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15 騎士オーラばりばり出てるわー


「あ〜、確かに酒場でこの先に国境警備用の屯所があるって聞いたな」


 そういやそんなこと言ってたなあといった表情で何かを思い出すように中空を見つめながら呟くチンピラン。


「「まじで!?」」


 驚愕の表情で後ずさる俺とレガシー。


「まじだ」


 深刻な表情で首肯するチンピラン。



 ……まじらしい。



「確かにそう言われればめっちゃ騎士だわ! 騎士オーラバリバリ出てるわー。くっころとか一日三回くらい言いそうだわー」


 俺は素早くミランダの側面に寄り、もみ手をしながら褒めちぎる。



「だなっ! ちょっと神々しすぎて直視できないわー。騎士っていうか女神だわー。くっころとか一日五回くらい言いそうだわー」


 間髪いれずに俺の後に続いてレガシーがミランダの反対側面に回り、もみ手をしながら褒めちぎる。



「そうか? ただのガキだろ?」


 俺達の発言を聞いたチンピランが元の位置から半眼で呆れたようにため息混じりに漏らす。


「「ッ!」」


 その言葉を聞いた俺達は瞬間移動と見紛うほどの速度でチンピランの両サイドへ移動。挟み込んだ状態で息を合わせて肘打ちを見舞う。


「グフッ、な、何しやがッ……」


 俺達へ反抗的な視線を向けるチンピランにガンをつけて黙らせる。


「騎士……だよな?」


 にっこりと笑顔を作ってチンピランに確認する。



「い、いや……騎士だわー」


 チンピランもミランダが立派で勇敢な騎士だと分かってくれたようで強く頷く。



「「だなっ」」


 俺とレガシーで両サイドからガッチリとチンピランと肩を組む。



「ふんっ、やっと分かったか! 私の任はこの辺りを巡回し、不正に国外逃亡や密入国を図る者を取り締まることだったのだ!」


 ミランダは“ふっふーん!”といった感じで腰に両手をあてながら反り返るようにして自慢げに話す。



「別に俺達には全く、これっぽっちも関係ないんですけど……。一応後学のために聞きたいのですが、ち、ちなみに国外へ逃げたり密入国した人を見つけたらどうなさるのですか?」


 俺は額にじっとりと汗を滲ませながら顔に笑顔を貼り付けてミランダに質問する。



「即刻死刑だ! そういった場合はその場の裁量に任されている!」


 ミランダは両手で剣を握ったような仕草をして勢いよく振り下ろす。


 それに合わせて心の中の俺が頭部から真っ二つに割れた。バッサリだ。



「そ、そうでしたか。こんな所でそんな過酷な任務をされていたんですね!」


 そんな実感のこもった素振りを見て、首元に冷たさを覚えた俺は身を固めて綺麗な起立姿勢でミランダの労をねぎらう。


「うむっ! この様な仕事は本来私がするようなことではないのだが、色々事情があってな……。だが! 此度上官殿が復帰されたと知らせが入り、私にも帰還命令が出たのだ!」


 目を閉じ、腕を組んで、何かを思い出すように何度も深く頷きながら話すミランダ。どうやら待ち望んだ辞令だったようだ。


「それはご苦労様です。王都なんて華やかそうですね。こんな田舎にいると想像もできませんよ」


 俺はもみ手をしながら王都への帰還を祝うコメントを適当に口から吐き出す。



「ふふっ、確かにな! だが卑下することはない。ここだって立派な土地だ」


 うんうんと腕を組んで繰り返し頷きながらこの土地の素晴らしさを説くミランダ。


「「あざっす!!」」


 俺とレガシーはそれにすかさず相づちを打つ。


「まあ田舎は田舎だな……」


 が、チンピランが余計なことを呟く。



 俺とレガシーは素早くチンピランに肘打ちで物理的に訴えかけ、発言の訂正を求める。


「グフッ」


「良いところだよな?」


「す、住めば都って言うしな……」


 察したチンピランが素早く訂正してくれる。



 どうもチンピランはミランダが偉そうに振る舞う子供に見えてしまうせいか、つい上げ足をとってしまうようだ……。


 俺達の生死かかかっているので、ここは大人しくしていて欲しいのだが……。



 妙な行動を繰り返す俺達の様子をいぶかしみながらミランダが口を開く。



「ところで貴様達は何故このような場所にいるのだ? まさか……国外へ逃亡……」「いや! いやいやいや! 実は話せば長くなるんですけど……」



 ミランダの思考があらぬ方向へ移動しかけたので、俺は慌てて側に駆け寄りながら発言に割り込むようにして否定する。


「そ、そうそうそう! ちょっと聞いてもらってもいいですか!?」


 更に俺に乗っかるようにしてレガシーもミランダへ接近しながら畳み掛ける。ナイスアシストだ。


「ふむ?」


 急ににじり寄ってきた俺達に気圧され、半歩下がりながら聞く体勢になるミランダ。



 俺達は身振り手振りを交えつつ、チンピランの薬草採りを手伝いにここまで来たと説明した。死刑がかかっているので説明にも限界まで熱がこもる。


 ぶっちゃけ三人でかかればなんとかなる相手だとは思うが、近くに屯所があるらしいしここは穏便に済ませたい。


 俺とレガシーは本来の目的を悟られないようにしつつも、ここまでの道のりを苦難に満ちたものに演出して話し、盛り上げに盛り上げた。メガ盛りってやつだ。


 そして俺達の熱弁を聞いた結果、ミランダは…………。


「むおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」


 ……号泣した。



「その弟さんの病が治るといいな!」


「は、はい」


 ミランダは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、チンピランの恋人の弟の無事を祈る。俺はミランダのあまりの泣きっぷりに少し引いてしまう。


