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20 新たな旅立ち


 ――チーン!



 そんな俺の思考を遮るように電子レンジのタイマーのような軽い音が耳に届く。


 音がした方に顔を向けると、光球があった場所に赤いドアがあった。



 あの色がピンクだったら、かなりまずいことになっていただろう。



 だが色が赤なので、何の問題もない極普通のドアだ。


 多分あのドアを開けるとショウイチ君のいる無人島に着けるはず。



 イーラのことは気になるがレガシーの方が重要だ。


 俺はレガシーを担ぎ上げるとドアに近づき、ノブを回して扉を押し開いた。


 このシュチュエーションなら是非言っておかねばならないセリフがある。



「折角だから俺はこの真っ赤な扉を開けるぜ」



 俺は満足して扉を開ける。すると異常な光彩が全身を包み込む。


 辺りが真っ白に染まり、前後左右が全く分からなくなった。



 あまりの眩しさに目を閉じていたが、しばらくすると光が収まったので目を開く。すると眼前にショウイチ君の家の玄関があった。


 どうやら玄関の扉を開けた奥に移動しているようだ。



「おーい! ショウイチ君! いるか!? 入るぞ!」


 俺は大声を上げながら靴を脱いで遠慮なしに部屋へ上がり込む。



 今は一刻を争うので仕方ない。


 俺はずり落ちないようにレガシーを担ぎなおすと、重い足取りで突き当たりの部屋を目指す。


 ――なーん。


 鳴き声を聞いて足元を見ると、どこからともなく現れた手乗り黒猫のゴマダレが心配そうな顔をして俺についてくる。


「後で遊んでやるからな」


 俺はゴマダレを踏まないように気を付けながら前に進む。


 すると何やら話し声が聞こえてくる。



 多分ショウイチ君と嫁さんのローズだ。



 ――やん、熱いっ。

 ――大丈夫、熱いのが段々よくなってくるっすから。

 ――そう? じゃあ頑張るっ。

 ――ふふっ、その内虜になるっす。

 ――ああん、お汁がっ。

 ――ご、ごめんっす。こういうの慣れてなくって。


「何やっとるんじゃーー!」


 俺はリビングへの扉を叩き開けた。


 すると……。


「このお大根、美味しい〜!」


「味が染みてるっすね」


「次は私の番ね。はい、あ〜ん」


「て、照れるっすね。あ、あ〜〜……、あっ!」


 おでん食ってた。


 二人で食べさせあいっこしながら仲睦まじく。


 俺を見て真っ赤になるほど照れるなら、もうちょっと早く気づいて?



「んもう! 今いいところだったのに〜」


 ローズから抗議の声が上がる。


 んもう! いいところを邪魔できて幸せ!



「あ、ケンタさん、いらっしゃいっす。こ、これはですね……。ってレガシーさんがっ!」


「そこ重要。ってかローズ、これなんとかなるか? 俺達二人とも結構刺されまくったんだけど」


 レガシーの容態を見て固まるショウイチ君。


 俺はレガシーを担いだまま刺された箇所を指差しローズに尋ねる。



 ショウイチ君の妻、ナイスバディのローズはこう見えて治療院で僧侶をやっているのだ。そんな頼みの綱のローズは俺達を見てイチャイチャ顔から仕事顔へと表情を変える。


「そこに寝かせて! 早く!」


「おう、俺の方は動けるから、とにかくレガシーに全力を注いでくれ。頼む」


 血相を変えるローズの指示に従い、レガシーを畳の上に寝かせる。



「確かポーションがあったはずっす。取ってくるんでケンタさんはそれ飲んで下さいっす!」


 ショウイチ君は俺のために別の部屋へとポーションを探しに行ってくれる。



 重症の俺達のせいで場が一気に慌しくなっていく。


 折角ラブラブしていたのになんか悪いことしちゃったなと、ちょっと罪悪感が募るもレガシーの容態はそれどころではない。


「危険な状態だけど、これならなんとかなるわ。少し集中してから魔法をかけるので話しかけないでね」


「分かった。頼む」


「ケンタさん、ポーションっす」


「お、悪い」



 ローズが集中するのを静かに見つめていると、ショウイチ君がポーションを持って来てくれた。俺は物音に気をつけながらポーションを静かに飲み干し、固唾を飲んでローズとレガシーを見守る。



