表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/401

14 サナダヒストリー


 そちらへ向かうと狼人間達と先に逃げた奴らが戦闘を繰り広げているところだった。俺はレガシーの言葉をきっかけに走り出す。


 戦闘に加わっていないのが約一名いたが、それは気にせず助太刀に入る。


 …………


「助かった……。あんたも無事だったんだな」


「悪い、心配かけたな」


「いや、いい。しかしすごい爆発音が聞こえたけど、よく無事だったな」


「ああ。こう見えて俺達運だけはいいからな」


「そいつは俺もあやかりたいぜ」


 逃走していた集団の援護に入り、無事狼人間を撃破すると代表の男が礼を言ってくる。爆発に関してはあまり詳しく答えられないので適当に濁しながら会話を進めていく。


「なんでまだ街の中にいたんだ? てっきりもう外に出たと思っていたぞ」


 こちらも工場内でかなりの時間を使ったし、皆はもう街の外まで逃げ切っているだろうと思っていた。だが、蓋を開けてみれば大して進んでおらず俺達と街中で合流する始末。疑問に思った俺は、チンピランに尋ねた。


 ギザギザアーマーを着た男が大声で自慢話でもして、気づかれたのだろうか。



「皆、宿に荷物を取りに帰りたがってな……。なんとか荷物は持ち帰れたんだが、その最中にあいつらに見つかっちまったてわけさ」


「まあ、それはしょうがないか……」


 どうやら宿に荷物を取りに行ったところで見つかってしまったらしい。


 確かに攫われたときは身一つだったし、そのまま食料もなく街から出ても次の街まで移動するのは難しいし、その気持ちは分かる。


「ああ。俺も荷物は取り返しておきたかったしな……」


「しかしザコーダはずっとあんな感じだったのか?」


「……聞くな。俺は諦めてる」


「悪い……」


 チンピランと顔を見合わせた後、どちらからというわけでもなくお互い視線を落とす。


 ……ザコーダは本当に何がしたいんだろうか。



「何の話だい? いやあ、この街は全体的に狭すぎるよ! これじゃあ僕が剣を振るうと建物まで崩れかねないからね! いやあ残念だなぁ! 僕の剣技見せたかったよ!」



「「「ふぅ……」」」



 意図せず、レガシーも含めて三人同時にため息が漏れる。


 ザコーダ、罪作りな男だ。


「とにかく俺達も援護するから一旦街から出よう」


「ああ、助かる」


 その後はチンピランが全員に話をつけてくれて、街を出ることになった。



 俺の【気配察知】でうまく集団を避けつつ単体で行動する者を狩って道を作って進み、なんとか街の出入り口まで移動する。


 出入り口となっていた門はやはり封鎖され、厳重な警備がされていた。門を突破するとなると一苦労だが、そこは避けて通る。そして少し離れた塀を、俺が【跳躍】と【張り付く】で登り、ロープを渡して全員を移動させた。


