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18 評論家受けがいいタイプ


「俺が演技するからお前もあわせろ」


「分かった」


 先へ進むミランダに気づかれないよう、小声でレガシーに指示を出すと俺はその場にうずくまった。



「いてっ! イテテテテッ!!」


 俺は腹を押さえながら超痛いアピールに入る。



「それは……。さすがにバレバレだろう……」


 半眼で見下ろすレガシーが俺の名演にケチをつけてくる。


 あわせろって言ったのに協力的でない態度。これは俺一人でこの場を乗り切らなければならないようだ。


 俺の日本アカデミー賞総なめ間違いなしの名演に驚愕するが良い。



「だ、大丈夫か!」


 俺の異変に気づいたミランダが駆け寄ってくる。


「ちょっと足ひねっちゃったみたいですわ〜。大したことないけどすぐに山下りるのつらいわ〜。いってー、まじいってー」


 俺は腹を押さえながら足を負傷した演技を続ける。


「ぐぬぬぬ」


 どうしたものかと考え込むミランダ。



「ちょっと休んでから行くので、俺のことは気にせずに先に行ってください」


 俺はすかさず悩むミランダに先に行ってくれと告げる。


 これで納得して先に行ってくれれば、俺達はそのまま国境を目指せばいいという寸法だ。



「あ、じゃあ俺が様子見に残るよ。ミランダさんは強いからチンピランの護衛をお願いしてもいいですか」


 と、そこにレガシーがあわせる。


 そう、そういうのが欲しかったんだよ。



「ここで分断するのは……」


 だが、ミランダは尚も悩み続ける。



「でも早く薬草届けた方がいいと思いますしですし」


「だな。チンピランも早く帰りたいよな?」


 腹を押さえながらチラッチラッとチンピランを見てアイコンタクトを図る。


 レガシーもそれにあわせて援護射撃を行いながらチンピランにアイコンタクトを送る。



「すまん、一刻も早く帰りたいんだ。家には病気の弟が……」


 察したチンピランが深刻な顔で早く行きたいと言ってくれる。


 ナイスだ。


「分かった! 君たちも無事に帰ってくるんだぞ! 彼のことはこの私が引き受けよう!」


 チンピランの言葉がダメ押しとなって意を決したのか、ミランダが下山することを了承してくれる。


「ありがとうございますー。俺も足手まといにならなくて良かったですー」


「ああ、俺達は後から行くんでお二人も気をつけて行って下さいね」


 内心ガッツポーズを取りながら二人を見送る俺とレガシー。



「仲間のために残留を決意……。むおおおおおおん!」


 またもや感極まって号泣するミランダ。


 あんまりやるとモンスターに見つからないか心配だ。



「この恩は忘れないぜ。じゃあな!」


 手を振りながら俺達にアイコンタクトを送るとチンピランは下山をはじめた。


「「おうっ!」」


 二人してアイコンタクトを返しながら、口元をニヤリとさせて手を振る。



「お前たち! くれぐれも気をつけるんだぞ!」


 そんなチンピランを追うようにミランダも下山する。



「そちらもお気をつけて!」


「こっちは任せてください!」


 今年一番の爽やかな笑顔で遠ざかるミランダに手を振る俺達。


 チンピランとミランダは俺達に見送られながら二人で下山して行った。


「どうよ? 俺の名演は」


 俺は二人が見えなくなったところで、レガシーの方を向きながら立ち上がる。



「農家のおじさんも大満足する見事な大根だな」


「まあ、お前レベルの未熟さだと、俺の演技の芸術性は理解できないだろうな」


「ああ、残念だが俺は死んでから評価が上がるタイプの芸術にはうとくてな」


「今がピークだよ!」


「そうか、評論家受けがいいタイプなんだな。俺は一般大衆だから高級料理より、ファストフード派なんだよ。じゃあ行くか」


「ああ、これでやっと国境を目指せるぜ」


 俺とレガシーは見えなくなったチンピランとミランダ達とは逆方向へと歩を進める。後は下山すれば自動的に国境を越えられるはずだ。


 …………


 レガシーとどうでもいい話をしながらミランダ達とは反対方向に山をのんびりと下りていく。



 こういうときに焦ったり急いだりすると逆にケガをする危険があるので、少し脱力しているくらいが丁度いいのだ。しばらく歩くと道が斜面から平らになる。もうすぐ完全に山を越えた形になりそうだ。