 しばらくするとポーションの効果が表れたのか、俺の体にも変化が訪れた。


 まるで時計を逆回しにしたような奇妙な感覚が体を駆け巡り、傷が塞がっていくのを感じる。


 それと同時に妙な疲労感と倦怠感が増してきた。



「うおっ……」


 立っていられないほどの疲労感と眠気が全身を襲い、軽くバランスを崩してしまう。


 よく考えたらポーションを飲むのははじめてだったが、こんな感じなんだなと一人関心する。


 俺が急速な回復からくる疲労感にふらつき壁にもたれかかっていると、ローズの準備が整ったらしくレガシーの側によって両手をかざす。


「いくわ。ハイヒーーーール!」


「…………ッ」


 集中し、念入りに魔力を込めたローズの回復魔法が眩い光と共に発動する。


 白く輝く光がレガシーの全身を包み込み、体がビクンと脈打つ。



「やったか?」


 魔法の終了と同時にローズに結果を尋ねる。


 素人目に見る限りはレガシーの頬にも赤みが差し、生気が戻ったような気がする。



「ええ、これで大丈夫なはずよ。でもしばらくは安静ね」



 ローズはレガシーの容態を見て問題ないと判断すると、その場から立ち上がった。



 しかし、相当集中した反動か移動しようとするも足をもつれさせるローズ。


 そんなローズに素早く近づき、そっと支えるショウイチ君。


 そしてお互い見つめあい、二人の空間へと移動していく。



 俺はそんな二人を見て、負わなくていい傷を負う。


 なにこれ……、必要経費?



「助かったよ。ポーション代と回復料金だ。受け取ってくれ」


 傷心の俺はローズを支えるショウイチ君に無理矢理金を渡しておく。



 無償でやってもらうには過剰サービス過ぎるので、ここはきっちり払っておきたい。


 正直そういう雰囲気じゃないが、後回しにするとそれはそれで払いにくい空気になりそうなのでここは無理矢理渡しておく。


「こんなのいいですのに……」


 ちょっと恐縮しながらも俺の強引さに負けて受け取ってくれるショウイチ君。


「いや、俺も金額が安いと判断できるときはお土産とかで相殺するようにするけど、今回は駄目だ。ポーションが高いのは俺も良く知ってるしな。回復魔法だってローズの消耗具合からみても相当無茶してくれたんだろ?」


「ダーリンのお友達なら当然よ」


 俺の言葉を受けてにこりと微笑み返すローズ。



「……ありがとうよ」


 俺は二人に礼を言うと壁にもたれかかったまま床へとずり落ちた。



「ちょっ、大丈夫っすか!?」


「悪ぃ、ポーション飲んだらなんか異常に眠くって……。ちょっと寝るわ……」



 俺を見て驚くショウイチ君の顔が霞んでいく。


 疲労感に負けた俺はそのまま目を閉じて眠ってしまった。


 …………


「うお……」


 畳の部屋で布団を使って眠っていたことに驚きを覚えながら目を覚ます。


 畳や布団の匂いが何とも懐かしく、ずっとこのままうずくまっていたい誘惑にかられてしまう。



(……そういやショウイチ君家だったわ)