 というわけで、全員無事に街の外に脱出することが出来た。



 街を出て、そのまま街道まで移動したところで攫われた連中とは解散となった。


 残ったのは俺とレガシー、それにチンピランとザコーダとなる。



「俺たちはこのままタカイ山脈を目指すわ。妙な偶然だったけど、旅の無事を祈ってるぜ」


「じゃあな」


 俺とレガシーは二人に手を振ると街道とは反対側へと進み出そうとする。



「待ってくれ! 俺もタカイ山脈に行くつもりだったんだ。このまま同行しても構わないか?」


「ああ、問題ないぜ。ザコーダはどうするんだ?」


 別れを告げて移動しようとすると、チンピランが同行したいと言ってくる。


 そういえばこいつもタカイ山脈を目指していたのを思い出す。



 ここで別行動にしたとしても、どうせ山で会ってしまうと考えた俺はチンピランの同行を了承する。


 となるとザコーダが一人になってしまうが、これからどうするつもりなのだろうか。


「僕かい? 僕はこの街に用があったんだけど、この状態ではねえ……。はぐれた仲間もこの街を目指しているだろうから、しばらくここで待ってみるよ」


「そういや、あんたは仲間と行動してたんだったな」


 一番はじめに行き倒れとして見つけたとき、仲間とはぐれたと言っていたのを思い出す。目的地がここなら、待っていればいずれ合流できるかもしれないという考えなのだろう。


「そういうこと。多分僕の方が先に着いたと思うんだよね」


「仲間が先に着いてたら今頃狼人間になってるな……」


「ん〜、それは大丈夫かな。僕はこう見えて脚も速いからね」


「そ、そうか。会えるといいな」


 ちょっと仲間の安否が気になったが、しばらく待って来なければザコーダも諦めて移動するだろう。無事に合流できるといいのだが……。


「ああ! 今までありがとう! とても助かったよ! 何か困ったことがあったらいつでも僕を頼ってくれたまえ!」


「そいつは助かるよ。何かあったときは頼む」


「フフッ、僕は偉いからね! 期待に添えると思うよ」


「じゃあ、行くわ。街から出たとはいっても、くれぐれも気をつけてくれよ?」


「心配性だなぁ! 僕は強いんだから大丈夫だって! 君たちこそ気をつけてくれたまえよ!」


「ああ。じゃあ元気でな」


「旅の無事を祈っているよ!」


 話し合った結果、街道でザコーダと別れることになる。


 色々と癖とアクの強いキャラだったが悪い奴ではなかった。



 金持ちっぽそうだし、いい伝手ができたと思えれば悪い出会いではなかったのかもしれない。俺達はザコーダに向けて力いっぱい手を振るとその場を後にした。


 改めて俺、レガシー、チンピランの三人でタカイ山脈を目指すこととなる。


 …………


 ザコーダと別れた俺達三人は入山ルートに入り、舗装されていないゴツゴツした道をひた歩く。


 街を出てしばらくすると日も昇り、早朝の清々しい空気が鼻腔ををくすぐってくる。



 緑の香りがする少し冷たい空気が体を動かすには丁度良く、なんともいえないハイキング日和だ。


 だが俺達三人の顔は月曜の朝のお父さんくらい険しい。


 ……睡眠不足なので。 



 まだ麓だが山に入るとチンピランの表情がより一層深刻な物へと変わってきた。


 今はじめて会ったのならトイレを我慢しているんじゃないかと疑うほどだ。



「酒場でも聞こうか迷ってたけどチンピランも国外へ逃げる口なのか?」


 そこまで深刻になるってことはやはり犯罪を犯して追われていて一刻も早くこの国から出たいということなんだろうか。


 俺はそう思い、ダイレクトに聞いてみる。



 色々あったし、ここまで来れば国境も間近だ。


 そのくらいの秘密なら話してくれるかもしれない。



「は? 俺は違うぞ」


 “何を言っているんだ?”というようなきょとんとした表情でチンピランが答える。



「え、でも山脈を越えるんだろ?」


「誰が越えるって言った。俺はこの山に用があるんだよ」


「そうなの?」


 どうやら俺の早とちりのようで、チンピランは山を越えるのではなくこの山自体に用があるらしい。


「ああ。この山にだけ生息する薬草を探してここまできたんだ」


「ふ〜ん。確かにここでしか採取できないなら、高額で取引されそうだな。それで一山当てようってわけだな」


 チンピランの目的はレアな薬草らしい。


 その報酬を当てにして高い買い物でもしちゃったのだろうか。



「ちげ〜よ。俺の恋人の弟が病気なんだよ。そいつの病気にその薬草が効くと聞いてここまで来たってわけさ」


「おおう。俺らの密入国みたいな下衆い理由じゃなくて、なんか意識高い目的だったんだな。すまん」


 話を聞くと、どうやらチンピランは金目当てどころか人助けのためにここまで来たようだ。俺達の会話を静かに聞いていたレガシーも内容が気になったのか目元をピクリとさせる。


「いいってことよ。その薬草で弟の病気が治ればそれでいいのさ」


「そ、そうか」


 チンピランの話に戸惑いつつも頷く俺。



(なんかフラグ臭いんですけど)


