17 白虎
お互いの役割が決まり、ホワイトファングとの戦いの火蓋が切って落とされる……。
「うおおおおりゃああああぁぁぁぁぁあああっ!」
と、思ったらミランダが何の合図もなく、いきなり大声を上げて飛び出した。
……打ち合わせとかしようよ。
「うおぃっ! 一人で行くな!」
「仕方ない、追うぞ!」
ミランダの突然の行動に驚く俺。そしてあの状態では止まらないだろうと判断したレガシーが後に続くようにして追いかける。俺は弓を出しながら、それに数瞬遅れて追随する。
「弓でけん制するからミランダをフォローしてくれ!」
「分かった! 頼りにしてるぜっ」
レガシーにミランダのフォローを頼みつつ、俺は弓を構えて、もしものときに備える。
「騎士団一の力自慢であるこの私の一撃を受けよ! ハアアアアアッ!」
ミランダの気合の一声と共に振るわれる巨大なハンマー。
だがホワイトファングはその巨大な体躯からは想像できないほどの身軽さでミランダの攻撃を空中へ飛ぶことにより、ひらりとかわした。
ミランダはハンマーで大振りな攻撃を行ったため、大きな隙が発生してしまう。
ホワイトファングは音も立てず、しなやかに着地するとハンマーを振りぬいて立ち止まるミランダ目掛けて飛びかかった。
「ぬわぁあっっ!」
大きな隙を晒していたミランダはホワイトファンブの飛びかかりをかわせず、そのまま仰向けに倒れてしまう。ホワイトファングは両前脚をミランダの肩にのせるようにして覆いかぶさると大きく口を開けた。
「させねぇっ!」
俺はミランダにかみつこうとするホワイトファング目掛けて【弓術】を使って矢を放つ。矢は喉に命中し、それを嫌ったホワイトファングは身をよじって顔を背ける。
「助かるっ!」
ミランダはホワイトファングの拘束から脱し、素早くハンマーを握って立ち上がった。
「グオウフッ!」
矢を受けて怯んだホワイトファングが態勢を立て直し、立ち上がったミランダ目掛けて何かをしようと身構える。
「オラアッ!」
矢を番える時間がなかった俺は怪しげな動きを見せるホワイトファング目掛けて鉄杭を投げつけた。
だが鉄杭はすんでのところで避けられてしまう。
しかし鉄杭を避けたことにより、ホワイトファングは顔をミランダから背けた。
その瞬間、ホワイトファングの口元の少し前辺りから巨大なつららのようなものが二本発生し、明後日の方角へ飛んでいくのが目に入った。
「え……、何あれ?」
何かするとは思っていたが予想外のものが現れ、俺は一瞬呆けてしまう。
「ホワイトファングは魔法を使うぞ! 今のはフリーズアローだな! 気をつけるんだ!」
「さっきから言うの遅くね?」
無意識なのか知らないが、ミランダは知っておくとお得な情報を出し惜しみする傾向がある。事前に知っておきたい俺としては、CM明けまで見所を引っ張るTV番組のような行動は遠慮して欲しいところだ。
「おいっ! 何やってんだ! 戦闘中にくっちゃべってるんじゃねぇっ!」
俺達が立ち止まって会話していると、レガシーがホワイトファングに視線を向けたまま注意してくる。レガシーは魔法を撃って隙が発生しているホワイトファング目掛けて蛇腹剣を伸ばす。
「グウオオオンッ!」
蛇腹剣はホワイトファングの腹を捉え、貫いた。
「戻れっ!」
レガシーのかけ声と共に伸びていた剣があっという間に収縮する。
まだ元気そうなホワイトファングには、ここで棘を出すと厄介と判断したのか一旦伸ばした剣を戻したようだ。
「よくやった! くらええええええぇええっ!」
蛇腹剣を食らって怯むホワイトファングへミランダが攻撃を仕掛ける。
怯んで隙が発生したホワイトファングの前脚目掛けてミランダが全身を回転させながらハンマーを大きくスウィングさせる。ハンマーを放り投げ出さんばかりの全身を活かした大振りな攻撃は見事に命中し、ホワイトファングの足を使い物にならなくする。
足を破壊されたホワイトファングは耐え切れずに姿勢を崩した。
「フッ」
俺はすかさずホワイトファングの下がった頭目掛けて【弓術】で矢を放つ。
スキルのアシストにより矢から出る赤いラインはホワイトファングの眼球を捉えていた。数瞬後には元からそこにあったかのように、矢がホワイトファングの眼球に深々と突き刺さる。
俺は矢が命中したのを確認すると弓を置き、片手剣を抜いて走り出しながら二人に声をかける。
「よしっ、俺も潰した片目の方から接近してたたみかけるぞ!」
「止めだあああああっ!」
「了解だ! 俺はもう片方の目を狙うっ!」
ミランダはそのまま下がった頭目掛けてハンマーを振り下ろし、レガシーはもう片方の目に向けて蛇腹剣を伸ばす。
ハンマーは頭部に見事命中し、ホワイトファングをふらつかせる。
そこへすかさず蛇腹剣が残された片目に突き刺さり、次の瞬間鈍い音と共に無数の棘が剣の先端から飛び出した。
痛みから抵抗するようにホワイトファングが顔を大きく上げた瞬間、俺が足下を滑り抜ける。
「オラアアアッ!」