 多分このまま進めば自然と国境を越えられるはず。


 森の様にうっそうと木々が生い茂る地帯を歩いていると、少し先から開けた場所が視界に入ってくる。


「お、これで山を抜けれたんじゃないか? 少し先から開けてる感じがするぞ」


 レガシーが木々の間から顔を覗かせる広大な大地を指差しながら話しかけてくる。


「だな、軽装で行けるって聞いてたのに、とんだ登山になっちまったぜ……」


 俺は相づちを打ちながら横を歩いていたレガシーの顔を何気なく見る。


 するとレガシーの背後の木陰に光る何かが視界に入った。



 それは森の暗闇で輝く黄金の一つ目。



 俺が光る眼に気づいた次の瞬間、森の中から剣を構えた人影が飛び出してきた。


「おいっ! かわせッ!」


 驚いた俺はレガシーに向けて叫んだ。


 レガシーとは少し距離が離れていたので体を押すこともできず、咄嗟に危険を知らせる言葉しか発することしかできない。


「あ? グアッ!?」


 俺と会話していたため、襲撃者に背を晒していたレガシーは反応が遅れ、攻撃をモロに受けてしまう。


 苦悶の声を上げたレガシーの腹からは鋭く光る金属の刃が突き出ていた。


 それは……レイピアの先端……。


「あらあラ、私の通り道ヲ塞ぐのガ悪いんでスよ?」


 レイピアが腹から抜かれ、崩れ落ちるレガシーの肩越しに薄気味悪い笑顔を貼り付けた見覚えのある姿が現れる。


 ……イーラだ。



「てめぇ……」


 俺は片手剣を抜き、構える。


「本当ニ……、邪魔、で、すねッ。この、コノ! コノッ!!」


 片目が黄金に怪しく輝くイーラは俺に視線を向けたまま地面に横たわるレガシーに向けてレイピアを何度も突き刺した。


「ぐっ……、ガアアアアッ」


 体に無数の穴が開き、たまらず苦痛を訴えるレガシー。


 だが、そんなことはお構いなしにイーラはレイピアを振るい続けた。



「あラあら、なかなカしぶといですね……。オっと」


「離れろ……」


 イーラに向けて鉄杭を放ったが素早くレイピアで防がれてしまう。


 だが、鉄杭を処理するために少し後退したのでレガシーから距離を離すことには成功した。


 俺は倒れたレガシーを見やる。


「…………」


 うつ伏せに倒れたレガシーはピクリとも動かない。


 倒れたレガシーを中心にして血がじわりと広がり地面を赤く染め上げていく。



「フフッ、やハり貴方にはそノ表情がよく似合います。そして私もその顔ヲ見ているとトても気持ちがすくのですッ! サあっ、もっと悔しソうな顔をなサイッ!」


「どうした? 薬のやりすぎでろれつが回らないのか?」


 イーラの言葉はどこかたどたどしい。


 そして片目が金色に輝いている。


 レイピアを持っていない片腕は茶色い体毛に覆われ、それが首元辺りまでに達しているのが服の隙間から想像できる。


 薬と挑発したがこれは多分、狼人間になりかけの状態だ。



 俺達がイーラを囮にして逃げたあと狼人間達に捕まってしまい、施設の棺に浸かってしまったのだろう。今のイーラの状態は棺を覗き込んだときに見た人間の症状に酷似していた。


「グウウウッ! グルルッ、薬なドではありませン! こうなったのも貴様のせいダァアアアアアアアッ!!」


 まるで狼が咆哮するかのように大口を開けて俺を睨むイーラ。



 今までの所作からは想像も出来ない行動だ。


 改造の影響で理性が薄らいでいるのかもしれない。


 そんなイーラがレイピアを構えて突きかかってくる。



 俺はそれを受けようと剣を構えながら僅かな時間でこれからどうするかを考える。



 どう考えてもレガシーの状態がまずい……。


 なるべく早く治療しないと危険な状態とみていいだろう。


 そうなるとレガシーをより早く治療するために、イーラから逃げるか倒すかのどちらかを選ばなくてはならない。


(なら、逃げるだな……)


 担いで逃げることになるので激しく動かすことになるのが心配だが、イーラと戦うよりかは早く治療にあたれるはず。


「グウオオオオオンッ!!」


 イーラがまるで獣のように咆哮しながら激しい突き攻撃を行ってくる。


「くっ」


 俺は突きを剣で受けると同時に【火遁の術】を発動した。



 凄まじい勢いで白い煙が俺を中心に噴き出し、辺りの視界を奪う。


 煙が十分満たされたのを確認すると俺はイーラの剣を受け流してレガシーへと駆け寄る。



「ど、ドこだっ! どコにいるっ!!」


 イーラが激しく首を左右させながらレイピアを振り回してこちらを探している姿を尻目に俺はレガシーを担いで【疾駆】発動させようとした次の瞬間、


「ぐあっ!」


 脇腹にレイピアが突き刺さった。



 その衝撃で担いだレガシーを落としてしまい、少し離れたところまで転がってしまう。


 振り向くとイーラがこちらをしっかり見据えてレイピアを突き立てていた。



「あラあら、そちらにいたのですネ? まタあの時のように私を置いテ行ってしまうのかと思イましたヨ」


 イーラは俺からレイピアを引き抜くと、すぐさま連続突きを行ってきた。



「な、なんでっ!」


 俺は初撃をかわしながらナイフも抜き、片手剣とナイフを使って連続突きを弾いていく。



「私がここで会えタのはなぜだト思いますカ? 偶然ダと思いますか?」



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