 ポーションを飲んだ後に急激な疲労感と倦怠感に襲われ、そのまま眠ってしまったことを思い出す。



 ふと視線を向ければ近くにレガシーが眠っていた。


 穏やかな寝息を立てているのでもう大丈夫なんだろう。


 俺は二度寝の誘惑に打ち勝って布団から出ると軽く伸びをしながら体をほぐして感じを掴む。



「お、大丈夫っすか?」


「おう、もう平気だわ。ありがとう」


 俺が布団を片づけているとショウイチ君が朝食を持って部屋に現れた。



「簡単な物ですがどうぞっす。レガシーさんももう大丈夫なはずなんで一緒に食べてください」


「悪いな」


 パンとスープをコタツの上に置いてくれるショウイチ君に礼を言う。




「そうそう、あとこれもどうぞっす」


 と、言いながらショウイチ君はパンの側に黒い十センチ四方の立方体を三個横並びに置いていく。


 それらは今回も何かとお世話になったショウイチ君特製のハードディ……、爆弾だ。



「ありがとう。今回もコイツには助けられたんだよ」


 俺はそう言いながら爆弾を懐に収めていく。


 こいつがなかったらビッグキラーウルフ戦はもっと苦労しただろう。



「そうっすか。失敗作も案外役に立つもんっすね」


「俺にとっては失敗作じゃなくて成功作だけどな」


「いやぁ……、そうだ! もっと威力を上げましょうか?」



 褒められて照れくさそうにしていたショウイチ君だったが、閃いたと言わんばかりの勢いで威力を上げようかと聞いてきた。


「う〜ん、これ以上威力が高くなると近くで爆発した時に自分も巻き込まれそうだからいいよ。今の状態が丁度いい感じなんだ」


 少し迷ったがその話は断ることにした。



 今でも十分凄いのにこれ以上威力が上がれば今回のような強大な敵と戦うときには重宝しそうだが取り扱いが難しくなり、気軽に使えなくなってしまうと判断したためだ。


「分かったっす。何か不満点があれば言って下さい。改善できそうなところはやっておきますんで」


「おう、そのときは頼むよ」


「…………ここは……どこだ……」


「お、起きたか?」


「大丈夫っすか?」


 俺達が爆弾トークに花を咲かせているとレガシーが目を覚ます。



「ここはショウイチ君の家だ。瀕死だったお前はローズに回復魔法かけてもらって今意識を回復させたってわけ。後でお礼言っとけよ?」


「……ああ、……分かった」


 俺が現状を説明すると、それを朦朧とした状態でなんとか聞いたレガシーは再度目を閉じて深い眠りに落ちた。



 傷が癒えたとはいえ、しばらくは安静にしていないといけないだろう。


 俺も本調子ではないので部屋から出ずにのんびりとさせてもらうことにする。


 …………


「もうここで一緒に生活した方がよくないっすか?」


「そうそう〜、それでいいんじゃない?」



 もう一日寝たあと、元いた国境付近へと戻ろうとするとショウイチ君とローズから引き止められる。



 二人ともわざわざそんな危ない所へ戻るくらいなら、もうここで一緒に暮らそうと言ってくれる。



 この島には快適な生活を送れる家があり、その上ダンジョンもあるので安定したお金も手に入る。だが、俺達は追われる身。ここに留まればどうしてもショウイチ君とローズに迷惑をかけてしまう。


 今だって迷惑かけっぱなしだ。


 正直、とても魅力的でありがたく、心から嬉しい誘いだが…………、この誘いは断らねばなるまい。



「……ありがとう。だがダメだ。」


 俺は密着しながら心配そうに見つめてくるショウイチ君とローズを見て血涙を流す。



「ああ、ダメだな」


 レガシーも密着しながら鼻がつくほど顔を寄せて語り合うショウイチ君とローズを見て血涙を流す。


 そう、とてもありがたい申し出だが断らなければならない。


 なぜなら迷惑がかかってしまうから!


 それ以外の理由は特にないが、絶対に断らなければならない!




 唇と唇が触れ合うほどに顔を寄せ合い、腕や足が濃厚に絡まりあうショウイチ君とローズを眼前にして固く誓う。


 断らなければならない、と。


 なぜなら迷惑がかかってしまうから!


 それ以外の理由は特にないけれどもっ!



「分かるか!? レガシー!」


「ああ! もちろんだぜ!」


 向き合ってガシッと腕を組む俺達。



 ここが山のてっぺんならファイトが一発とか叫んでいただろう。


 息ピッタリだ。


「分からないっす……」


「そうね、ダーリン」


 俺達が断る理由が理解できないと言うショウイチ君とローズ。



 まるで力強く絞った布きんのように絡まりあう二人を見て思う。


 分からないだろうな!


 お前たちには!