 不謹慎だがなんともいえないフラグ臭がする。


 いうなれば納豆レベルだ。



「だから俺は必ず薬草を手に入れて、あいつらに会いに戻るんだ!」


「お、おう」


 フラグ臭がさらに増したような気がする。


 いうなればクサヤレベルだ。



「そしたら俺はあいつにプロポーズするんだ!」


「そ、そうか。生きて帰れるといいな」



「何不吉なこと言ってるんだよ。大体こんなところで危険なことなんて何もないだろ?」


「ああ! 何もないさ!」



「変な奴だぜ……」


 チンピランは俺を半眼で見据えながらため息をついた。


(MAXだな)


 フラグ臭がマックスに到達した。



 いうなればシュールストレミングスレベルだ。


 あまりの発酵に缶が変形するレベルのフラグパワーを感じる。



 俺は何もないことを心から祈りながら、山道を進んだ。


 …………


「おい、あれ。なんか人が倒れてないか?」


 なだらかな斜面を登っているとレガシーがまた行き倒れを発見する。



 行き倒れ発見検定とかあったら名人級じゃないだろうか。


 しかし今はそれどころではない。俺は慌ててまくし立てた。



「待てっ! 迂闊に近づくな! 爆発する恐れがあるぞ!」



 さっきチンピランが溜めたフラグパワーがここで一気に解放される恐れがある……。


 ここで迂闊な行動は控えるべきだ。



「んなわけないだろ。助けるか?」


「まあ、軽傷なら……。重症だったら街には戻れんし、どうしょうもないな」


 が、レガシーに冷静にツッコまれてしまう。



 ここでできるような応急処置ならやるが、街まで引き返すとなるとつらい。


 オカミオの街は駄目だろうし、手前の宿場町までとなると日数がかかりすぎる……。


 重症ならそこまでもたないだろう。



「おーい、生きてるかー?」


 俺は爆発を恐れて及び腰になりながら慎重に近づいて声をかける。



「さっさと行けよ……。おいっ、大丈夫か?」


 レガシーがそんな俺を追い抜いて一気に行き倒れに近づいて肩を揺すった。



「う……ん」


 それに反応して行き倒れが声を上げる。



 近づくに連れてそれが小さい子供だと分かった。


 こんな所で見かけるには似つかわしくない仕立てのよい服を着ている。



 すごく大きな帽子、キャスケット帽のようなものを被っていたせいで遠くからは分からなかったが、どうやら女の子のようだ。


 そんな大きなキャスケット帽をかぶった女の子がこちらに気づき、ゆっくりと力なく起き上がろうとする。それを見かねたレガシーが手を貸し、なんとか地面に座らせる形となる。


「大丈夫そうだな……、水飲めるか?」


 俺は力なく座る女の子に水の入った木のコップを差し出す。


「は……い」


 女の子はおぼつかない手つきでなんとかコップを受け取ると少しずつゆっくりと飲みはじめた。


「こんなところで一人とはな……、親とはぐれたのか?」


 先を急いでいるであろうチンピランも女の子のことを気にかけてくれる。


「どうだろうな? 街から山菜採りに来たとかって可能性もあるぞ」


「あの格好でか?」


 街から出てきたのかもしれんと思ったが、レガシーがそれにしては服装がそれっぽくないと言う。



 確かに女の子の服はスカートではなくパンツスタイルだし、余分な装飾はついていないが見るからに高そうだ。どこかのご令嬢が趣味の狩りに来たとかって言われた方が説得力がありそうな格好をしている。