「そ、そそそれにプププププロポーズも上手くいくといいな!」


「え? そうですね」


 今までは割とはっきりしたしゃべり方だったのに、急にろれつが回らないような口調になるミランダ。


 顔も真っ赤になって両手の人差し指だけで拍手でもするかのように、ちょんちょんと小気味よくついたり放したりを繰り返している。


 ……なんだろう。



「よし、決めた! 私も手伝うぞ!」


「……ぇ」


 さっきまでの挙動不審な様子から一転し、握りこぶしを固めて前に突き出しながらキリッとした表情でそう宣言するミランダ。


 なぜそうなった……。


 できればここで別れてさっさと王都へと向かってほしかったのだが……。



「いや、でも早く王都に向かわれた方が良いのでは?」


「心配するな、その辺りは問題ない! それにその薬草の生息している地帯なら覚えがある。私が案内しよう!」


「ほ、本当か!? 助かる!」


 仕事なんだしさっさと行けよと暗に告げるも、あっさりかわされてしまう。


 それどころか薬草の場所を知っていると言い出す始末。


 それを聞いたチンピランが食い気味にミランダへ肉薄する。



 これは回避できなパターンっぽい。


「うむ、任せておけ!」


 ミランダはふふんと鼻を鳴らしながらドヤ顔を決める。



「おい、どうする? なんか変な方向にいっちまったぞ?」


 レガシーが二人の様子をみて小声で話しかけてくる。


「仕方ない、ここは合わせておいて隙を見て逃げるぞ」


「分かった」


 こうなれば適当なところで逃げるしかないだろう……。



 チンピランは俺達の事情を知っているうえに貸しがある。


 だから途中で抜けても切れたりはしないだろう。


 薬草の場所もミランダが知っているようだし問題ない。



「ありがとうございます! 探すといってもこれだけ広いので困っていたのですよ。これなら薬草を早く届けられそうです。な?」


「ああ、早く届けた方がいいに決まってるしな」


 今後の方針が決まった瞬間、俺達はミランダとチンピランに近づき、調子を合わせておく。


「……お前ら」


 俺達の言葉を聞いて声を詰まらせるチンピラン。その目尻にはうっすらと涙が滲んでいた。すまん、こんなこと言ってるけど逃げる気満々なんだ……。


「そうと決まったら行くぞ!」


「「了解っす」」


「よろしく頼む」


 ミランダが音頭をとり、俺達が返事をすると薬草が自生する場所へと移動することとなった。しかし、道に迷った末に行き倒れていたミランダに案内を任せて大丈夫なのだろうか。


 一抹の不安が残る……。


「薬草が生息している地帯はこっちだ。と、ところでプププロポーズのことなんだが……」


 薬草の場所へと案内してもらうためミランダが先頭になって進んでいたが、急に顔を耳まで真っ赤にさせながら振り向いてくる。


「どうかしたんですか?」


「急に声が上ずってますけど」


 俺とレガシーはそんなミランダの反応に驚き、心配してしまう。


 プロポーズの部分だけ妙にかみかみだった。



「だな。何か聞きたいことでもあるのか?」


 そんな中、どうでも良さそうにしていたチンピランが話の先を促す。



「そ、そのだな、じょじょじょ女性の方からププププロポーズするというのはありなのだろうか?」


 ミランダはチンピランの言葉を受け、両手の人差し指をちょんちょん合わせながら俯きがちに俺達へ聞いてくる。


「ありなんじゃないですか?」


「好きな人でもいるんですか?」


「まあ、大丈夫なんじゃないか?」


 女性からの求婚。特に問題ないんじゃないだろうか。


 レガシーは更に詳しいことを聞こうと突っ込んだ質問をしている。


 俺はこの世界の常識に疎いがチンピランも大丈夫と言っているし、積極的な性格と思われる程度の問題なんだろう。



「そうか……。実は好意を寄せている方がいるのだが、その人はどうにもそういうことに疎いようで、こちらからアプローチしないと気付いてもらえない可能性が高くてな……」


 顔を真っ赤にさせながらぎこちなく話すミランダ。


 どうやら鈍感系主人公に惚れてしまったため、好意に気づいてもらえていない様子。



「なるほど、そういう場合ならいくしかないですよね」


「だな、待っていてもいいことなさそうですよね」


 俺とレガシーはミランダの積極的姿勢にエールを送る。



 見てくれは子供っぽいがそれは言い方を変えればがかわいい外見ともいえるし、これだけの好意を向けられれば男としては嬉しいものじゃないだろうか。



「いや、それはお前の好意には気付いていても、応えることができないからすっとぼけている可能性もあるぞ?」


 俺達が応援しようとしているとチンピランから結構生々しい横槍が入ったのですかさず両サイドから阿吽の呼吸でエルボーを入れる。



「グフッ」


 なぜかむせるチンピラン。


「お前も応援するよな?」


「……ああ、積極的なのが一番だな」


 どうやらチンピランも全力で応援してくれるようだ。




「や、やはり、そういうときはこちらから行くべきか。だ、だが、なななななんと言えばいいのかわからなくて……」


 ミランダは真っ赤になった顔を冷ますように両手を頬に添えながら顔を小刻みに左右に振り、かみかみになりながらも精一杯話す。



「あ〜、求婚と勘付かれずに一発でOKもらえるやつがありますよ」



 俺はそんな一生懸命なミランダを見て心から応援したいと思い、秘策を思いつく。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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