 一生! と。



「じゃあ、行くわ。毎度毎度世話になりっぱなしで悪いがまた来る!」


「二人とも助かったぜ! 次会うときはゆっくり飲もうぜ!」


 俺達二人はショウイチ君とローズに別れを告げると赤い扉の前へと移動する。



 こいつをくぐれば元の国境前までまた戻れる。


 これ以上ここにいれば違う意味で命の危険が伴う。


 俺とレガシーは決意も新たに頷きあう。



「お二人ともお気をつけて!」


「いつでも来てね〜」


「「おう!」」


 密着しながら手を振る二人を背に俺達は赤い扉をくぐった。



 今回はケガの治療のために立ち寄ったうような形になってしまったが、次に来るときは一杯土産を持ち寄ってゆっくり飲みたいものだ。


 …………


 赤い扉を抜け、転移の腕輪を発動させた場所へと戻る。


「不思議な道具だな」


 蜃気楼のようにすうっと消えていく赤い扉を呆然と見ながらレガシーが呟く。



「ああ、コイツのおかげで助かったぜ」


 俺も腕輪を見ながらしみじみと呟く。



「なんだかんだあったけどここまで来たな」


「ああ、これでやっとこの国ともおさらばだぜ」



 国境は目の前だし、後は前進あるのみだ。



 森を抜け、広大な平原へと足を踏み出す。


 もうここからはシュッラーノ国だ。



 広い大地へと足を踏み入れたとき、レガシーが思い出したかのように口を開いた。


「なんで俺が独断で施設の奥へ走って行った時、見捨てずに追いかけてきたんだよ?」


「いやあ、必死だったから見捨てるって考え付かなかったわ」


「そうかよ……」


「まあ、その後この森で俺もその素晴らしい蛇腹剣で助けてもらったわけだし、いいんじゃね?」


「それは違う! あの時お前を助けなければ俺はあそこで死んでいた!」


「偶然が重なっただけだ。大体、工場で生還できたはいいが、その後この森でお前が死にそうになった原因のイーラは俺を狙ってきたわけだしな。お前一人なら会うこともなかった奴だ」


「また助けられちまったな……」


「お前は工場で独断。俺はイーラを引き連れてきた。お互いさまだろ?」


「お前がそれでいいって言うならいいさ」


「いいに決まってるだろ? それよりしこたま飲ませてくれるって話、忘れるなよ?」


「ああ、“お願いします助けて下さい、レガシー様”って言っても飲ませるからな」


「望むところだ」


「ならさっさと次の街へ行こうぜ!」


「うし、行くかっ!」


 俺は話を終えると、次の国での新生活を想像し期待に胸を膨らませる。



「次の街まで近いといいな」


 レガシーも心なしか楽しんでいるようで、声が弾んで聞こえる。


 新しい国、新しい生活、楽しみだ。




「止まれ!」




「「え……」」


 俺達が声を弾ませながら次の街を探して旅立とうとした瞬間、後ろから制止を命じる怒鳴り声が響き渡った。


「ゆっくり両手を上げて膝を着け! おかしな素振りを見せたら弓を放つ!」


「盗賊か?」


「くっ、背後だから分からん……」


 背後から聞こえる声は俺達に抵抗するなと言ってくる。



 はじめは盗賊かと思ったが、それなら問答無用で殺されてもおかしくないはずだ。迂闊に振り向くわけにもいかず、声だけで予測できることには限りがある。


 一体声の主は何者なのだろうか。


「何を話している! 早く膝を着け! 我々は国境警備隊だ! 貴様たちを密入国及び販売目的による違法薬物所持の容疑で拘束する!」



「半分あってるだけに反論しにくいな……」


 どうやら怒鳴り声の主を信じるならシュッラーの国側の国境警備隊と遭遇してしまったようだ。しかし相手は背後にいるため、姿を見ていないだけに判断が難しい。


 本物なのだろうか。


 まあ、密入国に関しては全面的に認めるが、違法薬物ってのどこから出てきた話なのだろうか……。



 そういえばそんな会話をオカミオの街の酒場で聞いたような気もするが、こんなところでとんだ濡れ衣を着せられてしまったものだ。


 こんな何もない場所にも人員を配置するほど取締りを強化してるってことは、どこかの誰かが相当持ち込んでいたのだろう。多分工場で助けた奴らの中にも薬物の取引をしようとしてた奴はいただろうし、恩を仇で返された気分だ……。


「どうする? やるか?」


 レガシーが強行突破するか聞いてくる。



 だが、それは止めておいた方がいい気がする。


 話しているのは一人だが実際は何人いるか分からない状況だ。



 今の状況では発動まで少し時間が必要な【気配察知】は使えないし、それではどれだけの人数に囲まれているのかがはっきりと分からない。


 もし俺達の背後で無言を貫いている者が複数いるのなら二人で抵抗しようにも今の背を向けた状態ではどうにもならないだろう。


 更に抵抗の意志があると判断されただけで、何をされるかわかったもんじゃない。


「…………ここでやったら両方の国で挟み撃ちになる。即死刑じゃないっぽいし、ここは一旦捕まるぞ」



 俺はレガシーにそう説明しつつ、両手を上げてゆっくりと地面に膝を着く。


 ここで危ない橋を渡るより、隙を見て安全なタイミングで逃げた方がいいはず。


「止む無しか……」


 俺の行動を見て、レガシーもそれに続く。


「よし! 膝を着いたままゆっくりこちらを向け! 刑期を延ばしたくなかったら無駄な抵抗はするなよ!」


 言われた通り、両手を上げたまま膝立ちでゆっくりと振り返る。


 するとこちらへ弓を構える軍服を着た男たちが十数人いた。



「まじか〜……」


「抵抗しなくて良かったと思うべきかな……」



 俺達は無事国境を越えるも、あっさりそこで捕まってしまった。






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