 俺達がそんなことを声を潜めて話していると、一息ついた女の子が自己紹介してくれる。



「助けていただきありがとうございます。私の名前はミランダ。騎士団に所属しています」


 ゆっくりと立ち上がると帽子を外してお礼を言いながらペコリと頭を下げる女の子。


 名前はミランダというらしい。



「そっかぁ、騎士かぁ偉いね〜」


 俺は微笑を浮かべながら下げられたミランダの頭を撫でた。



「そんな歳で騎士とはやるな! 凄いね〜」


 レガシーはニカッと歯を見せて笑顔を作りながら下げられたミランダの頭を撫でた。



「さすが騎士様だな! 風格があるね〜」


 チンピランはガハハッと笑いながら下げられたミランダの頭を撫でた。



「な、なぜ代わる代わる頭を撫でる!? さては貴様達信じていないな!?」


 俺達が順に頭を撫で終わるとミランダはガバッと身を翻し、数歩後退しながら慌てたようにまくしたてた。


「俺も小さい頃、そういう時期ってあったよ。シガレットチョコで大人の真似したりさ……、懐かしいわ」


 俺は腕組みしながら感慨に浸る。



「あ〜、俺も剣聖に憧れて剣振り回して親に怒られたこととかあったなぁ」


 レガシーは腰に差した剣に触れながら目を閉じる。



「俺は魔法も使えないのに背伸びして杖とか買ったりしたなぁ」


 チンピランは口元を緩めながら何度も頷く。



 三者三様に昔を思い出し、深く頷く。


 皆、何かしら身に覚えがあるのだろう。



「ば、馬鹿にするなぁっ! 本当に騎士団に所属しているんだからな! 本当なんだからな!」


 ミランダはそんな俺達を見て、ブンブン腕を振り回しながら反論する。


 凄いなりきりだ……。


 頭より二周りほど大きな帽子と揺すりつつ、小柄な身体全体を使って否定をアピールすると一生懸命な感じがして、本当に微笑ましい。



 それでも、あまり強情なのは感心しない。


 騎士ごっこもやりすぎは狼少年よろしく肝心なときにウソをついていると誤解されてしまう。その辺りはちゃんと説明しておいた方がいいだろう。


 俺は真摯な顔でミランダに近づいて肩に触れると、諭すように語りかけた。



「分かるわ〜。でもあんま意固地になりすぎるとサナダ君みたいになっちゃうから止めといた方がいいぞ? サナダ君はさ、一時期海外ドラマの影響で自分はFBI捜査官だって言い張っちゃってさ。でも当然誰も信じてくれなくて、それでもずっと言い続けてさ。とうとうネットで身分証とか調べて偽造しちゃってさ。それを見せて本物だって言い張りだしたのよ。それでも誰も信じなくてさ、最終的には今は日本の警察と協力関係にあって、ある事件を捜査しているとか言い出してさ。とうとう110プッシュしちゃったわけよ。で、学校にパトカー来ちゃってさ。そこで謝ればまだ良かったんだけどさ。何を血迷ったのか“ほら来ただろ? 日本の警察組織は俺の指示に従うんだ”みたいなことを警官の前で胸張って言っちゃってさ。さらにはダメ押しで偽造したFBIの身分証を警官に見せて、ここに例の事件の犯人がいる可能性があるとか意味深に言っちゃってさ。最終的にサナダ君がパトカーで連行されちゃったわけよ。まあ、そんなわけだから程々が一番ってことが言いたいわけ、分かる?」


 俺の話を聞いて少しは分かってもらえたかと思ったが、ミランダは肩にそえられた俺の手を払いのけて逆に怒り出した。


「ふざけるなっ! 確かにステータスの職業は騎士ではないが、私は国境警備の任に就いていたれっきとした騎士だ! 今回その任が解かれ、王都に戻る途中だったのだが、そこで道に迷ってしまい……。倒れる羽目になってしまったが、それとこれとは話が別だ!」


「え、今なんて……」


「国境警備がどうとか……」


 ミランダの言葉を聞いてビクッと身を震わせる俺とレガシー。



「あ〜、確かに酒場でこの先に国境警備用の屯所があるって聞いたな」


 そういやそんなこと言ってたなあ、といった表情で何かを思い出すように中空を見つめながら呟くチンピラン。


「「まじで!?」」


 驚愕の表情で後ずさる俺とレガシー。



「まじだ」


 深刻な表情で首肯するチンピラン。




 ……まじらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

   

間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