の回収を行う! 以上だ!」


 ――何言ってるんだあいつ?

 ――パラシュートなんて使ったことないぞ!

 ――サラマンドラなんて倒せるわけないだろうが!


 女の言葉を聞いて餓えた野犬のようにざわめきたつ面子。


 俺も何か言ってやろうと思うも、とっさに何も思いつかずに“そうだそうだ!”とモブみたいな台詞を言うに留まり、存在感をアピールできずに終わる。


 こういうときイケメン主人公なら全員の視線を一手に引き受けてあの女をぐぬぬと言わせる一言でもズバッと決めちゃうんだろうけど、ギリ一般人の俺にはハードルが高かったようだ。


 ベレー帽の女の説明はとても簡潔で分かり易く、質問の余地も無い内容だったが、心底納得できない気分になるのはなぜだろう。周りを見渡してもみんなそんな顔をしている。


 レガシーだけはそんなことはそっちのけで高所にいる事実の方が納得できていないようだったが……。



「それでは健闘を祈る!」


 そう言うとベレー帽の女と四隅にいた軍人風の男達は前方の部屋へと移動していった。


 女達が移動を終え、扉が閉まると同時に床が音を立てて開きはじめる。


 ――い、いやだぁっ!

 ――や、やめろぉっ!

 ――こんなこと許されるはずがない!


 床が開き、隙間から凄まじい速度で流れる真っ白な雲がじわじわと顔を覗かせると、男達の阿鼻叫喚の声も音量が増していく。


 そして床が完全に開ききる前に無情にも椅子が自動的に折り畳まれ、壁に吸い込まれるようにして収納されてしまう。


 それと同時に上半身をがっちりと固定していたジェットコースターの安全バーのような物もロックが解除されて一気に上に上がり、全ての支えを失った俺達は成す術もなく落下し、空中へと放り出された。



「ぇ〜〜〜〜〜〜…………」


 ベレー帽の女に一言物申す間もなく、俺を含めた囚人達は全員空中に投げ出された。



 ……どうやら俺達に気を使って落下速度を落としてくれる程重力は優しくないようだった。


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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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