俺は素早く立ち上がると片手剣を突き刺し、下腹を斬りつけながら後ろ足の方まで一気に走り抜けた。
胸から下腿にかけて深々と傷を負ったホワイトファングは行動が散漫になり、空気の壁にもたれかかるかのようにゆっくりとよろける。
「これでも食らえぃっ!」
そこへミランダが虫の息のホワイトファング目掛けて止めの一撃を再度頭部に見舞う。
助走を突けて飛びあがった振り下ろし攻撃は朦朧とするホワイトファングの頭部にめり込み、その勢いが殺されることなく地面へと縫いつけた。
ミランダの止めの一撃で頭を粉砕されたホワイトファングは完全に息絶えた。
……討伐終了だ。
「ふんっ、他愛ない。私にかかればこんなものだ!」
構えていたハンマーをドン、と地面へ打ち鳴らすように突き立てると胸を張って鼻を鳴らすミランダ。
「いや、突進しすぎだろ! 肝を冷やしたぞ!」
「こんなモンスターが出るなら事前に言っておけよな!?」
得意気な顔でふんぞり返るミランダに俺とレガシーがツッコミを入れる。
「前衛は突進するものだ! ホワイトファングに関しては当然知っているものと思っていたのだ。わざわざこの山に登るくらいなら事前に情報くらい仕入れておけ!」
もはやそのままブリッジするのか? と思ってしまうほど反り返りながら反論するミランダ。
まあ、言ってることは大体あってるので言い返しにくい……。
「突進するにしてもタイミングがあるだろうが……」
「知らなかったんだからしょうがないだろ……、もう他にこんなモンスターは出てこないよな?」
ちょっと語尾が消え入りそうになりながらも反論する俺とレガシー。
確かに情報はもう少し仕入れておくべきだった。
「ふむ、確かにコンビネーションは重要だな。そこは私も浅はかな部分ではあった。反省しよう。モンスターに関してはホワイトファング以上の強力なものは出ない。安心しろ。ただ、ホワイトファングはキラーウルフを僕のように引き連れる習性がある。まるで子供のようにかわいがるのだそうだ。今回は遠方からいきなり飛んできたから問題なかったが、普通に遭遇していたらもっと大変なことになっていたな!」
ミランダは反り返りすぎて俺達に話しかけているのか空に話しかけているのか分からない姿勢になりながら話す。
今またさらっとやばいことを口にしたような……。
「おい、やばいどころの話じゃないだろ……」
「何匹引き連れて回るのか知らんが、そんなのと遭遇してたら死人が出てたかもしれんな……」
俺とレガシーは尊い犠牲になっていたかもしれないチンピランが隠れている方を見ながらぞっとする。
「おい……、こっちを見て何言ってるんだ……」
俺達が会話している雰囲気に気づいたのか物影から恐る恐るチンピランが顔を出してきた。
「いや、お前が死んでたかもしれないって話をしてたんだよ。とりあえず終わったぞ」
「そうか……、助かったよ。お前たちには助けられてばかりだな……」
「気にすんなって」
息絶えたホワイトファングを見ながら俺達の方へ駆け寄ってくるチンピラン。
「む、何の話だ?」
ミランダはチンピランの一言が気になり聞き返す。
「ああ、俺はこいつらにこれで三度も命を救われたのさ。それなのにこいつらときたら今みたいな軽い調子で返して何も要求してこないんだよ。全く大した奴らだぜ……」
「ちょっと照れるから止めて欲しい」
「どれも何かのついでだからな。あんたの運が良かっただけさ」
こうも面と向かって言われるとどうにも照れくさい。
俺とレガシーは言葉に詰まりながら軽く返す。
「無償で善行を成す! 素晴らしい心掛けだ! 感動したっ、むおおおおおおおんっ!」
そしてまた泣き出すミランダ。
目からそんなに一杯水分出すから小さいのかもしれない。
しかし、俺達に限って言えば善行をプラマイゼロにするくらいには色々やらかしてる。そのためか、こうもベタ褒めされると、どうにも気まずさを感じてしまう。
「と、とりあえず新手が来るとも限らないし、下山しようぜ」
「だ、だな。こんな危ないところからはさっさとおさらばしようぜ」
何ともいえない気まずさから俺とレガシーは山を下りることを持ちかける。
「ああ、これで帰れる!」
ぐっと拳を力強く握り固めたチンピランは強い眼差しを帰る場所へ向ける。
「では下山するとしようか!」
皆が感慨に浸る中、ミランダが相変わらずの調子で先陣を切ってズンズン進み出す。
これで目的は済んだ。
後は下山するだ…………け。
「ぁ〜……」
そこで俺は本来の目的を思い出す。
薬草やら戦闘やらがあったのですっかり忘れていたが、ここで下山して戻っては意味がない。俺達は山を越えて国境を目指すためにここに来たのだ。
「おい、このままだと街に戻っちまうぞ」
レガシーもそのことを思い出したのか急に焦り出す。
「俺が演技するからお前もあわせろ」
「わかった」
先へ進むミランダに気づかれないよう、小声でレガシーに指示を出すと俺はその場にうずくまった。




