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10 やらかす


 矢を指の間に二本挟んだ状態で弓に番え、横向きに構える。


「行くぞ」


「いつでもいいぜ」


 俺は壁に背を預けた状態でゆっくりと弦を引き絞ると【弓術】スキルを発動し、部屋の入り口へと飛び出した。



「フッ」


 スキルの影響で矢の先から出る赤いラインを狼人間の頭へと瞬時に合わせて矢を射る。矢は逆再生したかのように赤いラインを辿り、狼人間の頭部へと突き刺さった。


 頭部に矢を受けた二人の狼人間が倒れ行くのを確認しながら、弓を置き、片手剣とナイフを抜いて一気に室内へと踊りこむ。


 何が起こったのかわからず動揺している狼人間の背後から相手の胸部目掛けて片手剣を突き刺し、そのまま引き抜かずに手を放すと、ナイフでもう一人の狼人間へ接近する。


 片手剣を手放した時点でスキルを【短刀術】へと切り替えていたのでスムーズな動きで狼人間の側面を抜け、回転するようにして素早く背後に回り、口を押さえながら腹、胸、喉を裂く。


 ……処理完了だ。


「ハッ」


 口元を押さえながら絶命させた死体ごしにレガシーが蛇腹剣を伸ばして狼人間の胴を貫いているのが見えた。


 ……これで五人片付いた。


「確か花を持たせてくれるんでこっちが四人だったよな?」


「そういうことにしといてやるよ」


 レガシーに分担の確認をすると、ふてくされた感じで返されてしまう。


 別に信頼していなかったわけではないが、いけると思ったのでついやってしまった……。



 次からはちゃんと打ち合わせ通りにしておいた方がチームワークを乱さずに済みそうだ。といっても命に関わることだし、この辺りは何度も試行しながらすり合わせていくしかないだろう。


「悪かったよ。じゃあ、プレゼントの開封といこうぜ」


「包装も中身も味気ないプレゼントだな……」


 俺達は積み上げられた皮袋の山へと近づく。


 ……これ、下にいる奴は大丈夫なんだろうか。



「おーい、終わったぞ。こっちに来て捕まった奴らを皮袋から出して起こすのを手伝ってくれ」


「分かった」


「任せてくれたまえ」


 さっさと開封した方が良さそうだったので、チンピランとザコーダにもヘルプを頼む。


 四人で皮袋を開け、助け出した奴らにも手伝ってもらってどんどん救出作業を進めていく。



 そこそこの時間を要したが、皮袋に詰められた人たちを全員外に出すことが出来た。乱暴に扱われていた割には全員傷一つなく、健康そのものだった。皮袋から出た人たちは、当然のことながら今自分たちがどういう状況に置かれているか把握していなかった。そのため、ざわついた感じが治まらない。


 俺は混乱を鎮めようと、現状の説明に入る。


「聞いてくれ。どうも宿に泊まっていた者がここへ攫われたみたいだ。目的はここで改造して手下にするためなんだと思う。あんたらをここへ攫ってきた奴らもすでに改造されていて、モンスターみたいになっていた」


 俺の話を聞いた皆は信じられないといった表情をしていたが、地面に転がる狼人間の死体を見ると考えが変わったようで、すっと静かになる。


 そんな中、一人の男が集団の中から一歩前に出て口を開いた。


「それが本当なら恐ろしい話だな。助けてくれてありがとうよ」


「ああ、気にしないでくれ。それより問題がある」


「問題?」


「どうも俺達を攫った奴らは相当な数がいるらしくて街から簡単には出られない感じなんだ」


「そんなに多いのか?」


「街の人達全てが改造されて手下になってるんじゃないかって思えるほどだ。迂闊にここから外に出ても、また捕まって逆戻りになるほど外にはわんさかいやがる」


「それは笑えねえな……」


「だからここは協力した方がいいと思うんだ」


「分かった。俺はあんたらに力を貸すぜ」


 とりあえず、今把握していることと協力して欲しい旨は伝えた。


 皆、俺の話を聞いて一人でどうにかするより協力した方がいいと判断してくれたようで、協力的な姿勢を示してくれる。


「助かる。といってもどうしたものか悩んでるんだけどな」


 協力を得られそうなのはありがたいが、ここからどうやって出るか、そしてその後街の外までどうやって移動するかが思いつかない。


 やはり、人数を活かして強行突破しかないだろうか……。


「全員で一気に駆け抜けるか?」


「まあ、それが無難かなぁ」


 代表して話してくれていた男も強行策を提案してくる。



 まあ、準備も何もない状態ではそれしかないのかもしれない。


 これだけの人数で狼人間達に見つからないように隠れながら街の外を目指すのは難しいし仕方ないだろう。


「レガシーは何か他にいい案とかあるか?」


 一応何かアイデアがあるかもしれないとレガシーに話題を振ってみる。


「ッ!!」


 しかし、さっきからチラチラと辺りを警戒していたレガシーが何かを見つけたのか、急に血相を変えて部屋を飛び出していった。


「おいっ!」


 俺が呼び止めるもレガシーは止まらず、そのまま最奥へと駆けて行く。


「おいっ! どうするんだ!?」


 攫われた者達の代表が取り乱しながら聞いてくる。


「すまんっ! 俺達のことは放っておいて先に行ってくれ! チンピランとザコーダはそいつらを出口まで案内してやってくれ! 俺達はスキルがあるから数が少なければなんとかなる!」


「……わかった、戻ってこいよ」


 少し逡巡したようだったが俺の言葉に強く頷くチンピラン。


「先導は任せてくれたまえ! 全員を無事脱出させてみせるよ!」


 何の迷いもなく施設から出ることに嬉々とするザコーダ。


 レガシーを一人放っておくわけにもいかず、俺が残ることにして他の全員にはそのまま街の外まで脱出を図ってもらう。


 こうなったらこいつらが逃げやすくなるよう、陽動もついでにやっておけばいいだろう。


「いいんだな?」


 攫われた者達の代表が俺に最終確認をしてくる。


「ああ、ここで待ってもらっても時間が経つごとに危険な状況になっていくだろうからな! 俺達がついでに狼人間達を引きつけておく。とにかく一気に街の外を目指してくれ!」


 ここで更にトラブルが発生したら手がつけられないので、とにかく先へ行ってもらうことにする。こんな敵地のど真ん中でじっとしている方がまずい。


「わかった。無事を祈ってるぜ!」


「あんたらもな!」


 攫われた奴らとチンピラン、ザコーダに別れを告げ、俺はレガシーを追って施設内部へと進むことにした。最奥へ向かいながら適当に狼人間を屠り、注意を引きつけていく。


「おいっ! レガシーッ!」


 俺は追走しながら、視界の奥で小さな点のようになったレガシーに呼びかける。


 前を走るレガシーは俺の声が聞こえないらしく、何かに引き寄せられるかのようにどんどんと奥へと走っていく。


 こちらは狼人間を倒しつつ進んでいたので段々距離が開いていき、次第に見えなくなってしまった。


 だが、通路は一本道だったため、しばらく進むとレガシーの姿を捉え直す。


 一本道の突き当たりはかなり広い空間が確保されていて、倉庫のようになっていた。奥には大きな扉が見えるが閉ざされていて、そこで行き止まりのようだ。


 俺が近づくにつれ、広い割には何もない部屋の中心でレガシーがせわしなく辺りを見回しているのがよく見えるようになってくる。部屋の中に入り、レガシーの側へと駆け寄る。


「くそっ、見失った!」


「おいっ! 急にどうしたんだよ!?」


 悔しがるレガシーの側に行き、肩を掴んで振り向かせる。



 次の瞬間、俺達が入ってきた通路の方から大きな音が聞こえてきた。


 慌てて振り向くと部屋の入り口がシャッターでも閉まるかのように上から金属の壁が降ってきて、通路が塞がれるのが見えた。かなりの質量の物が勢いよく落下したせいか、凄まじい音が収まると同時に辺りに土煙が舞い上がる。


 ――閉じ込められた。



「「あ」」


 通路を閉ざした金属の壁を見ながら間抜けな声がハモる。


 ――――ギギギギ。


 そして背後から重量のある金属の塊が時間をかけて動くような音が聞こえてくる。


 閉ざされた通路から振り向いて音のする方を見やれば、突き当たりにあったとてつもなく巨大な扉が重苦しい音を立てて少しずつ開いていくところだった。



 扉がゆっくり、ゆっくりと開いていく。


 そして扉が開ききる。


 だが、扉の奥は暗闇が支配していて、ここからではよく見えない。


 俺はすかさず【暗視】のスキルを使用して目を凝らす。



「あっちゃー……」



 すると扉の奥からキラーウルフがこちらへ向かって来るのが分かった。


 のっそりとした動作でこちらへ悠然と歩いてくるのは三匹のキラーウルフ。


 それが薄闇でシルエットが分かるほどまでにこちらへ近づいてきていた。



 あの三匹は多分この部屋へ入ってくるつもりなのだろう。


 もう【暗視】を使用しなくてもそのシルエットがキラーウルフだとわかる距離まで接近してきている。


 だが俺はあれをキラーウルフとは認めない。



 なぜならその大きさがバスと同等だからだ。


 あんなデカいサイズをキラーウルフの同類として認めるわけにはいかない。


 そう、あれは別種、名前をつけるなら……。



「「ビッグキラーウルフ」」



 俺とレガシーの言葉が被る。



「…………すまん」


「よく聞こえなかったが、“弱い僕を助けて下さい、ケンタ様”って台詞の割には短い気がするな」


「悪かったよ!」


 単独行動したうえに閉じ込められたことを気にしているのか、レガシーが素直に謝る。



 ここまで最悪は考えていなかったが、レガシーの後を追った時点でそれに近いことにはなると思っていたので覚悟は決まっていた。まあ、仕方なしってやつだ。


 レガシーの謝罪の声が響くのと同時に、扉の奥から全身をぬるりと引き出しながら三匹のビッグキラーウルフが部屋へと入ってきた。


 三匹が部屋に納まると同時に扉が再び重苦しい音を立てて閉まり出す。


(……ですよね〜)


 閉じていく巨大な扉を見ながら部屋が急に狭苦しくなったことに嘆く。


 完全に閉じ込められた状態で眼前にはビッグキラーウルフが三匹。



 ……もしかして詰んでるんじゃないだろうか。



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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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